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魔法学校編
開幕へ向かう者たち(2)
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長期休みの前のことだった。
マーシャは自分に違和感を感じていた。
その違和感がなんなのかはわからなかったが、アインとの訓練の際、マーシャが剣を握ってそれがなんなのか分かった。
"リューネが出てこない"
アインとマーシャは二人で困惑していたが、おそらくアインにマーシャを任せたということなのだろうと二人で納得した。
そこで問題になったのはマーシャの剣の腕だった。
マーシャは殆ど剣の稽古は受けておらず、剣術自体は初心者同然。
この状態をいかに乗り切るかを二人で相談した結果、マーシャ自身が長期休みにダイアス家へ戻り母親から剣を教わるというものだった。
アインは最初は反対したもののマーシャの意志は固かった。
必ず優勝してアインの妹のサーシャを救うため、土の国にいるであろう医者を見つけ出す。
マーシャはそう決意していた。
土の国 中央都市ザッサム
土の国で最も大きい都市で中央には土の王が住む塔が天まで聳え立っていた。
町の発展にも力を入れているが、それは最近では竜血の影響で地方からこの中央に移り住む人間も少なくなかったからだ。
街並みは中世アラブを彷彿とさせる建物が多い。
マーシャの家は王の塔付近にあり、敷地面積も大きい。
広い屋敷の裏には野外演習場があり、そこに門下生が集まり剣術の稽古に汗を流した。
「ここに帰ってくることは無いと思ってたけど……」
マーシャはダイアス家の屋敷玄関前にいた。
荷物はカバン一つに剣一本のみ。
執事がマーシャにビクビクしながらも頭を下げて、荷物を持ち部屋まで運んでくれた。
マーシャは母親の書斎へ向かった。
「失礼致します。マーシャです」
「入れ」
ドアを開けるとマーシャの母親が一人だけいた。
髪がベリーショートの金髪、褐色肌で細身の体をしている。
中央の机で作業しているマーシャの母親イザベラは一瞬だけマーシャを見るとまた書類に目を通し始める。
「もう、帰ってくることはないと思っていたが、まさかこんなに早く帰ってくるとは」
「……」
マーシャは下を俯いたままイザベラの話を聞いていた。
「剣を持ってないとは珍しいな。私と話しをするときはいつもアレだったからな」
「はい……今日は私からお願いがあって参りました」
アレとはリューネのことだ。
イザベラは顔を上げマーシャを見る。
その眼光はマーシャの心を押し潰そうとするぐらい威圧的だった。
「お願い?今さら何を願うんだ?」
「私に剣を教えて欲しい」
「どういうことだ?何が目的なんだ?」
冷静なイザベラも困惑していた。
今までマーシャから剣を教わりたいなんて一度も言われたことがない。
「私は強くなりたいのです」
「この短期間でか?」
「はい」
イザベラは大きくため息をつく。
怪訝な表情のイザベラは少し間を置いて口を開く。
「若い時から地道に鍛錬を重ねてきた人間が、もっと強くなりたいから鍛えて欲しいというのはわかるが、何もせずに人任せで生きてきた奴が今さら剣を教えて欲しいとは虫が良すぎないか?」
「はい……」
「お前が言っていることは、ずっと頑張ってきた人間を侮辱するような行為だ」
イザベラの言葉はもっともな話しだった。
今までリューネに頼って稽古せず、さらに逃げるように聖騎士学校へ行ったのだから。
「聖騎士学校へ行かせたのは、私からのせめてもの優しさだ。このまま自分の道を歩んで欲しいとな」
「……」
「それが、いきなり戻ってきて剣を教えろとは……」
さらに追い討ちをかけるようにイザベラが発言しようとした時、マーシャが口を開いた。
「今まで私はお母様やお姉様が怖くて何も言えませんでした。剣術は人を傷つける野蛮なものだと思っていたことを。でも、私はどうしても対抗戦で優勝したい」
「対抗戦だと?」
「大切な人を守り切れる剣技。それを覚えるために私は帰ってきた。お願いします、私にもう一度剣術を教えて下さい!」
頭を下げるマーシャを見てイザベラは昔を思い出していた。
自身が対抗戦でバディを組んだ者のことを。
その魔法使いはかなりひ弱でいつもイザベラや周りの人間にへこへこしていた。
でもすごく優しくてイザベラを全力でサポートしてくれていた。
一年の対抗戦では散々な結果で二人して中庭で悲しくて泣いた。
だが二年目の対抗戦は圧倒的な強さで優勝し、また二人して中庭で嬉しくて泣いた。
そんな昔を思い出し、イザベラは目頭が熱くなっていた。
マーシャは今、あの経験をしようとしているとイザベラは悟った。
「一ヶ月か……厳しい稽古になるが」
