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二人で店から出ると、流石に週末といえほとんど人影がなかった。二人分の足音とキャスターがころがる音が狭い路地に響く。
一分も歩かないうちに、有聖の車に到着した。
「わぁ、ハチロクじゃん!」
店がある通りの角の駐車場にとめてあったのはハチロクだった。オレンジメタリックのボディは真夜中でも美しい。
「車、好きなんだ?」
「うん! 買うんだったら、スポーツカーがいいなぁって思ってるんだけど、結構するから。今はこつこつ貯金中なんです」
ピピっと電子音がなって、ガチャンとトランクが開いた。
有聖がキャリーケースをトランクにしまって、翔が抱えてきたボストンバッグも詰め込んだ。
「ありがとう。さぁ、乗って」
ハチロクに乗るのは始めてだった。ドキドキしながら、翔は助手席に乗り込んだ。
「あ、マニュアルなんだ。大変じゃないですか?」
翔の運転免許はAT限定だ。MT車は運転したことがない。
「慣れれば問題ないよ。オートマよりも運転してるって感じがあるし」
「へぇー、そうなんだ」
なめらかに車が走り出す。有聖の運転は丁寧だった。クラッチを踏み込み、ギアを変える、それだけの仕草がやけにかっこよくて、なぜか色気さえ感じてしまった。
何か話しかけた方がいいのかな? いやでも、話しかけられたくないのかも……。
運転する有聖の横顔をちらちらと盗み見て、どうしようか迷ったが、何を言えばいいのかわからなくて結局口を閉じた。
「……さっきの話、どこから聞いてたの?」
視線は前方に向けたままの有聖に突然話しかけられて、「え?」と聞き返してしまった。
「僕とオーナーの話、どこから聞いてたの?」
と、もう一度質問が繰り返された。
「えっと、今度は縛り……? がいいとかなんとか言ってるとこから」
「ああ、そこからか。次はきっとあまり怖がることはないと思うよ。鞭とかはあまり使わないだろうからね」
そういえば、そんなことも言っていた。
「縛るだけだから?」
「うん。縄で縛って、ちょっと吊るすだけ。蛍光塗料を染み込ませた縄とかでしばると、暗くても縄がよく見えるから綺麗だよ」
人をぐるぐる巻きにしたのが綺麗、なんて言われても、想像もつかなくてなんと返していいのかわからない。結局、「はぁ、そうなんですか」と曖昧に笑うしかできなかった。
「想像つかないかな? それとも、こういう話は好きじゃない?」
「……よく、わかりません」
好きか嫌いか、そんなこともわからないほど、翔はこの世界をことをまだよく知らない。
よくテレビでアイドルが、「私ってドMなんです」とか言うことがあるけれど、それと有聖たちの世界はまったく違うのだ。ちょっとバラエティでいじられるのが好き、ではなくて、鞭でどつきまわされたい、なのだ。
「ショーを見るのは怖いけど、ちょっとは慣れたと思う。今日のは、そんなに怖くなかったし。ああいうところで働いているし、興味が全くないって言ったら嘘になるけど……」
「ショー以外でSMは見たことない?」
「ショー以外って、動画とか? まぁ、見たことないわけじゃないけど……、自分では選ばないかな」
今どきはそういう動画もパソコンやスマホで簡単にみられるけれど、ズリネタにするならもっと甘い感じの方が良かった。
「そっか。ああいう動画のSMはだいぶ編集されてるし、半分は演技だからね。ショーもだいぶ演出が強いから、プライベートとは雰囲気が違う。でも、きっとすぐ慣れるよ」
「でも! やっぱり、む、鞭とかは、まだ、怖いし……、羞恥プレイに巻き込まれたりとか、絶対慣れないと思う」
必死になって言うと、有聖がはははと声を出して笑った。
「そうか。あれはちょっと翔くんには理解できない世界?」
「理解できないっていうか、びっくりした。顔とかよく見てなかったから、最初は誰かわかんなかったし、それで急に、ど、土下座されて……、俺の方が恥ずかしいっていうか、居たたまれなさ過ぎたし」
「そうだね。びっくりしたよね」
「颯斗さんに呼ばれて、マジ天の助けって思ったもん。……それにあの人、よろよろしてたし、なんかかわいそうっていうか」
「酷いことされて、かわいそう?」
同情したのか、と聞かれて、翔はほんの少し考えた。
掃除させられるのが酷いというわけじゃない。何がかわいそうなのか……。
「ショーに出て、すっごい酷いことされて、すっごくよろよろなのに、労わってもらえてないみたいな気がしたから、かな」
「なるほど。翔くんは優しいね」
「いや、普通だと思うけど……」
拷問みたいに吊るされて、鞭打ちされたり、卑猥な玩具を突っ込まれた人が、掃除をかわらされていたら、「休んでて!」と言いたくなるものじゃないだろうか?
