42 / 60
ホテル・ベルベット
しおりを挟むドット山での仕事を終えた僕たちは、無事にクイーンズへと舞い戻った。
ギルドで魔物のコアを引き渡し、代わりに報酬金を受け取る。
この後の行先は当然決まっていた。
合法非合法無法違法、欲しいものが何でも揃うという曰くつきの闇市――ブラックマーケット。
「で、ミアさんよ。僕らはちゃんとブラックマーケットに入れるのか?」
「もー、イチカは心配し過ぎよ。大船に乗ったつもりでついてきなさいな」
意気揚々と先導するミアだが、こっちとしてはこの船がタイタニックと同じ末路を辿らないかだけが心配である。
「もし今日ダメだったとしても、市場が開かれてる二週間の内に会員証くらい手に入るでしょ」
「本来ならそれをゲットしてから計画を立てるべきだと思うけどな」
「思い立ったが吉日、善は急げ。座右の銘よ」
「良い言葉だけども。今回に限っては、無計画と同じ意味だよ」
まあ、あまり後ろ向きなことを言っても意味がない。
ここは一つ、彼女を信頼しようじゃないか。
座右の銘に従おう。
僕らは既に軍資金を集めているのだし……あとは野となれ山となれだ。
「さ、着いたわ。ここが目的地」
ミアの足が止まる。
眼前には、巨大で立派な建造物が鎮座していた。
僕の育ったルッソ村にはとてもじゃないが存在しない、豪華絢爛な見た目をしている。
と言うか、これ……
「……ホテルだよな?」
僕の呟きを聞いて、得意そうに頷くミア。
「そ。ここはクイーンズの中でも一、二を争う高級ホテル、『ベルベット』よ」
「その名前は初めて聞いたけど……えっと、ここを拠点にしてどこかへ移動するのか?」
「なーに寝ぼけたこと言ってるのよ、イチカ。さっき言ったでしょ? ここが目的地って」
それはつまり、このホテル自体がブラックマーケットの会場ということだろうか。
こんな街のシンボルみたいな表立った場所で闇市が開かれるとは、にわかには信じ難いが……。
「その顔、私を疑ってるわね? いーでしょう、無知なイチカのために教えてあげるわ」
ミアは右手の人差し指をピンと立てて、ドヤ顔をする。
非常にムカつくので是非やめてほしい。
「結論から言うと、このホテルは入り口ね」
「い、入り口?」
「ホテルの部屋には主催者が用意した暗幕が張ってあって、それを開けるとあら不思議……国中の商店へと自由に移動ができるってわけ」
「……その暗幕が入り口になってるってことか」
「そういうこと。主催者と契約したお店にも暗幕が支給されて、ホテルの暗幕とつながるって寸法よ。瞬間移動ってやつ」
瞬間移動。
その言葉は基本、眉唾ものだが……この世界では、そんな無茶苦茶も肯定される。
「暗幕と暗幕の間をつなぐスキル……それが、ブラックマーケットの正体なの。主催者はエーラ王国中のありとあらゆるお店と契約して、暗幕を支給する。中には、非合法な商売をしている業者もあるわ」
「違法すれすれってのは、そういう危ない店で買い物をした場合ってことか」
「そ。裏も表も関係ない……欲しいものは、暗幕の向こうにある」
なるほど、ようやく全貌が見えてきた。
商店と顧客を結ぶ入り口の役割、ね。
「あの……その場合、どうやって目当ての物を探せばいいんでしょうか?」
ミアの講釈を聞いていたレヴィが、ふと疑問を挟んでくる。
「聞いている限りだと相当な数の商店へと赴くことができるようですが……逆に言えば、全てを見て回ることは不可能なわけですよね? 目的の品物を探すには、かなり非効率に思えるのですが」
「そこら辺はもちろん対策されてるわ。まず初めに、顧客は主催者側に欲しいものリストを渡すの。ズバリ商品名だったり、なんかこういう感じの物~ってザックリだったり……とにかく、そのリストを元にして、主催者が暗幕の行先を設定してくれる」
「……顧客一人一人に合わせて、暗幕のつながる先を変更できるってことですか。サラッと言っていますけど、かなり無茶苦茶なスキルですよね、それ」
「そうね。冒険者ならSランクでもおかしくないレベルだわ」
行先を自由自在に選べて、大勢の人間を別々の場所に移動できるスキルか……一人で交通インフラを賄える規模感である。
国がブラックマーケットを野放しにしているのも、そのスキルの利用価値を高く見ているからかもしれない。
「さ、講釈はこれくらいにして、行きましょうか」
言うが早いか、ミアはずんずんと足取り軽く進んで行く。
僕とレヴィは小さく縮こまりながら(豪華なホテル自体に委縮している。貧乏人なのだ)、その後を追う。
フロントに着くと、男性の係員が素敵な笑顔でミアを出迎えた。
「ようこそ、ベルベットへ。どういったご用件でしょうか」
「三泊分部屋を取ってほしいの。できれば二つ、最悪一つでもいいわ」
「申し訳ありません、お客様。本日から二週間、当ホテルは満室となっておりまして……」
「ブラックマーケット、でしょ」
その言葉を聞いた係員の笑顔が一瞬強張る。
が、すぐに目元を細め直し、
「……大変失礼いたしました。では、あちらの角までお進みください。案内の者がおりますので」
丁寧な仕草で行先を指し示した。
それを受けたミアは、フロア内を堂々と大股で闊歩する。
「……おい、どうしてそんなに態度がでかいんだよ。悪目立ちするだろ」
「これでいいのよ。っていうか、これくらい堂々としてなきゃダメなの」
わけのわからない理屈を披露されたが、あまりに自信たっぷりなのでこれ以上何も言えない。
仕方がないので大人しくミアについていくと、
「ようこそ、ブラックマーケットへ」
曲がり角から不意に人影が現れ、僕らの行く手を遮った。
白髪に白髭を蓄えた、物腰柔らかそうな紳士……恐らく、この人が案内人なのだろう。
紳士は僕らを品定めするかのように物色し、コホンと咳払いをする。
「それでは、会員証のご提示をお願いします」
「生憎、持ってないのよね」
不遜な態度で会員証の不所持を告げるミア。
対して紳士は、目の前の不届き者に向ける笑顔を崩さない。
「……失礼ですが、お嬢さん。会員証のない方はお通しできない決まりです。またいずれ、ご縁がありましたら……」
「私の名前はミア・アインズベル」
と。
突然、ミアが名乗った。
その奇行に驚く僕らを無視して、ミアは続ける。
「あなたたちも良く知っている、クーラ・アインズベルの娘よ」
38
あなたにおすすめの小説
収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?
木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。
追放される理由はよく分からなかった。
彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。
結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。
しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。
たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。
ケイトは彼らを失いたくなかった。
勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。
しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。
「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」
これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。
劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。
序盤でざまぁされる人望ゼロの無能リーダーに転生したので隠れチート主人公を追放せず可愛がったら、なぜか俺の方が英雄扱いされるようになっていた
砂礫レキ
ファンタジー
35歳独身社会人の灰村タクミ。
彼は実家の母から学生時代夢中で書いていた小説をゴミとして燃やしたと電話で告げられる。
そして落ち込んでいる所を通り魔に襲われ死亡した。
死の間際思い出したタクミの夢、それは「自分の書いた物語の主人公になる」ことだった。
その願いが叶ったのか目覚めたタクミは見覚えのあるファンタジー世界の中にいた。
しかし望んでいた主人公「クロノ・ナイトレイ」の姿ではなく、
主人公を追放し序盤で惨めに死ぬ冒険者パーティーの無能リーダー「アルヴァ・グレイブラッド」として。
自尊心が地の底まで落ちているタクミがチート主人公であるクロノに嫉妬する筈もなく、
寧ろ無能と見下されているクロノの実力を周囲に伝え先輩冒険者として支え始める。
結果、アルヴァを粗野で無能なリーダーだと見下していたパーティーメンバーや、
自警団、街の住民たちの視線が変わり始めて……?
更新は昼頃になります。
荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明
まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。
そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。
その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・
最強の赤ん坊! 異世界に来てしまったので帰ります!
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
病弱な僕は病院で息を引き取った
お母さんに親孝行もできずに死んでしまった僕はそれが無念でたまらなかった
そんな僕は運がよかったのか、異世界に転生した
魔法の世界なら元の世界に戻ることが出来るはず、僕は絶対に地球に帰る
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる