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華麗なる推理の真似事
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「ワトソン君、制限時間はいつもどおり20分だ。今日こそは必ず時間内にクリアするよ。」
古びた木製の扉の前に、かの有名なシャーロック・ホームズと相棒のジョン・ワトソンが立っていた。二人が扉を押し開けて中に入ると、木の軋む音がして、バタンという盛大な音と共に二人はその洋館の中に閉じ込められてしまった。目の前には大きな振り子時計が12時半を指していた。ゴーンと地響きのような音が、二人の事件解決の合図。
「今回はこの洋館で昔殺された女の幽霊が来る人を呪ってしまうから、20分以内に彼女を殺した犯人を特定すれば、呪われずに済むということなんだそうだよ。」ワトソンが杖と歩きながら独特なリズムを刻む。ほこりっぽいエントランスでホームズは視界の隅に蜘蛛が巣を作っているのを眺めながら、思考を巡らせた。
「ワトソン君、とりあえず洋館内の散策からだ。」
エントランスには時計の他に本棚が一つあったが、最も特徴的なのは天井からぶら下がる巨大なシャンデリアであった。大きな布に覆われ、寝ぼけていたら巨大な幽霊だと勘違いしてしまいそうだ、とホームズは思った。
「これ、絶対ヒントになるよね。」几帳面なワトソンはメモを取りながら、散策をエントランスの散策を続ける。
エントランスからは、二手に分かれる方向があった。途中の踊り場で左右に開いているクラシックな両階段が存在感を放っていた。二人で階段を登れば、いつもの茶番が始まる。
「今日はあちらの方がヒントが多いと思う。」ホームズがパイプで右を指す。
「いやいや、左の方が大きい部屋ありそうだよ。」とワトソン。
「君は『クリミカ理論』を聞いたことが無いのかね?某漫画で『確かに行動学の見地からも人は迷ったり未知の道を選ぶ時には無意識に左を選択するケースが多いらしい』とクリミカが言っていたではないか。理論を逆手にとって、“左を選びやすいからこそ、右を選んだ方が無難”という考え方は結局正しかっただろう?」
「じゃあ俺はレオリオだな...。じゃなくて!もう時間が無いから、分かった、右へ行こう。」盛大なため息と共に一行は右の階段へと足を進めた。結局ワトソンが折れてホームズに従うのはいつものことだった。
残り17分。
「この部屋、鍵がかかってる。場所的には子供部屋ってところかな。」ワトソンが扉のハンドルを乱暴に揺するがびくともしない。
「こっちは開いているよ。」ホームズが隣の部屋から声をかける。
昼間なのにも関わらず部屋は薄暗く、空気が籠もっているような雰囲気だった。本棚や真ん中に置かれた机の感じから、書斎だというのは感じとれたが、本棚の中には本が一つも入っておらず、部屋自体はとても閑散としていた。
「こういうのって大体本棚にヒントがあるものじゃないの?」呆れたようにワトソンが周りを見渡す。机に向かったホームズとワトソンが二人で引き出しを開けると同時に二人の声が重なった。
「絶対これじゃん。」
残り15分。
「これ、ヴィジュネル暗号かな?」一生懸命殴り書きをしながらワトソンがホームズに尋ねる。
「いやこれは単純にシーザー暗号で良いと思うのだが、生憎私は英語が出来ない。ワトソン君、ここは任せた。」ホームズがそう告げると、彼はすぐさまキッチンへと向かった。
「D・I・F・F・R・E・N・Tなんて英単語は多分無いよね?あー分かんない!」ワトソンが暖炉の前で項垂れる。
残り10分。
「ホームズは左側覚えて、俺右やる。」
「青、赤、赤、紫、黒、青、緑。青、赤 ――」
「いや、こっちも覚えてるから黙ってよ。」ワトソンがホームズを杖で突く。
残り5分。
「ローレンスは新しく入ったメイドと恋に落ちたけど、アルフレッドはそれを気に入らなかった!え、これもうちょっとで謎解けるじゃん!」ホームズの目が輝きを帯びる。
残り2分。
「犯人分かったのになんで最後の鍵の場所が分からないんだよ!これ、バグ?リロードしたら直る系?」
「知らねーよ。」
残り30秒。
キーンコーンカーンコーン…
シャーロック・ホームズこと相原智也と、ジョン・ワトソンこと深川尚弥が机の上で項垂れる。
「ワトソン君、今日も失敗だよ。」
「このゲームいつになったらコンプできんだよ!」深川が足をバタつかせる。
「っやばい、次体育らしいぜ!」
高らかな笑い声が昼休みの教室に響いた。
