地上最強ヤンキーの転生先は底辺魔力の下級貴族だった件

フランジュ

文字の大きさ
185 / 200
火の国編

黒穢れのレディ・ナイト(1)

しおりを挟む


火の国 中央ラザン

セレスティー家


夕刻、日は落ちかけていた。
焼けて倒壊したセレスティー家の屋敷を背負うようにして立つアルフィスは、数十メートル先の黒い鎧の女騎士を睨む。

その鎧の左背中には3本の細い羽根があり、胸元には、ただ一点だけ小さく光る赤い宝石のようなものが埋め込まれている。
さらに体全体から禍々しい漆黒のオーラが漂っているが、アルフィス自身、今まで経験したことのないほどの異様な気配に警戒心を強めていた。

アルフィスの後ろにいるセレンとレイアも息を呑む。
この黒い女騎士の強さは尋常ではない。
セレスティー家には恐らく空を飛んできたと推測される。
黒い女騎士が着地したであろう場所は、少しクレーターのように地面がへこんでいた。
空を飛ぶなんてことができる聖騎士、いや、人間はこの世界には存在するはずは無かったのだ。

「なんだ……この違和感は……」

アルフィスの言葉だった。
眉を顰めて、黒い女騎士を見る。
女騎士は広げていた羽を鎧の中に収納すると、おもむろにしゃがみ、地面の"影"から、ゆっくりと剣を引き抜く。
その剣からは、さらに大きな漆黒のオーラが放たれ、見ただけで吐き気を感じさせるほどだ。

「そうか……こいつ、やべぇ気配してるくせして闘気が見えない……」

それがアルフィスの違和感だった。
数十メートル離れていても、普通なら闘気は見える。
子供でも"モヤモヤとした闘気"はあるくらいだが、目の前の黒い女騎士からは、それが見えなかった。

瞬間、ほんのわずか、極細い白い糸のようなものが左から右へ、アルフィスの前を横ぎる。

「なんだ!?」

目の前には、もう黒い女騎士がいた。
凄まじいスピードで右手に握られた漆黒の剣を左から右へを振るう。
アルフィスは、すぐさま反応すると、上体を後ろへ倒して横振りの斬撃を回避する。
振り切られたモーションを目で追って確認すると、アルフィスはすぐに上体を起こし、そのまま顔面狙いで、右ストレートを放った。

爆炎衝撃バーニング・インパクト!!」

その攻撃は黒い女騎士の兜に直撃する。
凄まじい爆発は2人の体全体を包み込み、爆煙が上がった。
爆発の衝撃で、吹き飛ばされた黒い女騎士は黒煙から飛び出す。
空中で後ろに一回転すると、何事もなかったように着地するが、黒い兜には少しヒビが入った。

「なんて硬さだ……今ので破壊できんとは……」

「……」

「しかし……お前……いや、そんなはずはない……」

アルフィスが、そう呟くと同時に、黒い女騎士は剣を地面に擦り付けるように下から上への斬撃を放つ。
その斬撃は"巨大な黒い衝撃波"となり、アルフィスへと向かった。

「見えてないわけじゃない……ただ、見えづらいだけだ」

アルフィスは地面を踏みつけるように、足を前に出して蹴る。
その瞬間、地面は"黒い衝撃波"へと向かって割れ、さらに"黒炎の柱"が吹き上がった。

「"烈震発火イグナイト・バースト"」

"黒い衝撃波"と"黒炎の柱"は相殺し消える。
お互いが、それを確認すると、2人はビュン!とすぐにその場から消えた。

一直線、地面に"黒い炎"が走り、それに向かうように"黒い瘴気"が地面を走る。
瞬く間に、その二つは出会い、真っ黒な波動が周囲へと広がった。

アルフィスの右ストレートと、黒い女騎士の両手持ち縦切りが衝突したのだ。
数秒、押し合いが続くが、二つのパワーは同等だった。

2人は、ぶつかった衝撃でどちらも数十メートル空中へ吹き飛ばされる。
最初に着地したのは黒い女騎士。
すぐさま剣を下に構え直すと、前に身を乗り出しダッシュ体勢だ。

だが、アルフィスは、空中で停滞中に行動を起こしていた。
相手に向かって左の手のひらを広げると、そこに黒い炎がどんどん吸収されるように集まる。

「"魔力収束"……」

アルフィスの言葉に反応するように、炎は高速で一点に集まり、大きい黒炎の玉ができる。
しかし、それはすぐに小さくなり、最後にはビー玉程度の大きさになる。

「"炎龍巨星ドラグニック・メテオ"」

アルフィスは右拳を腰に溜める。
空中ではあったが、そこから渾身の右ストレートで黒炎の玉を殴り、振り抜いた。

黒炎の球は"線"になって、ハイスピードで飛ぶ。
まさにレーザー砲だった。

"漆黒のレーザー砲"の到達は一瞬。
反応した黒い女騎士は剣を横に振る。
レーザーは横に真っ二つに切られていくと、"線"は歪に地面に落ち細く抉った。

黒い女騎士は剣で斬っている際中に、凄まじい量の黒い瘴気を周囲に放ち、その粒子でレーザー砲の威力を軽減させる。
そのまま剣を振り抜くと、衝撃波で残りのレーザーを掻き消してしまった。

「マジか……かなりの魔力入れたんだぞ……」

驚きつつ、アルフィスは地面に着地した。
なぜかわからないが、アンチマジックの能力を帯びていない黒い瘴気たが、明らかに"レーザー"という攻撃の弱点を見抜いて放ったものだった。
レーザーは水蒸気や煙など、大気中に漂う粒子で威力が落ちる。

瞬間、またも細い糸のようなものが、アルフィスの胸の辺りへ伸びてきた。

「もう、わかってるぜ!!」

左腰に魔力を集める。
黒炎はすぐさま剣の姿へ変わった。

目の前に一瞬で現れた黒い女騎士は、アルフィスの胸目掛けて、突きのモーションを取っていた。
それは完全に心臓狙い。
だがアルフィスは冷静だった。

「天覇一刀流・雷打!!」

左腰に構えた黒炎剣を引き抜き、柄頭を黒い女騎士が持つ剣の刃部分に当てる。
すると、バンザイする形で仰け反り、体が無防備になった。
黒炎剣は、すぐにアルフィスの両腕のガンドレットに吸収され、腕に大きな黒炎を纏う。

アルフィスはそのまま、左足を一歩前に踏み出し、左拳のボディブロー。
ズドン!という爆発音と衝撃波が周囲に熱波となって広がる。
痛みからか、あごが下がった瞬間、右拳のアッパーを、ヒビが入った黒兜へと叩き込んだ。

右拳も大きな爆発を起こし、黒い女騎士は吹き飛び地面を転がる。
転がりざま、片膝と剣を地面に突き、しゃがみ込むようにして耐えた。

俯きつつ、ゆっくり立ち上がる黒い女騎士を、アルフィスは鋭い眼光で睨む。

今の攻撃によって、黒い女騎士の兜が徐々に割れた。
そして砕けた兜の破片が全て地面に落ちる。

あらわになったのは、肩にかかるほどの三つ編みで全て銀色の髪。
アルフィスを冷ややかな眼差しで睨む、その顔はやはり女性。
その顔には見覚えがあった。

「なんで……お前が……ヴァネッサ!!」

「アルフィスさん……」

眼鏡はかけておらず、目は真っ赤で、顔には黒い血管がうように浮き出る。
そして女性にしては低い声。

薄々はわかっていた。
アルフィスが見た、"極細い白い糸"はヴァネッサの闘気だったのだ。

この禍々しいほど歪んだオーラは何度もアルフィスが戦った敵。

それは完全に"魔人"のものだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...