水泳部物語

佐城竜信

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水泳部物語

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「北沢!ラスト25メートル10本!」
「はいっ!」
俺の名前は北沢幸助。水泳部員だ。全国大会にも何度か出場していて、高校ではちょっとした有名人でもある。そんな俺は今年も県大会を優勝して全国大会へと駒を進めたのだ。そして今はその最終調整中だ。
自分で言うのもなんだけど、俺は相当に格好いい。その証拠に、俺の泳ぎを見ている女子たちが。
「きゃーっ!北沢君格好いい!!」
「ホントよね!あんな彼氏が欲しいわ~」
なんて黄色い声援を上げていたりする。まぁ無理もない。何しろ俺は高校で一番人気と言ってもいいほどのイケメンなのだから。それに全国レベルの成績となれば、女子が放っておくわけがない。
「ほら、北沢!女子の声援に浮かれてないでしっかり泳げ!」
水泳部の顧問、安藤衛先生がそう怒鳴った。ちなみにこの人は男だ。顔はそこそこだが、体はごつくていかにも体育会系といった感じである。そしてあだ名は『ゴリセン』だ。
「なにあれ、感じ悪い!」
「やっぱゴリセン最低だよねぇ……」
女子たちの間で陰口が叩かれる。まったく、これだから女っていう生き物は嫌いなんだ。可愛い顔をしているくせに中身は汚い。男だったらこんなことは言わないだろう。俺は心の中でため息をつく。
「じゃあ北沢。次はクロール50メートルな」
「はい」
50メートルなら楽勝だ。俺は余裕を持って泳ぎきる。
「よし、じゃあバタフライ100メートル行くぞ!」
「え……?」
「聞こえなかったのか?早く準備しろ」
「い、いえ。大丈夫です」
なんということだ。まだ半分以上あるじゃないか……。これはかなりしんどいぞ……。
俺はげんなりしながらスタート台に立つ。
「よーい……ドンッ!!」
合図と共に俺は飛び込む。水の中に入ってしまえばこっちのもの。俺は次々と種目をこなしていく。
しかし、やはり疲れるものは疲れる。最後のバタフライを終えた時、すでに足がガクガクになっていた。
「おつかれさん。今日はこれくらいにしておこうか」
「ありがとうございます」
さすがにこれ以上泳ぐ気力は残っていなかったので、ありがたく申し出を受けることにした。
「じゃあお先失礼します」
更衣室へと向かう俺の背後で、女子たちが安藤先生の悪口を言っているのが聞こえる。
―――ゴリラみたいな体しちゃってさ。気持ち悪いんだよねえ。
―――それな!あいつ絶対ホモだって!
―――うわぁキモ~い!マジ勘弁してほしいんですけどぉ!
まるで自分が馬鹿にされているような気がして、気分が悪くなる。
本当にイライラする女たちだ。

***
シャワーを浴びている。目の前には全身が映る鏡が置いてある。俺は自分の体をまじまじと見つめた。
引き締まった肉体美。これが俺の最高傑作だ。これでこそ男が輝くというものだろう。
――お前はいい身体をしているな。きっと素晴らしい選手になるに違いない。
ふと昔のことを思い出す。安藤先生が笑って言ってくれた言葉だ。
あの時は嬉しかったなぁ。
安藤先生は俺にだけ厳しいけど、それは愛情の裏返しだって思っている。だから俺はどんな辛い練習でも耐えられるんだ。
「俺の顔って安藤先生と全然違うよな。安藤先生は男らしくて格好いいけど、俺は中性的な美形、って感じだし。……まあ、格好いいからいいんだけどね」
「なんだ?北沢はナルシストだったのか」
突然背後から声が聞こえてきて振り返ると、そこには安藤先生が立っている。「あっ、いえ!そんなんじゃなくてですね……」
どうしよう。聞かれてしまっただろうか……。別にやましいことがあるわけではないけれど、なぜか恥ずかしくなった。
「ハハッ、冗談だよ。北沢は面白い奴だな。そういえば北沢もそろそろ引退の時期か」
「ええ。今年の大会が最後です」
俺はもう高校三年生だ。受験勉強もあるし、水泳部も引退する時期になっている。
「寂しいものだな。北沢はうちの自慢の選手だったからな」
