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キャップ帽をいつもよりも更に目深にかぶり、昼中の繁華街を気ままに歩く。陽の時間をあまり好まない女だが、曇天のお陰か、いつもよりは幾ばくか機嫌がいい。女が、よく耳にするジャズの一節を淡々と口遊む。女の口からは、流暢な英語が次々と発せられていた。
「…、……?」
ふと目に入ってきた路地。ふらり、と近づいていく女。
「…“愛してあげてください”?」
女が箱に書かれた字を声に出して読む。
「お前…捨てられたの。」
女の視線の先には、両手で包み込めそうなほどの白い子猫。身体を震えさせ、丸まっているではないか。しかし、女を見つめる子猫の瞳は真っ直ぐでブレがない。女が徐ろにしゃがみ込み、手を伸ばした。
「…私のとこに来る?」
女は決して、同情で動物を拾うようなタイプでない。ただ、少しこの子猫に惹かれたのだ。しかしあくまで、子猫に選択させようとする女。十分な沈黙の後、静かに立ち上がった子猫は女の手の上に乗った。
「…よろしくね、Alice。」
迷わず、名前を口にする女に、子猫はきょとんとする。女はそんな子猫に小さく微笑み、子猫を自らの肩に乗せて。肩に乗せられた子猫は、嬉しそうに鳴いた。
「…とりあえず、」
ペットショップか…、と女は静かに零し、大型のペットショップの場所を頭に浮かべながら歩きだす。左手で肩に乗る子猫を撫でながら、右手ではスマートフォンを操作して。
「…猫、診て欲しいんだけど。」
1コールで出た闇医者に、開口一番、そう伝えれば。闇医者は、ラボに道具を取りに戻ってすぐ向かうわ、と返えし、通話を切った。今から買い物をして帰ればちょうどいいくらいか、と頭の中で考える。
「…和寿に車借りればよかったか……。」
ペットショップに着き、大型カートに次々と必要なものを入れながら、女は小さく言葉を漏らした。カートの中では子猫がきょろきょろと顔を出している。女はそんな子猫をひと撫でしてから、会計を済ませた。女が問屋を呼び出そうと、スマートフォン片手にカートを押して外に出ると。
「来て正解、?」
そう言って小さく笑う問屋。その後ろには、仲介人の車。そんな問屋に女は静かに微笑む。
「自宅?」
荷物を全て積み終え、運転席に乗り込んだ問屋の問いに頷き、お願い、と言葉を添える女。それに問屋は微笑みを返して、車を静かに発進させた。
「…名前は?」
バックミラー越しに問屋が子猫を一瞥する。
「Alice。」
「…よろしく、Alice。」
そんな問屋に子猫も短く鳴き返して。2人を見て女は満足気に笑った。
----
自宅に着き、しばらくして来客を知らせるチャイムが鳴った。問屋がモニターを確認し、玄関に向かう。
「お待たせ~。」
問屋の後に続き入ってきた闇医者がソファーに座っている女に声をかけ、その足元にいた子猫を抱き上げる。
「じゃあ地下借りるわね。」
「…ん。お願いね。」
リビングを出て行く闇医者と子猫を見送り、タブレットとノートパソコンを取り出し、操作する女。ノートパソコンの方でいくつかのウィンドウを開き、株やFXの動向を確認する。同時にタブレットでメールをチェック。顧客からの依頼を主とするメールアドレスだ。
「………。」
「蜜姫、」
問屋の声に顔を上げると、ダイニングテーブルに並ぶいくつかの皿が視界に入る。
「…お腹、空かない?」
キッチンから出てきた問屋が微笑む。
「空いたかも…。」
ノートパソコンを閉じて、タブレットを片手に席につく。テーブルにはサラダとクリームソースのパスタ。
「相変わらず、軽いものしか作れないけど…。」
そう言って苦笑いする問屋。女は首を横に振り、美味しそう、と微笑み返した。
「いただきます。」
タブレットを斜め前に立てて、手を合わせる。
「…おいしい。」
目の前の料理の美味しさにふわりと笑って。女の正面の椅子に座りただ見つめるだけの問屋も嬉しそうに笑う。
「…よかった。」
女がゆっくりと食事をし終えると、問屋はそっと食器を下げていく。そんな問屋にお礼を行って、タブレットを手に取り受信メールの一覧にざっと目を通す。ふと、いくつかの未読メールの送り主の中に、珍しい名前を見つけた。メールの内容は簡単に言えば、護衛をして欲しい、とのことだった。女は酷く愉しそうに笑い、スマートフォンを取り出すして。依頼主の名前を呼び出し、電話をかける。1コールで受話器を取る音がして、はい、と聞こえてきた低い声。
「…私。」
蜜姫か、と言う少し掠れた声に、そう、と短く返す女。
「今夜、いつものBarで。」
それだけ言って、通話を切る。その男と会う時は、いつも0時に決まったBarで。
「夜出るの…?」
「朝にはちゃんと和寿のとこに行くから。」
少し不安そうな問屋を安心させるように微笑む。それを見て押し黙る問屋。
「お待たせ~。」
沈黙を破ったのは、子猫を抱いてリビングに入ってきた闇医者だった。
「ありがと。」
女は闇医者から子猫を受け取る。
「じゃあ私はちょっと野暮用があるから帰るわね。」
「…俺もそろそろ。桜さん、送るよ。」
「あら、そう?じゃあお言葉に甘えるわ。」
女は子猫を抱いて、2人を見送って。玄関の鍵をかけ、書斎に向かった。
「…、……?」
ふと目に入ってきた路地。ふらり、と近づいていく女。
「…“愛してあげてください”?」
女が箱に書かれた字を声に出して読む。
「お前…捨てられたの。」
女の視線の先には、両手で包み込めそうなほどの白い子猫。身体を震えさせ、丸まっているではないか。しかし、女を見つめる子猫の瞳は真っ直ぐでブレがない。女が徐ろにしゃがみ込み、手を伸ばした。
「…私のとこに来る?」
女は決して、同情で動物を拾うようなタイプでない。ただ、少しこの子猫に惹かれたのだ。しかしあくまで、子猫に選択させようとする女。十分な沈黙の後、静かに立ち上がった子猫は女の手の上に乗った。
「…よろしくね、Alice。」
迷わず、名前を口にする女に、子猫はきょとんとする。女はそんな子猫に小さく微笑み、子猫を自らの肩に乗せて。肩に乗せられた子猫は、嬉しそうに鳴いた。
「…とりあえず、」
ペットショップか…、と女は静かに零し、大型のペットショップの場所を頭に浮かべながら歩きだす。左手で肩に乗る子猫を撫でながら、右手ではスマートフォンを操作して。
「…猫、診て欲しいんだけど。」
1コールで出た闇医者に、開口一番、そう伝えれば。闇医者は、ラボに道具を取りに戻ってすぐ向かうわ、と返えし、通話を切った。今から買い物をして帰ればちょうどいいくらいか、と頭の中で考える。
「…和寿に車借りればよかったか……。」
ペットショップに着き、大型カートに次々と必要なものを入れながら、女は小さく言葉を漏らした。カートの中では子猫がきょろきょろと顔を出している。女はそんな子猫をひと撫でしてから、会計を済ませた。女が問屋を呼び出そうと、スマートフォン片手にカートを押して外に出ると。
「来て正解、?」
そう言って小さく笑う問屋。その後ろには、仲介人の車。そんな問屋に女は静かに微笑む。
「自宅?」
荷物を全て積み終え、運転席に乗り込んだ問屋の問いに頷き、お願い、と言葉を添える女。それに問屋は微笑みを返して、車を静かに発進させた。
「…名前は?」
バックミラー越しに問屋が子猫を一瞥する。
「Alice。」
「…よろしく、Alice。」
そんな問屋に子猫も短く鳴き返して。2人を見て女は満足気に笑った。
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自宅に着き、しばらくして来客を知らせるチャイムが鳴った。問屋がモニターを確認し、玄関に向かう。
「お待たせ~。」
問屋の後に続き入ってきた闇医者がソファーに座っている女に声をかけ、その足元にいた子猫を抱き上げる。
「じゃあ地下借りるわね。」
「…ん。お願いね。」
リビングを出て行く闇医者と子猫を見送り、タブレットとノートパソコンを取り出し、操作する女。ノートパソコンの方でいくつかのウィンドウを開き、株やFXの動向を確認する。同時にタブレットでメールをチェック。顧客からの依頼を主とするメールアドレスだ。
「………。」
「蜜姫、」
問屋の声に顔を上げると、ダイニングテーブルに並ぶいくつかの皿が視界に入る。
「…お腹、空かない?」
キッチンから出てきた問屋が微笑む。
「空いたかも…。」
ノートパソコンを閉じて、タブレットを片手に席につく。テーブルにはサラダとクリームソースのパスタ。
「相変わらず、軽いものしか作れないけど…。」
そう言って苦笑いする問屋。女は首を横に振り、美味しそう、と微笑み返した。
「いただきます。」
タブレットを斜め前に立てて、手を合わせる。
「…おいしい。」
目の前の料理の美味しさにふわりと笑って。女の正面の椅子に座りただ見つめるだけの問屋も嬉しそうに笑う。
「…よかった。」
女がゆっくりと食事をし終えると、問屋はそっと食器を下げていく。そんな問屋にお礼を行って、タブレットを手に取り受信メールの一覧にざっと目を通す。ふと、いくつかの未読メールの送り主の中に、珍しい名前を見つけた。メールの内容は簡単に言えば、護衛をして欲しい、とのことだった。女は酷く愉しそうに笑い、スマートフォンを取り出すして。依頼主の名前を呼び出し、電話をかける。1コールで受話器を取る音がして、はい、と聞こえてきた低い声。
「…私。」
蜜姫か、と言う少し掠れた声に、そう、と短く返す女。
「今夜、いつものBarで。」
それだけ言って、通話を切る。その男と会う時は、いつも0時に決まったBarで。
「夜出るの…?」
「朝にはちゃんと和寿のとこに行くから。」
少し不安そうな問屋を安心させるように微笑む。それを見て押し黙る問屋。
「お待たせ~。」
沈黙を破ったのは、子猫を抱いてリビングに入ってきた闇医者だった。
「ありがと。」
女は闇医者から子猫を受け取る。
「じゃあ私はちょっと野暮用があるから帰るわね。」
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「あら、そう?じゃあお言葉に甘えるわ。」
女は子猫を抱いて、2人を見送って。玄関の鍵をかけ、書斎に向かった。
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