128 / 200
土の国編
小さな町の女王
しおりを挟む土の国 ライラス
アルフィス、クロエ、リオンの3人はライラスに到着した。
荷馬車がライラスの中に入ると、町の住民がニコニコしながらアルフィス達を見ていた。
さらに所々の建物の上にある悪魔のような彫刻が荷馬車に視線を向けているようで気味が悪かった。
そしてアルフィス達は初老の男性に案内され宿に着く。
宿の中に入ると、やはり店主は笑顔を崩すことなく応対し部屋に案内した。
部屋は二部屋取ったが、アルフィス達3人はその一部屋に集まっていた。
さほど大きくはない部屋にリオンはベッドに座り俯き、アルフィスとクロエは腕組みをしながら立っていた。
「一体どうなってる?聖騎士が領主だと?」
「"メイヴ"なんて聖騎士は聞いたことがない。聖騎士落ちかしら?」
「聖騎士落ち?」
「ええ。私みたいに騎士団から離れて活動している聖騎士のことよ。土の国では珍しくはない……でも領主だなんて……」
クロエはそう言って眉を顰める。
確かにその町の貴族の家系で娘が領主になる場合もある。
アゲハがそのいい例であるが、この町の状況はかなり違っていた。
「"メイヴ"という令嬢がいるなんて聞いたことないわ」
「だったら、どっから来たんだその聖騎士は」
アルフィスとクロエが首を傾げる中、俯くリオンがいきなり顔を上げて口を開く。
「まさか……マイアスと同じ状況なんじゃ……」
「どういうことだ?」
「マイアスの前領主は他の町から来たゾドムに追い出されてしまったんです。それで師匠が来るまでゾドムが仕切ってました……」
「なるほど。"メイヴ"という聖騎士がここの領主を追い出したというのは考えられる」
クロエはリオンの話に納得していた。
だがリオンは自分が言ったことに青ざめた。
まさかマイアスと同じ状況の町が存在することに怯えだしていた。
「ここの元領主ってのは?」
「ゼビオル家だったはず。最近先代が亡くなって息子が継いだと聞いたわ。息子はかなりの魔力の持ち主で魔法学校時代、対抗戦で優勝して帰ってきている」
「そりゃ興味あるな。だが追い出されてるんじゃ戦えんか……」
アルフィスはため息をつきながら頭を掻く。
だがクロエは少し考え、思い出したように口を開いた。
「いや、もしかしたらまだいるかもしれない」
「ん?何でそう言える」
「リオンの知り合いの首に巻きついた蛇のような砂。あそこまで細かい魔法操作ができる人間は少ない。そしてあの悪魔のような彫刻」
「ああ。あの悪趣味なやつか」
「ええ。私達の移動に合わせて首が若干動いていた。恐らく監視のために作られた魔法の彫刻よ」
「マジか!?」
アルフィス達がこの宿に着くまで、その悪魔のような彫刻は30体ほどはあった。
そこまで多くの土の彫刻を作る魔力とはどれほどなのかとアルフィスは息を呑んだ。
「あの彫刻、町の入り口の門の上にもあった。私達のような旅の人間もそうだけど、恐らく外で仕事をしている人間を監視するためのものと考えられる」
「なんでそんなことを……」
リオンは涙目になっていた。
ようやく奴隷という立場から抜け出したと思ったら、また現実を突きつけられ動揺していたのだ。
「リオン、さっきのは知り合いか?」
「はい……僕の村にいた親戚のルドルフおじさんです。母同様、村から逃げる時に離れ離れになってしまって……」
「ここに逃げてきたと考えても、あの扱いはひでぇな……」
「し、師匠……」
リオンは涙を流しながらアルフィスを見る。
アルフィスはそれに応えるようにニヤリと笑った。
「流石にこのまま見過ごせねぇな。情報ついでだ、おじさん助けっぞ!」
「師匠……ありがとうございます!」
リオンは号泣していた。
アルフィスはリオンのその表情を見て鼻を掻く。
クロエも笑み溢していた。
「だが、監視する彫刻なんて町中にある状態で、どうやって情報を得るかだな……」
「まぁ普通に観光しましょう」
「はぁ?」
「警戒心丸出しで行動したら逆に怪しまれる。この町を楽しむふりをして見て回ったほうがいいと思うけど」
「確かに……」
アルフィスはクロエの言葉に納得した。
町に入る人間の誰が敵だかもわからず、さらに土の彫刻の監視がある中で行動するなら"観光目的"というのを全面に出したほうが怪しまれない。
「あと、リオンの服装もなんとかした方がいい。そのボロ服じゃ目立つわ」
「え……」
リオンはクロエの発言に唖然とする。
服は確かにボロいが、マイアスを出る時に着替えていた。
普通の村人が着るような布の服だった。
「とりあえずリオンは休め、明日は俺達だけで町を見て回る」
「は、はい……」
「私は部屋戻る」
そう言うとクロエが部屋から出ていった。
それを見届けたアルフィスとリオンは旅の疲れからか、すぐに眠りについた。
____________
早朝、宿の入り口でストレッチをするアルフィスは通りすぎる町の住民を横目で追っていた。
