最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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英雄達の肖像編

陽炎

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スペルシオ家 演習場


そこは屋敷の裏にある広い庭を利用して作られた場所だった。

芝生が一面に生え、屋敷に近い場所には木で作られた木人が横一列に並ぶ。

中央にはガイとゼニアが向かい合って立つ。
ガイの後方にはローラがいた。

「やっぱり無茶だよ……」

「やるって言ったんだ。男に二言はない」

ガイは数十メートル先のゼニアを鋭い眼光で睨む。
一方、ゼニアは笑みを溢していたが、その中でも思考していた。

ゼニアは、目の前に立つ少年の姿は異様だと思った。
なにせ背中に2本、両腰に2本、両太ももに2本、左足に1本の計7本ものダガーを身につけている。

何かの冗談なのか、それとも秘策なのか、ゼニアにはわからなかった。
そしてガイという少年と戦うにあたって、どうしても気なることが、もう一つあった。

「一つ聞きたいことがあるんだけど」

「なんだよ」

「あなたの波動数値は?」

「俺の波動数値?俺は"7"だよ」

「え?」

ゼニアは困惑した。
自分の聞き間違いだろうかと。
見るからに平民であるし、ローラから129万という波動数値は聞いたはず。
それでも前に立つとなれば、それなりの波動数値であるだろうと思っていたのだ。

