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咲う鶯燕地
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縦長の小さな窓が三箇所。色気もなにもない酷く殺風景な部屋に連れて来られた。
階下で部屋の鍵を受け取り、前払いということで部屋代を先に支払った。もちろん金を出したのは亮である。青年は部屋に入るなり服を脱ぎ始めた。亮が慌ててそれを止めると、青年は怪訝そうな顔で、
「服を着たままヤるのが好み? いいよ。俺、客の望みはなんでも叶えちゃうから」
なんて軽薄な物言いの男だろうと亮は思った。それでいて、彼の見目はとても綺麗で、街娼という生業は不釣合いでしかない。
「あの……。抱き締めてくれるだけでいいんです。あなたの香りが……」
固く目を瞑り、言葉を飲み込む。
青年は軽く溜息を吐き、これも商売と言いながら立ったまま抱き寄せた。裸の胸に抱き寄せられると、匂いは一層強いものになっていて、亮の心がざわつき始める。
匂いを求めるように、青年の首筋に顔を近づけると、懐かしい匂いが立ち上り、甘くて切ない記憶をくすぐるその香りは、愛しい人の匂いに間違いないと思った。もう、けして抱き締めてはもらえない雪也の匂いだ。
溢れ出した想いは抑え切れなくて、雪也に答えを求めるように、亮は彼の首に腕を回して抱きついた。
「お前……キスは平気か?」
彼の首筋から立ち上る匂いに亮の記憶は混濁していて、けして雪也は亮のことを、お前などとは呼んだりしないのに、まるで雪也にキスを求められている錯覚に陥っていて、亮は素直にこくんと頷いた。
青年が亮の顎を掴んで上向かせる。唇を近づけて青年はなにかを呟いた。
「うぐいす」
え? と亮が首を傾がせると、青年はにこりと微笑み、
「名前は?」
「……りょ、りょう。桜、亮……」
「わかった……」
「あなたは……? あなたの名前も……教えて、ください」
息がかかるほどの距離から囁かれる青年の声に熱がぐっと篭もる。
「川端朝之」
朝之の名を繰り返す間もなく、亮の唇はふさがれた。
「そんなにしがみついたら出来ないって」
首筋に縋りついたまま離れない亮に、朝之が囁く。ゆっくりと腕を剥がしていき、亮の手首に残る痣をみつけた。
「こういうのが趣味なのか?」
亮はなにを訊かれているのかわかっていない。熱に浮かされているみたいに、浅い息を繰り返すばかりである。
「どうして欲しいか言ってみろ。してやるから」
朝之に囁かれて、亮は薄目を開けた。
どうして欲しいのか。
朝之の匂いに酔っている亮の思考は緩慢で、頭に浮かぶ様々な痴態を整理しながら、ようやく出てきた答えは、
「ぼくが、この世に確かに存在していることを教えて」
朝之は少し頭を抱えた後、亮の手首の痣に目をやった。
この痣はそういうわけかと呟いて、亮の耳朶を少し強めに噛んでやる。
「ん……ああっ」
亮の口から甘い悲鳴が上がる。
「縛るものがないから、これで勘弁してくれな」
不安定な自身の存在を確かめるために、苦痛を求める亮の内面に気づいた朝之は、それに応えるべく、乱暴に組み敷いた。
噛み付くようなキスで強引に口腔内へ舌を差し入れ、亮の舌を絡め取って甘噛みしてやると、それだけで亮の下肢がびくびくと攣れて感じていることがわかる。丁寧に首筋から乳首へと舌を這わせ、亮が声を出そうものなら何度もその箇所を責め立てた。
茂みに顔を埋めると、亮は一際わなないて、朝之の髪に指を滑り込ませて啼いた。
焦らすように亮の先端をちろりと舐めて、間を置くと、細い腰は途端に揺らめき始め、その様を朝之は楽しそうに眺める。
