親の裏切りで幼馴染を買い損ねた奴隷商は、異世界転生者の生まれ変わりの娘と孫と共に彼女を買い戻す旅に出る〜全裸追放から始まる成り上がり生活2〜

仁徳

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第二章

第十四話 フリード!お前の仕業か!

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 ~フリードの父親視点~





 何もかがワシの商会を陥れようとしている可能性がある。そう判断したワシは、急いで旅支度を済ませると、家を飛び出す。

 ジェーン男爵は国境沿いにある町を治めている領主だ。ワシらの住む地域も影響力を持っている。誤解を招いたままでは、今後の活動に支障が出るのは明白だ。

 早くジェーン男爵と会い、事の真相を確かめなければ。

 馬車小屋に向かい、馬たちを確認する。2頭の馬がワシを見て尻尾を左右に動かし、首を上げているところを見る限り、元気でやる気があるみたいだ。これなら、いつもよりも早い速度が出せるかもしれない。

 御者席に乗り込み、手綱を握ると前後に動かして馬に合図を送る。

 合図を受け取った馬がゆっくりと歩き初め、小屋から出た。

「くそう。今日に限って人通りが多いとは」

 早く馬を走らせたいが、町の住民たちが歩き回っているせいで最低速度しか出せない。

 思うように進めない現実と、刻一刻と過ぎ去って行く時間に焦りと苛立ちを覚える。

 くそう。お前たち、早く退かないか。

 イライラしながら馬を走らせていると、ようやく人混みから抜け、人が歩いていない道が広がる。

 ここだ。ここで最高速度を出し、今まで無駄に浪費した時間を一気に取り戻す。

 手綱を動かし、速度を上げるように馬に指示を送ると、2頭の馬は一気に速度を上げる。

 助走から数秒後、馬は最高速度に達し、町中を駆け巡る。

 これなら先ほどの時間ロスを補えるだろう。そう思っていると、建物の間から何者かが飛び出して来た。

 ローブで姿を隠しているせいで容姿を確認することができない。なので、相手が男なのか女なのか、成人なのか子どもなのかを判別することができなかった。

 最高スピードを出している馬は、急には止まれないものだ。ブレーキをかけるように命じても、間に合わない。

 左右を確認せずに飛び出して来たお前が悪い。事故のトラブルで余計な時間を費やす訳にはいかないのだ。

 ワシは馬に速度を落とすように命じることなく、そのまま走らせる。

 時間にして1秒ほどだっただろうか。一瞬の判断をしている間に、馬は飛び出してきた人物にぶつかり、吹き飛ぶ。

 確認をせずに飛び出して来たお前が悪い。運が悪かったと思って、そのまま死ぬことだな。

 馬を止める事なく突き進み、町を抜ける。

 森の中を駆け抜け、1週間ほど経過した。

 最初にトラブルが起きたものの、どうにかジェーン男爵の治めている町に辿り着くことができた。

「1週間かかってしまったが、どうにか町に辿り着くことができたな」

 町の中に入ると、直ぐにジェーン男爵のいる屋敷に向かう。

 屋敷の門の前には、見張り役の兵士がいた。あいつにジェーン男爵に取り次いでもらって、屋敷の中に招き入れてもらおう。

「おい、そこの兵士」

「何だ? ここはジェーン男爵様の屋敷だぞ。お前のような汚い顔の男が来るようなところではない」

 兵士の言葉に苛立ちを覚えるも、ここはグッと堪えなければ。こいつに力になって貰えれば、屋敷内に入ることができるはず。

「ワシはクレマース商会の……ぶへぇ!」

 身分を明かそうとした瞬間、兵士はワシの顔面を思いっきり殴りつけてきた。顔面にジーンとした痛みが走る中、ワシは殴られたことでバランスを崩し、そのまま後方に転倒する。