体中痛かったに決まっている。
「一応、そんなにダメージの残るプレイはしてないんだよ。鞭だって本気で打ったわけじゃないし、張形も保井さんが用意したものだからサイズ的には普段から使っているものだと思うよ。それに今頃はまた保井さんに責められているんじゃないかな」
一分も歩かないうちに、有聖の車に到着した。
「わぁ、ハチロクじゃん!」
店がある通りの角の駐車場にとめてあったのはハチロクだった。オレンジメタリックのボディは真夜中でも美しい。
「車、好きなんだ?」
「うん! 買うんだったら、スポーツカーがいいなぁって思ってるんだけど、結構するから。今はこつこつ貯金中なんです」
ピピっと電子音がなって、ガチャンとトランクが開いた。
有聖がキャリーケースをトランクにしまって、翔が抱えてきたボストンバッグも詰め込んだ。
「ありがとう。さぁ、乗って」
ハチロクに乗るのは始めてだった。ドキドキしながら、翔は助手席に乗り込んだ。
「あ、マニュアルなんだ。大変じゃないですか?」
翔の運転免許はAT限定だ。MT車は運転したことがない。
「慣れれば問題ないよ。オートマよりも運転してるって感じがあるし」
「へぇー、そうなんだ」
なめらかに車が走り出す。有聖の運転は丁寧だった。クラッチを踏み込み、ギアを変える、それだけの仕草がやけにかっこよくて、なぜか色気さえ感じてしまった。
何か話しかけた方がいいのかな? いやでも、話しかけられたくないのかも……。
運転する有聖の横顔をちらちらと盗み見て、どうしようか迷ったが、何を言えばいいのかわからなくて結局口を閉じた。
「……さっきの話、どこから聞いてたの?」
視線は前方に向けたままの有聖に突然話しかけられて、「え?」と聞き返してしまった。
「僕とオーナーの話、どこから聞いてたの?」
と、もう一度質問が繰り返された。
「えっと、今度は縛り……? がいいとかなんとか言ってるとこから」
「ああ、そこからか。次はきっとあまり怖がることはないと思うよ。鞭とかはあまり使わないだろうからね」
そういえば、そんなことも言っていた。
「縛るだけだから?」
「うん。縄で縛って、ちょっと吊るすだけ。蛍光塗料を染み込ませた縄とかでしばると、暗くても縄がよく見えるから綺麗だよ」
人をぐるぐる巻きにしたのが綺麗、なんて言われても、想像もつかなくてなんと返していいのかわからない。結局、「はぁ、そうなんですか」と曖昧に笑うしかできなかった。
「想像つかないかな? それとも、こういう話は好きじゃない?」
「……よく、わかりません」
好きか嫌いか、そんなこともわからないほど、翔はこの世界をことをまだよく知らない。
よくテレビでアイドルが、「私ってドMなんです」とか言うことがあるけれど、それと有聖たちの世界はまったく違うのだ。ちょっとバラエティでいじられるのが好き、ではなくて、鞭でどつきまわされたい、なのだ。
「ショーを見るのは怖いけど、ちょっとは慣れたと思う。今日のは、そんなに怖くなかったし。ああいうところで働いているし、興味が全くないって言ったら嘘になるけど……」
「ショー以外でSMは見たことない?」
「ショー以外って、動画とか? まぁ、見たことないわけじゃないけど……、自分では選ばないかな」
今どきはそういう動画もパソコンやスマホで簡単にみられるけれど、ズリネタにするならもっと甘い感じの方が良かった。
「そっか。ああいう動画のSMはだいぶ編集されてるし、半分は演技だからね。ショーもだいぶ演出が強いから、プライベートとは雰囲気が違う。でも、きっとすぐ慣れるよ」
「でも! やっぱり、む、鞭とかは、まだ、怖いし……、羞恥プレイに巻き込まれたりとか、絶対慣れないと思う」
必死になって言うと、有聖がはははと声を出して笑った。
「そうか。あれはちょっと翔くんには理解できない世界?」
「理解できないっていうか、びっくりした。顔とかよく見てなかったから、最初は誰かわかんなかったし、それで急に、ど、土下座されて……、俺の方が恥ずかしいっていうか、居たたまれなさ過ぎたし」
「そうだね。びっくりしたよね」
「颯斗さんに呼ばれて、マジ天の助けって思ったもん。……それにあの人、よろよろしてたし、なんかかわいそうっていうか」
「酷いことされて、かわいそう?」
同情したのか、と聞かれて、翔はほんの少し考えた。
掃除させられるのが酷いというわけじゃない。何がかわいそうなのか……。
「ショーに出て、すっごい酷いことされて、すっごくよろよろなのに、労わってもらえてないみたいな気がしたから、かな」
「なるほど。翔くんは優しいね」
「いや、普通だと思うけど……」
拷問みたいに吊るされて、鞭打ちされたり、卑猥な玩具を突っ込まれた人が、掃除をかわらされていたら、「休んでて!」と言いたくなるものじゃないだろうか?
体中痛かったに決まっている。
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