「ありがとうございます。俺も先生と離れるのは嫌ですよ。だけど、仕方ないことですから……」
「そうだな……。まあ、いつでも遊びに来てくれよ。相談事とかあれば乗るからさ」
「はい!」
俺は最高の笑顔で答える。そして安藤先生は言った。
「その時は彼女つれて来いよな。お前、あんだけもてるのに彼女作ったことないだろ?」
「……はは、そうですね。だって、俺が彼女作ったらその子がみんなから嫉妬されちゃうじゃないですか」
「それもそうだな!」
「じゃあ俺は着替えて帰りますね」
「おう。気をつけて帰れよ~!」
こうして俺と先生は別れた。

***
家に帰った後、俺は部屋でいつもの日課に勤しんでいた。それはプロレスの動画を見ることだ。
動画サイトで見つけた動画。飽きることなく何度も見てしまう試合があった。それは、細身でイケメンの選手と筋肉隆々で大柄なレスラーが闘う試合だ。
イケメン選手が大柄なレスラーに逆エビ固めをされて苦しそうにしている。俺は頭の中で、イケメン選手を俺に、大柄なレスラーを安藤先生に置き換えて妄想をしている。そして……
「あぁっ!!くぅ……ッ!」
絶頂を迎える。その瞬間、俺は果てしない快感を覚えるのだ。
「……ふぅ」
俺はティッシュで精液を拭き取る。すると途端に虚しさに襲われた。
「俺も安藤先生とプロレスしてみたいな……それで、こんな苦しそうな顔になってみたい。それで、安藤先生に笑いながら言われるんだよ。『ははっ、どうした。もうおしまいか?』って。……ああ!想像したらまた興奮してきた!!」
俺は再び股間を熱くする。
「安藤先生……好きだ。あの筋肉、あの男らしい顔!安藤先生は俺なんかよりよっぽど美形だってのに、どうしてあの女子どもはあんなことを言うんだろう……。本当にムカつく!安藤先生がどれだけ優しい人なのか知らないくせに!!」
俺は自分のスマホを手に取った。そして安藤先生の写真を見る。
「この写真だけで何度オナニーしたことか……。やっぱり安藤先生は最高だ……。早く会いたいよ……。でも、俺はまだ学生だし、こんなこと先生に言えないよなー……はぁ」
ため息をつく。しかし、俺は気づいていた。先生に対するこの想いが、単なる尊敬ではないことに。

***
「学生プロレス?」
「そう!それにお前に出てほしいんだよ!」
お願いをするように顔の前で手を合わせてそう言ってきたのは、友人の金井義久だ。義久はプロレス同好会に入っていて、文化祭で学生プロレスをやるのだという話だ。
「それに俺も出てほしいってこと?」
「そうだよ。だってお前、女子受けめっちゃいいじゃん?だからさ、お前に女生徒の集客をしてもらおうと思ってさ」
「そういうことなら任せておいて!俺、結構モテるんだよ」
「おお!頼もしいな!」
なにせ俺は学校一のモテ男だ。俺が試合に出ると言えば学校中の女子生徒が集まってくるに違いない。
「文化祭2日目にグラウンドでやるんだよな?」
「そう!毎年恒例なんだぜ!楽しみにしててくれよな!」
「それで、相手は誰になるんだ?」
「まだ決まってないけど、3年の誰かになるとは思うんだよな」
「……まだ決まってないなら、安藤先生に声かけてもいいかな?」
安藤先生とプロレスができるかもしれない。俺はどきどきとしながらそう提案した。
「安藤先生?水泳部の顧問だよな。そっかー、いつもしごかれてるからそのリベンジマッチってことだな!いいじゃんいいじゃん、まさにプロレスって感じでさ!じゃあ安藤先生にも伝えとくわ!」
「よろしく頼むよ」
これで安藤先生とプロレスできる。あの筋肉美に触れられると思うと、それだけで下半身が疼いた。

***
「安藤先生」
「ん?なんだ北沢か。珍しいな。部活のない日に水泳部に用があるなんて」
「ちょっと聞きたいことがありまして……」
「そうか。じゃあ、職員室で聞くか」
「いえ、ここで大丈夫です」
俺は意を決して言う。
「先生、俺文化祭で学生プロレスに出ることになったんですよ」「ほう。お前が出るのか」
「はい。それで、先生に相手役をしてもらいたいんです」「なるほど。そういうことか……」
安藤先生は顎に手を当てて考える。
「わかった。いいだろう。引き受けようじゃないか」
「本当ですか!?」
やった!俺は心の中でガッツポーズをする。
「ああ。ただし条件が一つある」
「なんでしょう?」
「俺はお前にケガさせられないから本気ではいけないが、北沢。お前は本気で来いよ?」
「へー、随分余裕ですね」
「ははは。そりゃあそうだ。身長だって俺の方が10センチは高いし、筋肉だって俺の方がある。みろよ、この腕の太さの違い!お前は俺に勝てないよ」
安藤先生は二の腕を見せびらかす。確かに安藤先生の太い腕には敵わない。だけど……。
「勝ち負けとかが問題じゃないんです!」俺は必死に訴える。
「先生は格好良くて優しいのに、みんなから人気がない……。だからここで先生がいかに強くて格好いいのかをアピールして、みんなに認めてもらいたいんです!」「ははっ。そうか。ありがとうな」
安藤先生は優しく笑う。その笑顔はずるいと俺は思った。

***
そして、文化祭当日。俺たちはグラウンドにいた。
「それではこれより、我が校名物の文化祭、学生プロレスを開催します!」
実況の声が響く。グラウンドの中央で、俺と安藤先生は向かい合う。
「両者前へ!」
審判役の生徒が二人を呼ぶ。
「北沢。俺は絶対にお前を倒す!」
「ええ、望むところです!いつもいじめられているリベンジをさせてもらいます!」
台本通りのセリフを互いにぶつけ合う。ただし台本はここまで。ここから先は真剣勝負だ。
(とはいっても、この衣装……)
プロレスごっこの衣装は黒いブーメランパンツで、股間の部分にはファールカップが入っている。いつも部活の時は水着なわけだが、この衣装はそれよりも恥ずかしい。『よりみんなを楽しませるために』こんな衣装にしたと言っていた義久を恨めしく思う。
「きゃーっ!北沢君すごい格好~!!」
「北沢君すてき~!!」
「ゴリセンは死ね!」
観客は大盛り上がりだ。しかし、安藤先生はそんなことは気にしていないようだ。
「よし、来い!北沢!!」
安藤先生は両腕を広げて余裕を見せている。昔見た青春学園ドラマで先生が同じようにして、生徒を受け止めていた光景を思い出す。あの逞しいシックスパックのお腹に飛び込みたくなるが、今は試合に集中しないと!「うぉりやぁぁぁ!!」
俺は雄たけびを上げて突進する。そして勢いよくタックルした。「うおっ!?」
先生はおしたおされ、地面に倒れ込む。
「くっ……。やるな、北沢」
「まだまだこれからですよ!」
俺は先生に馬乗りになる。そして先生の顔面にパンチを繰り出す。
「ぐぅ……。くそ……。いいぞ、もっと打ってこい!」
パンチの打ち方なんてよくわからないから、とりあえずグーで顔を殴る。先生にはあまりきいているようには見えない。
(そういえば先生って学生時代は空手とレスリングやってた、って言ってたっけ)
だからこそのムキムキボディなのだろう。
「ふふん。どうした北沢。もう終わりか?」
先生は不敵に笑ってみせる。
「まだ……!俺の全力はこれからだぁッ!!」
俺は叫ぶと、先生の腕をとって腕ひしぎ十字固めを仕掛ける。
「ぬわぁ……!!これは……!」
先生は苦しそうな声を上げる。
「このまま……!決める……!」
俺はさらに力を加える。先生の体が軋む音が聞こえてくる。
「ぐう……!北沢……!お前は強い!でもな!!」
先生は俺を抱えたまま起き上がる。うそだろっ!?プロでもないのにそんなことできるの!?
「うわあっ!!」
先生はそのまま俺をリングにたたきつける。俺は思わず手を放してしまった。「いてて……」
「北沢。お前は強いよ。でもな、プロレスっていうのはこうやって相手を制するものなんだぜ?」
先生は立ち上がると、俺の首根っこを掴む。
「さあ、行くぞ!必殺のラリアットォォ!!!」
先生の腕が俺の首に巻きつく。苦しい!息ができない!!
「ごばぁ……!」
「さあ、これでとどめだ!バックドロップ!!」
先生は俺を持ち上げて、背中からマットに落とす。
「うげぇ……!」
あまりの痛みに意識が飛びそうになる。
「もう終わりか?」
「いや……まだだ……まだ闘える!!」
顔を近づけてくる先生に、まだやれることをアピールする。ようやく念願がかなって安藤先生とプロレスができるんだ。もっとやらないと絶対将来後悔する!!