「……え?」
「私は、お前の人形を暖炉に放り込んで燃やしたことは後悔していない。それでローラが立てなくなったのは、あいつが弱かったのが悪い」
ローラとはマーシャの姉のことだ。
リューネが剣術で大怪我をさせ、今は部屋で一人でいる。
「だが、今のお前はあの時のローラより弱い。対抗戦をまともに戦うには期間が足りなすぎる」
「……」
「だが"千刃"の私がこの一ヶ月直々に稽古をつける。必ずお前を強くする」
"千刃"とはイザベラの昔の二つ名だった。
もう聖騎士は引退しているためシックス・ホルダーの候補から外れているが、その実力と名は世界に轟いてる。
マーシャはその言葉に涙し、また頭を下げた。
ここからマーシャの特訓は始まった。
_________
マーシャの稽古は一ヶ月ほぼ休みなく続いた。
イザベラはその成長スピードに驚いた。
初めはリューネの剣技が染み付いていたせいで、なかなかダイアス家の剣術が身に付かなかったが、半月でほぼ全ての剣技をマスターした。
そしてイザベラとの模擬戦では互角の勝負をし、さらにイザベラを驚かせた。
全ての稽古が終了し、マーシャがセントラルへ旅立つ日がきた。
屋敷の敷地を貴族用の馬車が出て行く。
イザベラと執事がそれをずっと見ていた。
「少し出てくる」
「お出かけですか?」
「すぐ戻る」
イザベラは市場で一本だけ花を買い、ある場所へ向かった。
そこは屋敷から少し離れた場所にある墓地だった。
多くの墓碑が並ぶ中、イザベラはその一つの墓碑の前に立つ。
ここに着くまでに夕刻となっており、夕日が眩しかった。
「あまり来れずに申し訳無かったな。マーシャが対抗戦に出るそうだ。誰に影響されたんだか。それで昔を思い出してしまったよ」
物言わぬ墓碑にイザベラは続けた。
「メイソン、私とあなたの子は思いの外強い。ローラの目も死んではいない。必死に立ちあがろうと努力している」
イザベラは目を閉じて昔を思い出すようにして語る。
イザベラのバディ、そして夫であったメイソンはイザベラが妊娠しセントラルから土の国に戻った直後に戦死していた。
「マーシャはあんたに似て弱々しいと思ったが、姉妹揃ってどちらも私に似ていたようだ」
イザベラは一本の花を墓碑に添える。
優しく墓碑を撫でるイザベラの目には涙があった。
「だが私は、お前がどんなに弱かったとしても、何度生まれ変わっても、お前とバディを組むよ。今度は一緒に子の成長を見守ろう」
イザベラは笑みを浮かべ、その言葉を最後に立ち上がり墓地を後にした。
マーシャは自分に違和感を感じていた。
その違和感がなんなのかはわからなかったが、アインとの訓練の際、マーシャが剣を握ってそれがなんなのか分かった。
"リューネが出てこない"
アインとマーシャは二人で困惑していたが、おそらくアインにマーシャを任せたということなのだろうと二人で納得した。
そこで問題になったのはマーシャの剣の腕だった。
マーシャは殆ど剣の稽古は受けておらず、剣術自体は初心者同然。
この状態をいかに乗り切るかを二人で相談した結果、マーシャ自身が長期休みにダイアス家へ戻り母親から剣を教わるというものだった。
アインは最初は反対したもののマーシャの意志は固かった。
必ず優勝してアインの妹のサーシャを救うため、土の国にいるであろう医者を見つけ出す。
マーシャはそう決意していた。
土の国 中央都市ザッサム
土の国で最も大きい都市で中央には土の王が住む塔が天まで聳え立っていた。
町の発展にも力を入れているが、それは最近では竜血の影響で地方からこの中央に移り住む人間も少なくなかったからだ。
街並みは中世アラブを彷彿とさせる建物が多い。
マーシャの家は王の塔付近にあり、敷地面積も大きい。
広い屋敷の裏には野外演習場があり、そこに門下生が集まり剣術の稽古に汗を流した。
「ここに帰ってくることは無いと思ってたけど……」
マーシャはダイアス家の屋敷玄関前にいた。
荷物はカバン一つに剣一本のみ。
執事がマーシャにビクビクしながらも頭を下げて、荷物を持ち部屋まで運んでくれた。
マーシャは母親の書斎へ向かった。
「失礼致します。マーシャです」
「入れ」
ドアを開けるとマーシャの母親が一人だけいた。
髪がベリーショートの金髪、褐色肌で細身の体をしている。
中央の机で作業しているマーシャの母親イザベラは一瞬だけマーシャを見るとまた書類に目を通し始める。
「もう、帰ってくることはないと思っていたが、まさかこんなに早く帰ってくるとは」
「……」
マーシャは下を俯いたままイザベラの話を聞いていた。
「剣を持ってないとは珍しいな。私と話しをするときはいつもアレだったからな」
「はい……今日は私からお願いがあって参りました」
アレとはリューネのことだ。
