104 / 200
風の国編
カトラ
しおりを挟むアゲハとレノは北の遺跡から北東の港に向かい、夜には到着した。
港には誰もおらず、停泊している船も無い。
あたりはもの静かで海のせせらぎだけが聞こえていた。
「アゲハはここは初めてかい?」
「はい。初めてです……お父様は海は危ないと連れてきてもらえなかった。休日はいつも山の別荘で過ごしていました……」
「へー。なんでだろ?海は気持ちいいのに」
アゲハは海を見つめながら昔を思い出していた。
アゲハが幼少の頃、父と母と3人で山の別荘を目指している時のことだった。
「お母様が昔話をしてくれたのです。お父様は子供の頃、この港で遊んでいた時、海に落ちたと……それ以来、お父様はここには来ていない」
「なるほどね」
「お母様が亡くなってから、お父様とはあまり会話することも無くなってしまった……お父様は一体何を考えていたのか……」
アゲハの悲しみの感情はレノにも伝わっていた。
その目には涙を溜めていたようにも見えたが、レノは何も言わなかった。
アゲハとレノは港の倉庫へ向かった。
倉庫は海に面して四つ横に並ぶ。
アゲハは三つ目の倉庫まで開けて調べたが、何もなく、四つ目の倉庫の前に来た。
だが四つの倉庫は鍵が掛けてあり、開かなかった。
「これは壊すしかないね」
「ええ、私が」
そう言うとアゲハは縦に抜刀し、倉庫の門の鍵を破壊した。
その瞬間、中から声が聞こえたような気がした。
アゲハとレノは顔を見合わせ、お互い頷くと中に入っていった。
倉庫内は高い窓から光が差し込む。
中には何も無かったが、一番奥の角に人影が見えた。
「誰かいるのですか?」
アゲハが刀を腰に構えてゆっくり近づき、レノもそれに続く。
人影の姿がはっきりと見える位置まできたアゲハは驚いた。
「こ、子供?」
そこにはブルブルと震えながらアゲハを見つめる子供がいた。
髪の色が銀髪でロングヘア、ボロボロの布の服を着ており清潔感が無かった。
「土の国の奴隷か……でもなぜこんなところに?」
アゲハはその子供までゆっくり近づき、目の前でしゃがんだ。
「大丈夫ですよ。私達はあなたを助けます。お名前はなんと言うのですか?」
「……カトラ」
「カトラさん。いいお名前ですね」
そう言ってアゲハが笑顔を見せるとカトラは落ち着いた。
アゲハは上着を脱いでカトラに着せる。
「クローバル家に戻りましょう。事情を聞くのはそれからです」
「了解。こっからは荷馬車だね」
アゲハとレノ、そして銀髪の少女カトラはレイメルのクローバル家屋敷に向かった。
________________
クローバル家
屋敷前
屋敷に戻ったアゲハは玄関外にいた。
アンジェラが屋敷から出てきて、涙目でアゲハと会う。
「ご無事でなによりです……」
「ええ。アンジェラ、この子をお願いします。綺麗にしてあげて下さい」
アゲハはそう言うとカトラをアンジェラに紹介する。
カトラは心配そうに俯いていたが、アンジェラの笑顔を見ると少しだけ安心したようだった。
「わかりました!あの、そちらのお子さんは……」
「ああ、このお方は……」
「僕はネロ。魔法使い見習いさ!」
レノの言葉にアゲハは驚いた表情した。
真面目で素直なアゲハにとって、これほど自然に嘘をつくレノは異質だった。
「そうなんですか。アゲハ様を守ってくれたんですね!ネロくんありがとうね」
「えへへ」
唖然とするアゲハをよそに、レノとアンジェラ、カトラは屋敷の中に入っていった。
アゲハもそれに続くとアンジェラとカトラはお風呂に向かい、アゲハとレノは応接間で待つこととなった。
________________
応接間は広々としており、真ん中に大きいテーブルがある。
その周りに椅子が複数置いてあり、大人数の来客にも対応できるようになっていた。
アゲハとレノは隣同士で椅子に座り、アンジェラとカトラを待っていた。
「あのメイド以外に使用人はいないのかい?」
「ええ……お父様が捕まってしまったので、アンジェラ以外は辞めていきました」
「そうか……」
「クローバル家はこれで終わりですね……当主が犯罪者となればさすがに存続はできない」
アゲハの悲しげな表情を横目で見ていたレノは少し考え事をしていた。
そんな会話をしているとアンジェラとカトラが応接間に来た。
カトラは薄い緑色のドレスを着用し、長い銀の髪を後ろで束ねてポニーテールにしてあった。
よく見ると10歳ほどの少女で顔立ちも綺麗だった。
「わぁ、すごく綺麗になりましたね。私のお下がりですが、よく似合ってます!」
アゲハの満面の笑みを見たカトラは頬を赤らめ俯く。
レノとアンジェラもニコニコしていた。
アゲハはカトラの前でしゃがみ、頭を撫でた。
「私はあなたの味方です。よかったら何があったか話してもらえないでしょうか?」
「はい……私は土の国から連れてこられました」
「なんのためにでしょう?」
「"転生術"という魔法を使うために……」
アゲハとレノは驚く。
カトラの後ろに立つアンジェラは首を傾げていた。
アゲハの後ろに立っていたレノが少し前に出る。
「それは"呼ぶ"か"返す"かわかるかい?」
「"呼ぶ"と言っていました」
レノはカトラの言葉に怪訝な表情をした。
アゲハはその質問の意味がよくわからなかった。
「なるほど」
「どういうことでしょうか?」
「恐らくカゲヤマ以外の強者を呼び寄せる気だろう。ちょっと記憶を覗くよ」
そう言ってレノは片目を閉じカトラを見た。
そしてすぐ片目を開けて考え事をして、今度はアンジェラに質問した。
「もしかしてここに誰か来なかったかい?」
「え?あ、はい。言い忘れておりましたが、一週間ほど前にワイアット様とそのお連れの方々がいらっしゃいました」
「ワイアット?久しぶりですね。あとは誰が来ていたのですか?」
「確かアルフィス様とナナリー様という方です」
「アルフィス!?アルフィスもここに来たのですか?」
「ええ、情報が欲しいと、カゲヤマ様の手紙を読まれましたがよくわからないと言っていたのでガウロ様に会ってみたらどうかと提案致しました」
「それからアルフィスはどこへ向かったかわかりますか?」
「ワイアット様とは逆に港の方へ向かったようです」
アゲハはそれを聞いて驚いた。
アルフィスはここを訪れて、完全に行き違いになっていた。
「そのワイアットという人は、もしかして北の遺跡に向かったんじゃないか?」
「そこまではわかりません……」
アンジェラが困った表情をしている。
アゲハはレノの言葉に首を傾げていた。
「"遺跡の秘密がバレた、転生術は闘技場でおこなう"とこの子の記憶の誰かが言ってる」
「バレたということはワイアットはカゲヤマ先生かラムザと会ってるということでしょうか?」
「恐らくそうだろう。僕達が港に着くほんの少し前の会話だ。かなり急いでる様子だな」
「もしかしたら闘技場に行けばどちらかに会えるのではないでしょうか?」
アゲハとレノは顔を見合わせて同時に頷く。
風の国の闘技場は剣術大会がおこなわれる場所だった。
だが魔法使い殺害事件が発生していたため、今年の大会は中止になっていた。
「アンジェラ、カトラをお願いします。私達は闘技場へ向かいます」
「はい!お気をつけて!」
アゲハとレノは中央レイメルから少し南西に行った闘技場へ急いで向かった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる