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魔法学校編
べルートにて(1)
しおりを挟むセレンの野営地を出発して一日半ほどでべルートに到着した。
アルフィスは全く変わらない故郷の平凡さに安心感があった。
一方、アゲハは初めて見る海にはしゃいでいたが、その姿は子供のようだった。
町の一番奥の港付近にハートル家の屋敷があった。
大きい門から数十メートルほど歩くと屋敷があり、作りは年季の入った豪邸といったところだ。
荷馬車が門を抜け、屋敷の玄関に停まりアルフィスを含め、アゲハとノッポ、デブは荷物を下ろす。
屋敷に入ると執事であるレナードが迎えた。
白髪に短い白髭で、もうよぼよぼのお爺さんというなりだった。
「ぼっちゃまお元気そうで」
「おう!父さんは?」
まずは自分の身を案じるアルフィス。
正直、顔も見たくないやつだったので、まずは危険人物の所在を確かめねばと警戒心を強めていた。
「旦那様はリン様とラザンに赴かれました」
リンはアルフィスの妹で薬学士だ。
アルフィスはよっしゃとガッツポーズをして、父の不在を喜んだ。
父とは完全に入れ違いになっていたようだ。
もしかしたらセレンの野営地に寄り道しなければ会っていたかもしれない。
「今日からお世話になります、アゲハ・クローバルと申します。ご迷惑をおかけします」
「いえいえ、アルフィス坊ちゃんがこんなに綺麗な方と帰られたとなれば奥様も喜びます……」
レナードは感極まって泣きそうな勢いだった。
アルフィスは呆れて物も言えず、荷物を置き終わった二人の舎弟はそれを見てニコニコしていた。
そこに一人の女性が奥の部屋から出てきた。
「アル、帰ったのね。あらあら賑やかなこと」
満面の笑みでアルフィス達を見る女性。
アルフィスの母のアメリア・ハートルだ。
髪が長くカジュアルなワンピースドレスで、とても優しそうな女性だった。
右手には手の甲から肩にかけて包帯が巻いてある。
「少しの間ですが、お世話になります。アゲハ・クローバルと申します」
「あら!こんな綺麗なお嬢さんを連れてくるなんて!アルフィスもやるわね」
アルフィスは苦笑いしながら頭をかく。
流石のアルフィスもアメリアには何も言い返せなかった。
アゲハもその言葉に少し頬を赤らめた。
アゲハはリリーの部屋を使ってもらい、舎弟の二人は宿に泊まってもらうようにした。
滞在期間は二日ほどと決めていた。
______________________
夕日がゆらゆらと落ちる港の防波堤に座り釣りをするアルフィスは、ぼーとしながら海を眺めている。
アゲハは女子トークに夢中で居場所がないと感じたアルフィスはここにいた。
舎弟の二人はアルフィスに気を遣ってか、すぐに宿へ向かった。
そこにちょこちょこと歩く黒猫がアルフィスの横に座る。
「どうやら順調なようだね」
「三回くらい死にかけたぞ。まぁ生きてここにいるんだから、順調なんだろうな」
アルフィスは皮肉たっぷりに黒猫アルに言う。
流石にこんなにハードな世界だとは思っていなかったからだ。
「強いやつと戦えてなによりだ。でも水の国に行く前に死なれたら困るな」
「大丈夫さ。アゲハも頼りになるし。必ずお前の母さんを助ける」
「すまないな……」
アルフィスは黒猫アルの母親には恩があった。
この世界で何もわからずにいた自分に対して唯一優しくしてくれた存在だったからだ。
強いやつと戦うことを目的としてきたが、今は少し違ってきていた。
「あの女性もよく君のバディになってくれたね。一番苦戦するところだと思ってたけど」
「運が良かったのさ。強さも申し分ないし。それにハングリーなところもいい。いい相方だ」
「確かに意志の強さは感じた。昔の母上そっくりだ」
アルフィスは落ちる夕日を見ながら、自分の母親のことを少し思い出す。
もし"時を戻せる"魔法があるとするなら……
ふとそう考えていた。
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