「亮……手を貸してみて」
力なく投げ出されている右手を、亮自身の元へ導いてやる。感じてぐったりとしている亮の手が扱けるはずがなかったが、朝之はその手に自らを握らせて舐め始めた。
「あ……ああ」
亮の足が攣れて、安物のベッドのスプリングが軋む。先端から滲み出てくる体液を、朝之は美味そうに舌で掬い上げていく。音を立てながら茎を下り双丘の間にも口づけると、亮は腰を上げて嬌声をあげた。
朝之が慣らすためにすぼみを愛撫していると、感極まった亮が上体を起こした。
「挿れる……の。許し……て」
瞳いっぱいに涙を溜めて懇願した。
朝之は、挿れるのはやめてくれと言っているのかと思った。差し入れていた指を抜き始めると、亮は泣きながら訴える。
「やあ……抜かないで……ぇ」
朝之は混乱しつつも、指を戻した。
「次はどうして欲しい? また噛まれたい?」
亮がぴくんと反応して朝之を見た。
「挿れて欲しいの」
瞳から涙が数滴零れた。
「ぼくからじゃなくって。あなたに挿れて欲しいの」
朝之に飛びついて、何度もその唇を吸った。なにも考えられなかった。自分が今、なにをしているのか。誰と──繋がろうとしているのか──。
雪也の咽返るような甘い匂いが、全身を包んで離さない。亮は確かめずにはいられない言葉を口走る。
「ぼくのせいなの? ぼくが好きになったことがいけなかったの?」
揺さぶられるような濃厚な愛撫の中で、亮は雪也の答えを待った。朝之は、泣きじゃくりながら訊いてくる亮の耳元に顔を近づけて、
「人を好きになることがいけないことだなんて、あってたまるもんか」
そう囁いて亮の身体をゆっくりと寝かせ、わざと辛い体勢を取らせた。
「好きで好きで堪らない。それでいいんだ」
ぐいと一気に刺し貫く。繰り返す朝之の律動に、苦悶の表情を湛えた亮も腰を揺らして答える。
「好……き。んん。だ……い好き。……!」
絶頂を迎えた亮は、最後になにかを呟いて果て、そのまま気を失った。
階下で部屋の鍵を受け取り、前払いということで部屋代を先に支払った。もちろん金を出したのは亮である。青年は部屋に入るなり服を脱ぎ始めた。亮が慌ててそれを止めると、青年は怪訝そうな顔で、
「服を着たままヤるのが好み? いいよ。俺、客の望みはなんでも叶えちゃうから」
なんて軽薄な物言いの男だろうと亮は思った。それでいて、彼の見目はとても綺麗で、街娼という生業は不釣合いでしかない。
「あの……。抱き締めてくれるだけでいいんです。あなたの香りが……」
固く目を瞑り、言葉を飲み込む。
青年は軽く溜息を吐き、これも商売と言いながら立ったまま抱き寄せた。裸の胸に抱き寄せられると、匂いは一層強いものになっていて、亮の心がざわつき始める。
匂いを求めるように、青年の首筋に顔を近づけると、懐かしい匂いが立ち上り、甘くて切ない記憶をくすぐるその香りは、愛しい人の匂いに間違いないと思った。もう、けして抱き締めてはもらえない雪也の匂いだ。
溢れ出した想いは抑え切れなくて、雪也に答えを求めるように、亮は彼の首に腕を回して抱きついた。
「お前……キスは平気か?」
彼の首筋から立ち上る匂いに亮の記憶は混濁していて、けして雪也は亮のことを、お前などとは呼んだりしないのに、まるで雪也にキスを求められている錯覚に陥っていて、亮は素直にこくんと頷いた。
青年が亮の顎を掴んで上向かせる。唇を近づけて青年はなにかを呟いた。
「うぐいす」
え? と亮が首を傾がせると、青年はにこりと微笑み、
「名前は?」
「……りょ、りょう。桜、亮……」
「わかった……」
「あなたは……? あなたの名前も……教えて、ください」
