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土の国編
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しおりを挟む土の国 ライラス
中央広場には土埃が舞い上がっていた。
逃げ惑う住民をよそに、アルフィスとクロエ、そしてメイヴとゾルディアが向かい合う。
その距離は10メートルほどだった。
アルフィスの眼光にメイヴの後ろに立つゾルディアが後退りする。
それは牢獄で会った時のアルフィスとは違い、"魔拳"の眼光であるのだと息を呑む。
一方、メイヴはニヤリと笑い、長剣を持つ左手に力を入れた。
逆に右腕は真っ黒で禍々しい形をしている。
「ゾクゾクする目だな……この戦いに勝利したら戦利品としてその目をもらおうか」
不気味な笑みを浮かべるメイヴだが、アルフィスは微動にもしない。
「一つ聞きたい。ここにいた女、子供はどこへ行った?」
「ああ。彼女らは"グランド・マリア"へ送ったよ」
アルフィスは首を傾げた。
聞き覚えのない言葉に困惑する。
しかし、隣に立つクロエは違った。
「あれは今どこを移動してる!!」
「ん?お前、"グランド・マリア"を知ってるのかい?これは失言をしたな……」
「知ってるさ……嫌というほどな!!」
クロエはメイヴに向かって猛ダッシュした。
ショートソードを左下に構え、メイヴを斬撃の間合いに捉える。
しかし、その瞬間、クロエが立つ地面が土で盛り上がり、数メートル上空へ飛ばされてしまった。
「なに!?」
「ゾル、よくやった」
笑みを溢すメイヴは、勢いよく右腕を宙へ向けると、その腕がみるみると伸びてクロエの首を掴む。
そしてそれを一気に振り下ろし、クロエを地面に叩きつけた。
「がはぁ!」
「クロエ!!」
アルフィスはすぐに左足のバックから火の魔石を取り出すと宙へ投げ、右ストレートで打ち出す。
そしてその場から一瞬で姿を消す。
火の魔石は弾丸のようなスピードで飛び、それはメイヴの心臓へ向かった。
だが、またも地面から土が盛り上がった。
その土は"手の形"をしており、火の魔石を手のひらで受け止めて即座に握る。
着弾の際の炎は起こらなかった。
アルフィスはメイヴの目の前にある土の拳に高速の右ストレートを叩き込み粉砕する。
その大ぶりの隙を狙ってメイヴは前にダッシュし、左手に持つ長剣の横薙ぎ払い攻撃をおこなった。
「これで首を落とす!!」
メイヴの斬撃は完全にアルフィスの首元までせまった。
その瞬間、アルフィスの左横から現れたクロエが渾身の蹴り上げでメイヴの長剣を弾いた。
メイヴはその衝撃で仰反る。
アルフィスはそれを見逃さず、一歩踏み込んで右のボディブローをメイヴの腹に叩き込んだ。
「うぐぁ!!」
ズドンという轟音が周囲に響き渡る。
アルフィスが拳を振り切るとメイヴは数メートル後方に吹き飛ばされる。
アルフィスはすぐさま両足の太もものバッグから火の魔石を取り出して握りつぶす。
「炎嵐《フレイム・テンペスト》!!」
左右の黒獅子のグローブは炎を纏ったと同時にアルフィスは吹き飛んだメイヴへ向かって瞬間移動した。
メイヴの目の前に現れたアルフィスは左ストレートを放つ。
メイヴはそれを右腕を前にしたクロスガードで防いだ。
アルフィスのストレートの"衝撃"は伝わるが、炎が打ち消されてしまう。
構わず高速で炎を纏った右ストレートを放つが、こちらも炎は消され"衝撃"だけのダメージだった。
そしてアルフィスの魔法は解除される。
さらに後方に吹き飛ばされたメイヴは、なんとか右手で地面を引っ掻き、ブレーキをかける。
だが、メイヴとゾルディアの位置が入れ替わり、ゾルディアの後方にメイヴがいる状態だった。
そのチャンスを見逃すまいと、クロエは猛スピードでゾルディアへ向かう。
「く、くそ!」
焦るゾルディアは"土壁"や"土の拳"でそれを止めようとするが、クロエ場その全てを回避してゾルディアに辿り着いた。
その際、数回の回転を加えた回し蹴りをゾルディアの頭目掛けて放ち、その攻撃を受けたゾルディアは数十メートル吹き飛ばされて気を失った。
アルフィスもクロエの元へ駆けつけて横に並ぶ。
数メートル先には息を切らすメイヴが片膝をついていた。
「これで終わりだ!メイヴ!」
「……ふふひひひひ」
アルフィスの言葉に不気味に笑うメイヴ。
2人はそのメイヴの表情に困惑しているが、気づくと周囲に気配があった。
戦いに集中しすぎてわからなかったが、周りには10体を超える魔人がアルフィス達を取り囲むようにして立っていた。
「こりゃ……マズイな……」
「え、ええ……この数を相手にするのは流石に……」
アルフィスとクロエは息を呑む。
そんな中、メイヴはゆっくり立ち上がると禍々しい右腕を掲げた。
「さっきも言ったろうに……魔人どもには邪魔はさせん……私は自分で"ヤル"のが好きなんだよ!!」
メイヴの叫び声が広場にこだまし、その声に反応するかのように周囲の魔人が一斉に苦しみだした。
「な、なにをする気だ?」
「魔人の瘴気が……」
クロエは魔人達の瘴気がみるみるメイヴの右腕に吸収されていることに気づく。
その量は尋常ではない量で、メイヴの白い肌は徐々にドス黒く染まりだし、ついには完全に黒色く変色してしまった。
「ワタシは……ホメテもらうんダ……お父サマニ……」
そこにいるのはもはや人間ではなかった。
真っ黒で、顔が無く、口は裂け、禍々しいほどの腕を持つが、体は女性らしさが残る。
銀髪の髪も黒く染まり、身体中から夥しい量の瘴気が放たれていた。
「やべぇな……こいつは……」
「やるしかない……わよね……」
アルフィスとクロエはそのメイヴの変わり果てた姿に息を呑む。
そしてこのメイヴの覚醒によってライラス最終決戦へ突入した。
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