僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ

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ホテル・ベルベット

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 ドット山での仕事を終えた僕たちは、無事にクイーンズへと舞い戻った。
 ギルドで魔物のコアを引き渡し、代わりに報酬金を受け取る。
 この後の行先は当然決まっていた。
 合法非合法無法違法、欲しいものが何でも揃うという曰くつきの闇市――ブラックマーケット。

「で、ミアさんよ。僕らはちゃんとブラックマーケットに入れるのか?」
「もー、イチカは心配し過ぎよ。大船に乗ったつもりでついてきなさいな」

 意気揚々と先導するミアだが、こっちとしてはこの船がタイタニックと同じ末路を辿らないかだけが心配である。

「もし今日ダメだったとしても、市場が開かれてる二週間の内に会員証くらい手に入るでしょ」
「本来ならそれをゲットしてから計画を立てるべきだと思うけどな」
「思い立ったが吉日、善は急げ。座右の銘よ」
「良い言葉だけども。今回に限っては、無計画と同じ意味だよ」

 まあ、あまり後ろ向きなことを言っても意味がない。
 ここは一つ、彼女を信頼しようじゃないか。
 座右の銘に従おう。
 僕らは既に軍資金を集めているのだし……あとは野となれ山となれだ。

「さ、着いたわ。ここが目的地」

 ミアの足が止まる。
 眼前には、巨大で立派な建造物が鎮座していた。
 僕の育ったルッソ村にはとてもじゃないが存在しない、豪華絢爛な見た目をしている。
 と言うか、これ……

「……ホテルだよな?」

 僕の呟きを聞いて、得意そうに頷くミア。

「そ。ここはクイーンズの中でも一、二を争う高級ホテル、『ベルベット』よ」
「その名前は初めて聞いたけど……えっと、ここを拠点にしてどこかへ移動するのか?」
「なーに寝ぼけたこと言ってるのよ、イチカ。さっき言ったでしょ? ここが目的地って」

 それはつまり、このホテル自体がブラックマーケットの会場ということだろうか。
 こんな街のシンボルみたいな表立った場所で闇市が開かれるとは、にわかには信じ難いが……。

「その顔、私を疑ってるわね? いーでしょう、無知なイチカのために教えてあげるわ」

 ミアは右手の人差し指をピンと立てて、ドヤ顔をする。
 非常にムカつくので是非やめてほしい。

「結論から言うと、このホテルは
「い、入り口?」
「ホテルの部屋には主催者が用意した暗幕が張ってあって、それを開けるとあら不思議……国中の商店へと自由に移動ができるってわけ」
「……その暗幕が入り口になってるってことか」
「そういうこと。主催者と契約したお店にも暗幕が支給されて、ホテルの暗幕とつながるって寸法よ。瞬間移動ってやつ」

 瞬間移動。
 その言葉は基本、眉唾ものだが……この世界では、そんな無茶苦茶も肯定される。

「暗幕と暗幕の間をつなぐスキル……それが、ブラックマーケットの正体なの。主催者はエーラ王国中のありとあらゆるお店と契約して、暗幕を支給する。中には、非合法な商売をしている業者もあるわ」
「違法すれすれってのは、そういう危ない店で買い物をした場合ってことか」
「そ。裏も表も関係ない……欲しいものは、暗幕の向こうにある」

 なるほど、ようやく全貌が見えてきた。
 商店と顧客を結ぶ入り口の役割、ね。

「あの……その場合、どうやって目当ての物を探せばいいんでしょうか?」

 ミアの講釈を聞いていたレヴィが、ふと疑問を挟んでくる。

「聞いている限りだと相当な数の商店へと赴くことができるようですが……逆に言えば、全てを見て回ることは不可能なわけですよね? 目的の品物を探すには、かなり非効率に思えるのですが」
「そこら辺はもちろん対策されてるわ。まず初めに、顧客は主催者側に欲しいものリストを渡すの。ズバリ商品名だったり、なんかこういう感じの物~ってザックリだったり……とにかく、そのリストを元にして、主催者が暗幕の行先を設定してくれる」
「……顧客一人一人に合わせて、暗幕のつながる先を変更できるってことですか。サラッと言っていますけど、かなり無茶苦茶なスキルですよね、それ」
「そうね。冒険者ならSランクでもおかしくないレベルだわ」

 行先を自由自在に選べて、大勢の人間を別々の場所に移動できるスキルか……一人で交通インフラを賄える規模感である。
 国がブラックマーケットを野放しにしているのも、そのスキルの利用価値を高く見ているからかもしれない。

「さ、講釈はこれくらいにして、行きましょうか」

 言うが早いか、ミアはずんずんと足取り軽く進んで行く。
 僕とレヴィは小さく縮こまりながら(豪華なホテル自体に委縮している。貧乏人なのだ)、その後を追う。
 フロントに着くと、男性の係員が素敵な笑顔でミアを出迎えた。

「ようこそ、ベルベットへ。どういったご用件でしょうか」
「三泊分部屋を取ってほしいの。できれば二つ、最悪一つでもいいわ」
「申し訳ありません、お客様。本日から二週間、当ホテルは満室となっておりまして……」
「ブラックマーケット、でしょ」

 その言葉を聞いた係員の笑顔が一瞬強張る。
 が、すぐに目元を細め直し、

「……大変失礼いたしました。では、あちらの角までお進みください。案内の者がおりますので」

 丁寧な仕草で行先を指し示した。
 それを受けたミアは、フロア内を堂々と大股で闊歩する。

「……おい、どうしてそんなに態度がでかいんだよ。悪目立ちするだろ」
「これでいいのよ。っていうか、これくらい堂々としてなきゃダメなの」

 わけのわからない理屈を披露されたが、あまりに自信たっぷりなのでこれ以上何も言えない。
 仕方がないので大人しくミアについていくと、

「ようこそ、ブラックマーケットへ」

 曲がり角から不意に人影が現れ、僕らの行く手を遮った。
 白髪に白髭を蓄えた、物腰柔らかそうな紳士……恐らく、この人が案内人なのだろう。
 紳士は僕らを品定めするかのように物色し、コホンと咳払いをする。

「それでは、会員証のご提示をお願いします」
「生憎、持ってないのよね」

 不遜な態度で会員証の不所持を告げるミア。
 対して紳士は、目の前の不届き者に向ける笑顔を崩さない。

「……失礼ですが、お嬢さん。会員証のない方はお通しできない決まりです。またいずれ、ご縁がありましたら……」
「私の名前はミア・アインズベル」

 と。
 突然、ミアが名乗った。
 その奇行に驚く僕らを無視して、ミアは続ける。

「あなたたちも良く知っている、クーラ・アインズベルの娘よ」

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