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7.
「え! なんで?」
「うーん。反省会みたいな感じかな」
「え、なんの?」
今度こそ理解できなかった。未知の領域だ。
「ショーのだよ。保井さんと誠也くんがどういう取り決めをしているかは詳しくはわからないけど、責める理由なんていくつでもあるよ」
「まじか……」
今度こそ本当に気の毒に思った。
あれだけ酷使された体をさらにいたぶられるなんて、ただでさえ有聖が打ち据えたせいで彼のお尻は真っ赤なのだ。痛いに決まっている。
そんな風にされたら――。
「翔くんはあれなんだね。叩かれたら痛いだろうな、怖いな、かわいそうだなって思っちゃうのかな。叩いてみたいとか思ったりしないの?」
「……え?」
「そうだろう? 叩く側にはあまり感情移入してない。だから、怖いし、かわいそうだって思うんじゃないかな?」
そうなのだろうか?
確かに、叩いてみたいなんて思ったことはない。
でも、それが普通なんじゃないのか? だって、小学校や幼稚園で習うじゃないか、人の嫌がることはやっちゃダメだって。
「嫌なことをしてるわけじゃないよ。奴隷はああやって、虐められたいんだから。痛みに対する耐性はそれぞれだけど、頑張って耐える。それこそが彼らの愛情表現なんだ」
「愛情、表現?」
「そう。誠也くんは、パートナー、つまりご主人様の保井さんの命令でショーに出た。僕に責められるのは嫌だったかもしれないけど、ご主人様に言われたから頑張って耐えた。もちろん上手くいかなかったところもあるだろうから、それをご主人様から責められたら甘んじて受け入れるしかない。よく言うでしょ? たとえ火の中水の中って。ああいう心理と一緒だよ。愛してるから、何でもしたい」
わかるかな、と有聖はほんの少し翔の方を見た。
わからない。いや、わかりたくない。
すっかり頭を抱えてしまった翔に、「そのうちわかるようになるよ」と有聖は笑った。
「あ、着いたな。ここの十二階だよ」
駐車場はビルの向かい側にあるようで、有聖は駐車券を取りて、向かい側のビルに入る。ビルは十五階立てで、十二階からの四フロアを占めているのが穂仁原の行きつけの店らしい。専用エレベーターに乗り込んで十二階に上る。エレベーターを降りると、すぐに奥から着物姿の女性が出てきた。有聖が、「穂仁原で予約したんですが」と言うと、心得ていると言わんばかりに彼女は大きく頷いた。
「お待ちしておりました。お席は十五階にご用意させていただきましたので、エレベーターにてお上がりください」
そう言われて、また2人でエレベーターに乗り込んだ。
「……あの、有聖さん、この荷物なんですか?」
車を降りるときに、持って出るようにといわれた細長い箱。長さは八十センチほどで、重くはない。
「うん? 部屋に着いたら、ちゃんと教えてあげる」
ポーンという音がなってエレベーターの扉が開く。今度はスーツ姿の男性従業員が立っていて翔たちを部屋まで案内してくれた。通された部屋は広くゆったりとした和室だった。手前が玄関の三和土のようになっていて、靴を脱いで上がる。大きく取られた窓からの眺めが綺麗で、翔は「うわぁ!」と思わず感嘆の声をあげてしまった。
連れが来るまで待つ旨を告げて、有聖はウェイターを下がらせる。
「ほら、ちゃんと座りなさい」
「はーい。ああ、オーナーたちまだなのかな?」
翔のお腹の虫が切なげにぐるぐるとないた。
「もうすぐ来るだろう。もうこの箱、開けてもいいよ」
「本当?」
現金なもので、すぐに翔の意識はテーブルの真ん中に置かれた細長い箱に向く。
にこにこと楽しそうに翔を見つめる有聖。
何が入ってるんだろう、とドキドキしながらそっと箱を開けた。
「……ええぇ!! これって!」
中身を確認して、思わず叫んでしまった。
箱の中身、それはつやつやと黒光りする鞭――乗馬鞭だ。
「触ってごらん」
鞭と有聖の顔を何度も見返して、ごくりと息を飲んだ。手から変な汗が滲んでくる。
そっと手に取った鞭は、翔の想像よりもずっと軽かった。
「……もっと、重いかと思った」
「もっと重いのもあるよ。乗馬鞭だとだいたいはこれくらいの重さかな。もっと長いのもある。見て、先に三角の皮がついてるでしょ? フラップっていうんだけど、ここで叩くと大きな音が出やすいんだよ。動物にとっては視覚も聴覚も大事だから、わざと大きな音を立てるんだ」
「わざと?」
「そう。大きな音がすると、びっくりするし、痛そうだろう?」
確かに、と頷く。大きな音がすればするほど、翔は恐ろしかった。あんなに力いっぱい打たれたら、皮膚が裂けてしまうかもしれないと。
「実際には、音が大きくてもそこまで痛くはないんだよ。どう? ちょっと叩いてみたい、とか思わない?」
ふるふると首を横に振った。
鞭を握り締めても、ちっともそんな気分になったりしない。でも、少し、ほんの少しだけ、恐怖心が薄れたような気がした。
「うーん。反省会みたいな感じかな」
「え、なんの?」
今度こそ理解できなかった。未知の領域だ。
「ショーのだよ。保井さんと誠也くんがどういう取り決めをしているかは詳しくはわからないけど、責める理由なんていくつでもあるよ」
「まじか……」
今度こそ本当に気の毒に思った。
あれだけ酷使された体をさらにいたぶられるなんて、ただでさえ有聖が打ち据えたせいで彼のお尻は真っ赤なのだ。痛いに決まっている。
そんな風にされたら――。
「翔くんはあれなんだね。叩かれたら痛いだろうな、怖いな、かわいそうだなって思っちゃうのかな。叩いてみたいとか思ったりしないの?」
「……え?」
「そうだろう? 叩く側にはあまり感情移入してない。だから、怖いし、かわいそうだって思うんじゃないかな?」
そうなのだろうか?