「強情な奴だな。じゃあ次は逆エビ固めをかけてやるよ」
その言葉に俺はドキリとする。いつも夢見ていた、先生に逆エビ固めをかけられる日が来るなんて!
「いくぞ、北沢!」
先生は後ろから俺の両脚を抱え込む。そしてそのまま後ろに反って、俺の体を曲げようとする。
「ぐあぁ……!痛い……!」
「我慢しろ!男ならこれくらい耐えられるはずだ!」
先生はさらに力を込める。ああ……。ダメだ……。これ以上は……。
「ギブアップか!?北沢!!」
「ノー……!ノ―――!!」
俺は必死に抵抗する。
「いい度胸じゃないか……。じゃあいまから10秒数えてやる。10カウント以内に降参しないともっと力を入れるぞ?いいな」
「いいとも……!」
痛みとしてはまだ耐えられそうだ。それに……だんだん気持ちよささえ感じてくる。
(でも、絶対にみんなには悟られないようにしないと)
こんな変態だと知られたら恥ずかしくて死んでしまう。
「1……。2……。3……」
先生はゆっくりと10まで数を数える。そして……。
「9……。8……。7……。6……。5……。4……。」
「うぅ……。ああ……。」
俺はなんとか堪えている。もう少し……。もう少しで、もっと強くやってもらえる!!「北沢。いまどんな気分だ?」
「最高です……。先生……。」
「そうか。じゃあそろそろ終わらしてやるか」
「お願いします……!もっと……。」
「わかった。それっ!」
先生は思いっきり腰を折り曲げる。
「ぐあぁぁぁ!!」
その瞬間、俺は悲鳴を上げてしまう。しかし、それでも俺はギリギリのところで耐えた。
先生は技をといて俺から離れていく。ああ……もったいない……。
「よし、よく頑張ったな。じゃあ、今度はこれでフィニッシュだ!」
先生は俺の体を抱える。そして、自分の頭の上に俺を乗せた。
「うおおおぉ!!」
先生は俺を持ち上げたまま走り出す。
「先生!ちょっ……!ストップ!ストップ!」
「ははは!これが俺の必殺技だ!!」
「わあぁぁぁ!!」
俺は絶叫しながら運ばれる。まるでジェットコースターみたいで怖いけど、それ以上に楽しい!
「どうだ北沢!この高さからのフォールは効くだろ!!」
先生は勢いよく俺を落とす。
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
俺の体は見事に決まって、試合は俺の負けで終わった。

***
「北沢君、すごかったね~」
「うんうん!格好良かったよ!」
クラスの女子たちが俺のことを褒めてくれる。俺は照れながらも嬉しかった。
「でもゴリセンも、もっと手加減してくれてもよかったのに!!」
「そうそう。せっかくだから北沢君に勝たせてくれてもよかったのに。大人げないよねー」
女子たちは口々に安藤先生を非難する。
「いやぁ、あれ以上やったら死んじゃうかと思ってな。すまんな、北沢。」
「いえ……大丈夫ですよ。楽しかったんで」
俺が笑顔を見せると、女子たちも微笑み返してくれる。
「そうか。それはよかったよ。なぁ北沢」
「はい!」
こうして俺たちのプロレスごっこは大成功に終わった。
それから数日後のこと。俺は放課後、部室で安藤先生と二人きりになった。
「そういえば先生、あの時のことなんですけど……」
「ん、なんだ?」
「先生あれで手加減してたんですよね?もし本気だったらどうなってたんですか?」
「そりゃあ、お前の体が真っ二つになってただろな」
「えぇ!?」
「ははは!冗談だよ」
「びっくりさせないでくださいよ」
俺はほっと胸を撫で下ろす。しかし、先生の顔は真剣なままだった。
「北沢。お前はプロレスが好きか?」
その問いかけに、俺はドキリとする。まさか『はい!大好きです!プロレスラーの体を性的な目で見てます!先生ともエッチなプロレスプレイがしたいです!!』なんて言えるわけがない。「そ、そりゃあ好きにきまってるじゃないすか!」
俺は精一杯の嘘をつく。
「そうか。俺も好きだぜ。プロレスはいいよな。あんなに激しいスポーツはないと思うぜ?」
先生はにっこりと笑う。
「はい、そうですね」
「でもな、俺が学生のころは、プロレスは人気がなかったんだ。なぜかわかるか?」
「さあ……。どうしてなんでしょう」
「プロレスっていうのは、相手の技にわざとかかって、相手を喜ばせて観客を沸かせる競技だ。でも、プロレスの人気が上がってきたのは、格闘技ブームが来てからなんだ。それまでプロレスは嫌われていたんだよ」
「へぇ……。そうなんですね」
知らなかった。プロレスがそんな風に思われていたことなんて……。
「先生はプロレスが好きなんですか?」
「ああ、大好きだ!例えば関節技にかけられてレスラーが痛がっている顔なんてドキドキしちゃうな!」
……ん?
