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第78話 黒ちゃん、慌てる

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 おじいさんたちは洞窟から出て軽トラに乗ろうとすると、イリューシュが思い出したようにおじいさんに言った。

「あ、そういえば、無職の人限定のイベントクエストが今やっているのですが、ご存知ですか?」

 職業が「無職」のおじいさんとアカネと大熊笹は驚き、おじいさんがイリューシュに尋ねた。

「そのクエストは難しいのでしょうか」

「もともと『無職』はゲームの得意な人が選ぶ職業なので高難易度のクエストなのですが、みなさんならクリアできる気がします」

「「おお!」」

「クリアすれば『ウールのジャージ』という、全属性を軽減する上に防御力も高いジャージが手に入りますよ」

「「おおー!」」

 するとアカネが少し微妙な表情でイリューシュに尋ねた。

「えー、それ欲しいけど、ジャージなんすか?」

「ええ。たしか無職の人はジャージやパーカーや……、あとはトレーナーとかスウェットくらいしか防具が無いので」

「なんだか、あたしの普段着と一緒だなぁ」

「あ、でもアカネさん、コーシャタで買った服はどの防具を装備しても、コーシャタで買った服の見た目になりますよ」

「ええ、そうなんすか!?」

「はい、だからジャージを装備しても見た目は柔術衣です」

「まじすか、なら欲しいっす!」

 すると大熊笹がアカネに聞いた。

「アカネさん、その道着はわたしも着れるのでしょうか」

「うん、コーシャタっていう所に行けば買えるよ熊じぃ」

「おお、それはいつか欲しいですな!」

 それを聞いた黒ちゃんが大声で言った。

「大熊笹先生! ぜひ私に柔術衣を買わせてください! そのくらいのお礼はさせてください先生!」

 それを様子見ていたイリューシュは笑顔で提案した。

「では、みんなでコーシャタへ行きましょうか」

「「おおーー!」」

 こうして急遽、おじいさんたちは軽トラでコーシャタへ向かった。


 ー コーシャタ ー

 おじいさんたちはコーシャタに着いて軽トラから降りると、なんとミルネで京都フェアをやっていた。

 それを見ためぐは嬉しそうに言った。

「京都フェアやってる! あとで寄っていいですか?」

 すると京都のお茶の銘店めいてんのきを連ねてお茶を売っているのを見て、おじいさんも目をキラキラさせた。

 イリューシュは2人の様子を見ると、アカネに尋ねた。

「アカネさん、この間の格闘技ショップの場所は覚えてますか?」

「うん、この道を真っ直ぐ行って、ちょっと入ったトコっすよね」

「さすがですねアカネさん。わたしは、ひろしさんとめぐさんと一緒に京都フェアを見ていますので、黒ちゃんさんと一緒に大熊笹さんをご案内していただいても良いですか?」

「うん、まかせてよ!」

「ありがとうございます、お願いしますね。分からなくなったらボイスチャットで連絡してくださいね」

「うっす!」

 こうしてアカネは大熊笹と黒ちゃんを連れて格闘技ショップへ向かった。

 ◆

 アカネたちはしばらく道を歩いていると、おもむろに黒ちゃんが呟いた。

「そういえば、この辺りで麻痺ナイフ食らったんだったなぁ」

 それを聞いたアカネが笑いながら黒ちゃんに言った。

「あの時は黒ちゃん、あたしを助けてくれたもんな。ほんとありがとな」

「いやぁ、今でも恥ずかしいさ。あんな姑息こそくな手でやられるなんて」

「ははは。そういえばさぁ、あの『黒』って集団はどうしたんだろうな。まだやってんのかな、あいつら」

「どうやら『黒』は新しく弓使いのミドリがリーダーになって残っているみたいだぞ」