「なにかの冗談よね?」

「冗談じゃねぇよ。俺の波動数値は"7"だ。何度も言わせんな」

「まさか……ローラと同じ"一桁台"がいるなんて……」

そう言って眉を顰めるゼニア。
今まで色んな人間に出会った。
近くにいる人間で波動数値を知らない者も確かにいるが、"一桁台"はガイで2人目だった。

「一桁台同士でお似合いのカップル……と言いたいところだけど。そう話は簡単じゃないわ」

「わかってるさ」

「でも、低波動相手に本気出したら大人気ないから、私は波動を使わない」

「なんだと?」

「だって、私が波動を使ったら、あなたを殺してしまうから」

ゼニアはニコリと笑って平然と言い放った。
ガイの後方に立つローラは息を呑む。
それはゼニアという女性がどれほどの強さなのか嫌というほどわかっていたからだった。

「もし私の肌に、ほんの少しでも傷をつけれたのであれば、あなたの勝ちでいいわ」

「馬鹿にしてるのか?」

「やってみたらわかる。確かに、あなたはここまで来るだけの強さがあったのかもしれない。でも上には上がいるということを、今日この場で知ることになる」

笑顔で両腕のガンドレットの位置を調整しているが、ゼニアから放たれている殺気は異常だ。
それはガイの毛を逆立たせるほどに。

「どうぞ、どこからでも来なさい。私はここから動かないから」

ゼニアの言葉にガイのこめかみに血管が浮き出る。
ガイは左腰からダガーを引き抜くと、一気にゼニアの方へ走った。
そのスピードは小柄なガイならではの速さだった。

「へー。なかなか早いわね」

瞬時にゼニアの目の前に到達したガイは、地面を擦るように右斜め下から左斜め上へ斬り上げ攻撃を放つ。

だが、ゼニアは一歩後ろに足を引くと、体の重心を中央へと落とし、ガイが斬り上げる前にダガーへ左の裏拳を当てる。

その拳は予備動作が全く無かった。
ただ、そこに置いただけ。
だが、ゼニアが力強く握り拳を作った瞬間、ガイのダガーは凄まじい"圧"で弾かれ、擦った地面を戻った。

「なんだ、それ!?」

「"野蛮"で"力任せ"の剣ね」

ニコリと笑ったゼニアは少しだけ前へ重心を傾け、前足に自身の体重を感じた瞬間、左拳のボディブローをガイの右脇腹へ当てる。
ドン!と鈍い音が演習場に響き渡った。

「がはぁ……!!」

吹き飛ばされたガイは何度か地面をバウンドして数十メートル転がる。

「あらら、期待はずれね。もう少しやると思ったけど。もう立てないでしょう」

そう笑顔で言ったゼニアだったが、すぐに表情を変える。

ガイは受け身を取って膝をつき、地面にダガーを突き刺して止まった。

「どういうこと?あばらの二、三本は折れてるはず……」

ゼニアは困惑しているが、構わずガイはまた地面を蹴ってダッシュする。

ゼニアは足を肩幅に広げ、左拳を前に、右拳を腰に構えて重心を中心に置く。
何かがおかしい……この違和感がゼニアに"慣れたバトルスタンス"をとらせた。

「はああああ!!」

ガイは目前、右手に持つダガーを逆手に持ち替えて前に構える。
ゼニアはしっかりその動作を見ていた。
瞬間、ガイの左手は左太もものダガーへと伸び、それを一気に引き抜くと、ゼニアへ向かってブーメランのように投げる。
逆手持ち替える動作は油断させるためのトラップだった。

「なに!?」

意表をつかれたゼニアは、飛んできたダガーを左裏拳で払う。
ガイは目の前に到達していた。

ゼニアの右ストレート。
ガイの顔面狙い。

だが、腰に構えられた右拳を前に出す動作はガイには丸見えだった。
その右拳を体勢を低くして回避すると、ガイはスカートから唯一あらわになっているゼニアの"太もも"へダガーの刃を運ぶ。

「なんという反応!!」

振り抜かれたゼニアの右拳の波動石が光る。
その瞬間、ガイの目元に水の球体が発生すると、すぐに破裂した。

「くぅ!!」

それは簡単な目潰しだった。
ダガーは目的の場所からズレてスカートを少し切った。
ゼニアは右膝蹴りをガイの腕に当ててダガーを弾く。
そのまま180度、開脚するようにしてガイの顎を蹴り上げると、ゼニアのつま先は天を指す。
その衝撃でガイはバンザイする形で仰け反った。

ゼニアは振り上げられた右足を一歩前へ踏み出るように地面へとドン!と叩きつける。
スーと息を吐き、一気に全身の筋肉を引き締めた。

開く足は肩幅、姿勢を落とし、右拳を前に構え、左拳を腰に添える。
重心を中央から後ろへ移動、流れるように徐々に前へ。
ゼニアが最も慣れた戦闘体勢からの重心移動。
そこから放たれた渾身の左ストレートはガイの心臓付近を直撃した。

「が……はぁ……」

「マズイ!」

ゼニアはハッとした。
あまりの攻防で、我を忘れて本気で殴ってしまったのだ。
この拳は鉄の鎧も粉砕するほどの威力だと自負していた。
それを、ほぼ生身のガイの体へ直撃させてしまった。

気づいた時にはすでに遅かった。
ガイは再び吹き飛ばされ、数百メートルもの距離を転がった。

「ガイ!!」

後ろで見ていたローラは涙を流して叫ぶ。

だが、その瞬間、地面を転がっていたガイの体は炎に包まれ消えてしまった。

「何!?」

気配はゼニアの後ろにあった。
すぐに振り向くとガイは拳に炎を纏い、右ストレートモーションの最中にいたのだ。

「"瞬炎陽炎しゅんえんかげろう"」

「ありえないわ……」

目を見開き、ガイの姿を捉えたゼニアは瞬時に次の行動を思考した。

「イグニス・ハンマー!!」

突き出されたガイの右拳。
ゼニアは一歩引いて、スマートな右のショートアッパーでガイの手首を打つ。

ガイの拳は軌道を変えて上の方へ。
ゼニアはマントをなびかせ、くるりと回転しながらガイの背後へと移動すると、そのまま回し蹴りを脇腹へ当てて吹き飛ばした。

吹き飛ばされたガイは空中で一回転すると、何事もなく着地する。

「私に波動を使わせるとは……舐めていたわね……あなた一体、何者?」

「俺はガイ・ガラード。ただの低波動の駆け出し冒険者だ」

息荒く、脇腹を押さえるガイ。
髪と瞳は赤く発光し、体全体に熱のオーラを纏っていた。

ゼニアは息を呑む。
その表情からは余裕は消えていた。
ここまで自分と戦える人間は今まで"たった1人"しかいなかった。

目の前に立つ少年が、"その方"と同等の力を秘めていたことに驚きを隠せなかったのだ。
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