「い、いひなり何をすりゅ?」

 顔面を殴られたことで口内を切ったのか、口から血が流れる。

 この兵士はいったい何なんだ? いきなり来客を殴るなんて普通ではないぞ。

「お前がクレマース商会を名乗ったからだ。ジェーン男爵様のご命令で、クレマース商会を名乗る者が現れた時には、殴ってでも追い返せと言われているのでな」

 どうして暴力を振るったのか、兵士が説明をする。

 くそう。まさかここまでジェーン男爵から嫌われているとは、何者かは知らないが、ワシの商会を潰させてたまるか。

「ま、待ってくれ。あれは誤解だ。何者かがワシらを名乗り、ジェーン男爵に危害を加えのだ。ワシは誤解を解くためにこの屋敷を訪れたのだ」

「誰だって言い訳はできる。俺の仕事はお前を追い出すことだ。何を言われよう、俺はお前を通さないからな」

 ゴミを見るような目で、兵士は睨み付けてくる。

 くそう。このままでは誤解を解くこともできずに、何者かの策略に嵌ってしまう。こうなっては最終手段を取るしかない。

 懐から財布を取り出し、兵士の前に1万ギル札を複数枚見せる。

「頼む。これでジェーン男爵と合わせてくれないか? 本当に誤解を解きたいだけなんだ」

 金を兵士に渡すと、やつは枚数を数え出す。

「ひい、ふう、みい……10万ギルか。良いだろう。一応ジェーン男爵に伝えておく。だが、許してくれるかどうかはジェーン男爵様次第だ」

 受け取った金を懐に仕舞い、兵士は踵を返して門を開け、中に入ると屋敷の扉を開けて建物内に入った。

 それから数分が経過しただろうか? 扉が開き、兵士と一緒にメイドが出て来る。

「お待たせしました。男爵様が応接室でお待ちです」

 メイドの言葉を聞き、ホッと胸を撫で下ろす。

 どうにか中に入ることができた。後は誤解を解くだけだ。

 兵士が門を開け、彼とすれ違って敷地内に入る。そしてメイドの後を歩き、屋敷内に入った。

「こちらにジェーン男爵様がお待ちです」

 メイドが右手で扉を指し示すと、鼓動が早鐘を打った。

 ワシにとって、一世一代の大勝負だ。誤解であることを伝え、仲直りをしてみせる。

 扉を開けて中に入ると、50代と思われる男がソファーの上に座っている。

「私にあのような仕打ちをしてよくもまぁ、ノコノコとこの屋敷を跨げたものだな?」

 ジェーン男爵はこちらを睨み付けてくる。だが、ここで怯む訳にはいかない。

「その件なのですが、ジェーン男爵様の元にやって来た人物は、クレマース商会の者ではありません。何者かがワシの商会を名乗り、騙っていたのです」

「ほう、そうなのか」

「ええ」

 事情を話すと、ジェーン男爵は柔軟な笑みを浮かべる。

 どうやらワシが嘘を言っていないことを信じてくれたみたいだ。

「この場に来てもなお、嘘を重ねるか! 自分たちがしたことを恥、謝罪をすれば許してやろうとも考えたが、そのような態度を取るとはやはり許せない!」

 ホッと胸を撫で下ろしたその瞬間、ジェーン男爵は額に青筋を浮き上がらせ、怒鳴り付けてくる。

「嘘とは滅相もありません。ワシは本当のこと――」

「もうそれ以上口を開いて臭い息をするな! 黒髪の少年が持っていた奴隷商人の証は、間違いなく本物だったぞ!」

 言葉を遮るように、ジェーン男爵が大声で叫ぶ。

 彼の言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になりそうになった。

「黒髪の少年……まさか! ジ、ジェーン男爵! もしかしてその少年はフリードと名乗っていましたか?」

 真実を確かめるために思い切って彼に尋ねる。

「確か、そのような名前だったな」

「おのれ! フリード! 勘当したからと言って、ワシらにこのような仕打ちをするとは!」

 犯人はもう一人の息子だと知った瞬間、怒りが込み上がってきた。

 許さない。絶対にお前を探し出して、この罪を償ってもらう。
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