「へぇ、まだ残ってるんだ。まだ悪い事してんのかなぁ」

「いや、ミドリが他のプレイヤーを襲うことを禁止してゲームの制作会社と和解したそうだ。だが、反対派が分裂したらしい」

「そっか。じゃあ、まだ悪い奴らはまだ残ってるんだな」

「そうだな。『黒』も、分裂した反対派もバリードレというところに居るのだが、その周辺ではトラブルが絶えないようだ」

「まったく。りない奴らだなぁ」

 アカネと黒ちゃんがそんな事を話しているうちに、格闘技ショップに到着した。

 アカネは嬉しそうに指を差しながら大熊笹に言った。

「熊じぃ、ここに売ってるんだよ」

「ほぉ、これは楽しみですな」

 大熊笹はアカネに連れられて店内に入ると、大熊笹は驚いた。

「ほぉぉ、この道着は格好良いですな!」

「でしょ、熊じぃ。これ、あたしが着てる柔術衣だよ。カッコイイよね」

「いやぁ、いいですねぇ」

 大熊笹が柔術衣を見ているとアカネが言った。

「熊じぃ、この黒いやつなんか似合うんじゃない? 強そうでいいじゃん!」

「ほぉ、なるほど。これは格好良いですね!」

 大熊笹は黒い柔術衣を手に取ると店員がやってきて話しかけた。

「このお店のものは全て試着できますので、よかったら試着してみてくださいね」

「あ、はい。ありがとうございます」

 大熊笹はアカネに教わりながら、黒い柔術衣を試着してみた。

「「おおーー!」」

「熊じぃ、めっちゃカッコイイよ!」

「大熊笹先生、とても似合っております!」

「ほんとうですか?」

 大熊笹は振り返り、鏡で自分の姿を見ると笑顔になった。

「では、これでお願いしてもよろしいでしょうか」

 こうして柔術衣の買い物を終えると、アカネたちはおじいさんたちの所へ向かった。


 ー 京都フェア会場 ー

 おじいさんは、かぶせ茶や煎茶せんちゃ、ほうじ茶や抹茶まっちゃなどを嬉しそうに購入していた。

「あぁ、まさか、あの京都の銘店のお茶がこの世界で買えるなんて。いやぁ、楽しみだなぁ」

 おじいさんが嬉しそうにしていると、めぐが抹茶パフェを食べながら笑顔で言った。

「おじいちゃん京都フェア最高だね。この抹茶パフェも、すごくおいしい!」

「このお店は抹茶のパフェもあるんですね」

 おじいさんはそう言いながら会計を済ませてめぐとイリューシュのところへ行くと、ちょうどアカネたちも帰ってきた。

「ただいまー。熊じぃカッコ良くなったでしょ!」

 おじいさんとイリューシュとめぐがアカネの声に振り向くと、黒い柔術衣を着た大熊笹が立っていた。

「おぉ、格好良いですね!」
「黒、いいですね。おしゃれ!」
「大熊笹さん、本当に格好良いですね!」

「いやぁ、ははは」

 大熊笹はみんなの言葉に少し照れると、アカネはイリューシュとめぐが抹茶パフェを食べている事に気づいた。

「あっ、なんか美味しそうなもん食べてる! ずるい!」

 アカネがそう言うと、黒ちゃんが慌ててアカネに言った。

「アカネ、ちょっと待っていてくれ!」

 黒ちゃんは急いで走ると抹茶パフェを買ってきた。

 そして、抹茶パフェをみんなに配るとアカネに言った。

「アカネ、足りなかったら言ってくれ。好きなだけ食べてくれると嬉しい」

「え、まじで? あたし3個はたべるよ?」

「うむ、全く問題ないぞ」

 すると、それを聞いためぐが2人を冷やかした。

「いいなー、アカネは大事にされてて。わたしも、もっと食べたいなー」

 それを聞いた黒ちゃんは慌ててみんなに言った。

「い、いや、みなさんも、お好きなだけどうぞ! わたしがおごりますので!」

「「やったー」」

 こうしてみんなは黒ちゃんのおごりで抹茶パフェを楽しんだのだった。
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