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土の国編
ジバールの死闘(3)
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薄暗い部屋。
部屋自体はそう広くはない。
真ん中のテーブルにただ蝋燭が一本だけ立ち、その火が暗闇の部屋を照らしている。
部屋には2人の男がいた。
どちらも髪が長く銀髪でロングコートを羽織る。
1人は髪を後ろで束ねていて細身の男だ。
もう1人はボサボサの整えられていない髪で体格がいい男。
細身の男はテーブルの前に立ち、ゆらゆらと揺れる蝋燭の火を腕を組み無表情で見ている。
体格のいい男は部屋の隅にあるソファに足を組んで座っていた。
「水の国か……"マリア"の捜索は頼んだよ。ジレンマ」
細身の男が体格のいい男、ジレンマに対して言った。
その表情は相変わらず無感情だ。
「了解。だが、最初はお前が行くはずだったろ、アルフォード」
ジレンマの言葉にアルフォードと呼ばれた細身の男は少し笑みをこぼした。
「魔女達が"セカンドを行かせた方がいい"と口を揃えて言っていた。僕がこの国に残ることに意味があるのか、君が水の国へ行くことに意味があるのかはまだわからない」
「まぁなんだっていい。ついでに"黒水"もばら撒いてくる。これにも意味があるんだろ?」
「ああ。そのようだ」
「だがあの男と行くことはあまり気乗りしないな」
ジレンマはその男のことを思い出すと吐き気がした。
いつも横柄な態度で弱いくせに人を見下す性格が気に食わなかったのだ。
「君のその体格だと"医者"というより"護衛"だろう。それにああいう人間が一番操りやすい」
アルフォードがそう言うとジレンマは怪訝そうな顔をした。
薄暗い部屋だが、ジレンマのその顔は見えていた。
その表情を見て、よほど嫌なのだろうとアルフォードは思った。
「水の国に強い奴でもいたら少しは気も紛れるんだがな」
「君はそればかりだね。けど、もしかしたら水の国で強者に出会えるかもしれないよ」
「俺と対等に戦える人間がいるとは思えん。ジョーですらあのザマだ」
「ジョーか……懐かしいな。そういえばジョーで思い出したが、かなり昔にマリアから面白い話を聞いたことがある」
「面白い話し?」
ジレンマは身を乗り出した。
強い人間の話しだとするならジレンマは気になって仕方ない。
「ああ。"炎の男が王を超える"という話だ」
「炎の男?それが予言の男だっていうのか?」
「最強の魔女の話しだ。恐らく確実だろう」
「興味あるね。どんな見た目だ?どんな戦い方をする?それはわからんのか?」
「どうやらインファイトをするらしい。それこそ"ジョー"と同じような戦い方のようだ」
「魔法使いがインファイト?魔石を蹴り飛ばして距離を詰めて体術で戦うのか?そんな魔法使いいると思えんがな」
「君のお遊びのように拳で飛ばすかもしれないよ?そういえば最近、魔法学校に入った僕の息子が拳で戦うと聞いた。だがさすがに魔力が低すぎて火を出す中級以上の魔法は使えないようだし、魔石も使わない」
ジレンマは馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
アルフォードの息子というなら少し期待はしたが、火すら出せない低魔力の魔法使いが王を倒せるとは思えない。
「だが、もしかしたら……」
「お前の息子の名は?」
「アルフィスだ。アルフィス・ハートル」
「しかし魔法で"火"すら出せないんじゃ違うだろう。"炎の男"とは呼べないと思うがね」
「いや、人は成長する。過程の中で何か掴むかもしれない」
「またそれか……それに息子に肩入れか?」
「息子だから贔屓《ひいき》しているわけじゃないさ。だけど期待はしたい。それが親心というものだよジレンマ」
「よくわからんな」
「それにアルフィスがもし"アレ"に気づいていたなら……」
「アレ?……って昔に話していたスキルのことか?それは有り得んだろう。お前が言うようなスキルの組み合わせを刻む魔法使いはいない。それに宝具のデメリットすら知らないだろ」
「それは問題ない。手は打ってあるんだ」
「なんだと?」
「魔法使いがこの国の宝具を使う唯一の方法はこのスキル構成しかない。そして火の魔法使いであることが絶対条件だ。もしアルフィスがそこに辿り着いていたとするなら宝具は彼のもとへ向かう可能性が高い」
「いや……宝具は俺が使う。お前の息子がその事実に辿り着いていようとな」
「ふふ。強情だね」
「その"炎の男"を殺せれば予言なんて無かったのと同じだ。俺はそれをやり遂げてやるよ。お前の息子が"炎の男"だったとしてもな」
「それもまた見てみたいものだ」
ジレンマはアルフォードのその言葉を聞いて眉を顰めた。
息子を殺すと言っているのに笑みを溢すアルフォードという男。
アルフォードとは長い付き合いだったが、そんなジレンマですら、この男の考えてることはよくわからなかった。
____________
土の国 ジバール
