僕だけレベル1~レベルが上がらず無能扱いされた僕はパーティーを追放された。実は神様の不手際だったらしく、お詫びに最強スキルをもらいました~

いとうヒンジ

文字の大きさ
60 / 60

エピローグ

しおりを挟む

 僕は結局、テスラを殺さなかった。
 生命力が0になって気絶している彼を見下ろしながら、しかし何もせず。
 ミアも同様に。
 静かに佇むだけだった。
 だから、遅れてやってきた軍にテスラを引き渡す際、

「……お父さん」

 そう聞こえたのは、きっと僕の勘違いだ。





 クイーンズの街を騒がせたドラゴン出没事件は、唐突な幕引きを見せた。
 各所で暴れ回っていたドラゴンが急に消滅したのである。
 恐らく、僕たちがテスラを倒したことでスキルが解除されたのだろう。
 大方の予想を良い意味で裏切り、街には平穏が訪れた。
 だが、被害が大きいことに変わりはない。
 建物の倒壊や多数の死傷者……クイーンズはしばらく、暗黒の時代を迎えることになる。

「……とりあえず、ドラゴンのコアをギルドに届けましょうか」

 少しだけ落ち着きを取り戻してきた街中を歩きながら、ミアが言った。

「そっか。一応、緊急依頼を達成したことになるんだもんな」
「テスラについての取り調べもあるみたいだし、忙しくなりそうね」
「迷惑な話だよ……ん?」

 不意に、視界の端に何かが映る。

「……ミア、レヴィ。悪いんだけど、先にギルドに行っててくれるか? ちょっと野暮用ができた」

 小首を傾げる二人を置いて、僕は大通りの反対へと早足で向かった。
 転がる瓦礫を避け、目的の場所へ。

「……どうも。今度こそは久しぶりですかね」

 崩壊した建物の陰。
 闇に溶け込めない真っ白な装いをした少女が一人。

「……やあ、イチカくん。まさか、君の方から声を掛けてくるとは思わなかったよ」

 そう言って、真っ白な少女――カミサマは小さく笑った。

「この場で会うつもりはなかったんだけれど……まあ、こうして対面してしまったのだから、労いの言葉くらいは掛けておこうか。この街を救うために八面六臂の大活躍をしたイチカくんには、お疲れ様程度では釣り合わないかな?」
「そのくらいで丁度いいですよ。あんまり褒められても困りますし」
「どうして? 今回の件は間違いなく君が立役者だ。街を救った英雄として崇められてもおかしくはないさ」
「そんな大仰なことはしてないですよ……それに僕は、別に正義の味方ってわけでもないですから。過大評価は身を滅ぼします」
「謙虚な男だね、全く」

 カミサマは肩をすくめ、

「なら君は、一体何の味方なんだい?」

 と、僕の目を見つめてきた。

「……強いて言うなら、自分の味方ですかね」
「はははっ、言うようになったじゃないか。その様子なら、しばらくは安泰みたいだ」

 愉快そうに笑うカミサマ。
 その笑顔は、まるでイタズラ好きな子どものようだった。

「……一つ訊いてもいいかな、イチカくん」
「何ですか?」
「……いやまあ、何と言うか」

 カミサマが、珍しく言葉に詰まる。

「君は、私のことを恨んでいないのかい? 私の不手際が原因でレベルが上がらず、お詫びとしてあげたスキルの所為で何度も窮地に陥って……恨みごとの一つや二つ、言われるのを覚悟していたんだが」
「そういうの、意外と気にするんですね」
「……失礼な奴だね、君も」
「すみません。でも、本当に意外だなって……だって、僕に好き勝手生きろと言ったのはあなたでしょ? その過程で何が起きても、僕の自己責任ですよ」

 ドラゴンを倒す判断をしたのも。
 文字通り決死の覚悟でテスラに挑んだのも。
 全て、僕が勝手に決めたことである。

「だから、僕があなたを恨む道理なんてこれっぽっちもない……まあ、レベルが1のままなのは不便ですけど、それ以上のリターンはもらってますから」

 この人のお陰で、ミアやレヴィと仲間になれた。
 その事実に比べれば、レベルが上がらないことなど些細な問題である。

「……そうか。いや、イチカくんがそう結論付けたならいいんだ。これ以上藪をつついて蛇を出す気もない。気にしていないというのなら、額面通りに受け取っておくとしよう」

 言って、カミサマは壁に預けていた背中を浮かせる。

「じゃあ、私はこれで失礼するよ。今は疲れているだろうし、存分に休息をとるといい」
「……あの」

 実にあっさり別れの言葉を口にしたカミサマのことを、僕は野暮にも引き止めてしまった。
 でも、これだけは訊いておきたかったのだ。
 彼女が、この場所にいた理由。
 それは、きっと――

「僕がマナ切れを起こさなかったのは、あなたが何かしてくれていたからですよね?」

 いくらスキルのコスパがいいとは言っても、不死の力と最強の力をあれだけ連発できるはずがない。
 レベル1の僕に、それだけのマナを賄う余裕などない。
 ならば考えられるのは、他の要因。