「あとはそうだな。そう、急所攻撃とか!男の大事な場所を痛めつけられて、悶絶している姿なんか興奮するだろ!?」
……あぁ。そういうことだったのか。
「あの……先生ってサディストなんですか?」
「サディストなんて難しい言葉をよく知ってるな」
「まぁ……」
俺は苦笑いを浮かべる。
「でも、俺の言ってることは間違ってないだろ?」
「まぁそうですけど……」
確かに先生の言う通りだ。先生みたいな人になら、いじめられてもいいかも……。
「北沢はどう思う?俺はおかしいかな?」
「まぁ……。先生はちょっと変わっていると思います……」
「ははは。そうかもしれないな」
先生は笑う。
「でも、俺はそんな自分を否定しないよ。だって、俺は男をいじめるのが好きで、男はそれに喜ぶのが当たり前だと思っているんだからな」
先生の言葉を聞いて、俺はふと思った。
もしかするとこの人は俺と同じ趣味を持っているのではなかろうか。
「北沢もそう思わないか?」
先生の問いかけに、俺は答えることができなかった。
「……あの。先生の好きなレスラーって誰ですか?」
「ん?そうだな。一番は『矢沢徹』さんかな。知ってるか?」
知ってるも何も、俺がいつも見てる動画でいじめられているイケメン選手こそがその矢沢徹なのだ。「はい……。俺も好きです……。」
「おお!やっぱりお前もか!」
先生はとても嬉しそうにしている。きっと、自分の趣味を分かってくれる人が少なかったのだろう。
「先生もプロレスをやるんですか?」
「いや、俺はプロレスはあまりやったことがなくてな。せいぜいが学生時代にプロレスごっこをやったことがある程度だ。」
「プロレスごっこ……ですか」
俺は先生の言葉を反すうした。
「ああ。俺はレスリングもやってからな。その時に何人かの男子と一緒にプロレスごっこをしたことがあったんだ。」
先生は懐かしむように語る。
「それで、俺の友達の中に結構プロレスが好きだった奴がいたんだけどな。そいつはプロレスごっこが上手かったんだよ。」
「それってつまり、先生はその人とエッチなことを……」
「ああ。セックスの代わりとしてやっていたな」
先生は平然と言い放つ。
すごいな。大人の世界は。こんなにも過激な遊びがあるなんて。
「お前も俺とやってみるか?」
先生は誘うような視線で俺を見てくる。俺はごくり、と喉を鳴らす。安藤先生とプロレスごっこが。そして、それよりさらに過激なことが出来たらどんなに素敵だろう、と。
……でも。
「やめておきます。先生が生徒に手を出したらまずいですよね?」
「おいおい、何を言ってるんだ。俺はただ『プロレスごっこ』に誘ってるだけだぞ?お前みたいなイケメンと遊びたい。ただそれだけさ」
「それでもやっぱりまずいと思います。……でも、先生。俺はもう少しで卒業します。そうしたら……先生。俺と遊んでくれますか?」
「はは!もちろんだ。その時が来たら一緒に楽しもうぜ」

***
そして俺は無事大学に合格し。卒業式の日を迎えた。俺は一度家に帰ってから、先生との待ち合わせの場所に向かう。その場所とは駅前の広場だ。
「お、来たか」
「はい」
先生は相変わらずのスーツ姿で待っていた。筋肉がある人がスーツを着ると滅茶苦茶格好いい!「よし、じゃあ早速行くか」
「え?どこに?」
「決まっているだろ?ホテルだよ」
「ええ!?」
俺は思わず大きな声を出してしまう。
「はは!そんなに驚くことか?」
「そりゃ驚きますよ!」
「大丈夫だよ。別に俺はお前が童貞だとは思ってないし」
「い、いえ!俺まだ経験したことないです!」
「そうなのか。意外だな。北沢くらいの容姿なら女に困らないと思うけどな」
「先生のためにとっておいたんですよ」「嬉しいこと言ってくれるな」
先生がにやりと笑う。俺はどきりとしてしまう。
「まあ、とりあえず行こうぜ」
「え?ちょっ……」
先生は俺の手を握って歩き出す。ごつごつとした先生の男らしい手に俺はドキリとする。
「ほら、行くぜ?」
「はい……」
俺は顔を真っ赤にしながら返事をする。先生は俺をラブホに連れて行った。

***
部屋に入ると、先生はベッドの上に腰掛ける。俺は緊張しながらも、先生の隣に座った。「さて、何して遊ぶ?」
先生が俺の肩を抱いてくる。
「あの……俺、こういうところに来るのは初めてなんですけど……」
「そうなのか?それは初体験が俺なんかでよかったのか?」
「はい!むしろ先生みたいな素敵な人とできて光栄です!」
「そうか。そう言ってくれて俺も嬉しいぜ」
先生は俺を抱きしめてきた。
「先生……!」
「ふぅ……やっぱりお前は最高だ……」
先生は俺の首筋にキスをしてくる。
「あっ……」
「かわいい反応するじゃないか」
先生は今度は俺の耳に息を吹きかけてきた。
「ひゃん!?」
「ははは!お前は本当に可愛いなぁ!」
先生は笑いながら、俺の体を弄ってくる。「あの……先生……」
「ん?なんだ?」
「プロレスごっこをするんですよね?俺、文化祭の時も先生に逆エビ固めをかけられてすごく気持ちよかったんです。だから、今日もお願いできませんか?」
俺の言葉を聞いた先生は一瞬きょとんとしていた。しかし、すぐに笑みを浮かべる。
「そうか。お前はプロレスごっこがしたいんだな?」
「はい」
「分かった。お前が望むなら、俺はそれに付き合ってやるよ」
先生は俺の股間に触れてくる。「うわぁ!?」
「はは。随分と興奮しているみたいだな。まあいい。俺も男をいじめるのは好きだからな」
先生は俺のズボンを脱がせてくる。
「へぇ……なかなか立派なものを持っているじゃないか」
先生はまじまじと俺のものを見つめている。
「あ、あまり見ないでください……」
「なんでだ?恥ずかしがることなんてないだろ?これは男の証だ。誇っていいぞ」
先生は優しく語りかけてくる。
「さて、そろそろいいか?」
「はい。よろしくお願いします」
「ああ。任せておけ」
先生が俺に覆いかぶさってきた。
「さっきも言った通り、俺は男をいじめるのは好きなんだ。特にお前みたいなイケメンをな」
先生は舌なめずりをして、俺の顔を見下ろしていた。
「それじゃ、始めるぞ?」
「はい。お願いします」
先生が腕を振り上げる。そして、勢いよく俺の腹に振り落とした。
「ぐええええええええええええ!?」
俺は痛みのあまりに悲鳴を上げる。
「はは!どうだ?痛いだろ?」
「くそぉ……。この野郎……」
俺は苦し紛れに先生の腕を掴む。
「おっと、無駄なことはやめた方がいいぜ?」
「うるさい!」
俺は力を込めて先生の腕を握りしめる。すると、先生の口から苦痛の声が漏れた。
「おいおい。あんまり調子に乗るなよ?」
先生はもう片方の手で俺の頬を思いっきり叩く。
バチンという音が部屋に響き渡った。
「あぎぃ!?」
俺はその衝撃で思わず手を離してしまった。
「ふんっ」
先生は再び俺の腹に拳を叩きつける。
「げぼっ……」
俺は悶絶した。
「まだまだいくぜ!」
先生は何度も俺の腹にパンチを打ち込んでくる。
「ぶべっ!ごほっ!げほげほ……」
俺は咳き込む。
「おい、北沢。まだやるか?」
先生が問いかけてくる。
「ごめんなさい……。もう抵抗しませんから」「よし。素直でよろしい」
先生は満足そうに笑う。
「じゃあ、次だ」
先生は俺をうつぶせに寝かせて上半身を反り上げてくる。「うっ……」
「いい眺めだな」
先生は俺の背中に足を乗せて体重をかけてきた。
「重い……」
「そりゃそうだろ」
先生はさらに力を込める。
「ぐうぅ……」
「はは!苦しいか?」
「はい……。でも気持ちいいです」
「変態め」
先生は俺の尻に膝蹴りを食らわせる。
「おごっ!?」
「ほれ、もっと味わえ」
先生は俺の背骨を踏みつけてぐりぐりと動かしてきた。
「ああっ……!気持ちいいいです……」