土色の街並みの中、日差しが強く、たまに強く吹く風で土埃が舞い上がっている。
ワイアットは地面に片膝をつき、目の前で起こった出来事に息を呑んだ。
ジレンマが解放した真っ黒な右の片翼は横に広がり、さらにその赤黒いオーラで空間を歪めている。
右腕から右肩、右胸にかけてもドス黒い鎧のようなものが覆っていた。
そしてジレンマの右目は赤黒く発光し、髪の色が赤黒くなっている。
「久しぶりの黒衣解放だ。存分に楽しませてもらう」
ジレンマはニヤリと笑う。
ワイアットは立ちあがろうと足に力を入れるが、ジレンマの姿に無意識に足が震えて立てなかった。
「立てないのか?ならこちらからいくぞ」
ジレンマがそう言うと黒い右腕を前に出す。
すると横に広がった片翼がその腕を包み込み、その腕は槍のようになった。
ジレンマはさらに一歩踏み出すと、時計回りに一回転しながらその右腕を横に薙ぎ払う。
ワイアットは一瞬でその行動の危険さを察知し、体制を低くした。
「勘がいいな」
ワイアットの頭のスレスレを何かが通った。
すぐに左右を見ると周囲の家屋が横に両断され、さらに時間差で両断された上の部分が粉々になって後方に吹き飛んでしまった。
ワイアットが振り向くと、それは町の入り口あたりまで両断されていた。
そのデタラメな力にワイアットはもはや唖然としている。
「こ、これで"少し本気"?冗談だろ……」
「いや"少し"さ。これで50%ほどだ」
ジレンマの言葉にワイアットは絶句した。
これで半分の力しか出していない。
明らかにサードと言われたラムザより数倍の強さをワイアットは感じた。
「インファイトでいくか」
ジレンマがそう言うと片翼はまた横に広がる。
そしてその翼を一度羽ばたかせた瞬間、ジレンマはビュンとその場から消えた。
その行動は早すぎた。
ジレンマはワイアットの後方に立っている。
そのドス黒い右手にはワイアットの右肩から切り落とした右腕を持っていた。
「ほんとに勘のいい男だ。心臓を狙ったが、少し体をずらして回避したか」
そう言いながら切り落としたワイアットの右腕を横に放った。
ワイアットはあまりの痛みに肩を押さえて両膝を地面について俯く。
肩からは大量の血が流れ出てきている。
もはやワイアットの魔力覚醒状態は解除され、髪の色は元に戻っていた。
「次で完全に終わりだ。来世で会おう迅雷のワイアット」
「ク、クソ……こいつは……アルフィスよりも速い……」
ワイアットの意識は薄れた。
ジレンマは再び片翼を広げ、無情にもその翼は羽ばたいた。
そして一瞬にしてその場から消えると、背を向けるワイアットの元へ凄まじいスピードで向かった。
部屋自体はそう広くはない。
真ん中のテーブルにただ蝋燭が一本だけ立ち、その火が暗闇の部屋を照らしている。
部屋には2人の男がいた。
どちらも髪が長く銀髪でロングコートを羽織る。
1人は髪を後ろで束ねていて細身の男だ。
もう1人はボサボサの整えられていない髪で体格がいい男。
細身の男はテーブルの前に立ち、ゆらゆらと揺れる蝋燭の火を腕を組み無表情で見ている。
体格のいい男は部屋の隅にあるソファに足を組んで座っていた。
「水の国か……"マリア"の捜索は頼んだよ。ジレンマ」
細身の男が体格のいい男、ジレンマに対して言った。
その表情は相変わらず無感情だ。
「了解。だが、最初はお前が行くはずだったろ、アルフォード」
ジレンマの言葉にアルフォードと呼ばれた細身の男は少し笑みをこぼした。
「魔女達が"セカンドを行かせた方がいい"と口を揃えて言っていた。僕がこの国に残ることに意味があるのか、君が水の国へ行くことに意味があるのかはまだわからない」
「まぁなんだっていい。ついでに"黒水"もばら撒いてくる。これにも意味があるんだろ?」
「ああ。そのようだ」
「だがあの男と行くことはあまり気乗りしないな」
ジレンマはその男のことを思い出すと吐き気がした。
いつも横柄な態度で弱いくせに人を見下す性格が気に食わなかったのだ。
「君のその体格だと"医者"というより"護衛"だろう。それにああいう人間が一番操りやすい」
アルフォードがそう言うとジレンマは怪訝そうな顔をした。
薄暗い部屋だが、ジレンマのその顔は見えていた。
その表情を見て、よほど嫌なのだろうとアルフォードは思った。
「水の国に強い奴でもいたら少しは気も紛れるんだがな」
「君はそればかりだね。けど、もしかしたら水の国で強者に出会えるかもしれないよ」
「俺と対等に戦える人間がいるとは思えん。ジョーですらあのザマだ」
「ジョーか……懐かしいな。そういえばジョーで思い出したが、かなり昔にマリアから面白い話を聞いたことがある」
「面白い話し?」
ジレンマは身を乗り出した。
強い人間の話しだとするならジレンマは気になって仕方ない。
「ああ。"炎の男が王を超える"という話だ」
「炎の男?それが予言の男だっていうのか?」
「最強の魔女の話しだ。恐らく確実だろう」
「興味あるね。どんな見た目だ?どんな戦い方をする?それはわからんのか?」
