恋風

高千穂ゆずる

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回り始めた糸車

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 亮が週末に訪れるようになってから、もう三度目になる。
 性行為も三度ともなると、亮の身体に著しい傷跡を残すことも少なくなった。それでも喬一は亮の身体を気遣い、翌朝には必ず雪也に診察を頼んでいた。
 治療という治療を施す必要はほとんどなかった。雪也に診察されるのが情事の後ということもあってか──むしろ他のことが原因とも思えるが──亮はどうしても雪也の指に、医者としての触診であるにも関わらず感じてしまうことが辛かった。
 ごめんなさいと謝るのが口癖になり、処置の終わった雪也に必ずといっていいほど謝っていたが、様子を窺うような亮の顔は、昨夜もあなたは視ていたのでしょう? と問い詰めているみたいだった。そのことをひた隠しにしている雪也にとっては、実に不快なことでもある。
「何度も言うようだけど、それは自然現象だからいちいち謝らなくても俺は少しも気にしていない。そこまできみが卑屈になる方がおかしいと、俺は思うが?」
 雪也の言葉尻がきつくなる。心根の優しいこの少年は、酷く傷ついた表情で俯いた。
 亮がなにも言わないのは、喬一が雪也に関してのことをすべて秘密にしているからだろうが、この少年が気づいていないわけもなく、敢えて口にはしないその辺りの配慮は素晴らしいものだと雪也は敬服する。
 傷ついた顔で俯いていた少年がやおら面を上げると、
「雪也さんには、いつもいつも良くしていただいて。どうやったらお返しができるのかわからないんですけど。ぼくにお手伝いできることがあれば、遠慮なく言ってください。ぼく、がんばりますから」
 どうやら、彼は彼なりに雪也に対して感謝をしているようだった。
 情事の後の、男の尻や性器などを診察させているのだから、いくら感謝してもし足りないくらいなのだろう。
 しかし、雪也にとってこの感謝の言葉は驚嘆するだけで、その真意はあまり伝わっていないようだ。そもそも雪也にとって亮の存在意義など、喬一が自分に誂えた玩具くらいにしか思っていないからだ。この診察にしても、喬一に頼まれたから診ているだけなのである。
「きみが手伝う?」
 雪也は驚いた顔で、呟くように訊く。
「はい。なんでもします。あ! でもぼくが出来る限りの範囲で、という意味ですけど……だめですか?」
 亮はベッドの上で畏まった。その真摯な様子が、雪也のサディスティックな部分を刺激する。
 雪也は目を細めて笑い、充分すぎるほど手伝ってもらっているよと答えた。それを聞いた亮の笑顔が強張る。雪也の言っている意味がわかっているからだ。
「喬一に聞かされているんだろう? 俺のこと……」
 亮は小さく首を振った。
 雪也がベッドに手をついた。ぎしっとベッドが軋み、その端正な顔を更に近づけた。
「いいや、聞かされているはずだよ。俺がいつも覗いていたこと。それを承知できみが喬一に抱かれていること。違うかい? ──違わないはずだよ。だから、きみには充分すぎるほど良くしてもらっている」
 亮の耳朶に、雪也は意地悪く息を吹きかけてやる。
「だからこれ以上きみにやってもらうことなど、小指の先ほどもない」
 そう囁く雪也を、亮は精一杯睨み返し、勇気を振り絞ってもう一度訴えた。
「それではぼくの気がすみません。なにかお手伝いをさせてください。喬一さんにはぼくからきちんとお話しますから」
 身体を震わせながら自分に逆らう、この小動物のような少年を、雪也はしばらくの間みつめていた。
 あまりに真剣なその眼差しに雪也が根負けし、軽く溜息を吐いた後、
「わかったよ。なにか手伝って欲しいことがあれば、きみに言おう」
 雪也に勝利した亮は、緊張で強張った顔を満面の笑みに変え、ありがとうございますと溌剌とした声で礼を言った。
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