スノードロップの操り人形

洋海

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2. 殺人現場に咲くハーデンベルギア

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 私と彼女たちの出会いは、LIEU DU CRIME(フランス語で、犯罪現場を意味する)という犯罪の雇用募集サイトだった。雇用を求め、世界中から自らの殺しを私のような「雇い主」にアピールしている投稿で溢れていた。サイトのシステムは至ってシンプルで、表社会のように雇い主が自ら募集をかけるのでは無く、雇い主は殺しの写真の投稿の中から気に入ったものを随時選択、ダイレクトメッセージでのやり取りで殺しの契約を交わし、殺し屋は指定された日時に犯行を実施。
 サイト内で存在するルールは三つ。一、LIEU DU CRIME にアカウント登録をした時点で、雇い主と殺人犯共に部外者にサイトの存在を告発してはいけない。二、雇い主と殺人犯は直接会ってはならない。三、警察に捕まった際に殺人犯は雇い主の存在を警察に知らせてはならない。違反した際には勿論死が待っている。
 私は、前まで雇っていた遺体溶接殺人事件の犯人を警察に引き渡した後(あれも、かなり話題になっていただろう?)、新しい出会いを求めてこのサイトを漁っていた。最近の流行りは、謎解き要素を含んだ殺人。警察にヒントを渡しながら逃げるスリルを楽しむのが快楽らしい。生憎、私の殺しのスタイルには合わないので、それらの投稿の間に埋もれている私の好みである、芸術型の殺人を探した。
 芸術型の殺人というのは利点が多い。例えば、完成度の高さ。殺人犯はその芸術を完成させるために殺す工程を躊躇しない、作品を完成させるために手段を選ばない。殺人とは、少しでも臆するとそれが形として現場に残されてしまう、それが犯人逮捕へと繋がっていってしまうところは幾度となく見ている。だが、芸術型の殺人を行うものたちは殺す過程をあくまでも作品を完成させるための一つの段階としか考えていない。だから、装飾の複雑さとも相まって、警察にヒントを与えづらく、利用しやすい人材なのだ。
 そして私は、ふと一つの投稿に目が止まった。一人の女の遺体に無数に散りばめられた切り傷の間から咲く白いハーデンベルギア。蕾は薄いピンクを含んでいて、生命の象徴であった。その代わりに、ボロボロに廃れた女の体は花が無かったら流石にこの私でも見るに耐えないほど酷く醜いものであった。抵抗したときに掴まれたであろう髪は乱雑に抜けて落ちており、元は白かったのであろうシャツは鮮やかな赤い血で染まっていた。傷を付けながら花を生けたのだろう、ハーデンベルギアにも飛び散った血が付着しており、花を一層引き立てていた。
 実に、美しい。
 確か、ハーデンベルギアの花言葉は、「運命的な出会い」。雇い主との運命的な出会いを求め投稿したと考えると、中々のロマンチストだと思った。早速私はこの投稿主にダイレクトメッセージを送ることにした。
 アカウント名は、LYCORISだった。
 会話を開始して早々、LYCORISが女性の二人組みであることが判明した。一人は店長の奥原、大学で生物専攻をしていたこともあり、卒業後、無くなった祖父母の花屋を引き継ぎLYCORISの店長へと就任。一方、店員として働く石森は奥原と大学時代からの友だちであり、デザイン学科を専攻していた。(専攻が全く違う二人が巡り会えたのもまた実に、運命的な出会い、なのであろう。)そのため、石森が作品のデザインを練り、それに合う花を調達してくるのが奥原の仕事であった。
 一作品につき、報酬は三千万円。殺人場所は必ず廃墟で行い、対象者の個人情報を私が提供し、二人は殺人の一部始終を動画で撮る(証拠隠滅が完璧に行えているかの最終確認の為)という形で合意した。
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