地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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水の国編

陰謀

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アルフィスはリヴォルグの取引を保留にした。
メルティーナとの結婚なんて今後の人生に関わることだ。
後先考えないアルフィスでも流石においそれと決断はできない。

中央までの移動の際、アルフィスの目の前には俯いているロールがおり、隣にこれまた俯いてるメルティーナがいて、これはなんの拷問なのだろうかと思った。
こんなのが四日も続き、ようやく中央都市ベネーロに到着した。

ベネーロは自然豊かな大都市で都市の中央には水の王がいるとされる巨大な塔が聳え立つ。
街並みは緑と水を意識した作りで、建造物は中世ヨーロッパを彷彿とさせる。


アルフィスはローズガーデン家に招かれていた。
ロールは病院に用があると言って途中で別れ、メルティーナも自室へ戻った。
ローズガーデン家はやはり名だたる家柄ということもあり敷地面積が巨大で屋敷もそれに見合った大きさだった。

「俺の家十個分か二十個分か……」

アルフィスの空いた口はリヴォルグの書斎に来るまで塞がることはなかった。

この書斎も広く、周りにはびっしりと本棚が置いてあり、窓際にはリヴォルグが座るであろう机が置かれ、これもまた大きい。

部屋には四人いた。
リヴォルグが机に着き、隣にセシリアが立つ。
さらにもう一人、初老で白髪、ローブ姿の魔法使いでニコニコして優しそうな顔立ちだ。
部屋に入った時に紹介されたがグレイ・ダリアムという名前だそうだ。
そしてアルフィスがその机の前に立っている状態だった。

「この前の話しだが、旅の途中で考えてくれたかな?」

「そもそもなんでそんな話になるんだ?俺は下級貴族だぞ」

リヴォルグが言う話しというのはメルティーナとの結婚の話しだ。
アルフィスはもうこの世界についてはある程度把握していた。
こんな家の娘がド田舎の下級貴族に嫁ぐなんてありえない。
ローズガーデン家にとってはメリットが全くないものだ。

「色々事情があってね。メルティーナは剣が使えない。だから聖騎士学校にも入れなかったんだ」

「いや、弓は使えるだろ?」

アルフィスがそう言うとセシリアが軽く鼻で笑ったが、リヴォルグは続ける。

「聖騎士は剣が使えることが絶対条件だ。メルティーナにはその才能が全くなかった」

「そうなの?別に後衛の聖騎士だっていいと思うが……」

「君は"前衛の魔法使い"だが、まともな魔法使いでそんな人間は君ぐらいだ。逆に言えば"後衛の聖騎士"というのは存在しない。それは前衛が聖騎士で後衛が魔法使いというのが、この世界の常識だからだ」

アルフィスは考えていた。
確かに前に出ることが当たり前過ぎて前後衛なんて考えたこともなかった。
アゲハと組んだ時は二人とも前衛だったので、相手の攻撃を受ける役と、その隙に攻撃する役を切り替えるというカウンター特化の戦い方だった。

「私は常識がどうとかはどうでもいいんだ。それ以上にメルティーナが幸せになってほしいと願っている」

「……」

「そして、君とメルティーナのやり取りを見ていたが、あんなに楽しそうなメルティーナはここ最近では初めてだ」

そんなに楽しそうだったか?とアルフィスは驚く。
メルティーナとはただ普通に会話していただけだ。
アルフィスはそもそもリヴォルグの前でメルティーナとの会話はあまり無かった気がした。

「確かにバディとしては最高の組み合わせかもしれないが、なんで結婚の話になるんだよ」

バディを組んでくれという話ならまだわかるが、結婚となればまた重い。
リヴォルグは少し考えたのち口を開いた。

「セシリア、グレイ外してくれ」

「了解」

「は、はい……」

グレイはニコニコしながらアルフィスの横を通り過ぎるが、セシリアはアルフィスを横に睨み部屋から出て行った。

「これはここだけの話しだ。メルティーナにも内密にしてほしい」

「なんの話だ?」

「この中央にローズガーデン家とスペルシア家を潰そうとしている人間がいる」

話がとても壮大になってきた。
これはよく映画で見る陰謀的なやつだとアルフィスは直感した。

「何の目的なのかはわからない。だが私やメルティーナの命を狙っていることは確かだ」

「そんなの俺みたいな部外者に話していいのか?」

「部外者だからこそさ。これを企んでいるのは内部の人間だ」

アルフィスは曲がったことが大嫌いなセレン・セレスティーが二つ名を与えるほどの人物。
リヴォルグはこれほど信頼できる人間はいないと考えていた。

「内部って身内にか?なんでわかるんだ?」

「明らかに内部の人間でなければ、あり得ないことが立て続けに起こっているんだよ」

アルフィスは首を傾げる。
映画でも謀反むほんを企てるお話は結構あるが、このローズガーデン家を潰す理由がよくわからなかった。

「北に出現した魔人の話をしたと思うが、本当は50人で挑むはずだった。それがなぜか追っている途中で分断されてしまった。なんとか30人集めたがね」

「……」

「そしてこのカミラの泉の一件だ。メルティーナは一番下の安全な部隊に入れてる。そこに指示を出してカミラの泉に行かせた者がいる」

「指示を出した人間は誰なんだ?」

「何者かが人を介して指示を出していた。指示を出したのは私ということになってる」

これはたまたまでは無いとアルフィスは思った。
明らかにリヴォルグとメルティーナの命を狙ってるものがいる。

「そこでメルティーナを君に預けたい。バディとしても最高の組み合わせだし、このまま犯人が見つからなかったらメルティーナだけは火の国へ逃すことができる」

「だが結婚までする必要あるのか?」

「自然な形がいいんだ。メルティーナはこの陰謀のことを知らないからね」

「なるほどな。……だがその犯人はわからないのか?」

アルフィスは"内部の者"までわかっているのであればリヴォルグほどの人間なら、もう犯人は大体わかってるんじゃないかと思った。

「見当はついているが、確実な証拠が無いんだ。それは君も会ったことのある人間だよ」

「はぁ?誰だよ!」

「今ここにいた二人。セシリアかグレイだ」

アルフィスは絶句した。
自分や娘を殺そうとしている人間を側近としておいているとはどういう神経をしているのかと。

「手がかりを探ろうにも身内は信用できない。もし君に頼めればと思っていたが、君には時間は無いのだろ?」

「時間は対抗戦を優勝したおかげで二年短縮したからまだ大丈夫だ。……だが条件がある」

リヴォルグはその言葉に少し口元が緩む。
その条件がなんせよ、このままアルフィスが協力してくれれば娘の命が助かるかもしれない。
そんな希望が見えたからだった。

「なんだね?」

「ダイナ・ロアへ連れてってもらうこと。そして犯人が見つかったらメルティーナとの結婚は無しだ。それと……」

「それと……?」

「あんたと戦いたい。もちろん宝具は使ってもらう」

リヴォルグは驚くが、同時に最近届いたマルティーナの手紙を思い出していた。

"アルフィス・ハートルという魔法学校の生徒がお父様と戦いたがっている"

リヴォルグはアルフィスの声のトーンだけで、その言葉は真剣だとわかった。
そしてアルフィスは宝具が欲しいということでは決して無く、この戦いには何の意味もない、これはただの男同士の喧嘩だということもリヴォルグは感じた。
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