この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
古びた木製の扉の前に、かの有名なシャーロック・ホームズと相棒のジョン・ワトソンが立っていた。二人が扉を押し開けて中に入ると、木の軋む音がして、バタンという盛大な音と共に二人はその洋館の中に閉じ込められてしまった。目の前には大きな振り子時計が12時半を指していた。ゴーンと地響きのような音が、二人の事件解決の合図。
「今回はこの洋館で昔殺された女の幽霊が来る人を呪ってしまうから、20分以内に彼女を殺した犯人を特定すれば、呪われずに済むということなんだそうだよ。」ワトソンが杖と歩きながら独特なリズムを刻む。ほこりっぽいエントランスでホームズは視界の隅に蜘蛛が巣を作っているのを眺めながら、思考を巡らせた。
「ワトソン君、とりあえず洋館内の散策からだ。」
エントランスには時計の他に本棚が一つあったが、最も特徴的なのは天井からぶら下がる巨大なシャンデリアであった。大きな布に覆われ、寝ぼけていたら巨大な幽霊だと勘違いしてしまいそうだ、とホームズは思った。
「これ、絶対ヒントになるよね。」几帳面なワトソンはメモを取りながら、散策をエントランスの散策を続ける。
エントランスからは、二手に分かれる方向があった。途中の踊り場で左右に開いているクラシックな両階段が存在感を放っていた。二人で階段を登れば、いつもの茶番が始まる。
「今日はあちらの方がヒントが多いと思う。」ホームズがパイプで右を指す。
「いやいや、左の方が大きい部屋ありそうだよ。」とワトソン。
「君は『クリミカ理論』を聞いたことが無いのかね?某漫画で『確かに行動学の見地からも人は迷ったり未知の道を選ぶ時には無意識に左を選択するケースが多いらしい』とクリミカが言っていたではないか。理論を逆手にとって、“左を選びやすいからこそ、右を選んだ方が無難”という考え方は結局正しかっただろう?」
「じゃあ俺はレオリオだな...。じゃなくて!もう時間が無いから、分かった、右へ行こう。」盛大なため息と共に一行は右の階段へと足を進めた。結局ワトソンが折れてホームズに従うのはいつものことだった。
残り17分。
「この部屋、鍵がかかってる。場所的には子供部屋ってところかな。」ワトソンが扉のハンドルを乱暴に揺するがびくともしない。
「こっちは開いているよ。」ホームズが隣の部屋から声をかける。
昼間なのにも関わらず部屋は薄暗く、空気が籠もっているような雰囲気だった。本棚や真ん中に置かれた机の感じから、書斎だというのは感じとれたが、本棚の中には本が一つも入っておらず、部屋自体はとても閑散としていた。
「こういうのって大体本棚にヒントがあるものじゃないの?」呆れたようにワトソンが周りを見渡す。机に向かったホームズとワトソンが二人で引き出しを開けると同時に二人の声が重なった。
「絶対これじゃん。」
残り15分。
「これ、ヴィジュネル暗号かな?」一生懸命殴り書きをしながらワトソンがホームズに尋ねる。
「いやこれは単純にシーザー暗号で良いと思うのだが、生憎私は英語が出来ない。ワトソン君、ここは任せた。」ホームズがそう告げると、彼はすぐさまキッチンへと向かった。
「D・I・F・F・R・E・N・Tなんて英単語は多分無いよね?あー分かんない!」ワトソンが暖炉の前で項垂れる。
残り10分。
「ホームズは左側覚えて、俺右やる。」
「青、赤、赤、紫、黒、青、緑。青、赤 ――」
「いや、こっちも覚えてるから黙ってよ。」ワトソンがホームズを杖で突く。
残り5分。
「ローレンスは新しく入ったメイドと恋に落ちたけど、アルフレッドはそれを気に入らなかった!え、これもうちょっとで謎解けるじゃん!」ホームズの目が輝きを帯びる。
残り2分。
「犯人分かったのになんで最後の鍵の場所が分からないんだよ!これ、バグ?リロードしたら直る系?」
「知らねーよ。」
残り30秒。
キーンコーンカーンコーン…
シャーロック・ホームズこと相原智也と、ジョン・ワトソンこと深川尚弥が机の上で項垂れる。
「ワトソン君、今日も失敗だよ。」
「このゲームいつになったらコンプできんだよ!」深川が足をバタつかせる。
「っやばい、次体育らしいぜ!」
高らかな笑い声が昼休みの教室に響いた。
この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
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