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土の国編

ミス・ブレアンナ

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砂漠地帯、もう夕刻付近ではあるが暑さは残る。
銀髪の男は黒いロングコートのポケットに手を入れ、ゆっくり歩く。
時より強く吹く風にコートが揺れていた。

数メートル先、向かい合うシリウスは後方の聖騎士に下がるように伝え、左腰に差したステッキ型の杖を抜いた。

その杖を見た銀髪の男は歩みを止める。
少し驚いた表情をしているが、すぐに無表情へと変わった。

「どうしたんじゃ?ワシと戦うのだろう?」

「……」

無表情だった銀髪の男はフッと吹き出し、笑みをこぼす。

「まさか……シリウス・ラーカウがそんな"おもちゃ"で戦うとは……宝具はどうした?」

「答える義理はない」

銀髪の男はため息をついた。
そして徐にその場にしゃがみ込むと地面に左手を当てる。
すると地面からブクブクと黒い液体が溢れ出してきた。
そしてその液体は形を成していき、最後には2ートル半ほどの人型の姿になった。

その黒い人形のようなものには顔は無く細身の体型をしており、瘴気を全身から放つ。
特徴的なのは両手の鋭利な爪で、それは完全に魔人だった。

「サファイアス……彼を楽にしてやれ」

"サファイアス"と呼ばれた魔人はビュンとその場から消えた。
一瞬にしてシリウスの目の前に現れると、右腕を振り上げ鋭利な爪で切り裂こうとしていた。

だがシリウスは驚くこともなく、ぶつぶつと小声で何かを唱えた。

そしてステッキ型の杖を少し前に出すと、ドン!という轟音と共にサファイアスは数十メートル吹き飛び地面を転がる。
しかしサファイアスは起き上がることなく、またその場からビュンと消え、シリウスの目の前に現れ、引っ掻きモーションを取っていた。

「操り人形ではワシには勝てんよ」

そう言って、今度は大きく杖を横に振った。
するとまたしてもドン!という音の後、サファイアスは再度、数十メートル吹き飛んで地面を転がった。

銀髪の男が倒れて踠《もが》くサファイアスの胸の辺りを見ると丸く風穴が空いていた。
サファイアスはドロドロと溶け始め、黒い液体になると、最後は土に吸収されるように消えていった。

「甘く見ていたようだ……どの属性の魔法を使ったのかすらわからないのもそうだが、瘴気を纏う魔人を魔法で吹き飛ばすとは。どんな原理だ?」

「おぬしが来るか?」

シリウスはニヤリと笑い、銀髪の男に尋ねる。
銀髪の男も少し笑みを浮かべていた。

「いや、もう一つ出そうか」 

そう言うと、銀髪の男が立つ場所にドロドロとした黒い液体が円形に大きく広がり、さらに"蒸気"のようなものが上がっていた。

「させん」

シリウスは再度、杖を横に振る。
高速で目に見えない風の刃が銀髪の男に向かう。
だがドロドロの液体の範囲に到達した風の刃は一瞬にして消えてしまった。

「その蒸気はエンブレムか……」

「御名答。最後に忠告しておくが、後ろの聖騎士も戦わせたほうがいい。でないとあなたはここで死ぬことになる」

「……」

シリウスは銀髪の男の発言した瞬間、少し振り向き後方を見た。
聖騎士達は馬から降りて抜剣し、剣を前に構えているが、その持つ手は震えていた。

「ワシが死んだら、この子らをどうする?」

「殺すのが得策……と、言いたいとのろだけど僕は殺戮者じゃない。あなたの願いなら生かしておこう」

「そうか……」

「けど、少し実験には協力してもらう」

「実験じゃと?」

「ああ。今ちょっとした実験をしててね。まぁ大したことはない」

その発言にシリウスは眉を顰めた。
シリウスのその表情を見てか銀髪の男はハッと気づいたように口を開く。

「ああ、変な意味じゃないよ。今、エンブレムを解除する実験をしてる」

「エンブレムを解除じゃと?」

「そうだ。女性からエンブレムを剥がそうとしてるだけさ」

シリウスの後方に立つ聖騎士達はゾッとした。
この銀髪の男はただ無表情でそれを語っているが、逆にそれが不気味だった。

「魔女を増やす気か?」

「まぁ、それもあるね。魔女は嘘つきだから。いっぱいいるに越したことはない」

「そんなに未来が見たいのか?」

「好きに解釈するといい。おしゃべりはここまでだ。特別に僕が作った"最強の魔人"を見せるよ」

そう言うと周囲に広がった黒い液体がまた一塊になり人の姿を形作った。
それは先ほどとは違い、160センチほどの女性的な体型だった。

「"ミス・ブレアンナ"」

シリウスと、その後方に立つ聖騎士は絶句した。
それは女性姿の魔人の"色"を見てのことだった。

体の全体が
髪の毛や顔は無い。
ただ、その透明感ある肌は周囲の風景を鏡のように写している。

「なんという……これを……作ったじゃと……」

「"これ"とは失礼な……彼女は元聖騎士、君たちの仲間だよ。見てくれ、このフォルムを、美しいだろ?」

「貴様……一体、何者じゃ……」

「ん?僕かい?僕はアルフォード・アルヴァリア。みんなは"アル"って呼ぶ」

アルフォードと名乗った銀髪の男は満面の笑みだった。
それは自分が作った最高傑作をお披露目できたことの嬉しさに他ならない。

そしてその笑顔を見たシリウスは思った。
この"アルフォード"という男は生かしておいてはならないと。
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