地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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水の国編

ダブル・ダウン

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アルフィスとロールは二人で馬に乗り、ロールの故郷であるラタムを目指した。
ラタムまでどう急いでも半日は掛かる。
ロールは一刻も早くとの気持ちだった。

北へ向かえば向かうほど寒さが増した。
アルフィスはメルティーナから防寒具をもらっていたが、それでも寒かった。

馬で2、3時間走ると曇り空となり雪が降ってきた。
見渡す風景は完全に北国だった。
辺り一面の雪原を休憩せずに疾走すること半日。
二人は西の海沿いの町であるラタムに到着した。

ラタムはアルフィスの故郷ベルートとさほど変わらない小さな町だった。
門も無く、それは村と言っても差し支えないほどの大きさの町。
その小さな町は遠目で見ても破壊されているのがわかり、人の気配を感じなかった。

「ま、間に合わなかったのか……」

「入り口に誰かいるぞ!」

アルフィスとロールはすぐに馬を降り、入り口にいる人間に近寄った。
……が、入り口まで10メートルほどで先を走っていたアルフィスがロールを止めた。

「どうしたんだ?」

「様子が変だ……」

その人間らしき者は入り口付近で体を揺らし、町には入ろうとしない。
よく見ると上半身が裸で、見えている肌が真っ黒だった。
アルフィス達が少しづつ近づくと、その黒い人間は振り向いた。

「な、なんだこいつ……」

「ま、魔人なのか?」

その顔は人間ではあったが、黒い何かに侵食され片目と顎しか残ってなかった。
恐らくこのままいけば完全な魔人になってしまうのだろうとアルフィス達は思った。

「こいつがラタムを……」

ロールは涙目だが、その表情には怒りもあった。
自分の故郷を破壊した者が目の前にいるとなれば黙ってはられない。
ロールは持っている杖を構えた。

「ガギァぁぁぁあ!」

その時、半魔人は大きい叫び声をあげた。
その声に驚いたロールは怯えて後ずさる。

「ひぃ!」

「ロール、下がってろ。ありゃ手遅れだな……」

そう言うとアルフィスは一歩前へ出た。
その時、左太ももに付けた小さいバックのボタンを外し、何かを取り出し握った。

「ア、アルフィス……それは……?」

ロールが怯えながらもアルフィスに聞いた。
アルフィスは握っていた物をロールに見せる。
それは火の魔石だった。

「あいつはモヤが無いし、動きもトロそうだから"ダブル・ダウン"でいける」

「……」

ロールはまさかと思った。
しかし、この後に目の前で起こることはロールの想像の上をいくものだった。

アルフィスが左手に持つ火の魔石を宙に投げる。

「複合魔法・下級魔法強化」

アルフィスの足元に真っ赤な魔法陣が展開し、それと同時に右ストレートを溜めた。
そして、魔法陣が消えたあたりで火の魔石がちょうどアルフィスの目元まで落ちてくる。
その火の魔石を溜めた右拳で一気に打ち出した。

凄まじ風圧がアルフィスの拳から広がる。
アルフィスはすぐに右太もものバックのボタンも外し二つ目の火の魔石を右手に握る。

そして一瞬で、その場から姿を消した。

半魔人に火の魔石が着弾すると上半身が仰け反り、すぐさま炎に包まれていた。
半魔人が悶え苦しむ中、アルフィスはその目の前に現れ、右のアッパーモーションを溜めている。

すると半魔人を燃やしている炎が一瞬でアルフィスの右拳に吸収される。
右手の漆黒のグローブが燃え盛り、グローブに描かれた魔法陣が徐々に真っ赤に染まった。

炎嵐フレイム・テンペスト……ダブル・ダウン!!」

そのままアルフィスはアッパーモーションでボディブローを叩き込んだ。
その拳は半魔人のみずおちに食い込んだ。

その瞬間にズドン!という凄まじ轟音と共にアルフィスの拳に爆発が起こり、周辺には真っ赤な熱波が広がる。
アルフィスが拳を上に振り抜くと半魔人は勢いよく吹き飛ばされ数十メートル地面を転がった。
半魔人は炎に包まれてピクリとも動かなかった。

