地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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水の国編

魔人サーシャ

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アルフィスはまだ森林内にいた。
森林内の吹雪は止んでいたが、少し雪が降る。
だがアルフィスはどこを歩いていたか分からず、進んでいるのか、戻っているのかすらわからなかった。
ロールとも逸れてしまい途方に暮れていた。

「急がないとメルが……ロールどこいったんだ?」

焦るアルフィスだが、どこを見ても風景が同じに見え、進む方向が全くわからなくなっていた。

「前に進むのがアルフィス・ハートルだが……前がわからん!!」

アルフィスはむしゃくしゃして叫び声を上げる。
するとその声に反応するように背後から気配がした。
アルフィスが拳を構えながら振り向く。

「お、お前は……」

そこにいたのはメルティーナだった。
かなり疲れた表情をしている。
アルフィスの姿を見た瞬間、メルティーナは目に涙していた。

「アルフィス!」

一目散にアルフィスに駆け寄り抱きついた。
いつも毅然としているメルティーナとは違っていた。
アルフィスはカタカタと震え、ぎこちなく背中を手のひらでトントンとすると、すぐにメルティーナを離した。

「お、おう……しっかし、よかった!他の連中はどうした?」

「グレイ達とは逸れてちゃって……巨大な魔獣に追われて、みんなバラバラに……」

アルフィスは途中で倒れていた聖騎士や魔法使いを思い出した。
その巨大な魔獣に追われて隊列を崩した部隊が犬型の魔物にやられたのだろうと思った。

「とにかく前に進みましょう」

「方向わかるのか?」

メルティーナは涙目だが、いつもの呆れ顔でアルフィスを見ていた。
そしてメルティーナは指差しで方向を示す。

「マーキングしてたからわかるわよ。あっちの方向」

「おお!」

アルフィスはガッツポーズをした。
そしてアルフィスはメルティーナが指差した方向を見る。

「マジか……」

「どうしたのよ」

メルティーナも気になって自分が指を差した方向を見た。
10メートルほど先に一人の少女が立っていた。
銀髪に白い肌、白いワンピースを着た少女だ。
それはラタムでアルフィスとロールが会った白銀の魔人だった。

「サ、サーシャちゃん?」

「待て!行くな!」

メルティーナがサーシャに近寄ろうとしていたのをアルフィスは肩を掴んで止める。

「どうして!早く何か着せないと!凍えてしまう!」

「あれはもうサーシャじゃない!魔人なんだ!」

アルフィスはメルティーナに言い聞かせるように強く言い放つ。
メルティーナは困惑し、またサーシャの方を見たが、そこにいるのは魔人というには美しすぎる姿をしていた。

「下がってろ!」

「だめ!アルフィス!」

アルフィスが前に出ようとするが、メルティーナはそれを必死に止めようとしていた。
そして、そんなやり取りをしていると、サーシャは姿を消していた。

「どこ行った?」

二人が周りの森林を見渡していると、木の上に積もる雪がパラパラと落ちて来た。
アルフィスは上空を見て、すぐにメルティーナを突き飛ばし自分もバックステップした。

「やべぇ!!」

「え……」

ズドン!という音と共にサーシャは一瞬で地面に着地していた。
地面には雪が積もっていたが、それが全て舞い上がり、大地は四方八方に割れた。

「サーシャちゃん……どうして……」

メルティーナは地面に尻もちをつく。
そしてすぐ目の前にいるサーシャに睨まれると全く動けなくなった。

「複合魔法・下級魔法強化……」

アルフィスの立つ場所に魔法陣が展開する。
同時に左足のバックから火の魔石を取り出して宙に投げる。
バックステップの終わり際、体制を立て直して右ストレートで火の魔石を打ち出した。

高速に打ち出された魔石だったが、サーシャは首を少し横に倒しただけで回避する。
火の魔石は数メートル離れた木に着弾し、その木は燃え始めた。

テンペスト……」

アルフィスはその場から消え、サーシャの横を高速で通り過ぎ、燃える木の隣の木肌に着地した。
そして右足のバックから火の魔石を取り出し、右手に握る。
さらに燃える木から炎を右グローブに吸収させ、再度サーシャに向かおうと木を蹴ろうとした瞬間、目の前にサーシャが現れた。

「は、速い!!」

そのままサーシャはアルフィスに渾身の蹴りを放つ。
その蹴りは完全にアルフィスの胸の辺りに当たっていた。

「がは……」

アルフィスは木肌に叩きつけられ、さらにその木が折れ、数メートル吹き飛ばされるが、その方向にあった木を全て薙ぎ倒した。

最後の木は折れず、叩きつけられるだけで済んだアルフィスは、そのまま地面に落ちた。

「あなたは熱い……嫌い」

サーシャはゆっくりと歩いてアルフィスへ近づく。
アルフィスは立ち上がることが困難だった。
恐らく、胸周辺の骨が何本か折れている。
だがなんとか立ちあがろうと手に力を入れるが、なかなか思うように立てなかった。

サーシャはアルフィスの目の前まで来た。
倒れるアルフィスを見下ろし、思い切り右足を宙まで上げカカト落としの体制をとる。
その動きはアルフィスの頭を割るための攻撃動作だった。

その足がアルフィスへ振り下ろされる瞬間、サーシャの背後からビュン!と音がした。
サーシャはそれに反応して振り下ろすはずの右足で回し蹴りし、その音の正体である物を叩き落とした。

サーシャが地面に落ちた、その物を見ると、折れた矢だった。
矢が飛んでいる方向を見るとメルティーナが弓を構えている。
その目には涙があったが、何か決意した眼差しでサーシャを見ていた。

「ダメだ……メル……」

アルフィスがなんとか力を振り絞って声を出す。
しかし無常にもサーシャはメルティーナの方へ歩き出した。
そしてその歩みはどんどん早くなり、その場から消える。

「は!?」

メルティーナの目の前に一瞬で現れたサーシャは再度、右足を上げカカト落としの動作に入っていた。
それは完全にメルティーナの頭を捉えている。
そして、それは勢いよく振り下ろされた。

ドン!!という音が森林内に響き渡る。
サーシャが後方にバク宙して着地した。

メルティーナは目を閉じていたが、恐る恐る目を開け、自分の体になんの異常もないことを確認する。

メルティーナがサーシャの方を見ると、目の前には一人の女性が立っていた。
アルフィスがその女性の姿を見るとニヤリと笑う。

「おせぇーよ……」

その女性は聖騎士学校の制服の上にコートを羽織り、見慣れない剣を左腰に構えた黒髪でポニーテールの聖騎士だった。

「天覇一刀流・雷打……遅くなりましたね。ここからは私が相手をしましょう」

そこに立っていたのはアゲハ・クローバルだった。
リヴォルグの部下がアゲハをここまで案内していたのだった。

アゲハは冷静にサーシャを見ているが、その眼光は鋭い。
サーシャはその場から一瞬で消え、アゲハへ一直線に向かった。
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