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あの日の記憶

第35話 ひろし、メインクエストを進める

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 ハーイムの港町にたどり着くと、町の入口でイリューシュがメインクエストについてみんなに説明した。

「みなさん。この港町の住人はすべてNPCで、唯一ゆいいつ町の中で戦闘ができる町なんです。そろそろ来ますよ」

「うわー、助けてくれー海賊だー」

 イリューシュがそう言うと、前からNPCの町人が走って来た。

「ひゃっはー! この町のお宝はオレたちがもらったぜー!」

 すると後ろから分かりやすい海賊たちが追いかけてきた。

 NPCの町人はおじいさんの前に来ると慌てた様子で話し始めた。

「助けてください! あの海賊たちは、この町に伝わる、伝説の宝玉を狙って……」

 ブワッ! ズドン! ガガーン!

 しかしその瞬間、プラチナ・ガチャで力をつけたアカネとめぐが前に出て一瞬で海賊全員を倒した。


 海賊がいなくなると、町人はおじいさんたちにお礼をし始めた。

「ありがとうございます! お守り頂いたお礼に、ぜひ伝説の宝玉を見ていってください。ささ、こちらへ!」

 NPCの町人は、おじいさんたちを村の中心の大きな宝物庫へ案内すると嬉しそうに扉を開けた。

 ギィィィイイイイ……

 しかし、宝物庫の中には分かりやすい海賊のボスらしき敵がいた。

「はっはっはー! 我こそは世界の海を股にかける海賊の中の海賊、ゴンゴビだ! この宝ぎょ……」

「やぁあ!」

 アカネはゴンゴビの話も聞かずに走り込み、ゴンゴビを背負い投げした。

 そこへすかさず、めぐが大呪文を唱えた。

「聖なる雷を司る者たちよ。我にその慈悲と慈愛を与えたまえ。清く正義の力をもって嘆願する。あの者に裁きの雷を!」

 ゴゴゴゴゴゴ

 すると部屋の天井に空に暗雲が立ち込め、いつもとは違う様子ようすの巨大な雷のかたまりが現れた。

 それを見た黒ちゃんは慌ててみんなに言った。

「危ない! あれは最高魔法が出るぞ! 離れろ!」

「「わーーー!!」」

 みんなは慌てて外へ飛び出した。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!

「え、え、え、え、なにこれ」

 めぐが慌てていると、

 パンッ……

 ドガガガガガガガガガン!!

 巨大な雷の塊がゴンゴビを直撃して一瞬で消し飛ばし、めぐを中心に閃光を放ちながら大放電を起こすと、宝物庫ごとあた一帯いったいを吹き飛ばした。

 ヒュゥゥゥゥ

 見事に更地さらちになった村の真ん中には、めぐが1人だけ立ちすくみ、足元には宝玉が転がっていた。

「……この杖、やば」

 めぐが静かに呟くと、視界にメッセージが現れた。

『15ポイントのステータスポイントを獲得しました』

『メインクエスト 第二章 完』


 それを見たアカネが笑いながら言った。

「終わっちゃったよ!」

 するとイリューシュがみんなに説明した。

「本当は、ここでゴンゴビさんと戦って、逃げるゴンゴビさんを追ってどんどん追い詰めるのですが……」

 イリューシュは町の奥に突然現れた船を確認すると笑いながら話を続けた。

「もう、船に乗れるみたいですね。行きましょう。ふふふ」

 ◆

 おじいさんたちは船の前まで来ると、NPCの船長が説明を始めた。

「おいらは新しくこの船の船長になったプンペさ。行きたいところを教えてくれ!」

 プンペは地図を広げた。

 アカネとめぐは地図を覗き込むと、いくつか行ける場所としてマークされている場所があった。

 アカネはそれを見ると驚いた。

「あれ? ピンデチにも行ける。G区画の前の海だ!」

 そして、めぐも地図の中のシャームの港を見つけた。

「あ、シャーム。タマシリさんがいる町だね」

 めぐはさらにシャームの近くにワンタイという地名を見つけて続けた。

「あれ? このワンタイって、もしかして小籠包しょうろんぽうが美味しいところですか?」

 するとイリューシュが笑顔で答えた。

「そうです。ふふふ、みなさん、小籠包しょうろんぽうを食べに行きませんか?」

「やった!」
「楽しみ!」
「中華ですか」
「おぉ、楽しみだ」

 こうして一行いっこうはワンタイへと向かった。


 船の上でみんながくつろいでいると、急に黒ちゃんが直立したままの姿勢で前に倒れた。

 ズゥゥ……ン

「おい黒ちゃん、大丈夫か!」

 アカネが急いで駆け寄ると、黒ちゃんは顔面蒼白がんめんそうはくで口を震わせながら答えた。

「ゆ……、揺れが……、船酔い……、うぶっ」

 するとイリューシュがやって来て椅子を一つ出現させた。

「黒ちゃんさん、この椅子に座ってください」

「あ、ありがとうございます……。現実世界では海で船釣りするほど平気なのですが、ゲームの中だと何故なぜうのです……」

 黒ちゃんはアカネの肩を借りながら立ち上がると、ヨロヨロと椅子に座った。

「お? おおぉ」

 よく見ると、その椅子は少しだけ空中に浮いていて船の揺れを感じなかった。

「この椅子は毒地帯や溶岩地帯の上を安全に移動するための椅子なんです。よかったら差し上げますね」

 イリューシュがそう言うと、黒ちゃんは椅子に座りながら頭を下げた。

「ありがとうございます! この御恩ごおんは必ずお返ししますので!」

「ふふふ、大丈夫ですよ。ちなみに設定画面で『揺れを固定する』をONにすれば酔いづらいですよ」

「なるほど、その手がありましたね! ……実はHPをだいぶ減らしてしまって、転移しようが迷っていたのです。助かりました」

 黒ちゃんは、そう言いながら全回復薬を飲むと、アカネが笑いながらツッコんだ。

「おいおい、何で我慢するんだよ。早く言ってよ」

「あ、いや、雰囲気を壊したくなかったのでな」

「急に転移されたほうが雰囲気壊れるって!」

「あ、ああ。たしかにそうだな」

「「「ははははは」」」

 みんなはアカネと黒ちゃんのやり取りに笑った。

 
 ー ワンタイ ー

 おじいさんたちはワンタイに着くと、 ワンタイ茶楼というお店に入った。

 そして席に座ると、有名な小籠包とデザートの豆花(トウファ)を頼んだ。

 イリューシュは注文を終えると、思い出したようにみんなに話し始めた。

「そういえば、明後日あさっての月曜日はコーシャタが24時間メンテナンスで、モトラジェット・レースですよ」

 するとアカネとめぐが喜んで言った。

「よっしゃ、今度は入賞する!」
「あれ、怖いけど楽しいよね」

 黒ちゃんは静かにメニューを見ていた。

 おじいさんは「??」となっていたのでイリューシュが説明した。

「ひろしさん、モトラジェットはオートバイみたいなもので、明後日レースがあるんですよ」

「あぁ、なるほど」

 コーシャタにはたくさんのスポンサー企業が入っているため、メンテナンス作業に時間がかかった。

 しかし、事前告知を知らずにメンテナンス作業中のコーシャタへ来てしまう人たちが多いので運営が対策を考えた。

 それがコーシャタのメンテナンス中に開催される、モトラジェット・レースだった。

 レースはコーシャタの街の周りを一周するタイムで競い、1時間ごとに入賞者が決定された。

 アカネは黙ってメニューを見ている黒ちゃんに尋ねた。

「黒ちゃん、モトラジェット・レース出ないの?」

「いや、私は、なんというか、仕事を思い出してしまうのでな」

「黒ちゃんバイク乗る仕事してるの? 配達とか?」

「え? まぁ、そんなところだな」

「いいじゃん、一緒に出ようぜ!」

「あ、ああ。そうだな……」

 こうして明後日は、みんなでモトラジェット・レースに出る約束をした。
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