113 / 200
風の国編
新たな旅路へ
しおりを挟むセントラルに到着したアルフィスとナナリーは北東門で別れることになった。
アルフィスはいろんな出会いを経験したが、その分、別れも多く複雑な気持ちでいた。
「ここでさよならね。あの時はありがとう」
「あの時?」
「マルロ山頂で私を引き止めてくれた。とても感謝してるわ」
アルフィスはその時のことを思い出していた。
何かすごく恥ずかしいことを言ったような気がして頭を掻いた。
「ああ、そうそう。これを」
「ん?手紙?」
ナナリーはアルフィスに封筒に入った手紙を手渡した。
「紹介状よ。私の友達が土の国の中央ザッサムで傭兵をやってるはずよ」
「傭兵?聖騎士がか?」
「ええ。土の国は治安があまりよくないから、商人は傭兵として聖騎士を雇うことが多い。彼女はそれを生業にしている」
アルフィスは怪訝な顔をしながら手紙を懐に入れた。
アルフィス自身、今度はどんな人間がバディになるのか大いに不安があった。
さらに死神ナナリー・ダークライトの友達となればなおさらだった。
「これでお別れね。アルフィス」
「ああ」
アルフィスとナナリーは握手した。
恐らくこの出会いも一期一会。
ナナリーとはもう会うことはないだろうとアルフィスは思った。
ナナリーもそれは少しわかっていたが、これまで見せたことがないような満面の笑顔で手を振り、アルフィスを見送ったのだった。
________________
アルフィスは久しぶりにまた魔法学校に顔を出していた。
相変わらずザックとライアン、レイアは笑顔で再会を喜んだ。
アルフィスは笑い話のように風の国での出来事を3人に話すと、みな顔を引き攣らせていた。
そして3人からビックリするニュースを聞いた。
"今年の対抗戦で優勝したのはアインとマーシャ"
アルフィスとってそれは喜ばしいことだった。
去年、決勝で戦った相手で、それもライバルのアインとマーシャとなればなおさらだった。
三人の話しだと二人はそれぞれ実家に戻ったのだろうとのことだったが詳細はわからなかった。
だがアルフィスはアインとはまたいつか会えるだろうと思い、魔法学校を後にした。
________________
アルフィスはセントラル南西門に到着した。
門の外には砂埃が舞っている。
この先は明らかに砂漠地帯であることは容易に想像できた。
「まさか、火の国よりも暑いとはな……」
アルフィスはそう言うとため息をついた。
そして二つ名特典を利用し、検問待ちの列を無視して進む。
列に並ぶ商人や魔法使い、聖騎士が颯爽と歩くアルフィスを見ていた。
「あ、あれ……魔拳のアルフィス!本物だ!」
「かっこいいなぁ……あれが二つ名で最強の魔法使い……俺、憧れてんだよなぁ」
「間違いなく次のシックス・ホルダーは"魔拳"だろうな」
アルフィスはそんな声が聞こえてきて悪い気はしなかったが、流石に恥ずかしくなって鼻を掻いた。
前世だと怖がられることの方が多く、憧れなんて程遠かった。
そして、この世界に来た時は低魔力で下級貴族、さらにその素行の悪さで馬鹿にされたが、今は違った。
"魔拳のアルフィス"は魔法使いの中ではもう知らぬ者がいない、憧れの存在となっていた。
「強くなった気でいると成長は止まる……か……」
いつだったかアゲハが口にしていた言葉を思い出す。
慢心は最大の敵、今回はさらなる力を手に入れるための旅だった。
アルフィスは門を抜け、一面に広がる砂漠を見渡していた。
いつもなら仲間がいたが、ここからは一人。
そしてアルフィスはまた何の計画も無しに入国してしまったことを思い出すと苦笑いし、ため息をつくのだった。
第三章 風の国編 完
________________________
アルフィスが門を抜けると周りにはテントが張られていた。
その中には木箱が多くあり、セントラルから土の国へ運ばれる物資であることらアルフィスにもわかった。
そこにその物資を一つ一つ確認している聖騎士がいたが、アルフィスはその聖騎士に見覚えがあった。
黒髪のショートカットで小柄、聖騎士学校の制服と軽い鎧を羽織っている。
それはアルフィスがセントラルの聖騎士宿舎で出会った実の姉のリリー・ハートルだった。
アルフィスは姉のことをどう呼んでいいのかわからなかったが、さすがに声もかけずに立ち去るのは家族としてどうなのかと思ったので、リリーに近づいて声をかけた。
「おう。姉さん!」
「ん?あんた……アルフィス……」
振り向いたリリーはアルフィスの姿を見ると、一気に怪訝な表情へ変わった。
明らかにアルフィスはリリーから好かれていなかった。
「あんた……いつ水の国から戻ったのよ」
「それは結構前の話しだな。最近まで風の国にいたんだ。ノアに呼ばれてな」
その言葉にリリーは驚いた。
聖騎士団団長を呼び捨てにすることもそうだったが、これほど早く水の国のダイナ・ロアへ行って帰ってきていたことは知らなかったのだ。
「それじゃ……母上は……」
「喜べ!治ったぞ!」
「そう」
アルフィスのテンションとは違い、リリーは全く嬉しそうではなく、そっけなかった。
そんなリリーの表情を見たアルフィスは首を傾げた。
「おいおい、嬉しくないのかよ」
「なんで?あんな女」
「……てめぇ今なんつった?」
一転したアルフィスのドスの効いた声にリリーは息を呑んだ。
だがリリーは怯まずため息混じりに語り出した。
「あんた、まだ気づいてないの?父親のこと」
「なんのことだ?」
「呆れた……あんたは頭いいからとっくに気づいてたと思ったけど……」
アルフィスは困惑した表情で首を傾げた。
リリーが言いたいことが全くわからなかった。
「あれは本当の父親じゃない。髪の色見れば分かるでしょ。ビショップはゴールド、私達はブラック。そしてリンはゴールド」
「まさか……」
「今さら気づいたの?リンはあの二人の娘だけど、私達は違う。あんたほんとにアルフィス?」
アルフィスはリリーの言葉に汗をかいた。
土の国が暑いというのもあるが、明らかにそれだけではない。
「あの二人は私達の本当の父親を殺したのよ」
「はぁ?母さんがそんなことするわけないだろうが!」
「私は二人が話しているのを聞いたのよ。間違いないわ」
アルフィスは納得できなかった。
あの父親はやりかねないとしても、アメリアがそんなことをするとは思えない。
「私、本当の父親の名前もその時に聞いてるもの」
「本当の父親の名前?」
「そうよ。私達の本当の父親の名前は"アルフォード・アルヴァリア"よ」
アルフィスは"アルフォード"という名前に聞き覚えがあった。
それは風の王が言っていたラムザの記憶の中に出てきた者の名前。
アルフィスは、アルフィス・ハートルの本当の父親である"アルフォード"という人物について何も知らないが、この時、ただ一つだけわかったことがあった。
"アルフォード・アルヴァリアは父であるビショップと母であるアメリアの二人によって殺されている"
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる