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アラフィフ暗殺者、異世界転生を果たす

19,VSゼノ〈前編〉

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カジノ『ハウンドドッグ』の経営が開始されてから一週間が経った。オープニングイベントを盛大にやったからだろうか、客の入りも上々で順調に経営できている。だが、一番の要因はやはりナナシがポーカーのディーラーを務めているということだろう。
なにしろナナシは美形であり、老齢の色気があり。さらにはどこか謎めいた雰囲気もある。そんな彼がトランプを操る姿はとても様になっていた。その姿に魅せられ、彼は連日連夜たくさんの人が訪れていた。中には女性の姿も多く見られたという。
そして、今日もまた――。
「お兄さん!もう一回勝負しようぜ!」
「いやいや、俺が先だ!」
「いいや、俺が先にやる!」
「いやいや、私が――」
ナナシの周りを大勢の男たちが取り囲んでいた。
「はいはーい。順番を守ってくださいね」
ナナシは笑顔で対応していた。
「まったく、あいつは人気者だな」
その様子を見ていたゼノは呆れたようにため息をつく。
「ほんとにね」
隣にいたハクタケは同意する。
「そりゃあナナシは潜入のために色気を振りまくことも仕事だもの。あの程度はできてあたり前よ」
ナナシは暗殺者としてターゲットの懐に潜入することもある。そのため、いかに相手に警戒されずに近づくかということを熟知している。それはつまり、いかに相手を誘惑するかということである。ナナシはそういった技術に長けており、男女問わず多くの人間を虜にしてきた。
「でも、あんなに露骨にやるのはどうかと思うけどな」
ゴルディは不満そうな顔で呟く。
「まあ、確かにあれはちょっとやりすぎよね」
「だろう?もっとこう、自然体でやってもいいんじゃないか?」
「確かにねぇ。僕もそう思うよ」
ゴルディとハクタケはナナシの行動に不満があるようだ。
「まあ別にいいんじゃねえか?ショービジネスなんだしよ。むしろあのくらいやったほうが箔がつくってもんだろ!」
カロンは豪快に笑い飛ばす。
「カロンはナナシの肩を持つんだな」
「あいつだっておまえが商戦で勝てるように協力してくれてるんだ。多少のことは目をつぶってやれよ」
「まあ、それもそうか」
カロンに諭され、ゴルディは納得した。
「ところで、あなたたちは何しに来たの?」
クロエは三人に声をかける。
「ああ、そういえばとうとうコロシアムが完成したんたよ!」
「へぇー、完成したんだ!」
クロエは興味深げに言った。
「おう、すっごく広いんだぜ!そうだ、よかったら一緒に行かないか!?」
カロンが提案すると、クロエは大きくうなずいた。
「行くわ!それじゃあ、早速行きましょう!」
「よっしゃあ!行こうぜ!」
四人は部屋から出ていった。
「あ、ちょ、待ってくれよ!」
一人残されたハクタケは慌てて後を追いかけた。
五人がカジノの地下に造られたコロシアムに到着すると、そこには広大な空間が広がっていた。ぐるりと周囲を囲う客席が見つめる先には、闘技場の舞台がある。
「うひょー!すげえな、これ!マジで完成してるじゃねえか!」
「ああ、本当にすごいな」
ゴルディは興奮した様子で叫び、ハクタケも感心したような声を上げる。
「ははは!そうだろう!なんせうちの部隊の奴らに作らせたんだ、凄いに決まってるだろ!」
カロンは得意気に笑った。
「カロン、ありがとな!」
「いやいや、礼を言うのはこっちの方だ。おまえのおかげでこんなに立派な施設ができたんだ。感謝してもしきれないよ」
子供のようにはしゃぐゴルディとカロンを見て、ハクタケは微笑ましそうに眺めていた。
「でさ、最初はここで何をするの?」
「ん?そうだな……」
カロンは顎に手を当て考える。
「やっぱりオープニングイベントは盛大にやらないとな!ゴルディ!」
「ん?なんだ?」
「俺たちで試合をするぞ!」
「はぁ!?」
「ほら、前に言ってただろ?俺たちが戦えば盛り上がるってよ!」
「いや、まあ、確かに言ったけどよぉ」
「それに、これは宣伝にもなるんだ!ハウンドがいかに優れた部隊なのかを知らしめるためにな!」
「なるほど、そういうことか。わかったよ」
ゴルディはやる気に満ちた表情で答えた。
「よし!決まりだな!それじゃあ、まずは対戦相手を決めるぞ!」
「そうだね!誰が出る?」
「うーむ、そうだな……。ゴルディ、誰がいい?」
「俺か?そうだな……。ナナシとかどうだ?ディーラーの人気も高いみたいだしよ」
「……ふむ。悪くはないな。ちょうどあいつの腕前にも興味があったところだ」
ゼノはニヤリと笑う。
「それじゃあその相手はゼノがやればいいんじゃない?」
クロエの突然の提案にゼノは驚く。
「おいおい、いきなり何を言い出すんだよ」
「だってさ、ナナシはあなたの手下なんでしょう?なら、部下の強さを知っておくのもボスの務めじゃない?」
「いや、そうかもしれないが……。おまえが戦うわけじゃないだろ?」
「もちろん私は出ないわ。でも、見てみたいのよ。あなたとナナシの戦いをね」
クロエはいたずらっぽい目つきで言う。
「……はあ、わかったよ。やればいいんだろう?」
「ありがとう!楽しみにしてるわね!」
クロエは嬉しそうに言う。
(まったく、しょうがないやつだ)
ゼノは苦笑いを浮かべた。
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