「どうやらインファイトをするらしい。それこそ"ジョー"と同じような戦い方のようだ」
「魔法使いがインファイト?魔石を蹴り飛ばして距離を詰めて体術で戦うのか?そんな魔法使いいると思えんがな」
「君のお遊びのように拳で飛ばすかもしれないよ?そういえば最近、魔法学校に入った僕の息子が拳で戦うと聞いた。だがさすがに魔力が低すぎて火を出す中級以上の魔法は使えないようだし、魔石も使わない」
ジレンマは馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
アルフォードの息子というなら少し期待はしたが、火すら出せない低魔力の魔法使いが王を倒せるとは思えない。
「だが、もしかしたら……」
「お前の息子の名は?」
「アルフィスだ。アルフィス・ハートル」
「しかし魔法で"火"すら出せないんじゃ違うだろう。"炎の男"とは呼べないと思うがね」
「いや、人は成長する。過程の中で何か掴むかもしれない」
「またそれか……それに息子に肩入れか?」
「息子だから贔屓《ひいき》しているわけじゃないさ。だけど期待はしたい。それが親心というものだよジレンマ」
「よくわからんな」
「それにアルフィスがもし"アレ"に気づいていたなら……」
「アレ?……って昔に話していたスキルのことか?それは有り得んだろう。お前が言うようなスキルの組み合わせを刻む魔法使いはいない。それに宝具のデメリットすら知らないだろ」
「それは問題ない。手は打ってあるんだ」
「なんだと?」
「魔法使いがこの国の宝具を使う唯一の方法はこのスキル構成しかない。そして火の魔法使いであることが絶対条件だ。もしアルフィスがそこに辿り着いていたとするなら宝具は彼のもとへ向かう可能性が高い」
「いや……宝具は俺が使う。お前の息子がその事実に辿り着いていようとな」
「ふふ。強情だね」
「その"炎の男"を殺せれば予言なんて無かったのと同じだ。俺はそれをやり遂げてやるよ。お前の息子が"炎の男"だったとしてもな」
「それもまた見てみたいものだ」
ジレンマはアルフォードのその言葉を聞いて眉を顰めた。
息子を殺すと言っているのに笑みを溢すアルフォードという男。
アルフォードとは長い付き合いだったが、そんなジレンマですら、この男の考えてることはよくわからなかった。
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土色の街並みの中、日差しが強く、たまに強く吹く風で土埃が舞い上がっている。
ワイアットは地面に片膝をつき、目の前で起こった出来事に息を呑んだ。
ジレンマが解放した真っ黒な右の片翼は横に広がり、さらにその赤黒いオーラで空間を歪めている。
右腕から右肩、右胸にかけてもドス黒い鎧のようなものが覆っていた。
そしてジレンマの右目は赤黒く発光し、髪の色が赤黒くなっている。
「久しぶりの黒衣解放だ。存分に楽しませてもらう」
ジレンマはニヤリと笑う。
ワイアットは立ちあがろうと足に力を入れるが、ジレンマの姿に無意識に足が震えて立てなかった。
「立てないのか?ならこちらからいくぞ」
ジレンマがそう言うと黒い右腕を前に出す。
すると横に広がった片翼がその腕を包み込み、その腕は槍のようになった。
ジレンマはさらに一歩踏み出すと、時計回りに一回転しながらその右腕を横に薙ぎ払う。
ワイアットは一瞬でその行動の危険さを察知し、体制を低くした。
「勘がいいな」
ワイアットの頭のスレスレを何かが通った。
すぐに左右を見ると周囲の家屋が横に両断され、さらに時間差で両断された上の部分が粉々になって後方に吹き飛んでしまった。
ワイアットが振り向くと、それは町の入り口あたりまで両断されていた。
そのデタラメな力にワイアットはもはや唖然としている。
「こ、これで"少し本気"?冗談だろ……」
「いや"少し"さ。これで50%ほどだ」
ジレンマの言葉にワイアットは絶句した。
これで半分の力しか出していない。
明らかにサードと言われたラムザより数倍の強さをワイアットは感じた。
「インファイトでいくか」
ジレンマがそう言うと片翼はまた横に広がる。
そしてその翼を一度羽ばたかせた瞬間、ジレンマはビュンとその場から消えた。
その行動は早すぎた。
ジレンマはワイアットの後方に立っている。
そのドス黒い右手にはワイアットの右肩から切り落とした右腕を持っていた。
「ほんとに勘のいい男だ。心臓を狙ったが、少し体をずらして回避したか」
そう言いながら切り落としたワイアットの右腕を横に放った。
ワイアットはあまりの痛みに肩を押さえて両膝を地面について俯く。
肩からは大量の血が流れ出てきている。
もはやワイアットの魔力覚醒状態は解除され、髪の色は元に戻っていた。
「次で完全に終わりだ。来世で会おう迅雷のワイアット」
「ク、クソ……こいつは……アルフィスよりも速い……」
ワイアットの意識は薄れた。
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