息がかかるほどの距離から囁かれる青年の声に熱がぐっと篭もる。
「川端朝之」
朝之の名を繰り返す間もなく、亮の唇はふさがれた。
「そんなにしがみついたら出来ないって」
首筋に縋りついたまま離れない亮に、朝之が囁く。ゆっくりと腕を剥がしていき、亮の手首に残る痣をみつけた。
「こういうのが趣味なのか?」
亮はなにを訊かれているのかわかっていない。熱に浮かされているみたいに、浅い息を繰り返すばかりである。
「どうして欲しいか言ってみろ。してやるから」
朝之に囁かれて、亮は薄目を開けた。
どうして欲しいのか。
朝之の匂いに酔っている亮の思考は緩慢で、頭に浮かぶ様々な痴態を整理しながら、ようやく出てきた答えは、
「ぼくが、この世に確かに存在していることを教えて」
朝之は少し頭を抱えた後、亮の手首の痣に目をやった。
この痣はそういうわけかと呟いて、亮の耳朶を少し強めに噛んでやる。
「ん……ああっ」
亮の口から甘い悲鳴が上がる。
「縛るものがないから、これで勘弁してくれな」
不安定な自身の存在を確かめるために、苦痛を求める亮の内面に気づいた朝之は、それに応えるべく、乱暴に組み敷いた。
噛み付くようなキスで強引に口腔内へ舌を差し入れ、亮の舌を絡め取って甘噛みしてやると、それだけで亮の下肢がびくびくと攣れて感じていることがわかる。丁寧に首筋から乳首へと舌を這わせ、亮が声を出そうものなら何度もその箇所を責め立てた。
茂みに顔を埋めると、亮は一際わなないて、朝之の髪に指を滑り込ませて啼いた。
焦らすように亮の先端をちろりと舐めて、間を置くと、細い腰は途端に揺らめき始め、その様を朝之は楽しそうに眺める。
「亮……手を貸してみて」
力なく投げ出されている右手を、亮自身の元へ導いてやる。感じてぐったりとしている亮の手が扱けるはずがなかったが、朝之はその手に自らを握らせて舐め始めた。
「あ……ああ」
亮の足が攣れて、安物のベッドのスプリングが軋む。先端から滲み出てくる体液を、朝之は美味そうに舌で掬い上げていく。音を立てながら茎を下り双丘の間にも口づけると、亮は腰を上げて嬌声をあげた。
朝之が慣らすためにすぼみを愛撫していると、感極まった亮が上体を起こした。
「挿れる……の。許し……て」
瞳いっぱいに涙を溜めて懇願した。
朝之は、挿れるのはやめてくれと言っているのかと思った。差し入れていた指を抜き始めると、亮は泣きながら訴える。
「やあ……抜かないで……ぇ」
朝之は混乱しつつも、指を戻した。
「次はどうして欲しい? また噛まれたい?」
亮がぴくんと反応して朝之を見た。
「挿れて欲しいの」
瞳から涙が数滴零れた。
「ぼくからじゃなくって。あなたに挿れて欲しいの」
朝之に飛びついて、何度もその唇を吸った。なにも考えられなかった。自分が今、なにをしているのか。誰と──繋がろうとしているのか──。
雪也の咽返るような甘い匂いが、全身を包んで離さない。亮は確かめずにはいられない言葉を口走る。
「ぼくのせいなの? ぼくが好きになったことがいけなかったの?」
揺さぶられるような濃厚な愛撫の中で、亮は雪也の答えを待った。朝之は、泣きじゃくりながら訊いてくる亮の耳元に顔を近づけて、
「人を好きになることがいけないことだなんて、あってたまるもんか」
そう囁いて亮の身体をゆっくりと寝かせ、わざと辛い体勢を取らせた。
「好きで好きで堪らない。それでいいんだ」
ぐいと一気に刺し貫く。繰り返す朝之の律動に、苦悶の表情を湛えた亮も腰を揺らして答える。
「好……き。んん。だ……い好き。……!」
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