地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

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風の国編

死神

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アルフィスとナナリーは聖騎士宿舎の地下にある牢にいた。
ガウロ・クローバルと対面し情報を聞き出していたのだ。

「年を取るだと?」

「そうだ。それが魔剣レフト・ウィングのデメリットだ」

「それは一体どれくらいなの?」

ナナリーが気になって口を出す。
アルフィスもそれは気になった。

「一度、宝具のトリガーを引くと2年から3年ほど。能力発中、つまりレッドオーラが出ている状態だと数秒が数日、数分が数ヶ月、数時間が数年となる」

「マジか……」

「黒騎士……シャドウはこの一年ほどで何度トリガーを引いただろうな。恐らくもう高齢の年寄りだろう」

それを聞いたアルフィスとナナリーは絶句していた。
確かに最強のシックス・ホルダーを作ることが成功したとしても短命なら意味がない。

「しかもシャドウが身につけている鎧は"魔法防御強化の鎧"ブラックアーマーだ。今、彼に勝てる人間はいないだろう。それは聖騎士、魔法使い、さらにはシックス・ホルダーだろうとな」

「……」

「だが……どんなに強かったとしても、自身の寿命には勝てない。シャドウは力を振るう度、それはいつか死に繋がる。恐らくそれは近いだろう」

「どこへ行ったかわからないのか?」

「うーむ……クローバル家の別荘には行ったのか?」

「ああ。そこで一度戦った」

ガウロはアルフィスの言葉を聞いて、さらに考えていた。
それは少しの時間だが、アルフィスには長く感じられた。
だがアルフィスは一言も口を挟まなかった。

「北東にある港に、クローバル家の倉庫がある。他の国からの輸入品を一時的に置く場所だ。そこはラムザに管理させていた。もしかしたらそこに行けば何かわかるかもしれない」

「そうか……まぁ何も情報が無かったから、行ってみるしかないか」

「……もう一つ……聞きたいことがあるわ」

「なんだね?お嬢さん」

「ラムザという執事はいつからクローバル家に?」

ナナリーの質問に、右手で髪を掻き上げて眉を顰める。
目を閉じてガウロは過去を思い出していた。

「確か10年ほど前だと記憶している。突然、家を訪ねてきた。働かせて欲しいと。土の国の大貴族の紹介状を持っていたはずだ」

「ラムザという執事は……何か……変わったところはなかったかしら?」

「……ラムザは知的な男だった。だから私は彼の計画に乗ったのだ」

「どういうことだ?」

「最初に最強のシックス・ホルダーを作る計画を立てたのはラムザだからな」

「なんだと!?」

アルフィスとナナリーは驚いた。
ガウロが全て計画して進めていたと思っていたのが、実は黒幕がいた。
それは10年前に突然クローバル家にやってきたラムザだった。

「さっきも話したとおり、この国の人材不足は深刻だった。ある時、私はそれをラムザに話した。そしたら数日後、やつはここレイメルにある宝物庫から宝具を盗んできた。それと同時にこの話をされたんだ」

「……」

「そしてラムザは"転生術"の話を私にした。賢者クラスの魔法使いを集めておこなうと。その数日後カゲヤマという剣士を連れてきた。カゲヤマはクローバル家の直属剣士だったカーティスをいとも簡単に倒してしまった。だからアゲハの師匠になってもらったのだ。カゲヤマからはその時、条件を出された」

「条件?」

「"アゲハを風の国の最強の剣士にしたら故郷に帰らせて欲しい"と。私はそれに了承した。私の望みはアゲハを最強のシックス・ホルダーにすることだったからね……」

ガウロは両手で顔を覆った。
そして再びアルフィスを見ると悲しげな表情をした。

「アゲハがセントラルに行った後、ラムザはカゲヤマを故郷に返すと言って出て行った。だが、それっきり二人は帰ってこない。さらに屋敷にあったはずの宝具も無くなっていた。私はピンときたよ。ラムザはカゲヤマを最強のシックス・ホルダーにするのだろうとね」

「確かに……あいつは強かった……」

「私はその後は知らない。なぜ魔法使いばかり殺害するのかもね。あとは自分達で情報を得ることだ」

アルフィスとナナリーは顔を見合わせ頷いた。
ガウロからはもう何も情報を得られないだろうと思い、二人は北東にある港を目指すこととなった。


________________



聖騎士宿舎にいた聖騎士に馬車を用意してもらい、アルフィスとナナリーはそれに乗り込んだ。

アルフィスは移動の際、ほとんどが荷馬車だったが、今回は屋根付きの貴族用馬車だった。

ナナリーは向かい側に座り、馬車の窓から外を見ている。
アルフィスはその横顔をチラチラと見ていた。

「なにか?」

「お前、いつから死神なんて呼ばれてんの?」

ナナリーはアルフィスの失礼にとれる発言にも表情は変えない。
そのには慣れてしまっているようだ。

「バディの三人目が死んで、セレン・セレスティーの部隊に配属になったあたりかしら……ある任務で十人以上死んだのに、私だけ生きてた」

「死にすぎだろ……」

アルフィスの顔は青ざめていた。
"死神"に喧嘩を売ってはみたが、目にも見えず、殴れないのでは勝負にならない。

「そのあとセレン・セレスティーが激怒して、私の顔面を殴った。あの時は顔の骨が砕けたわ」

「ん?戦い挑んだって聞いたけど?」

「解釈の違いね。私がその十人を"弱かったから死んだ"と言ったから喧嘩になったのよ。結局私は負けて部隊から追い出される形になったけど」

アルフィスは自分以上に空気が読めない人間がいることに驚いた。
ここまでなるとアルフィスですら呆れる。

「いつからそうなんだ?ずっといるのかよ、その死神ってやつは」

「ダークライト家を滅ぼしたのも、その死神かも。私が生まれてから家族、親戚はみんな謎の死を遂げていったわ」

「なかなかヤバい奴みてぇだな……」

「怖気付いちゃったかしら?」

ナナリーが不気味な笑顔でアルフィスを見た。
綺麗な顔立ちがより一層、その不気味さを引き立たせていた。
だが、そんなナナリーの表情を見てアルフィスはニヤリと笑った。

「まさか。こちとら火の王に挑むんだ。死神程度、倒せなけりゃ王になんて勝てんだろう」

アルフィスの言葉にナナリーは一転して驚いた表情をした。
そもそも火の王に挑もうとする人間なんて生まれてから一度も見たことがない。
ナナリーは呆れ顔をしながら、また窓の外を見た。

「確かに……"火の王"の前では、死神ですらもひざまづくでしょう」

「なら……意地でもぶちのめさねぇとな……その死神ってやつを」

アルフィスも窓の外を見た。

ゆらゆらと落ちる夕日は眩しかったが、アルフィスとナナリーはそれをずっと見ていた。
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