住民達はニコニコとアルフィスにお辞儀しながら通り過ぎていく。
その住民達を監視するように町の建物の上にある悪魔のような彫刻は町の人間を監視するように首が少しづつ動いていた。
「どこもかしこも気味悪いな……」
アルフィスがそう呟くと後ろに気配を感じた。
振り向くとそこにはクロエが眠そうな目で立っていた。
「土の彫刻は住民を監視して、住民達は部外者を監視する……嫌な町ね」
「だな……てか、もしかして朝が苦手か?」
「ええまぁ。あんたは平気なのね」
「いや苦手だが、昔母さんが寝坊で人に迷惑かけるなってうるさかったんだよ。そしたら早起きになった」
「ふーん。いい母親ね」
クロエは目を擦りながら笑みを溢す。
アルフィスは何かを考えている様子で、そんなアルフィスを見たクロエは首を傾げた。
「どうしたの?」
「いや……変なこと聞くけどいいか?」
「なに?」
「無属性魔法に詳しいか?」
「母が使えたからそれなりにわかるけど」
「無属性魔法に"時を巻き戻す"魔法はあるか?」
アルフィスの発言にクロエは再び首を傾げる。
質問の意図が読めなかった。
「私が知る限り、そんな魔法は"無い"わ」
「そうか……」
「ただ……」
「ん?なんだ、何かあるのか?」
「いえ……なんでもない。行きましょう。ここにずっといたら怪しまれる」
「そうだな」
クロエは何かを言いかけたが、アルフィスはあまり気にしなかった。
そして2人は町の探索へ向かうのだった。
_____________
町自体はさほど大きくは無く、半日もあれば見て回れた。
アルフィスとクロエは建物が立ち並ぶ町の中心部にいた。
商店なども多く活気があった。
町は至って普通だった。
ただただ穏やかで町の住民もニコニコしながら歩いている。
初めは気味の悪さを感じていたアルフィスだが、ここまで平和だとこれが普通なのだと錯覚するほどだった。
「何にも無いな……」
「いえ、不自然よ」
「なに?」
クロエの言葉にアルフィスが反応する。
特に変わった部分なんて見受けられなかったからだ。
「女性と子供を見た?」
「確かにすれ違うのはみんな男ばかりだが……」
アルフィスは周囲を見渡す。
町ゆく人を見ても、みな男性ばかりで女性がいない。
また公園なども見たが、子供が遊ぶ姿が無かった。
「やっぱり何かあるわね」
「ああ。住民から聞き出せればいいんだが、あの土の彫刻がな……」
アルフィスがそう言ってため息をつく。
すると町の奥の方から珍しく慌てた様子の住民が走ってきた。
「メイヴ様だ!!メイヴ様がお通りになる!!」
その言葉にずっとニコニコしていた住民達は一気に真っ青になった。
そして皆が壁の方に寄ってしゃがみ込む。
アルフィスもクロエに促されて地面に膝をついた。
2人は横目で道の先を見るが、その光景に絶句した。
真っ黒な人間が4人、御輿を担ぐようにして台を肩に乗せて歩いてきた。
台の上には椅子があり、その椅子に女性が足を組んで座っている。
「な、なんだと……魔人なのか!?」
「声がデカい」
アルフィスが驚くのも頷けた。
真っ黒な人間は瘴気を放っている。
それは明らかに魔人だった。
椅子に座ってる若い女性は色白でショートカットの"銀髪"、そして絶世の美女とも言えるほどの容姿をしていた。
黒いビキニのトップスに黒いジーパンを身につけ、左手には長い剣の鞘を握っている。
さらに右手には白い包帯がぐるぐると指先から肩まで巻かれていた。
「おお、メイヴ様……」
周囲の男性は涙を流しながらメイヴという女性を見ていた。
その異様な光景にアルフィスとクロエは息を呑む。
そしてメイヴの乗る台を担ぐ魔人達はアルフィス達の目の前で止まった。
メイヴは台の上からアルフィスとクロエを見るとニヤリと笑う。
その不気味な笑顔を見たアルフィスとクロエは言葉を失っていた。
「客人とは珍しいな。安心するといい、この魔人達は完全に掌握している。誰にも手を出さぬよ」
「……」
「ただ、何か問題があれば……黙ってないかもしれないな」
そう言ってメイヴは高笑いすると、再び魔人達が歩き出した。
そして魔人達の後ろには台と長い鎖で繋がれた1人の男性がゆっくり歩いている。
ボサボサの金髪で褐色肌、ボロボロの布の服を着ており裸足。
それはまるで奴隷のようだった。
住民達はメイヴが見えなくなるまで地面に膝をついていた。
そして完全に見えなくなると立ち上がり、また笑顔で町を歩き出す。
アルフィス達も立ち上がると2人は顔を見合わせた。
「魔人を掌握してるだって?どういうことだ?」
「わからない……でも一つだけハッキリしたことがあるわ」
「なんだ?」
「私達は……"アレ"を倒さなせればならない」
クロエの言葉にアルフィスも納得する。
明らかにこの町はおかしい。
だがそれ以上に"メイヴ''という聖騎士の異様さは尋常ではなかった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる