二つ名が欲しい!

佐城竜信

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二つ名が欲しい!

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とある村の宿屋に勇者一行の姿があった。彼らは勇者、戦士、僧侶、魔法使いで構築されたパーティで、全員が男である。
ベッドに寝転がりながら、戦士がこんなことを言いだした。
「勇者―、俺二つ名が欲しい」
戦士が変なことを言いだすのはいつものことだ。勇者はまた始まった、と呆れながらも話を聞くことにした。
「何だよ急に?」
「いやさぁ、俺たちって魔王討伐の旅をしているわけじゃん? でもさ、なんかこう……ぱっとしないんだよなぁ。もっとこう、かっこいい感じの名前が欲しいんだよね」
「ああ、それわかります!」
それに同意したのは僧侶だった。
「確かにな。いかにも俺たちだってわかるようなネーミングは欲しいよな!」
魔法使いもそれに同意する。
「えっ?お前らそんなこと考えてたのか?」
「おいおい勇者! 考えてなかったとは言わせないぞ!」
そう言われてみればそうだなと考える勇者。だが、彼は今まで考えたことがなかったのだ。
「たとえばさ、お前の先祖も魔王を討伐してるわけじゃん?そのご先祖様には『暁の勇者』っていう名前があったじゃん」
「ああ、あったな」
「だから俺らも何か名前をつけようぜ!」
そう言って戦士はベッドから飛び起きた。そして部屋中に響き渡る大声で叫んだ。
「俺の名前は!『勇者』だあああ!!」
「うるせぇ!! 今考え中だろうが!!」
魔法使いに殴り飛ばされて戦士は壁まで吹っ飛んだ。魔法使いはそのまま戦士に向かって怒鳴りつける。
「静かにしろこの馬鹿野郎!! 今いいところなんだぞ!!」
「あー悪い悪い……」
「まったく……お前はすぐ調子に乗るんだから……」
「すまんかった」
魔法使いがため息をつき、勇者の方へと向き直る。
勇者の外見は金髪碧眼で長身痩躯。顔立ちもよく整っており、美男子と言って差し支えない。
「お前は美形だからなー。『美貌の勇者』とかどうだ?」「却下!」しかし勇者に即答されて落ち込む魔法使い。
「せっかくだからさ、先祖と同じ『暁の勇者』って感じの名前がいいんだよな。ほら、勇者の装備って金ぴかじゃん?だから輝かしい、的な意味で暁ってつけられたと思うんだよね。だから俺もそんな感じがいいんだよ!」
勇者の言葉に、僧侶が手を挙げた。
「はいっ!暁っていうと夜明けですよね?『明けの明星』って呼ばれてるのって金星なんですよ!だから金の装備とも合ってるかなって思うんですけど……どうでしょう!?」
「おお、それはいいかもな!」
戦士と魔法使いもそれに賛同した。
「ってことは勇者の二つ名は『金星人』だな!」「金星人wwww めっちゃダサいなwwww」
「うるさいぞ魔法使い! 金星人は超かっこいいじゃねえか!!」
ぎゃいぎゃいと騒ぐ三人を見て、勇者が呟く。
「いや、金星人はやだよ……」
「金星人ってタコ型だよな?だったら『たこ焼き勇者』とかどうだ?」魔法使いが笑いながら言う。
「やだよ!なんでよりによってたこ焼きなんだよ!」
「たこ焼き美味しいじゃないですか!」
「いやいや……絶対おかしいだろ」
「じゃあ、勇者の二つ名が『たこ焼き勇者』がいいと思う人手を挙げて!」
勇者以外の三人が一斉に手を挙げる。
「お前らふざけんなよおおお!!」
「まあまあ勇者さん落ち着いてください」
「これが落ち着いてられるかああああああ!!!」
「うわっ、暴れるなたこ焼き勇者!いい加減静まらねえとぶち殺すぞ!!」魔法使いに卍固めにとらわれて勇者は悲鳴を上げた。
「いだだだだだだだだ!!!ごめんなさい!!暴れないから離してください!!!」
「ふん!わかればいいんだよ!」魔法使いは勇者を放り捨てる。
「うう……たこ焼き勇者なんてやだよ……」痛みと自分の二つ名が『たこ焼き勇者になったショックで泣き始める勇者を放っておいて、戦士が手を挙げる。
「じゃあ次は俺な!俺の先祖は『暁の勇者』と旅をしていたんだけどよ、勇者と対をなす存在ってことで『宵闇の暗黒騎士』って呼ばれてたんだよ」
「お、いいんじゃないか?」魔法使いがそう言ったのを聞いて、勇者が顔を輝かせる。
「たこ焼き勇者と対をなすなら『お好み焼き戦士』だよな!」「おい待て勇者!!俺はお前みたいに食い意地張ってないぞ!!」
「えー、いいと思ったのに」
勇者は残念そうに肩を落とした。それを見た魔法使いは苦笑する。
「でも確かにその二つ名もいいな。『お好み焼き戦士』。お前にピッタリじゃないか」「嫌だってば……」
「ちょっと待ってください!」
それに待ったをかけたのは僧侶だ。
「勇者さんはたこ焼きの丸と太陽が掛かっていて『暁』っぽさがありますけど、『お好み焼き戦士』には『宵闇』っぽさはないですよね?やっぱりその要素もとりいれたいとおもうんですよ」
「いや、太陽とたこ焼きが同列っておかしいからね!?」
勇者の突っ込みを無視して僧侶が続ける。
「だから騎士のナイトと夜のナイトをかけて、『お好み焼きナイト』っていうのはどうでしょうか?」
「いや、それはそれでなんか微妙……」
「そうですか……では『お好み焼きナイト』で決定ですね」
「おい!! まだ何も言ってないだろ!!」
「大丈夫です。きっと気に入りますから」
「全然嬉しくねえよ!!!」
戦士の言葉に耳を貸す者はいなかった。そしてそのまま話は進んでいく。
「じゃあ次は僕の番ですね!」僧侶が手を挙げる。
「僕の先祖は『聖女』なんですけど、実は僕には『魔女』の血も流れてるんです」
「ほう、そうなのか」魔法使いが興味深げに尋ねる。
「はい。だから僕は『魔法使い』でもあるんですけど、どちらかというと『魔法を使う女性』という意味を込めて『魔女』と名乗っていることが多いんです」
「なるほどなぁ。そういうことだったのか……。なら、『聖女』と『魔女』が掛け合わされた名前だから……『魔性の女』とかどうだ?」
「いやいやいやいや!『性女』じゃなくて『聖女』ですよ!そんなこと言ってると『聖女』に怒られちゃいますよ!」
「あ、悪い……」
「まったく……気を付けてくださいよ」
僧侶はため息をつくと、魔法使いは改めて口を開いた。
「とにかく、そんなわけでお前は『魔性の女』だ。わかったか?」
「だからそれはおかしいって!だいたい僕は男だからね!?」
僧侶の言葉に三人とも首を傾げる。
「何言ってんだ?当たり前だろうが」
「僧侶は男だろ」
「でもよお、いいと思うんだよな。『魔性の女』。俺も結構好きだぜ?」
「うう……どうしてこんなことに……」
「まあ、諦めろって」
「はい……」
こうして、僧侶の二つ名は『魔性の女』に決まった。
「それじゃあ最後はこの俺だ!」魔法使いが手を挙げる。
「まずは俺様の特徴だが……。なんといっても数多くの最強魔法を使いこなすことだよな。それに俺の先祖は『紅蓮の大魔導士』って呼ばれる炎の魔法が得意な魔法使いだった。そこを踏まえて、俺の二つ名をつけてくれ」
「魔法使いの特徴?」「いや、そんなこと言ったら」「……ですよね」
三人は魔法使いの外見を見る。魔法使いは2メートル近くある巨体であり、ローブではなくスーツを着ている。それも上半身裸でスラックスだけ、という姿で。その肉体は筋肉隆々で、まるでボディービルダーのようだ。さらには目つきも悪い三白眼で、子供が見たら泣き出して逃げ出してしまいそうな風貌である。
「……大魔導士ってイメージじゃないな」
勇者が率直な感想を述べると、魔法使いは憤慨した。
「なんだとこの野郎!お前それでも仲間かよ!」
「いやだってさ……『魔法使い』って感じしないじゃん」
「そうだな。どっちかっていうと『武闘家』だよな……。なあ、魔法使い。お前の得意技ってなんだ?」
「なにって、そりゃあ……パイルドライバーかな。いやまて、バックドロップも得意だな。あと、ブレーンバスターとか」
「それ全部プロレスの技じゃねえか!!」
「うるせえ!! いいんだよ俺の先祖は『紅蓮の大魔導士』って呼ばれてたんだからいいんだよ!!」
魔法使いは普段からドラゴンや最強クラスの悪魔をプロレスの一撃で屠っている。その姿を目の当たりにしている三人にとっては納得できるものだったのだが、勇者の言い分にも一理あった。そこで魔法使いは考える。
「うーん……なら、俺の二つ名は『お洒落ダンディ』でどうだ?これなら文句ないだろ」
「いや、大魔導士要素はどこに行ったのさ……」「まあいいじゃん。お洒落ダンディ。かっこいいじゃん」
「うーん、まあ確かにかっこいいかもしれないな」
「でも、こいつお洒落か?ダンディは百歩譲ってもわかるけど」戦士が呆れたように言うと、魔法使いに胸倉をつかまれて壁に叩きつけられる。
「おい、てめぇ……今なんて言った……?もう一回言ってみろ」
「お、落ち着けって……悪かったから……」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
「そうだぞ。喧嘩はよくない」
「ちっ……」
魔法使いは舌打ちすると手を放してベッドの上に腰掛けた。戦士はほっとした表情を浮かべる。
「でももうちょっと考えてみたい気もするんだよな……」「そうですよね」「ああ、そうだよな」
そう言った三人の心の中には、
(俺のことを『たこ焼き勇者に』しやがって!)と勇者が。
(俺のことを『お好み焼きナイト』にしやがって!)と戦士が、
(僕の名前を『魔性の女』にしたくせに……!)と僧侶が。
(((復讐してやる!!)))
三人の思いは同じだった。
「まず魔法使いの特徴から考えよう!」勇者の提案に、
「おう、いいぜ!」「わかりました!」「了解!」
三人は同意し、魔法使いは少し怯えた。
「まず魔法使いってどんな特徴があるんだろうな?」戦士が呟く。
「そりゃあ魔法使いと言ったらちんこがでかい!!」勇者が叫んだ。
「お前、ふざけんなよ!!」魔法使いが怒鳴る。
「いや、だってさ。魔法使いっていえばやっぱり大きいよね。絶対」
「まあ、確かに魔法使いのちんこはすげえでかいよな」
「そうですよね……。あのおちんちんで突かれたらと思うと……」
三人はうっとりとして頬を赤らめる。
「おいお前らふざけるなよ!!そんなわけねえだろうが!!」
「じゃあどれくらいなのさ」
「ああん!?」
「だから、どれくらいの大きさなんだよ」
「…………」
「黙るなって」「……20センチだ」
「嘘つけ!!30はあるだろ!!」
「嘘じゃねえよ!!20センチだって言ってんだろうが!!」魔法使いはキレて叫ぶ。
「それじゃあ、次の特徴を考えましょう。魔法使いさんと言えばやっぱり前衛職としてみんなを守ってくれる存在ですよね」僧侶が提案する。
「いや待て、魔法使いが前衛職だなんて聞いたことねえぞ!」魔法使いは抗議するが、無視された。
「つまり守ってくれる存在……守護者とかそんな感じか?」
「いや。魔法使いだったらアニキ、っていうほうがしっくりくるだろ。……じゃあさ、『みんなの竿アニキ』なんてどうだ?これなら頼りにされてる感じとちんこのでかさが両方表現できていいだろ」
「おお、なるほど!」「素晴らしいと思います!」「……悪くはないな」
「よし、決まりだな」
こうして、魔法使いの二つ名は『みんなの竿アニキ』に決まった。
「よし、全員の二つ名が決まったな!これで明日の決戦も安心だ!」勇者が満足そうに言った。
「いやいやいやいやいや!!おかしいだろ!!どうしてこうなった!!」魔法使いは絶叫したが、他の三人は気にしなかった。
「なに言ってんだ?お前が自分で決めたんじゃないか」
「そうですよ。それによく似合ってますよ?」
「そうだよ。いいじゃねえか。『みんなの竿アニキ』。俺は気に入ったぜ?」
「ちくしょう!!覚えてろよ!!」
魔法使いが涙ながらに叫んでいる横では、勇者が僧侶に向かって話しかけていた。
「ところでさ。僧侶の二つ名なんだけどさ……」
僧侶は首を傾げる。
「僕の二つ名がどうかしました?」
「いやさ。僧侶って癒し系じゃん?だからそういう意味では『聖女』だと思うんだよ。だけどさ、僧侶って『聖女』って呼ばれるより『魔女』って呼ばれる方が嬉しかったりするのかなって思ってさ」
「なるほど……たしかに言われてみるとその通りですね……。僕は『聖女』って呼ばれるよりも『魔女』って呼ばれる方が好きかもしれません」
僧侶は顎に手を当てて考えた後で答えた。その言葉を聞いて勇者と戦士は目を見合わせると、僧侶の方を向いて口を開く。
「そっか……。わかった、ありがとう僧侶」「いえ、どういたしまして」
二人は笑顔で会話を交わすと、お互いの拳をぶつけ合った。
「……何やってんのお前ら?」
魔法使いは首を傾げていたが、僧侶はにこにこ笑っていて、勇者と戦士は真剣な表情をしていた。
そして翌日。魔王軍最後の一人にして、今回の戦いにおける最大の障害である『闇の帝王』との最終決戦。これを魔法使いのバックドロップの一撃によって幕を閉じることになるのだが、それはまた別の話。
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