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風の国編
素顔
しおりを挟む北の遺跡
ピラミッド型の遺跡の階段を登り切った頂上。
そこは四角く、広く、中央には石造りの建物があった。
その入り口付近にワイアットが両膝をつき、その前にはノア・ノアールが立ち、銀の大剣を両手持ちで構えていた。
向かい合う黒騎士はノアの数メートル先におり、こちらも左手にショートソードを持ち、鞘に収められた剣のグリップを右手で握る。
「団長……なぜここが……」
「レイメルに到着したら、お前が急いで出てくのが見えてな。私も早馬なんて久しぶりだぞ」
ノアは余裕でワイアットと話しているが、黒騎士に対しての警戒は怠らなかった。
「エリスを頼む。私はこいつに聞きたいことがある」
「あ、ああ。了解した」
ワイアットは力を振り絞り立ち上がると、石造りの建物内にいるエリスへ向かった。
ノアは相変わらず黒騎士を睨む。
その圧力に黒騎士も全く動けなかった。
「お前、カゲヤマリュウイチで間違いないな?」
「……」
「答えんのか……まぁいい。お前はブラック・ケルベロスという組織の人間か?」
黒騎士はその言葉に少し首を傾げていた。
ブラック・ケルベロスという名には心当たりがない様子だった。
「お前、ラムザという男に召喚されたな。そいつはどこにいる?」
「……それは言えないね」
「そうか……なら力づくで聞き出すしかあるまい」
ノアはそう言った瞬間、銀の大剣を右下に構えて目にも止まらぬスピードで黒騎士の目の前までダッシュした。
そして大剣を両手持ちで振り上げ、渾身の縦一線で振り下ろした。
「天覇一刀流・剛雷打!」
黒騎士は鞘から半分ほど抜剣し、剣の柄頭をノアの大剣の刃に当てた。
……だがノアの剛腕はそれを押し戻し、黒騎士の剣は鞘に押し込められた。
たまらず黒騎士は横に回避し、大剣は地面に激突した。
その衝撃で地面は四方八方にヒビが入る。
「なんというパワー……だが!」
黒騎士は回避行動を取りつつ、そのまま抜剣し、ノアの首を刎ねようとした。
ノアもそれに反応して猛スピードで大剣を横振りして、黒騎士の剣を弾いた。
その衝撃は凄まじいもので、黒騎士は仰け反った。
「なんだ、このなまっちょろい剣技は!力が全く入ってないではないか!」
ノアは常人離れした剛腕で、またも猛スピードで黒騎士へ一歩踏み込み、大剣を下から上へ斬り上げた。
それを回避しようと黒騎士は上体を背後に反らす。
ノアの大剣はちょうど黒騎士の顔を覆う黒い冑の顎部分に当たり、それを弾き飛ばした。
黒い冑は地面を転がった。
ノアは黒騎士の素顔を見て唖然とした表情を浮かべた。
「なんと……老人だと……?」
それは白い長髪に、顔はシワが多い老人だった。
見るからに70代ほどだろうとノアは思った。
「見られてしまったな……」
「確か、カゲヤマは"若い剣士"と聞いていたが……」
黒騎士は剣を鞘に戻す。
それを見たノアは大剣を前に構え直した。
「聖騎士相手ではエンブレムを展開してもさほど意味はないな……こちらを使わせて頂こう……」
そう言って黒騎士は左腰に差した宝具に右手を伸ばした。
そして宝具のグリップ部分についているトリガーを腰に差したまま引いた。
すると黒騎士の腰の宝具は赤黒いオーラを放ち始める。
「させるかぁ!!」
ノアは左から右への横切りで、黒騎士の胴体を狙うが、なぜか先ほどより動作が遅く、簡単に後ろに回避されてしまった。
黒騎士とノアの距離は数メートル離れている。
「魔剣レフト・ウィング……モード・"重死船"」
「なんだこれは……体が重い……」
ノアは剣を大地に突き刺し、凄まじい重力に耐えていた。
一方、黒騎士はその重力を全く感じず、涼しい表情をしながらノアの元へ歩こうとした。
その瞬間だった。
黒騎士は大きく咳き込み、右手のひらで口元を押さえた。
「ゴホゴホ……うぅ……」
口元から取った手のひらをゆっくり見た黒騎士は、そのまま握り拳を作り、吹き飛んだ黒い冑を拾いに行った。
「おいおい……追撃しないのか?」
「これ以上やれば、今度は君が宝具の能力を使うだろう。そうなれば長期戦になる。私にはそんな時間は無い」
そう言うと、黒冑をゆっくり被り、その場を立ち去ろうと階段の方へ向かった。
「逃すか……ボケが……」
ノアは全身に力を入れて、黒騎士目掛けてダッシュした。
重力は何百キロも超えるほどで、動くほどに骨が軋んだ。
黒騎士は振り向くことなく、再度、宝具のトリガーを引いた。
するとさらに凄まじい重力がノアに掛かった。
ノアは地面に剣を突き刺して耐える。
「ぐあ!!」
「これ以上やらせるな。骨が粉々になるぞ……」
「クソが……」
黒騎士はそのまま階段を降り、姿を消した。
重力が解除されたのはそれから数分後だった。
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