親の裏切りで幼馴染を買い損ねた奴隷商は、異世界転生者の生まれ変わりの娘と孫と共に彼女を買い戻す旅に出る〜全裸追放から始まる成り上がり生活2〜

仁徳

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第三章

第七話 メリュジーナの事情

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 サクラが城の事情を話し、宰相たちのしていることを止めるのに協力を求めると、メリュジーナさんは拒んだ。

「どうして協力をしてくれないのですか! あのお城は、メリュジーナさんにとっても、大切な城ではないですか! 私の知らない思い出とか、たくさんありますよね!」

 協力を拒むメリュジーナさんに対して、サクラは声音を強めて詰め寄る。

 彼女の迫力に気圧されたのか、メリュジーナさんは目を逸らした。

「待ってくれ。確かに協力はできないが、それにはちゃんとした理由もある。わたしの話しを最後まで聞かないで、感情に流されて行動するのは愚かなことだ」

 メリュジーナさんが話しを最後まで聞くように促す。だが、それは彼女にも当て嵌まることだ。マヤノの額にあった奴隷契約の証を見た途端に、理性を失って攻撃してきたのだから。

「ママ、それって、ママも言えないよ。マヤノの話しも聞かないで、勝手に暴走してフリードちゃんを殺そうとしたじゃない」

 親子だからなのだろう。マヤノが遠慮なしにブーメランであることを告げた。すると彼女の言葉を聞いたメリュジーナさんは、頬を赤くして気まずそうにする。

「ゴホン。えーと、話しを戻すが、わたしは宰相たちの行いを止めるための手助けはできない。その理由は魔力の枯渇だ」

「魔力の枯渇ですか?」

 協力ができない理由をメリュジーナさんが答えると、サクラが小首を傾げる。

「ああ、先ほどの戦闘で思った以上に魔力を使ってね。年のせいでもあるかもしれないが、満足に魔法を発動するための魔力を回復するまで、時間がかかってしまう。今のわたしはか弱い女性にすぎないからね。簡単に兵士に捕まって足手纏いになる」

「それって、ママが先走ってフリードちゃんを攻撃しなければ、起きなかったことじゃない。どうしてそんなことをしてしまうのよ。バカ、バカ、バカ!」

 マヤノが両手をグーにすると、母親を叩く。

「いたた。マヤノちゃんごめん。まさかこんな展開になるなんて思ってもいなかったんだ」

 娘に叩かれながら、メリュジーナさんは謝罪の言葉を述べる。

 このやり取りを見る限り、どうやらメリュジーナさんはマヤノに弱いみたいだ。まぁ、1人娘だろうし、母親からしたら、大切にしたい存在だろうからな。無闇に反撃に出て、親子喧嘩を起こしたくないのだろう。

「あのう、メリュジーナさん。話しは変わるのですが、どうしてお城を出て行ったのですか? あの城はあなたにとっても大切な場所で、そう簡単には出て行くとは思えなかったのですが?」

 話題を変え、サクラがどうして城を出て行ったのか、その理由を訊ねる。

 確かマヤノの話しでは、メリュジーナさんは追放されたと言っていた。でも彼女は、ドラゴンに姿を変えることができるほどの力を持っている。その力を行使すれば、宰相たちを黙らせることができると思うのだが?

「それは、本家であるルナの子供側の人間を守るためだ。わたしのような化け物がいつまでも居れば、君や母親への風当たりが強くなる。そう思ってマヤノを連れて城を出た。だけどこんなことになっているのなら、マヤノだけでも残して居れば良かったと後悔しているよ」

「そうだったのですか。でも、メリュジーナさんは化け物ではありません。大切な家族です!」

 サクラが真剣な眼差しでメリュジーナさんを見ながら声を上げる。

「ありがとう。ルナの子供や孫は本当に良い子だね。でも、わたしの本当の正体はフェアリードラゴン。半竜半妖の化け物であることには変わらない。たとえ人の姿になることができても、人間とはまた違うんだ。いくら王族が安心だと言っても、わたしが恐ろしいと思う人が多ければ、それが連鎖してわたしの存在が認知される」

 確かに、人間と言うのは自分と同じ考えが多い方が正しいと思ってしまう。いくら権力のある者が安全だと言っても、人々の心の奥底では、危険や危ない存在などが根付いてしまう。

 その後、サクラは次の言葉が見つからないのか、口を噤んでしまい、この場に沈黙が訪れる。

「さぁ、暗い話しはこの辺りにして、今度は明るい話しをしよう」

 この静寂な空気を吹き飛ばすかのように、メリュジーナさんは一度手を叩き、笑みを浮かべる。

「確かに、今のわたしは戦力にはならない。だけど、わたしよりもとても強い人を知っている」

「ママよりも強い人! そんな人がいるなんて知らなかったよ。どんな人なの?」

「とても頭が良くって、魔力も高い。下級の魔法でも、通常の3倍の威力を発揮することができるよ」

「へぇーそんな人がマヤノの他にもいるんだ。確かにその人の協力を得ることができれば、宰相たちを倒して、これ以上お城の物を待ちだされるのを阻止できるね」

 自身の顎に人差し指を置き、マヤノは言葉を連ねる。

 どうやら彼女は気付いてはいないようだ。

 俺の知る限り、そのような芸当が可能な人物は、1人しか思い至らない。おそらくメリュジーナさんの言っている人物は、マヤノのことだろう。

 俺と同じ考えに至ったのか、サクラもマヤノに視線を送る。

「あれ? どうしてみんな、マヤノのことを見ているの?」

「マヤノ、本当に気付いていないのか?」

「頭が良くって3倍の威力を発揮できるほどの魔力を持っているのって、マヤノちゃん以外いないよ」

 俺たちが気付くように促す。すると、マヤノはびっくりしたようで、その場で軽く飛んだ。

「えー! マヤノなの!」

 驚いた彼女は、母親に顔を向ける。

「そうだ。今、わたしが言った人物は、マヤノちゃんのことだ」

「う、嘘だよ! だって、マヤノは今までママに勝ったことなんて1回もないんだよ! ママよりも強くないよ!」

 母親の言っていることが信じられないようで、マヤノは抗議した。

「あれは母親としての意地だ。簡単に娘に負けては、親としても面目がないからね。最後は根性で勝たせてもらっているが、これから更に成長すれば、いずれわたしは手も足も出せないだろう」

「ママからそんな風に思われていたなんて」

 母親の言葉を聞いたマヤノは、頬を赤らめて両手を頬に当てる。

「マヤノちゃんなら大丈夫さ。だって君は、異世界の転生者の生まれ変わりであるテオと、フェアリードラゴンであるわたしの娘だからね」

「そうですよ! 私は4分の1しかないですが、マヤノちゃんはテオお爺様の血を半分はあるのですから?」

 メリュジーナさんとサクラの言葉を聞き、俺は違和感を覚える。

 あれ? 何だかおかしくないか?
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