イザベラは顔を上げマーシャを見る。
その眼光はマーシャの心を押し潰そうとするぐらい威圧的だった。
「お願い?今さら何を願うんだ?」
「私に剣を教えて欲しい」
「どういうことだ?何が目的なんだ?」
冷静なイザベラも困惑していた。
今までマーシャから剣を教わりたいなんて一度も言われたことがない。
「私は強くなりたいのです」
「この短期間でか?」
「はい」
イザベラは大きくため息をつく。
怪訝な表情のイザベラは少し間を置いて口を開く。
「若い時から地道に鍛錬を重ねてきた人間が、もっと強くなりたいから鍛えて欲しいというのはわかるが、何もせずに人任せで生きてきた奴が今さら剣を教えて欲しいとは虫が良すぎないか?」
「はい……」
「お前が言っていることは、ずっと頑張ってきた人間を侮辱するような行為だ」
イザベラの言葉はもっともな話しだった。
今までリューネに頼って稽古せず、さらに逃げるように聖騎士学校へ行ったのだから。
「聖騎士学校へ行かせたのは、私からのせめてもの優しさだ。このまま自分の道を歩んで欲しいとな」
「……」
「それが、いきなり戻ってきて剣を教えろとは……」
さらに追い討ちをかけるようにイザベラが発言しようとした時、マーシャが口を開いた。
「今まで私はお母様やお姉様が怖くて何も言えませんでした。剣術は人を傷つける野蛮なものだと思っていたことを。でも、私はどうしても対抗戦で優勝したい」
「対抗戦だと?」
「大切な人を守り切れる剣技。それを覚えるために私は帰ってきた。お願いします、私にもう一度剣術を教えて下さい!」
頭を下げるマーシャを見てイザベラは昔を思い出していた。
自身が対抗戦でバディを組んだ者のことを。
その魔法使いはかなりひ弱でいつもイザベラや周りの人間にへこへこしていた。
でもすごく優しくてイザベラを全力でサポートしてくれていた。
一年の対抗戦では散々な結果で二人して中庭で悲しくて泣いた。
だが二年目の対抗戦は圧倒的な強さで優勝し、また二人して中庭で嬉しくて泣いた。
そんな昔を思い出し、イザベラは目頭が熱くなっていた。
マーシャは今、あの経験をしようとしているとイザベラは悟った。
「一ヶ月か……厳しい稽古になるが」
「……え?」
「私は、お前の人形を暖炉に放り込んで燃やしたことは後悔していない。それでローラが立てなくなったのは、あいつが弱かったのが悪い」
ローラとはマーシャの姉のことだ。
リューネが剣術で大怪我をさせ、今は部屋で一人でいる。
「だが、今のお前はあの時のローラより弱い。対抗戦をまともに戦うには期間が足りなすぎる」
「……」
「だが"千刃"の私がこの一ヶ月直々に稽古をつける。必ずお前を強くする」
"千刃"とはイザベラの昔の二つ名だった。
もう聖騎士は引退しているためシックス・ホルダーの候補から外れているが、その実力と名は世界に轟いてる。
マーシャはその言葉に涙し、また頭を下げた。
ここからマーシャの特訓は始まった。
_________
マーシャの稽古は一ヶ月ほぼ休みなく続いた。
イザベラはその成長スピードに驚いた。
初めはリューネの剣技が染み付いていたせいで、なかなかダイアス家の剣術が身に付かなかったが、半月でほぼ全ての剣技をマスターした。
そしてイザベラとの模擬戦では互角の勝負をし、さらにイザベラを驚かせた。
全ての稽古が終了し、マーシャがセントラルへ旅立つ日がきた。
屋敷の敷地を貴族用の馬車が出て行く。
イザベラと執事がそれをずっと見ていた。
「少し出てくる」
「お出かけですか?」
「すぐ戻る」
イザベラは市場で一本だけ花を買い、ある場所へ向かった。
そこは屋敷から少し離れた場所にある墓地だった。
多くの墓碑が並ぶ中、イザベラはその一つの墓碑の前に立つ。
ここに着くまでに夕刻となっており、夕日が眩しかった。
「あまり来れずに申し訳無かったな。マーシャが対抗戦に出るそうだ。誰に影響されたんだか。それで昔を思い出してしまったよ」
物言わぬ墓碑にイザベラは続けた。
「メイソン、私とあなたの子は思いの外強い。ローラの目も死んではいない。必死に立ちあがろうと努力している」
イザベラは目を閉じて昔を思い出すようにして語る。
イザベラのバディ、そして夫であったメイソンはイザベラが妊娠しセントラルから土の国に戻った直後に戦死していた。
「マーシャはあんたに似て弱々しいと思ったが、姉妹揃ってどちらも私に似ていたようだ」
イザベラは一本の花を墓碑に添える。
優しく墓碑を撫でるイザベラの目には涙があった。
「だが私は、お前がどんなに弱かったとしても、何度生まれ変わっても、お前とバディを組むよ。今度は一緒に子の成長を見守ろう」
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