地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

文字の大きさ
109 / 200
風の国編

ラムザ

しおりを挟む

風の国 闘技場


アゲハは倒れるカゲヤマの亡がらを見つめ涙を流していた。

「先生を……元いた世界に戻してあげられないのでしょうか?」

突然のアゲハの言葉にレノは驚く。
だが、これがアゲハの優しさなのだと思うと、どうにかしたくなってしまう。
レノはカゲヤマの遺体に近づくと、その体に手を当てた。

「僕が戻そう。彼を元いた世界へ……」

そう言うとレノの足元に黒い魔法陣が展開する。
するとだんだんと光に包まれたカゲヤマの遺体は少しづつ薄くなり、最後には光り輝いた瞬間、その場から消えてしまった。

「これで、彼は帰ったよ……」

立ち上がりレノはよろめき、アゲハはそれを支えた。
無属性魔法の転生術に使う魔力は膨大で、王ですら具合が悪くなるほどだった。

「レノ様……ありがとうございます」

レノを支えながら、ノアが倒れる壇上中央へ移動するアゲハ。

その時、アゲハの後ろの方からパチパチと手を叩く音が聞こえた。
何かの賞賛なのか、力強いその音は闘技場内に響き渡る。

「素晴らしい。まさかこういう形でアゲハ様がシックス・ホルダーになるとは……」

アゲハが振り向くと石造りの壇上の端に一人の執事が立っていた。
それはアゲハも見慣れた男、クローバル家の執事のラムザだった。

「ラムザ……あなたは……!」

「金獅子が死ななかったのは誤算だったが、まぁ、よしとしましょう」

そう言うと、ラムザは一瞬でその場から消えた。
次に姿を現したのは空中だった。
倒れるノア目掛けて急降下し右ストレートを放つ。

「私が殺せば問題はない」

うつ伏せで倒れているノアまで数メートルと迫った。

そこにラムザへ横に一本のが雷撃が走り、吹き飛ばした。
ラムザは数十メートル吹き飛ばされるが、瞬時に透明の糸のようなオーラがラムザに巻き付く。
そしてそれは勢いよくラムザを地面に叩きつけた。
さらに空中に赤い歪な線走り、ラムザ目掛けて急降下する。

ズドン!という轟音は闘技場に響き渡り、石造りの床は四方八方にヒビが入る。
土煙が上がる中にいたのはアルフィス・ハートルだった。

「回避されたか……」

ラムザは瞬間移動していた。
アルフィスの数十メートル先、闘技場の観客席に足を組んで座っていた。

「まさか……私の拳をうけて生きている?面白い……」

ラムザはアルフィスを見つめニヤリと笑う。
その笑顔は見るものをゾッとさせるような狂気の笑いだった。

「アルフィス!」

「おう。アゲハ、イメチェンか?ショートカットも似合ってるな」

「い、いめちぇん?」

戸惑うアゲハをよそにアルフィスはラムザを睨む。
そしてアルフィスの背後、壇上に近づく2人の姿があった。

「アゲハ、こっちへ。あとは俺らがやる」

「……不死神経リモータル・ナーヴ

それはワイアットとナナリーだった。
ナナリーは剣のグリップを振り、横に振るとノアの体に巻きつき、その体を持ち上げて壇上外まで運んだ。
アゲハとレノは壇上を降り、代わりにワイアットとナナリーが上がった。

陣列は前からアルフィス、ナナリー、ワイアットの順で並ぶ。
3人は観客席にいるラムザを睨む。

「そっから降りてこい。ぶちのめしてやる」

アルフィスの殺気は尋常ではなかった。
ナナリーもワイアットも感じるほどで、その殺気を向けられたラムザは毛が逆立つほどだった。

「それは構わないですが、一つ教えて欲しい。あの状況でどうやって生きてたのか」

「ただの下級魔法と下級スキルの組み合わせだ。大したことしてねぇよ」

「なるほど……最後に名を聞いてもよろしいですか?」

「……アルフィス・ハートル」

アルフィスの言葉にラムザは驚いた表情をした。
その表情を見たアルフィスは少し首を傾げる。

「そうか……どおりで計画が上手くいかないわけだ」

「何を言ってる?」

アルフィスの困惑をよそにラムザは目を閉じて深呼吸する。
そしてラムザは観客席から一瞬で姿を消した。

ラムザは瞬時にアルフィスの目の前まで来た。
現れた瞬間から右ストレートモーションを取っており、完全にアルフィスの胸を捉えていた。

だがアルフィスはスマートな右のショートアッパーで、ラムザの右手首下を打ち、その右ストレートの軌道をずらす。
ラムザの右ストレートはアルフィスの左頬を擦った。

アルフィスは右のショートアッパーを引き、さらに右のショートアッパーをラムザのボディへ叩き込む。
ズドン!という轟音が響き、ラムザが少し宙へ浮き、そこに渾身の左ストレートを顔面に打ち込んだ。
ラムザは吹き飛び地面を転がるが、その最中立ち上がり、踏ん張って耐えた。

「私の拳を弾いて、さらに拳で返してくる……そんな人間は初めてだ……」

「てめぇがやったことに、どれほどの人間が巻き込まれて傷ついて死んでいったか……俺はキレてんだぜラムザ。生きて帰ると思うな」

そう言うと、アルフィスは両太もものバックから火の魔石を取り出して両手に握った。

それを見たラムザは笑みを溢す。

「そうですか……ここで終わらせると……私にも生存本能ぐらいある……本気でいきましょうかね」

その言葉を言い放った瞬間、ラムザの足元からドス黒い煙が巻き起こり、それは闘技場を覆うほどだった。

「アルフィス!なんかやばいぞ!」

ワイアットの叫びに反応するようにアルフィスは後ずさる。
アルフィスは体に違和感を感じていた。
この黒い煙で自身に付与されていた魔法が解除されてしまった。

「まさか……てめぇ魔人か?」

「少し……違います。私はラムザ・サードケルベロス。魔人の上位である"銀の獣"」

その言葉と同時に黒い煙は逆再生されるが如く、ラムザの周りに集まり包み込んだ。
そして一気に煙が晴れると、そこには魔人よりもドス黒い色の人間がそこに立っていた。
短髪の髪は銀色で、それ以外は真っ黒。
顔は人の形はしているが、形だけで目や鼻、口は機能しているのかすらわからなかった。

「"黒衣武装"……これをやるのは何十年ぶりか……」 

「アルフィス……あれはマズイわ……」

ワイアットとナナリーはその姿に息を呑むが、
アルフィスは目の前の異様なものを見ても、ラムザへ向かってゆっくり歩く。

「複合魔法・下級魔法強化……」

それを見たワイアットはニヤリと笑った。

「頭イカれてんな。だが……俺は嫌いじゃないぜ」

そう言うとワイアットも左手に中型の魔法具を構える。
そんなワイアットを見たナナリーもため息混じりに笑みを溢した。
そしてラムザへ向かうアルフィスに続いた。

「ここまで来たのなら、最後まで付き合わないといけないわね」

アルフィス、ナナリー、ワイアットの3人は、この世界で最強とも言える存在、"銀の獣"と呼ばれる化け物との戦闘を開始するのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...