夏の終わりに

佐城竜信

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「へぇ~、期末テストの結果で賭けをしたんだ。じゃあ、負けたのは雄介ってことでいいの?」
「くっ、そうなんだよ。まさかあんなに点数差があるなんて思わなかったぜ」
「まあ、雄介は普段の授業態度が悪いからな」
「うぐっ!」
「雄介君の言い訳にはならないと思います」
「ぐはぁっ!」
「自業自得だな」
「おぉ……、容赦ねえな。っつっても、正志だって俺と2点しか変わらないじゃねえかよ!」
「僕は授業中寝たりしてない」
「……はい」
「まあ、俺も今回の賭けがなけりゃ日本史なんて勉強しなかっただろうからな。そういう意味じゃ、ここまで成績あがったのは二人のおかげだな」
彰久がそう言った瞬間、雄介はまるで石のように固まった。そして、そのままゆっくりと彰久の方に振り向く。
「彰久……。お前、今なんて?」
「ん?だから、二人がやる気を出させてくれたおかげで成績が上がったって話だぞ?」
「……マジ?」
「マジ」
「…………っしゃーーー!!!!」
雄介はガッツポーズをしながら教室を走り回った。その様子を見て、千里と正志は呆れたように笑う。
「雄介は単純だな」
「本当だよね」
「でも、雄介が元気になってくれてよかったです」
「……そういえば、正志はどうしてそこまで落ち込んでいるんだ?まさか、正志まで赤点をとってしまったとか?」
「いや、違うよ。僕の成績は平均点くらいだし、今回はたまたま苦手な教科が多かっただけだから」
「ああ、なるほど。正志はいつも予習復習をしているからな。そのせいで、得意科目と不得意な教科の差が大きいんだろう」
「うん。僕って昔から暗記系の科目がどうしても苦手でさ。今回みたいに範囲が広いと特にそうなっちゃうんだよ。だから、次からはもう少し勉強しようと思ってるんだけど……。彰久君はどうやって勉強してるの?」
「うーん、そうだな。俺の場合は、規則正しい生活を心がけてるかな。夜10時には寝て、朝の5時には起きる。そうすれば頭がすっきりしてるときに勉強できるし、眠い時に無理に勉強しても効率が下がるからな」
「へぇ~。彰久君は凄いですね」
「いやいや、そんなことはないよ。俺が偉いのは母さんの教えを守っているからだ。母さんの口癖は『常に最善を尽くしなさい』だからな」
「お母さんの?どんな言葉?」
「確か、『自分が一番幸せになれる道を選びなさい。ただし、自分の意志でね』だったかな。その教えのおかげで俺は今の自分があると思ってる。正志も、自分に合った勉強法を見つければもっと伸びると思うぞ」
「そうか。ありがとう、彰久君」
「どういたしまして」
彰久は柔らかく微笑んで見せた。その笑顔を見た正志は。
(うっ!その顔は反則だよ!)
顔を真っ赤にして俯いてしまう。その様子を見た雄介はニヤリと笑った。
「正志、お前って案外初心なんだな。まあ、分からなくもないけど」
「う、うるさいな!雄介には関係ないだろ!」
「いやいや、俺だって彰久みたいな完璧超人は羨ましいって思う時もあるからな。まあ、お前はもう少し素直になれよ」
「……善処します」
「うわっ、そこは即答しろよ!」
そんなやり取りを見ていた千里は苦笑いを浮かべていた。
「そうだ!夏休み中に模試あるでしょ?今度はあれで勝負しない?もちろんこの5人全員で!」
「おう!いいぜ!」
「ああ、面白そうだな。やるなら全力でいこう」
「私も頑張ります!」
正志の提案に、雄介と彰久、小百合は乗り気だった。だが、それに対して千里はあまり気が乗らないようだ。
「えっと……私は遠慮しておくよ。あんまり自信ないし」
「大丈夫ですよ!千里ちゃんは頭良いですからきっと勝てますよ!」
小百合が励ますが、それでも千里は首を縦に振らなかった。そんな千里の様子を見て、正志は不思議に思った。
(千里ちゃんは意外と負けず嫌いなのに、一体どうしたんだろう?)
「千里ちゃん、何かあったの?」
「いや、何もないよ。ただ、ちょっと気分がのらないというか……」
「もしかして、この前の期末テストで負けたのが悔しかったのか?」
「……うん」
「ああ、なるほどな」
彰久は納得したような表情を見せた。雄介も同じように理解したようで、笑みを見せている。
「えっ、どういうこと?」
「つまり、この前のテストで俺に負けてショックを受けたってことだ。俺としては、あの時の千里はかなり頑張ってたように見えたけどな」
「彰久に負けたって……。あのなあ、彰久はバケモンみたいな存在なんだから、まともに勝負したって勝てるわけないだろ?そこはちゃんと弱点を攻めてく、くらいしないと!……いや、今回はその弱点を攻めても負けたんだけどな」「うぐっ!」
「ほら、雄介が余計なことを言うから、また千里ちゃんが落ち込んじゃったじゃん」
「悪い!でも、本当だから仕方がないだろ!?」
雄介と千里は喧嘩を始める。それをみた小百合は慌てて止めに入る。
「千里ちゃん!雄介君!落ち着いてください!彰久君も止めてくださいよ!まったくもう……」
「いや、俺は別にいいんじゃないか?」
「彰久君も煽らないでください!とにかく、今は千里ちゃんを慰めましょう!ね?」
小百合はそう言って、優しく千里の手を握る。
「小百合ちゃん……」
「千里ちゃん、元気を出してください。千里ちゃんが落ち込んだままだと、私も悲しいです」
「ごめん、ありがとう」
「いえ、どういたしまして」
小百合の優しさに触れ、千里は少しだけ元気を取り戻した。
「彰久君、雄介君、二人とも反省してくださいね!」
「「はい……」」
小百合の迫力に押され、二人はしゅんとした。
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