地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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水の国編

六天宝具

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医療都市ダイナ・ロア

ここは一つの町となっている。
町は大きくは無いが、中央にある病院兼研究所はかなり大きく、これが町の大半を占める。

ここでは、おもに魔法で対処し切れないような感染病などを治すための薬品などを研究していた。

ここ最近の最大の研究は魔人を人間に戻す薬の開発で、その薬は完成に近づいていた。

今回ダイナ・ロア周辺に"癒しの雨"としてそれを降らせたのはロールだった。
竜骨の杖で強化された癒しの雨と魔人を治す薬の複合によってサーシャは救われ、さらに研究自体も大きく進んだ。


______________________



町の中央病院


サーシャとの戦闘から半日。
いくつもある病棟の一角に個室の病室があった。
外が見える窓が一つだけあり、その前にベッドが置いてあるだけで他には何も無い。

そのベッドにはサーシャが寝ている。
サーシャの病室の外廊下にはアルフィスとリヴォルグがいた。
他のメンバーは疲労ゆえか病院の外にある来客用の宿で休んでいた。

「あの子はどうなんだ?」

「恐らく治るだろう。魔人があの薬を浴びたのは初めてらしいが、ここまで効果があるとはね。ロール君のおかげでもあるが、研究者も大喜びさ」

リヴォルグは笑みをこぼす。
アルフィスは病室を部屋のドアの窓から覗くが、サーシャは髪の色が銀髪から完全に青色になっており、何事もなく寝ている。

「そういえば、グレイはどうしたんだ?」

「グレイも同じく魔人としての力は無くなったようだ。今、中央まで護送している。聞きたいことが山ほどあるからね」

「あの野郎……一発ぶん殴りたかったぜ……」

アルフィスはグレイのニヤけ顔を思い出し、かなりムカついていた。
グレイのせいでどれだけ大変な思いをしたのかわからない。

「あとは私の兵に任せておけばいいさ」

「だな……これでメルティーナとの結婚は無しだ」

この件についてはアルフィスは安堵していた。
さすがに薬を持って帰るだけのはずが、嫁までもらって火の国へ帰ったとなれば、家族からや猫アルからも何を言われるかわらない。

「そうだな……アルフィス君はメルティーナのことは嫌いかい?」

「いや、別に。気は合うとは思うぜ。だけど俺にはやりたい事あるからな」

「母の病気を治すことが目的だったんじゃないのかい?」

「それもあるが、その後だ」

リヴォルグは疑問に思った。
アルフィスほどの男の目的とは一体なんなのか考えたが、リヴォルグにはわからなかった。

「ほう。差し支えなければ教えて欲しいものだね」

「火の王に挑むのさ」

リヴォルグはアルフィスが、そこまで大きいことを目的としていたことに驚いた。
アルフィスの声のトーンからして冗談を言ってるようには聞こえない。
それなら確かにメルティーナと結婚なんて考えるどころではないとリヴォルグは思った。

「なるほど……だが火の王は今いるシックス・ホルダー、五人全員で戦っても恐らく勝てないだろうな」

「五人?確かシックス・ホルダーって四人じゃなかったか?」

アルフィスは一番最初にシックス・ホルダーについてザックとライアンから教えてもらったことを思い出していた。
確か四人と言っていたような気がする。

「いや、その情報は古いよ。今は五人いるのさ。風の国のシックス・ホルダーは異質だがね」

アルフィスは首を傾げた。
実際ここまで来るまでにシックス・ホルダーの名前は全員聞いていた。
セントラルのノア・ノアール。
同じくセントラルのシリウス・ラーカウ。
火の国のセレン・セレスティー。
水の国のリヴォルグ・ローズガーデン。
この四人だった。

「風の国の宝具は何年か前に盗まれた。そして今、謎の聖騎士が使い手と聞いている」

「謎の聖騎士?」

「ああ。顔を隠している黒い甲冑の聖騎士で、何の目的かは知らないが、魔法使いを殺し続けてるらしい」

「ふーん」

アルフィスはそれを聞いても人ごとだった。
どこの国にも問題はあるが、その話は自分には関係ないと思った。

「話を戻すが、王の強さは別格だ。恐らく今の君の力では殺されるだけだと思うがね」

「……そうかもな」

アルフィスは、それは薄々感じていたことだった。
セレンやリヴォルグ、ジレンマや魔人サーシャと戦って気づいたが、恐らく自分の力は全く"王"という存在に近づいてすらいないと。

