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第三十六話 王都に進むわたしたち

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小春日和のポカポカした陽気。

風も冷たくはなく、気持ちがいい。

道の周囲には、農地や牧場が点在している。

その中を、わたしたちは王都に向かって進む。

わたしは馬に乗って歩くぐらいの速さで進み、その隣を殿下が歩いている。

昨日までは想像もしていなかったことだ。

夢のようだ。

殿下は爽やかに微笑んでおられる。

私の心を熱くさせる笑顔だ。

このまま殿下と旅を続けたい。できるものならば、殿下と二人きりで。

いろいろなところに行って、思い出をたくさん作り、仲を深めていきたい。

でも……。

殿下は、王宮に戻ってしまえば、会えるのは政務の間だけ。

二人だけで会うことはまずないだろう。

今、殿下の距離を縮めることができれば、そういう機会もできてきそうだけど。

とはいっても、わたしからアプローチするわけにもいかないし……。

そんなことを思いながら、二時間ほど経った頃。

「そろそろ休憩にしましょう」

殿下がみんなに呼びかける。

道端に、ちょうど木陰になっている場所があったので、そこへ行って休むことになった。

「殿下、大丈夫でしょうか?」

わたしは殿下に聞くと、

「全然大丈夫です。こういう天気の日に歩くのもいいものですね」

と言ってくれた。

表情も爽やか。

「疲れたら、いつで言ってください」

わたしがそう言うと、

「お気づかいありがとうございます。このまま王都まで行っても全然大丈夫です。フローラリンデさんの方こそ疲れてはいませんでしょうか?」

と殿下はやさしく言った。

「わたしもおかげさまで疲れていません。これも、殿下が馬に乗せていただいたおかげです」

「あなたの方こそ無理はなさらないで。休みたくなったら、いつでも言ってください」

「ありがとうございます」

わたしたちは、のどがかわいていたので、水を飲んだ。

その後、殿下と少し話をしていた。

「あなたも途中見てきたと思いますが、予想以上に荒れ地が多いです。そして、農民たちの家は小さいものが多く、決して豊かではなさそうに思います。

殿下は少し憂鬱な表情をしている。

「わたしもそう思います。荒れ地を開墾し、農民たちの待遇を改善していく必要があると思います」

「わたしもそうしていきたいと思っています」

殿下は、この王国を豊かにしたいと思っておられる。

わたしはそのお手伝いをしていく。

殿下とともに、こうした厳しい状況を一つ一つ改善していきたい。

「王宮に戻った後、わたしは正式に父上から権限の多くを移譲されます。改善しなければならないところは多いですが、あなたの協力があるならば、きっといい方向にいくと思っています」

殿下は、微笑みながらそう言った。

「殿下とこの王国の為、一生懸命努力していきます」

「ありがとうございます。一緒にこの王国の為、力を尽くしていきましょう」

殿下の言葉を聞いて、わたしは少し残念な気持ちになった。

殿下に頼りにされているのはうれしい。

うれしいことではあるけれど……。

それは恋からは遠いもの。

わたしが殿下の恋の対象となる時はくるのだろうか。

ちょっと弱気な気持ちになる。

でも今からそう思ってもしょうがない。

とにかく殿下の為に尽くしていこうとわたしは思った。
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