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エターナル・マザー編

紛うことなき強者

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試合終了後、ローラはステージを降りると、そのまま前のめりに地面へと倒れ込んだ。

すぐさまエリザヴェートが駆け寄って声をかける。

「だ、だ、だ、大丈夫?」

「大丈夫よ……」

「よ、よ、よく頑張ったわ。今日はすぐに宿へ戻って休みましょう」

「そんなわけにはいかない……次の試合を見ないと」

ローラはそう言って起き上がろうと地面に両手をつく。
次の試合は赤髪の男のパーティの試合だ。
このパーティが負けることは考えづらいが、もしそうなった場合、相手チームの情報が全くないままの試合となる。
ローラとしてはそれは避けたかった。

しかし、腕には全く力が入らず上体すら起こせない。
ローラは倒れたまま悲痛に顔を歪めた。

「む、む、む、無理をすることはない」

「でも……少しでも情報が欲しいのよ」

「や、や、宿にいるガイ君のことも心配だから」

エリザヴェートの言葉にハッとした。
やるからには勝ちたい。
その気持ちが先行していてガイのことをすっかり忘れていた。

「そうね……」

エリザヴェートは手を貸してローラを起こす。
全身に力が入らないローラはよろめいた。

「か、か、肩を貸すわ」

「ごめん……」

ゆっくりながらも闘技場の控室の方へ歩く2人。
その途中、暗がりの廊下で男の3人組とすれ違った。
先ほど控室にいた3人だ。
次の試合、つまり赤髪のパーティと対戦するチームだろう。

そのパーティを横目で見るローラ。

1人は整った短めの黒髪に上品な顎髭の盗賊風の男。
そして、それより若そうではあるが筋肉質のスキンヘッドで東方の胴着を羽織った男。
最後に金髪の角刈りで丸々と太った体型の中年男だった。

最初の2人は冒険者という感じだが、最後の太った男は何処にでもいそうな村人といった印象で圧も感じない。

3人はローラとエリザヴェートには目もくれず、ステージへと歩いていった。

「あれが赤髪のパーティと戦うチーム……あんまり強そうには見えないわね」

「あ、あ、あ、あれは、"デッド・スコーピオン"というパーティだということは知ってる。数少ないA級冒険者がいるパーティと聞いているわ」

「どいつがそうなの?」

「さ、さ、さぁ?わ、わ、わ、私も詳しくは知らなくて……」

「試合観たかったけど仕方ないわ。もう立ってるのも限界よ」

ローラは奥歯を噛み締めて歩いた。
思考するに、先ほどのパーティは恐らく赤髪のパーティには勝てない。
もし万が一勝てたとしても明日の決勝には凄まじいダメージを負っての出場となるだろう。
そう考えれば一刻も早く帰って休んだほうがいい。
彼らが勝ち上がってきた場合、ローラも先鋒か中堅で出る必要が出てくる。

ローラはエリザヴェートと共に宿へ戻った。
宿にいたガイは目を開けてはいたが体が言う事を聞かないといった状態だった。

ローラも自室のベッドに身を投げると動けなくなった。
2人は全く体の動かせないまま翌日を迎えることになる。


____________



闘技場はさらなる興奮に包まれていた。

先ほどの試合は凄まじいものだったが、次の試合は確実にそれを越えるものとなるだろう。

"ブラック・ラビット"対"デッド・スコーピオン"

観客からすればどちらが勝ってもおかしくない試合だと思われた。

ブラック・ラビットは先鋒がいないので不戦敗。
ちなみに相手チームの先鋒はスキンヘッドの胴着の男だった。

そして中堅戦。
ブラック・ラビットからは赤髪の男が出る。
一方、デッド・スコーピオンからは短髪の顎髭の男が出た。

ステージに上がる両者は向かい合う。

相変わらず黒いサングラス、そして黒のロングコートを羽織り、そのポケットに両手を入れている赤髪の男は無表情だ。

短髪の顎髭の男は深く、ゆっくりと息を吐いた。
相手の圧に押しつぶされそうなるが、なんとか気合いで自我を保つ。
目の前の男はとてつもない強者。
恐らく波動を使わずとも相当な手練であることは想像に難くない。

審判が間に入った。
両者を交互に見ながら、お決まりのルール説明をする。

赤髪の男は大きくあくびをした。
全く緊張感のかけらもない、余裕が垣間見える表情に短髪の男の眉が動く。

"流石に舐めすぎだ"

そう思う短髪の男は腰に差したブロードソードの鞘を力強く握る。

審判が距離を取るように促した。
短髪の男は相手から目を離さないように後退りするように下がるが、赤髪の男は簡単に背を向けて歩いた。

短髪の男のこめかみに血管が浮き出た。
腰に差したブロードソードを一気に引き抜くと両手で持って前に構える。

「舐めるなよ、若造」

「この俺を"若造"……とは」

赤髪の男はニヤリと笑った。
ようやく右手をコートのポケットから出すと握られていたのはナイフだった。
長さは10センチも無いほどの小型のもの。

「な、なんだ、その武器は!?」

「武器?何を言ってる。これは武器じゃない。単なる"果物ナイフ"さ」

「なん……だと……」

"舐める"というレベルを超えていた。
まともに戦う気すらない。
そう感じさせるほどの武器。
これには審判すらも絶句し、観客席からは失笑がもれた。

だが、この後に展開される戦闘は圧倒的なものであった。

審判が両手を上げて開始合図の準備に入る。
そして、いよいよその時がきた。

「それでは始め!!」

その声と共に飛び出したのはデッド・スコーピオンの短髪の男。
剣を斜め下に構え直して、ワンステップで赤髪の男まで辿り着く。

右下から左上へ、ブロードソードを両手持ちで切り上げる。
そのスピードは"一瞬"に近いほどだった。

だが、赤髪の男は少しだけ上体を後ろへ倒して簡単に回避した。

短髪の男がさらに一歩踏み込む。
振り上げられた剣を止め、踏み込みと同時に振り下ろす。
これも凄まじいスピードで繰り出される。

「うおおおおお!!」

渾身の一振りだった。
だが、ここから赤髪の男が本格的に動く。

ブロードソードの振り下ろしの瞬間、ナイフを逆手に持ち替えて相手の上腕へ斜め横切りの一閃。
同時に左へと背を向けるように回避し、相手の右太もも、右下腹部、右胸郭と下から順に高速でナイフを突き刺していく。

最後に相手の背後に回ると、膝裏を軽く蹴る。
片膝をつく形になった短髪の男の首筋にナイフをスッと通らせて切り込みを入れた。

鋭い痛みで気づいた短髪の男はすぐにブロードソードを手放して首筋を手のひらで覆う。
よどみなく流れる血液が、地面を赤く染めていく。

「負けを認めろ。そうすればすぐに焼いて塞いでやる」

「クソ……」

このまま負けを認めなければチームの勝ちだ。
なにせ命を失うのだから。
短髪の男は思考する……が、こんなものは悩むにも値しないことだった。

「私の負けだ……降参する」

短髪の男がそう言うと背後に立つ赤髪の男は、すぐに短髪の男の首を掴んだ。
瞬間、ボッと炎が上がり短髪の男の体を包み込む。

「うあああああ!!」

炎に包まれて転げ回る短髪の男。

「すまないな。一箇所、二箇所なんて器用に燃やせんのだよ」

ただ、それだけ呟いた赤髪の男はあくびをしながらステージを降りていく。

あまりにも早い展開に圧倒されていた審判は我に返るとすぐに叫んだ。

「そこまで!!」

唖然とする観客席だが、それ以上に相手チームの2人が息を呑む。
波動を使わずに、この強さだ。
赤髪の男は冒険者なのか騎士なのかは不明だが、どちらにせよS級冒険者、または騎士団長クラスの強さで間違いない。

そして驚愕の中、次の試合が開始されようとしていた。
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