地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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水の国編

拳と弓と

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カミラの泉にある洞窟。
薄暗い洞窟の中には横になって爆睡していたアルフィスがぱちっと目を開けた。
洞窟から外が少し見えているが真っ暗闇で、まだ夜なのだろうとアルフィスは思った。

少し離れた壁に寄りかかるようにしてメルティーナが寝ていた。
恐らく一週間、気を張っていたのだろう。
緊張の糸が切れたようでぐっすり眠っていた。

アルフィスはまた横になり、魔法学校の時はできなかった二度寝をした。


朝になることを知らせるように洞窟内にも少し明かりが差していた。
アルフィスはさっと起き上がり外を見る。

「凄まじい数だな……」

おびただしいまでの魔物の気配だった。
さすがのアルフィスも息を呑む。
テンペストやデッドリー・インパクトでの討伐を考えたが、どちらも得策ではない。
テンペストは発動時間が極端に限られるため、完全にタイマン用だ。
デッドリー・インパクトはこの森ごと燃やし尽くしそうだし、使った後の反動がデカくリスクが大きいので却下。

アルフィスはため息をつき洞窟の奥へ戻った。
奥へ戻るとメルティーナが目を覚ましていた。

顔を見るとやつれており目も虚ろだった。
もうここにいるのは限界なのだろうとアルフィスは悟った。

「大丈夫か?」

「え、ええ。でもそろそろ限界みたいね……」

「あまり喋らない方がいいかもな、体力が削られる」

そう言ってアルフィスは地面に座る。
外から差し込む光を二人で見つめる。

「食料も持ってきたんだが、あのボケナスが逃げちまったせいで無くなっちまった。すまないな」

アルフィスの言葉にゆっくり首を振るメルティーナ。

「構わないわ。どうせ今日にでも強行突破するつもりだったし。矢も少し残ってるからね」

「それなら俺も手伝うぜ。流石にこんなところで時間使ってられないからな」

メルティーナがニコリと笑う。
その後すぐに悲しい表情をした。

「でも、私とあなたじゃ相性が悪いわ。私も剣を使えればよかったのだけど……」

「いや、そうでもないかもしれん。俺はこれでも前衛の魔法使いなんだよ」

アルフィスの言葉にメルティーナが驚いた。
メルティーナ自身、目の前の魔法使いが前衛でどんな戦い方をするのか全く想像つかなかった。

「弓使いとは組んだことは無いが、試してみる価値はあるかもしれないな」

「あなた、ほんとに変な奴ね」

アルフィスはニヤリと笑う。
そんなのは魔法学校時代に嫌というほど言われた。

「んじゃ行くか?草も取ったし、あとはこの森から出るだけだからな」

「ええそうね。エスコートしてくださる?」

「いいぜ。俺でよければ」

二人は笑い合って洞窟を出た。
日はまだ上がったばかりで魔獣達の動きは活発だ。
アルフィスが前衛でメルティーナが後衛のポジションで森の中に入った。
アルフィスはまだ魔法は発動せず、メルティーナは弓を下に構えている。
二人は辺りの警戒をしつつ、ゆっくり森を進んだ。

「このまま素直に出してくれるとは思えんな」

「そうね。無数に気配を感じるわ」

そんなやり取りをしていると、辺りがカサカサと動き始める。

「走るぞ!」

アルフィスが叫び、真っ直ぐにダッシュする。
メルティーナもそれに続いた。
横を見ると並走している魔獣達の姿があった。
数は十匹を超えており、形は全て犬型だった。

「複合魔法!」

赤い魔法陣がアルフィスの足元に現れすぐに消える。
それを見たメルティーナは未だに目の前を走る魔法使いがどんな戦い方をするのか全くわからなかった。
しかし、その時はすぐに訪れた。

並走していた一匹の魔獣が方向転換してアルフィスの喉元へ噛みつきにきたのだ。

アルフィスは立ち止まり上体を後ろに倒し、スウェーで華麗に回避した。
上体を倒したまま右のショートアッパーを魔獣の顎に叩き込む。
上体を起こしたと同時に左の振り下ろしフックで魔獣の頭を叩き割り、またダッシュした。

「な、なに?今の?」

メルティーナは見ているものが信じられなかった。
こんな戦い方は見たことがない。
魔法使いが前衛というだけでも驚きなのに、剣も弓も使わずに拳だけで魔獣を倒すアルフィスは異様そのものだった。

そうこうしているうちにまた魔獣がアルフィスに飛びかかる。
アルフィスはダッキングして魔獣の噛みつきを回避し、そのまま左のボディブローを放つ。

ズドンという轟音と共に魔獣の体は浮き上がり、アルフィスが追撃しようとした瞬間、ビュン!といういう音と共に弓矢が魔獣の体を貫き、その勢いのまま木に打ち付けられはりつけにされる。

アルフィスが後ろを見るとメルティーナが次の弓矢を背中の弓筒から取り出している。

アルフィスとメルティーナは直感的に頭で互いの連携を組み立ていた。

魔獣達がアルフィスに襲いかかるが、それをことごとく殴り、さらにアッパーを多用して宙へ上げる。
そこにメルティーナが弓矢を当てて完全に息の根を止めていく。

アルフィスは次の弓矢の準備を計算して魔獣を宙へ上げ、メルティーナはそれに合わせて弓を放つという完全に前後衛の連携がこの短時間の間に完成していた。

「アルフィス!弓矢がもう無いわ!」

「メル!もうちょいだ!走るぞ!」

もうあと少しで森の出口というところで二人は立ち止まった。
アルフィス達を森から出すまいと三十を超える魔獣達が木の影をウロウロしていた。

「ここまで来て……」

「くっそ、ここまでか……」

アルフィスはデッドリー・インパクトが頭をよぎったが、メルティーナを巻き添えにしてしまう。

その時だった。
森に少しづつ雪が降り始めてきた。
辺りには白い冷気が漂いアルフィスとメルティーナが吐く息が白い。

「な、なんだ、この寒さは……ここにも雪降るのか?」

「ここには雪は降らないわ……これは、まさか……」

二人が起こっている状況に息を呑んでいると、魔獣達の足元から無数の氷の剣が突き上がり、辺りにいた魔獣全て串刺しになる。

「"氷結の結晶剣・絶"……間に合ったようだな」

森の入り口付近にいたのは金髪のアップバングで黒いワンレンズのサングラスを掛けた、青い軍服着用の背の高い男だった。

右手にナックルガードガード付きの短めの曲剣を持ち、左手にはこちらもナックルガードがついた鞘のような物を持っている。

その二つは赤黒い異様なオーラを放っていた。
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