「たが……勝てる可能性はある」

「はぁ?あんたさっき殺されるだけって言ったじゃねぇか」

「私は"今の君では勝てない"と言ったんだ。私は、この先の可能性の話をしてるのさ」

「可能性?なんだよそれ」

「君がシックス・ホルダーになることだ」

アルフィスはリヴォルグの言葉に驚いた。
アルフィス自身、全く考えても無かったことだ。
とりあえず強いやつと戦えればいいとシックス・ホルダーに喧嘩を売ってたが、自分がそれになるとは考えてもいなかった。

「そもそも二つ名持ちならシックス・ホルダーに一番近い存在だし、可能性は普通の魔法使いよりはある。さらに宝具の使い手になれば王と戦えるほどの力を得ることも可能だ」

「また返すようで悪いが、あんた、さっきシックス・ホルダー五人で戦っても無理って言ってた気がしたけど」

アルフィスは呆れ顔でリヴォルグを見る。
最初に言った話と矛盾しているのはアルフィスにもわかった。

「そうだな。だが宝具は六つあるんだよ」

「ああ、そうだったな……えっと……土の国のシックス・ホルダーがいないのか」

「ああ。もし、君が本当に火の王に挑むというなら土の国の宝具の使い手になるしかないだろう」

「なんで土の国の宝具なんだよ」

「それは六天宝具最強と言われているからだ。大賢者シリウスが持つ"魔竜尾の杖ロスト・フォース"を超える強さで、その宝具の使い手は王に匹敵する力を得るとの逸話がある」

「マジか……」

アルフィスはその話を聞いて考えていた。
人類代表のシリウスが持つ宝具よりも強い宝具なら確かに可能性はある。
だがアルフィスは一つ疑問に思ったことがあった。

「ちょっと待て、そんなに強い宝具なのになんで使い手がいないんだ?」

「……問題はそこだ。宝具はそれぞれ固有の能力があるが、その能力を発動させるためには二つ代償を支払う必要がある」

「代償?」

「宝具にはデメリットがあるんだ。私のクイーンズ・クライは使い手が決まった瞬間、その使い手の視力を完全に奪う」

アルフィスは絶句した。
そんなヤバい代償を支払ってリヴォルグは宝具を使っていたのかと。

「もう一つは人の血だ。これは宝具のエサのようなもので能力を発動するには毎回必要になる。宝具は血に飢えてるのさ」

「あいつらもそうだが、そんな危険な武器使ってんのか……」

「宝具によってはデメリットが低いものもある。まぁ他のシックス・ホルダーはそのデメリットを隠してるがね」

アルフィスはノアやセレンもその代償を払って宝具を使っているのかと思うとゾッとした。
宝具がそんなに恐ろしい武器だったとは思ってもみなかった。

「問題はここからだが、土の国の宝具はデメリットが重すぎるらしい」

「いやいや、目が見えなくなる以上にデカい代償ってなんだよ」

「それは私にもわからん。使い手が長く存在しなかったから能力すら不明だが間違いなく最強だ」

アルフィスは疑いの目でリヴォルグを見ている。
なにか怪しい営業マンに怪しい商品を売りつけられそうな、そんな雰囲気だった。

「なんでわかるんだよ」

「昔、リーゼ王から聞いた話しだが、300年ほど前に土の王にシックス・ホルダーが挑んで勝ちかけたらしい」

「まさか……そのシックス・ホルダーって……」

「土の国の宝具"魔竜絶爪ヴォルヴ・ケイン"の使い手だったと」

アルフィスはその宝具に興味が湧いた。
確かにデメリットというのは気になるが、もしかしたらその宝具を手にできれば、王に挑むほどの力を手にできるのではと考えていた。

「それに賭けてみる価値はありそうだな……」

アルフィスはリヴォルグの話を信じ、母の病気が治ったら、土の国へ行くことを決意した。


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