確かに、叩いてみたいなんて思ったことはない。
でも、それが普通なんじゃないのか? だって、小学校や幼稚園で習うじゃないか、人の嫌がることはやっちゃダメだって。
「嫌なことをしてるわけじゃないよ。奴隷はああやって、虐められたいんだから。痛みに対する耐性はそれぞれだけど、頑張って耐える。それこそが彼らの愛情表現なんだ」
「愛情、表現?」
「そう。誠也くんは、パートナー、つまりご主人様の保井さんの命令でショーに出た。僕に責められるのは嫌だったかもしれないけど、ご主人様に言われたから頑張って耐えた。もちろん上手くいかなかったところもあるだろうから、それをご主人様から責められたら甘んじて受け入れるしかない。よく言うでしょ? たとえ火の中水の中って。ああいう心理と一緒だよ。愛してるから、何でもしたい」
わかるかな、と有聖はほんの少し翔の方を見た。
わからない。いや、わかりたくない。
すっかり頭を抱えてしまった翔に、「そのうちわかるようになるよ」と有聖は笑った。
「あ、着いたな。ここの十二階だよ」
駐車場はビルの向かい側にあるようで、有聖は駐車券を取りて、向かい側のビルに入る。ビルは十五階立てで、十二階からの四フロアを占めているのが穂仁原の行きつけの店らしい。専用エレベーターに乗り込んで十二階に上る。エレベーターを降りると、すぐに奥から着物姿の女性が出てきた。有聖が、「穂仁原で予約したんですが」と言うと、心得ていると言わんばかりに彼女は大きく頷いた。
「お待ちしておりました。お席は十五階にご用意させていただきましたので、エレベーターにてお上がりください」
そう言われて、また2人でエレベーターに乗り込んだ。
「……あの、有聖さん、この荷物なんですか?」
車を降りるときに、持って出るようにといわれた細長い箱。長さは八十センチほどで、重くはない。
「うん? 部屋に着いたら、ちゃんと教えてあげる」
ポーンという音がなってエレベーターの扉が開く。今度はスーツ姿の男性従業員が立っていて翔たちを部屋まで案内してくれた。通された部屋は広くゆったりとした和室だった。手前が玄関の三和土のようになっていて、靴を脱いで上がる。大きく取られた窓からの眺めが綺麗で、翔は「うわぁ!」と思わず感嘆の声をあげてしまった。
連れが来るまで待つ旨を告げて、有聖はウェイターを下がらせる。
「ほら、ちゃんと座りなさい」
「はーい。ああ、オーナーたちまだなのかな?」
翔のお腹の虫が切なげにぐるぐるとないた。
「もうすぐ来るだろう。もうこの箱、開けてもいいよ」
「本当?」
現金なもので、すぐに翔の意識はテーブルの真ん中に置かれた細長い箱に向く。
にこにこと楽しそうに翔を見つめる有聖。
何が入ってるんだろう、とドキドキしながらそっと箱を開けた。
「……ええぇ!! これって!」
中身を確認して、思わず叫んでしまった。
箱の中身、それはつやつやと黒光りする鞭――乗馬鞭だ。
「触ってごらん」
鞭と有聖の顔を何度も見返して、ごくりと息を飲んだ。手から変な汗が滲んでくる。
そっと手に取った鞭は、翔の想像よりもずっと軽かった。
「……もっと、重いかと思った」
「もっと重いのもあるよ。乗馬鞭だとだいたいはこれくらいの重さかな。もっと長いのもある。見て、先に三角の皮がついてるでしょ? フラップっていうんだけど、ここで叩くと大きな音が出やすいんだよ。動物にとっては視覚も聴覚も大事だから、わざと大きな音を立てるんだ」
「わざと?」
「そう。大きな音がすると、びっくりするし、痛そうだろう?」
確かに、と頷く。大きな音がすればするほど、翔は恐ろしかった。あんなに力いっぱい打たれたら、皮膚が裂けてしまうかもしれないと。
「実際には、音が大きくてもそこまで痛くはないんだよ。どう? ちょっと叩いてみたい、とか思わない?」
ふるふると首を横に振った。
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