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最終章 死の王 編
鉄の魔導士
しおりを挟む暗雲の下、巨大な竜巻に覆われた王都の南地区でアッシュ・アンスアイゼンとルガーラ・ルザールは目の前にいる"ブラックローブの魔導士"を見つめていた。
距離は15メートルほど。
ブラックローブを靡かせて空に漂うようにしている魔導士は両手を掲げると、2人の周囲にある細かい瓦礫を浮き上がらせる。
それはアッシュとルガーラを取り囲むような形だった。
「"アレ"について何か情報は?」
ルガーラは目の前の魔導士から一切、視線を逸らす事なく後方に立つアッシュに質問する。
「恐らく人間。南地区を覆った竜巻を起こしているのも、あの魔導士だろう」
「ということは波動なのか?」
「だろうね。思うに風の波動の使い手と見て間違いない」
「それなら、もし君が"アレ"に封波剣を突き立てることができたなら勝てるわけだ」
「ああ。まぁ、それができないから困ってるんだがね」
アッシュは右手に持つガードのない直剣のグリップを強く握りしめる。
鞘は黒色、刃の部分は輝くようなシルバーでグリップ部分も黒い。
柄頭から切先に至るまで伸びるように龍の模様が描かれた剣だ。
「私が道を作ろう。できる限り波動は重ねるが、この量の瓦礫を防ぎ切ることは無理だろう」
「数秒あれば十分にヤツには辿り着けるさ」
「決まりだな」
ルガーラは言ってから、背負った大剣を引き抜いた。
それを戦闘開始の合図と受け取ったのか、ブラックローブの魔導士は掲げた両手を勢いよく下す。
すると2人を囲むようにして宙に浮いた無数の瓦礫はゆっくりと動き出し、徐々に加速する。
ルガーラは両手で大剣のグリップを握ると逆手持ちして一気に地面に突き立てた。
「"アシクルゥ・ヴァージン・ロォードゥ"!!」
街中に響き渡るほどの叫びと共にルガーラの立つ場所から氷の壁が突き上がりアーチ状に頭上まで覆う。
さらに氷の壁は直線に伸びていき、人間2人が並んで通れるほどのトンネルを作った。
氷のトンネルはちょうど10メートルほどの長さになり、それはブラックローブの魔導士がいる数メートル手前であった。
「私の結婚式で使おうと思って考えた波動形状がこんなところで役に立つとは思わなかったよ」
「どうせ、お前は結婚なんてできないさ。賭けてもいい」
「いいだろう。もし私が結婚式を挙げることがあったら父の代わりに君がエスコートして歩いてくれよ」
「それは新婦がすることだ」
そう言って、ため息混じりに走り出すアッシュ。
同時に激しい雨音のようにバチバチと氷の壁に無数の瓦礫が当たる。
幾分かもしないうちに氷の壁に亀裂が入り始めた。
「急げよアッシュ。これは長くは保たないぞ」
「わかってるさ……一撃で決める」
お互いがお互いの声が聞こえているわけではなかったが、以前は何度も一緒に戦っていたために無意識にでもやり取りを口にしていた。
アッシュが氷のトンネルを抜けると、宙に浮くブラックローブの魔導士が目の前にいた。
見上げると高さは5メートルほどだと予測する。
ふわりと後方へと下がるブラックローブの魔導士。
それは重力を無視しているかのような動きだった。
同時に浮いた瓦礫がアッシュ目掛けて飛ぶが、ほとんどの攻撃がルガーラが作った氷の壁へと向かっていたため、さほど多くはない。
「完璧な波動操作だ……ルガーラ」
そう言ってアッシュは地面を蹴って跳躍しつつ剣を振る。
連続した斬撃は飛んできた瓦礫を悉く落とし、瞬く間にブラックローブの魔導士の前まで迫った。
「これで終わりだ!!」
アッシュの封波剣による突きの攻撃。
それはブラックローブの魔導士の胸付近へと向かう。
しかしブラックローブの魔導士はすぐさま正面で両手のひらをパン!と鳴らすようにして合わせる。
瞬間、封波剣へ向かって横から巨大な瓦礫が何重にも重なるようにぶつかり挟み込む。
"城壁"と言ってもいいほど、聳り立つ高さと大きさになる。
そして、その衝撃は封波剣に致命的なダメージを与えた。
剣の能力によって瓦礫に付与されていた波動は解除されて地面に落ちていく。
同じく"真ん中から折れた銀色の剣も"、それらに混ざって落ちていった。
「封波剣が折れた……!?」
アッシュは驚きと共に崩れた瓦礫の先にいたブラックローブの魔導士に視線をやった。
すると右拳を後ろに下げて構えている。
拳には暴風を纏いつつ瓦礫が凄まじいスピードで集まっていき、巨大な瓦礫の拳を作った。
「クソ……」
いまだ空中にいるアッシュが死を覚悟した瞬間のことだ、背後から肩を蹴り、その勢いでブラックローブの魔導士へ向かって飛んだ者がいた。
「下がれ!!アッシュ!!」
自分の前に出たのは黒い鎧、赤いマントを靡かせて大剣を構えたルガーラ・ルザールだ。
「やめろ、ルガーラ!!」
叫ぶアッシュに構うことなく、前に出たルガーラは大剣によるガード体勢をとる。
闘気が見えるルガーラにはブラックローブの魔導士が何をするのかわかっていた。
しかしアッシュを守りつつ、敵の攻撃を回避することは不可能と判断したのだ。
ブラックローブの魔導士は"瓦礫の拳"を突き出して打ち放った。
"瓦礫の拳"はルガーラを固定したまま斜め下へと向かい地面に激突して土埃を上げる。
さらに石床を抉るようにして高速で数百メートルもの距離を進んだ。
地面に落ちたアッシュはギリギリのところで瓦礫の拳には当たらなかった。
振り向くと瓦礫は勢いを止め、崩れて拳の形ではなくなっていた。
その光景に、ただ唖然とするしかなかった。
目を細めて仰向けに倒れたルガーラを見るが、ピクリとも動かない。
「馬鹿な……お前は俺より強いのに……こんなところで……こうも呆気なく……俺を守って死ぬなど、くだらん死に方するんじゃない!!」
アッシュの叫びは街中に響き渡る。
しかしルガーラの体は動くことはない。
折れた封波剣、倒れるルガーラ……
暴風吹き荒れる南地区はさらなる絶望感に包まれる。
しかし無慈悲にもアッシュの背後、宙にいるブラックローブの魔導士は両腕をゆっくりと上げる。
すると周囲には数千を超えるほどの瓦礫が浮き上がっていった。
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