18 / 33
八二番目 001
しおりを挟むバキィッ‼
お昼ご飯を食べ終え、午後の緩やかな眠気に襲われ始めていた私たちは、突然の轟音によって意識を覚醒させられた。
「ニトイ! レイさんを連れて裏口から外へ!」
「おっけー!」
「わっわっ⁉」
私が全く事態を把握できずにいると、マナカさんの指示に従ったニトイくんが私を担ぎ上げ、家の裏口へと走っていく。
姿は元の美少年に戻っている彼が、こんなに軽々私を持ち上げるなんて……って、そこを気にしている場合じゃない。
「な、何があったの?」
「マナカの張ってた結界魔法が破られたんだ! やばいのが来てるよ!」
ニトイくんは若干嬉しそうに口角をあげていた。この状況を楽しむ余裕があるのはさすが殺し屋と言ったところだろうか……私は全然楽しくない。
裏口から外へ出て、彼に先導されながら森を走る。新調した丈の短いワンピースは大変動きやすいが、しかし私の体力が早々に限界を迎える。
「ちょ、ちょっと待って……」
「えー、バテるの速過ぎ……まあここまで離れれば大丈夫か」
「大丈夫って……何が?」
「マナカの魔法に巻き込まれないってこと」
ニトイくんが言い終わると、後方から凄まじい爆発音が鳴り響く。
「あ、あれがマナカさんの魔法なの?」
「そ。まあ大分手加減して……って、まじ⁉」
爆発の衝撃がここまで届くのと同時に――煙と共に、マナカさんが吹き飛ばされてきた。
「ニトイ! 八二番目が来ました!」
吹き飛ばされた身体をすぐに立て直した彼は、ニトイくんに向けてそう叫んだ。
瞬間、目の色が変わる。
「下がってて、レイ!」
初めて聞くニトイくんの真剣な声色に少しドキッとした。そこまで目の色が変わるような危ない相手が来たっていうの?
「よーう、相変わらず魔法ばっか使ってんな、マナカ」
聞いたことのない野蛮な声。
黒い煙の向こうから姿を現したのは、赤い髪の男性――赤の頭髪を短くさっぱり纏め、胸元のはだけたワイルドな服を着て、狩人が獲物を見つけた時のような鋭い眼光をしている、筋骨隆々な謎の男。
彼はニヤリと笑い、マナカさんとニトイくんを交互に見やる。
「ニトイも、久しぶりじゃねえか……お前らとは随分やり合ってねえな?」
「……じゃあさっさとやり合って、いい加減死になよ、ヤジ」
「はっ、お前も相変わらずクソ生意気だな。ま、安心しろよ。お前たちダウナーは、俺がきっちり処理してやるからよ」
聞きなれない単語がいくつか登場したけれど……きっと、ヤジというのはあの男の人の名前なのだろう。二人の口振りからして、以前からの知り合い? もしかして、ナンバーズ計画に関係している人なんじゃ……。
「……なーに見てんだ、女」
私の視線に気づいた彼は、赤い瞳で睨みを利かせてきた。
「っ……」
……あれ、もしかして私、震えてる?
不死身な私が、殺されるかもしれないという恐怖を感じている?
「……あ? お前、その顔……なるほどな、九〇番目の野郎にまんまと嵌められたってことか。いけ好かねえ奴だ」
ヤジと呼ばれている男は、私の顔をまじまじと覗いてからそう口走った。
「クオンも関わっているんですか」
「そう怖い顔をすんなよ、マナカ。この隠れ家の情報を寄越したのはあいつだが、どうやらお前たちをぶっ殺すのは後回しにしろってことみたいだわ。まず片付ける仕事がある」
「……どういう意味ですか? 君が他に何をすると?」
「そこの女」
彼は再び、私を睨みつけた。
そして、見る者を怯えさせる暴力的な笑みを浮かべる。
「あんたを攫わせてもらう。そういう依頼を請けてるんでね」
刹那。
ヤジさんの足元に、紅蓮の炎が広がった。
「ニトイ、レイさんを連れて逃げて!」
あれは、マナカさんの魔法……敵の狙いがわかった瞬間、私を逃がそうと策を講じてくれたらしい。
「逃がさねえよ!」
だが、炎に包まれたヤジさんは余裕の表情で。
拳を――地面に叩きつけた。
「【罅割れ】‼」
激しい振動の後――地面が音を立てて砕け散っていく。
その破壊的な様を見て、私は直感した。どことなくイチさんたちに似た雰囲気を持つ彼は、ナンバーズ計画で実験体にされた子どもの一人であり。
あの力こそ――魔法を越えた、スキルなのだと。
「危ない!」
目の前の光景に圧倒されて動けずにいた私を、ニトイくんが突き飛ばす……直後、さっきまで棒立ちしていた地面が崩壊していった。
「ぼーっとしないでよ、レイ!」
「あ、ごめん……でも私、死なないから大丈夫だよ。自分の身は自分で……」
「そういう問題じゃない!」
彼は叫び、全身を青白く光らせる。
「【カメレオン】!」
光から出てきたのはマナカさんだった。その横顔に、イチさんやモモくんに変化していた時のような違和感はない。
完全な同質同形……これが、ニトイくんのスキル。
「いくよ、マナカ!」
「ついてきてくださいね、ニトイ!」
全く同じ姿をした二人は、右手と左手を重ね合わせる。
「【マジック】‼」
視界が、爆散した。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります
cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。
聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。
そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。
村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。
かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。
そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。
やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき——
リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。
理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、
「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、
自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。
辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています
h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。
自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。
しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━?
「おかえりなさいませ、皇太子殿下」
「は? 皇太子? 誰が?」
「俺と婚約してほしいんだが」
「はい?」
なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる