地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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魔法学校編

土と水の戦い

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アインの胃の痛みは最高潮に達していた。
昔から、悩み事があるとすぐ胃が痛んでいたが最近は無かった。

だがアインにとって今回のマーシャの件はかなり精神的にダメージだのだ。


闘技場 控室


今日の授業は本格的に魔法使い同士の決闘形式での実技訓練だった。
控室は周りにロッカーが並び、中央には二人掛けの椅子が縦一列に並んでいる。
その真ん中の椅子にアインとトッドは座っていた。

「痛たたた……」

「アイン、大丈夫か?」

うずくまるアインにトッドが声をかける。
流石に最近色々あったからなとトッドも心配していたが、ここまで苦しむとは思ってなかった。

「マーシャの事は言いすぎたが、これでよかったんだ。また一緒にバディ探そう」

「うん……そうだね……」

アインはトッドの優しさが逆にまた心を痛めた。
なんでこんなに自分は不甲斐ないんだろうなと、家柄も魔力量も、学校においては学科も実技も高得点だが、そんなものはなんの役にもたっていなかった。

「実技訓練大丈夫そうか?手加減できないぞ」

「大丈夫だよ。俺も本気でやる」

訓練相手はトッドだった。
そのため、なおさらトッドは本気で心配していたのだ。
トッドは実技の成績はクラスでも上位だ。
アインから見たらクラスで一番、土の魔法を理解し、使いこなしていると感じていた。

「そうか。もう少し休んでればいい。先に行ってるから」

「ああ、すまない」

そう言うとトッドは立ち上がり控室を出た。

アインは色々考えていた。
あれから一週間経つが、これでよかったのかと。
リューネから言われた「マーシャを守るには私より強くないといけない」という言葉がずっと心に残っていたのだ。
魔法使いは聖騎士には勝てない。
自分の魔力量でも見習いの聖騎士、ましてや学生にすら勝てないだろう。

アインの考えはまとまらなかったが、"よし"!と顔を両手で叩き気合を入れ、闘技場へ向かった。


闘技場 中央


決闘式の実技訓練はこれが初だった。
そのため決闘する二人は緊張感で呼吸が少し荒くなっていた。
客席で観戦する生徒達も同様で場内は緊張感で包まれていた。

アインとトッドが向き合う。
その手にはお互いステッキ状の魔法具が握られている。
二人の間、中央には教官が立ち、コイントスを準備していた。

「手加減無しだ。本気でいくぜ」

「ああ」

教官は勢いよくコインを弾く。
その間、二人は魔法具を構え、詠唱準備をする。
コインが地面に落ちた瞬間、二人は同時に詠唱を始めた。

「水の刃よ、我が敵を斬り裂け……」

「土の拳よ、我が敵を砕け……」

二人の距離は15メートルほどあった。
土の魔法は射程が短く、この距離なら水の魔法が有利とアインは考えていたが……すぐにその考えを改めてることになる。

アインの頭上に土で構成された直径2メートルあろうかという拳が現れる。
同時にトッドは自身の右拳を地面に叩きつけると、アインの頭上の土の拳も地面に勢いよく落ち砕ける。

アインは詠唱は完成していたが、魔法発動まで至らず、バックステップで土の拳をかわした。
が、トッドの詠唱スピードは速く、次の拳がアインの頭上に現れて落ちる。
アインはかわすのに精一杯だった。

「手加減できないって言ったろ?」

トッドがニヤリと笑う。
アインはこの詠唱スピードと射程距離はスキルによるものだと推測していた。
そんなことを考えてる最中もトッドの攻撃は続く。

アインはトッドの攻撃を回避し続ける。
その容赦のないトッドの攻撃はアインを壁際まで追いやった。

「水よ我が敵の自由を奪え……"水の足枷"」

アインは詠唱が極端に短い下級魔法を唱え発動させ、トッドの足元には大きな水溜まりができた。

「おいおい、なんだ馬鹿にしてるのか?俺は動かなくても攻撃できるんだぜ!」

「……"水の激流"!」

その言葉と同時に、トッドの足元の水溜まりから大きな水の竜巻が起こり、トッドを覆った。
その竜巻はどんどん狭くなり、トッドに近づく。

「なに!なんで中級魔法を無詠唱で発動できんだよ!」

トッドが驚くのも無理はなかった。
中級、上級魔法を無詠唱で発動させるスキルは無い。

「土よ、我を守る盾となれ!"土の障壁"!」

こちらも下級魔法のため詠唱は早い。
すぐさまトッドの周りに土が集まり、ドーム状の壁を作った。
この水の竜巻を耐えればまだ勝機はある。

「水の刃よ、我が敵を切り裂け!」

だがトッドはその詠唱が聞こえた瞬間、敗北を確信した。
"攻撃魔法は二つ発生させられない"がアインの詠唱が完了したと同時にトッドを覆っていた水の竜巻が消え、縦一閃の水の聖剣が振り下ろされた。
ズドン!という音と共に水飛沫が上がる。

土の壁が破壊されたトッドは大の字で倒れていた。
その体はびしょ濡れで、周りには大きい水溜まりができていた。

教官がトッドに走り寄り、安否を確認していた。

「ここまで!勝者アイン・スペルシア!」

教官がそう叫ぶと、客席にいたクラスの生徒たちが一斉に歓声を上げる。
アインは倒れるトッドを見つめ、息を整えていた。


闘技場 医務室


闘技場の医務室はそれなりに広い。
部屋の隅には医療薬品が入った棚が並び、ベッドも四つあった。
アインはトッドが寝ているベッドの隣で椅子に座っていた。

「完敗だったな……」

「こっちも危なかったけどね」

トッドはうっすらと目を開け天井を見つめながら悔しさ滲ませる。

「トッドのスキルは魔法射程延長、中級魔法詠唱短縮、中級魔法強化、魔法防御強化だろ?」

「さすが……優等生。全部当たり。アインのは上級魔法強化、上級魔法詠唱短縮、魔法停滞……後一つは……わからん」

「大したスキルじゃないさ」

「まさか中級魔法無詠唱?」

「上級、中級魔法の無詠唱スキルは無いよ。ただここだけの話しだけど、スキルには説明に無い隠し要素があるんだ」

天井を見上げていたトッドは驚いてアインを見る。
そんな話は聞いたことがない。

「他の奴には内緒だぞ、俺も研究して発見したんだ。俺はこの戦い方をすると決めたきっかけは"魔法停滞"のスキルだった」

魔法停滞はその名の通り魔法を使ってもその場にその魔法を一時的に残すというもので、あまり使われない下級スキルだ。
アインの場合は水溜まりを残すという用途で使っていた。

「魔法停滞のスキルを刻んだ理由は、攻撃魔法は二つ発生させられないという条件を解除したかったんだ。でも俺は勘違いしてた」

「勘違い?」

「魔法停滞のスキルを刻んでも、二つの魔法を発生させることができなかった。水の魔法じゃただ水溜まりができるだけのゴミスキル。俺はひどく後悔したよ」

それはそうだ、なにせ一度刻んだスキルは二度と外すことはできない。

「だけど、魔法を使っているうちに、この"魔法停滞"の隠し要素を見つけたんだ。それがさっきのさ。"魔法停滞で停滞させている魔力を帯びた場所から魔法を発生させる場合、下級、中級、上級の全ての魔法は詠唱が必要無い"」

トッドは絶句する。
下級スキルの魔法停滞にそんな要素があったことに驚きだった。
下級魔法の詠唱で水溜まりを作れば、全ての遠距離魔法が無詠唱で発動できる仕組みだ。
それは凄まじいチートスキルだった。

「俺の仮説だけど、多分、下級スキルにはもっと秘密があると思ってる。俺が刻んでる下級スキルは魔法停滞だけだから確認しようが無いけどね」

そもそも下級スキルはあまり使われない物が多く、刻もうとする魔法使いもいない。
スキルは自分が得意な魔法を補助するために組むので、誰に教わるわけでもなく、自分で組むものだ。
なので、あとで後悔したりする魔法使いは多いので、下級スキルなんて選ぶ人間はほとんどいない。

「なぁトッド……俺は決めたよ。マーシャとバディを組む」

「お前、まだそんなこと言ってんのか!」

「トッドの俺を心配してくれる気持ちはわかる。だけど、これだけ譲れない」

「アイン……」

「だけど、それには条件があるんだ」

「条件?なんだよ」

「マーシャより強いことが条件なんだよ。だから俺はマーシャと決闘する」

トッドは絶句する。
マーシャ、いやリューネは聖騎士団長に匹敵するくらいの強さだ。
そんなのと戦って無事でいられると思えない。

「マーシャを守るにはマーシャより強くないといけない。せめてもの救いは魔法使いが聖騎士に勝った前例があることだ」

「確かにそうだが……」

「底辺魔力の下級貴族でも勝てるんだ、俺にだってできないことはない。……俺はマーシャと戦う」

トッドはアインから視線を逸らし天井を見る。
もう自分には止められないのだと悟ったのだ。
トッドは苦笑いしながら口を開く。

「お前、この世界の人間じゃないみたいだな」

「そうかもね」

アインも苦笑いして答える。

アインはマーシャと戦う肚を固めた。
もし"アルフィス・ハートル"という男がいなければ、踏み切っていなかったであろう決闘だった。

そしてアインの胃痛はいつのまにか消えていた。
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