「そうか。じゃあ、次は……」
先生は俺の脇の下に手を伸ばして、くすぐり始めた。
「あははははは!」
「ははは!いい声で泣くじゃないか!」
先生は楽しげに俺を責め続ける。
「先生!俺もうダメかも……」
「おう。イっちまえよ」
先生は俺の耳元に口を寄せて囁いた。
「あああああっ!!」
俺は射精する。びゅるっと精液が飛び出し、シーツの上に落ちた。
「ふぅ……最高だった……」
俺はベッドの上に倒れこむ。そんな俺を見て、先生は微笑んでいた。
「先生……。俺、プロレスごっこだけじゃなくて先生と、その……したいです」
「セックスしたいのか?」
「はい。先生に初めてをもらってほしいんです」「そうか。そこまで言うなら相手してやるよ」
先生はスーツを脱いで全裸になる。
「先生の体……すごいですね……」
「お前も脱げよ」
「はい……」
俺は服を脱ぎ捨てる。そして、ベッドの上で先生と向かい合った。「まずはキスからだな」
先生は唇を重ねてきた。
「んむぅ……」
俺は夢中で舌を動かす。やがて、先生の唾液が流れ込んできた。
「んく……ん……」
俺はそれを飲み干す。
「ぷはぁ……」
「はは。いい顔になったじゃないか」
先生は俺のものを握る。
「ああんっ!」
「また勃起してるな。さすが若い」
先生は俺の顔の前に自分のペニスを持ってきた。
「舐めてみろよ」
「はい……」
俺は先生のものをしゃぶり始める。
「おお!気持ちいいぞ……」
先生のものはどんどん大きくなっていく。俺は一心不乱にフェラを続けた。
「そろそろ出すぞ!」
先生は俺の頭を押さえつけてくる。喉の奥まで突かれて吐きそうになったが我慢した。
「出る!」
先生のものが震えたかと思うと、大量の精子が放たれた。
「んぐっ……ごく……」
俺は必死になってそれを飲み込む。
「ふう……いっぱい出たぜ」
先生は俺の口からものを引き抜く。
「先生、ありがとうございます……。すごくおいしかったですよ」
「はは。それはよかった」
先生は俺を抱きしめてくる。
「さて、そろそろ本番に行くか?」
「大丈夫ですか?先生はもう年だから無理しないでくださいね」
「余計なお世話だ」
先生は俺の股間にローションを垂らす。
「ひゃん!?冷たい……」
「すぐに暖かくなって気持ちよくなるから安心しろ」
先生は指にコンドームをつける。そして、俺の肛門に挿入してきた。
「あうっ!?」
「痛いか?」
「いえ……。痛いけど……なんか変な感じです」
「そうか。じゃあ、動かすぜ」
先生はゆっくりと抜き差しを始めた。
「ああっ……」
「どうだ?気持ちいいか?」
「はい……。もっと激しくしてください……」
「分かった」
先生はピストン運動を速める。
「ああ!いい!先生!先生!」
「くくく。すっかりメスの顔になっちまったな」
先生は俺の乳首を摘まんだ。
「ああんっ!」
「どうだ?気持ちいいだろ?」
「はい!もっといじめてください!」
先生はさらに強く俺を攻め立てる。俺は快楽の波に飲まれていった。
「ああんっ!イク!イッちゃいます!」
俺は射精した。同時に腸内に熱いものが注がれる。
「はあ……はあ……」
俺は息を整えながら、先生の方を見る。
「先生……」
「なんだ?」
「俺、先生のことが好きです……」
「知ってるよ」
先生は優しく微笑んでくれた。
「俺もお前のことが大好きだ。……愛してる。俺と付き合ってくれないか?」先生からの告白に俺は驚く。しかし、断る理由なんてない。俺は先生の恋人になりたいと思った。
「はい。喜んでお付き合いさせていただきます」
俺は先生に抱きつく。先生もそれに応えてくれた。
「じゃあ、これからよろしくな」
「はい。こちらこそ」
こうして俺に初めての恋人ができたのだった。
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