「よっし!成功だな」

「な、なんなんだ……今のは……」

ガッツポーズを取るアルフィスのグローブからは炎が消えており、描かれた魔法陣も白に戻っていた。
一部始終を見ていたロールは青ざめている。
最初の動作はジレンマの火の魔石を飛び道具にしていたものと同じだが、さらにそこにモーションが加えられていた。

「魔石を弾にして打ち出すやつは、ほんとムズイんだよなぁ。狙ったところに当てられるようになるまで時間掛かっちまったぜ」

「時間掛かったって……二日しか無かったと思うけど……」

アルフィスはたった二日でこの技を完成させていた。

アルフィス達は、腹の辺りに丸く大きな穴が空いた半魔人の行動不能を確認した。
そして町の一番奥にあるロールの屋敷を目指した。
向かう途中、周りを見ると家屋が破壊された家が多く、全く人の気配を感じなかった。

ロールの屋敷は門もなく他の民家より少し大きいくらいの家だった。

家はボロボロでドアも無い状態だった。

「母様……ルイス……」

ロールが家の中に走って入って行った。
アルフィスは外で周りを警戒している。

「母様!!ルイス!!」

ロールは涙目で家の中を見渡す。
すると奥の部屋から誰か出てきた。
それは背の小さい少年だった。

「に、兄様……」

「ルイス!!」

ロールはルイスに走り寄り抱きしめる。
そして怪我が無いか全身を見て確かめていた。

「怪我は無いようだな!よかった!母様はどうした?」

「わからないのです……魔人が町に出たから……隠れてなさいって……」

ロールもルイスも涙目だった。
ロールは弟の無事を確認できただけでも嬉しかった。
あとは母親や町の人がどこに行ったのかを調べなければと思った。

アルフィスがロールとルイスの姿を玄関前で見て笑みを溢した。
その瞬間、背後に気配を感じ、すぐさま振り向く。

「ん?女の子……?」

数メートル先に女の子が立っていた。
綺麗な長い銀髪で白いワンピースを着ている。
肌も着ているワンピースくらい透き通るように白かった。

虚ろな目でアルフィスをじっと見ていた。

「おう!少女!無事だったみたいだな!」

そう言いながら、アルフィスはその少女に近づいて、しゃがみ込む。
そしてニコニコしながら頭をポンポンと優しく叩く。

「父ちゃんと母ちゃんは大丈夫だったか?みんなどこに行ったかわかるか?」

「……い」

「ん?なんだって?」

少女はボソボソと何か言っているような気がした。
アルフィスは耳を少女に近づける。

「あなたは……熱い……」

その瞬間、少女から放たれた殺気はアルフィスを本能的に動かした。
少女は左の回し蹴りをアルフィス顔面へ放った。
アルフィスはギリギリのところでそれをガードするが、その威力はとんでもないのだった。
ガードした右前腕と肩骨が完全に折れ、数十メートルもの距離吹き飛び民家を壁を突き破り、ようやく止まった。

ロールはその轟音に反応して外に出た。
すると外にいたはずのアルフィスがおらず、一人の少女だけ立っていた。

「ま、まさか……君がサーシャ……」

震えるロールは気づいてしまった。
恐らく半魔人が入り口にいた理由は自分より強い魔人が町の中にいたからで、町を破壊したのはこの少女だったのだと。

「兄様……」

ロールは振り向き怯えるルイスを見た。
ここで自分がやられれば弟がどうなるかわからない。

「ルイス……大丈夫だ。兄さんはな、リーゼ王から杖を賜った大魔法使いなんだ!」

その瞬間にロールの震えは止まった。
ロールの眼光は魔人サーシャを睨み、左手に持つ"竜骨の杖"を構えた。

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