恋風

高千穂ゆずる

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春の染み

(3)

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 両手足を天蓋の支柱に括られて、膝を折ることも、肘を曲げることも叶わない状態で、亮はうっすらと汗を滲ませ、横たわっていた。
 喬一の手淫で吐き出された体液は、亮の喉元辺りにまで飛んでいて、ご丁寧にもそれは腹の上へ塗りたくられている。腹の上を喬一の指が這うと、亮は堪らず身をよじった。
 指をそのまま茂みの中へと滑り込ませると、愛撫の予感からか茎がのたうつように痙攣を起こし、大人しくなる。
 しとどに濡れた茎に指を絡ませて、もう一度手淫を施してやると、亮の唇の僅かな隙間から艶っぽい喘ぎが洩れた。相変わらずの可愛い声だ。
 喬一は右手で茎を扱きつつ、堪らず亮の唇を塞いだが、下肢から上がってくる快感の波に負けた亮が仰け反るものだから、二人の唇に隙間が出来て、そこから混ざり合った互いの唾液がつうっと滴り落ちる。
 ほんの数日間。触れていないだけなのに、抑えが利かないくらいに喬一は興奮していて、口づけを終えた途端に貪るように亮の茎を咥えた。
 口を窄めて啜ってやると、亮は嬌声をあげて腰を震わせる。双丘の間を喬一の唾液が伝い落ちると、謀ったように襞へ塗り込み、指をその勢いに乗せて挿入する。
「ああ……ん」
 亮の甘い喘ぎと支柱の軋みが同時に響く。
 足の紐を支柱から外してやるが、亮の身体は痺れ薬でも用いたかのように、くにゃりとなっていた。力の篭らない左足を肩に担ぎ、自身の勃起をすぼみに宛がう。
 倒れ込む勢いに任せての侵入を試みようと上体を倒すと、息を呑んだ亮が制止してきた。
 喬一は大きく息を吐き、どうしたと囁く。
「うつ伏せがいい。だから、片方だけでも手を自由にして欲しい」
「がいいのか?」
 亮は、一瞬泣きそうな表情を見せた後、その方が感じるからと、睫毛を震わせて答えた。
「オレはこのままの方がいいんだけどな」
 汗ばんでいる亮の額を撫で上げた。露になったその顔は哀願するように思い詰めていて、こちらをじっとみつめている。
「お願いだから……」
大粒の涙を零した。ほろりと落ちていく雫を指で受け止め、目尻に舌を這わせた。
 紐を解いてやり、うつ伏せにしてやる。
 背骨に沿うように舌を這わせ、内股に手を宛がう。足を開くよう促すと、亮はそろりと右足をずらした。
 開かれたすぼみに舌を運び、たっぷりと濡らす。
 無遠慮に宛がわれた勃起は、何の躊躇もなしに亮を穿つ。一瞬呻き声があがるが、すぐにそれはくぐもったものに変わった。
 一定の動きしかしない亮の後頭部を眺めながら、普段ならもう少し声をあげているはずが、そんな素振りを少しも見せないことに、喬一は不審を抱いた。
 自身を抜かず、動きだけを止めた。
「どうした、亮。感じてないのか?」
 そう問う喬一に、亮は小さく頭を振るだけだった。
「おかしいぞ? 何か隠してるんじゃないのか?」
 亮は更に大きく頭を振る。
「そんなことないよ。もっと、動いていいよ。もっと……激しくしていいよ?」
 そう答えている亮の声は震えていた。
 その態度に納得いかない喬一が身体をずらすと、穿っていたモノが半分ほど抜けた。 亮は身体を仰け反らせて、離れていく喬一の腕を掴んだ。
「抜かないで」
 濡れた双眸が喬一をみつめていた。
 朱に染まっている唇が開き、抜かないでと、また呟く。その唇を染めているのが血であることに気づいた喬一が驚いて身体を起こすと、穿っていたすべてが抜かれてしまい、亮は泣きながら、いやいやと首を振る。
 一体どうしたんだと訊きながら、尋常ではない様子の亮を抱き起こした。
 両手で顔を覆い、泣き崩れたその左腕に血が滴っている。見れば歯を立てた痕まである。
「お前。何でこんなことをするんだ」
 一頻り泣いた後、亮は歯を立てた左腕と括られた痣も生々しい右腕を差し出し「やっぱりぼくを縛っていて欲しい」と懇願し始める。
 艶めかしく腰をしならせて、縛って欲しいと喬一に懇願する。
 今夜の亮が尋常ではないことを頭では分かっているのに、喬一はその色香に抗えなかった。
 おかしい。
 そう理解しているのに、縛って自由を奪いたい喬一が確かに在り、亮には縛られていたい理由があるようだった。
 そして耳を疑うようなことを、亮は囁いたのである。
「ぼくが血を流すことを許して欲しい」
 そうしなければ──亮が小さく呟いた。
「そうしなければ、なんだ」
「ぼくはもう一度大切な人を失うかもしれないから……」
 そう言って喬一の首に縋りついた。その身体を強く抱き締めてやり、
「そうまで言うなら好きにしろ。オレはお前の望むとおりにするだけだ」
 抱き合ったまま、夜具の中に二人は倒れ込む。
   ぎしぎしとベッドが等間隔に揺れ、絡み合うふたつの吐息が何度も部屋を満たした。そうして囀るように亮が啼き、後を追うように喬一の熱い息が吐かれると、室内には怖いくらいの静けさが訪れた。
 夜半、目覚めた喬一は、亮の頬に残る涙の跡を指で拭った。するとそれに併せるように、眦から涙がほろほろと零れ落ちてくる。
 眠れずにいた亮がすがりついてきて、あやすように喬一はその背を撫でてやる。
 自分にだけすがりつく亮の温もりを感じ、ようやく喬一は安堵した。亮には自分しかいないのだと知ることができて心に平安が戻る。
 惑乱して、繰り返し好きだと囁く亮の異常さは充分わかっているのに、一度失いかけたこの愛しい恋人を取り戻せた充足感の方が強すぎた。だから、その涙の本当の理由には気づけなかった。


 朝──。
 ベッドに横たわっていたのは、空っぽの亮だった。
 喬一をみつめる瞳に輝きはなく、実のない笑顔と乾いた言葉で、亮は喬一の名を囀った。

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