 例えば。

 どこかのお人好しが、僕にマナを与えてくれていた――とか。


「……考え過ぎだよ。私は、そこまでの世話焼きじゃないさ」

 こちらに振り返ることなく、カミサマは歩き出す。
 僕はその後ろ背を、ただ見守った。

「……次に会ったら、甘いもの御馳走しますよ」
「……そうかい。それは楽しみだ」

 真っ白な身体が、路地の闇に溶けていく。





「イチカ~。遅いじゃないのよ~」

 ギルドに向かった僕を出迎えてくれたのは、ミアたちと半壊した建物だった。
 どうやらギルド自体もかなりの痛手を負ったらしい……こりゃ、復興には時間が掛かりそうだ。

「見ての通りの有様でね、とてもじゃないけどコアを預けてる余裕はなさそう」
「みたいだな……とりあえず、ほとぼりが冷めるまで僕らも手伝おう」

 人手はいくらあっても足りないはずだ。
 僕みたいな非力人間代表が力になれるかはわからないが、それでもいないよりはマシだと信じたい。

「レヴィのスキルを封じるアイテム探しは、当分お預けってことになるかな」
「ああ、そう言えばそんな目的もありましたね。慌ただし過ぎて忘れてましたよ」
「当事者が忘れてんじゃねえ」
「これは失敬」

 てへっと舌を出すレヴィ。
 可愛ければ許されるとでも思っているのだろうか。
 許すけども。

「しばらくの間はクイーンズを拠点にすることになりそうね~。元々急ぎの旅でもないんだし、人助けに奔走しましょうか」

 言いながら、ミアは気合を入れるように腕を伸ばす。

「いいのか、ミア」
「何が?」
「復興の手伝いはほとんどボランティアだろうし、全然金が稼げないぜ」
「ちょっとイチカ、私がこのタイミングで自分のことを優先する薄情者だと思うわけ?」

 金色の瞳をじとっと細め、ミアが睨みつけてきた。

「……それにね。少し考えてることもあるの」
「と言うと?」
「……『グール』」

 小さく、だが確かな発音で、ミアはその名を口にする。

「テスラみたいな奴らを野放しにしていたら、また今日みたいな事件が起きる……そんなの、間違ってるわ。だから私は、あいつらを叩き潰したい」

 ミアの声には、ハッキリとした強い意志がこもっていた。
 お父さんの仇でもある闇ギルド、「賊」。
 彼女は本気で、奴らを潰したいと思っている。

「でも、二人には関係ないわよね……これは、私が勝手にやりたいだけだから……」
「そんな悲しいこと言うなよ。ここまできたら、乗り掛かった舟さ。僕も協力するよ」

 僕はわざとらしく両手を広げた。
 仲間が本気で為したいことがあるなら。
 とことんまで付き合うのが、友達だ。

「私をハブかないでくださいってば……もちろん、私もお供しますよ」

 グッと親指を立てるレヴィ。
 どうやら、パーティーとしての結論は出たようだ。

「……ありがとう、二人とも」

 ミアは目元を軽くこすり。
 それから、とびっきりの笑顔を向ける。

「よし! とりあえず目の前のことからバンバン片付けていきましょ! 昼は働いて夜は酒! それこそ冒険者のあるべき姿だわ!」
「ミアさん、お酒は程々にしないと……」
「なーに言ってんのレヴィ! 飲んで飲まれてなんぼのもんよ! さ、行くわよ!」
「あう~」

 ミアはレヴィの頭をぐりぐりしながら、元気にギルドへと進んで行く。

「……」

 そんな二人を見て、自然と笑みがこぼれていた。
 さて、あまりグズグズしているとミアに怒られてしまう。
 精々周りの足を引っ張らないよう、自分にできることを全力でやろう。
 そうやって生きていれば、その内。
 僕が為したいことも、見えてくるはずだから。

「何してんのイチカ! 早く早く!」
「……仰せのままに」



 魔物やスキルなんてものが当たり前に存在する、ゲームみたいなこの世界で。
 レベル1の僕は、今日も生きていく。
 自分の人生を。


しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

A・l・m
2022.09.08 A・l・m

面白い。 特に会話とか。


気になるのは『神のサイコロ(トリック・オア・トリート)』
サイコロの性質はなくても、裏返しくらいはできるのか。

というか、一時的じゃなくて永続とか長期とか回復(被害者が成長)不能なのかどうかとか。

気になる気になる……!

2022.09.08 いとうヒンジ

 感想ありがとうございます!

 会話を面白いと言って頂き、作者冥利に尽きます。

 スキルに関してはこれから明らかになる部分とそうでない部分があるので、しばらくお待ち頂ければと思います。

解除
伊予二名
2022.09.07 伊予二名

対象の生命力を1にする。これが現在値か最大値かでスキルの凶悪さに天と地ほどの開きがありますね。

2022.09.08 いとうヒンジ

 感想ありがとうございます!

 スキルの詳細に関しては、イチカくん自身も把握していない部分が多いです。それがどう影響するのかは、またいずれ……。

解除

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

荷物持ちだけど最強です、空間魔法でラクラク発明

まったりー
ファンタジー
主人公はダンジョンに向かう冒険者の荷物を持つポーターと言う職業、その職業に必須の収納魔法を持っていないことで悲惨な毎日を過ごしていました。 そんなある時仕事中に前世の記憶がよみがえり、ステータスを確認するとユニークスキルを持っていました。 その中に前世で好きだったゲームに似た空間魔法があり街づくりを始めます、そしてそこから人生が思わぬ方向に変わります。

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
 2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。  死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。  命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。  自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。