薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第六章

第五話 マキョウダービー当日

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 マキョウダービーが行われる日がやって来た。レースに出場する俺はもちろん、観戦するタマモとクリープも、一緒に学園の門へと向かっている。

「どうして、マーヤだけダメなの! 意地悪しないでよ!」

「何が意地悪だよ。これは公平な判断もとに出された決断だ」

 馬車が止まっている門に向かっていると、聞き覚えのある声が耳に入る。

 この声はマーヤとルーナか。いったい何を騒いでいるんだ?

「おーい、どうかしたのか?」

「あ、シャカールちゃん! 聞いてよ! あのおばさん酷いんだよ! マーヤがカリキュラムに参加して、シャカールちゃんと同棲したいって言ったら、ダメって言って意地悪するの」

 彼女たちに声をかけた瞬間、マーヤが涙目になりながら俺に抱き付く。

「誰がおばさんだ! ワタシはまだ20代! おばさんと呼ばれる歳ではない! そんなことを言うから、余計に拒みたくなる。そもそもそれ以上女子生徒を増やしたら、バランスが取れなくなるじゃないか」

 マーヤとルーナが勝手に話しているが、一応事情は分かった。

 タマモとクリープが俺と同居していることを知り、自分もメンバーに加わりたいと思ったマーヤが、ルーナに交渉を持ちかけた。しかしそれでは男女のバランスが取れないと言う訳で、ルーナは断り続けているのだろう。

「シャカールちゃんもマーヤと一緒に同じお風呂に入りたいよね。同じお布団で寝たいよね」

「いや、俺は1人でゆっくりと風呂に入るのが好きだし、寝るのも1人で寝た方がリラックスできる」

「そんな! どうしてシャカールちゃんもそんなこと言うの! マーヤたち、恋人同士じゃない!」

「ほう、今、シャカールと恋人と言ったかい? そんな情報初めて聞いたのだがね。どうしてワタシに報告しなかったのかい?」

 マーヤが恋人関係であると口走った瞬間、ルーナは俺の方を見る。

 一応笑みを浮かべているものの、目が笑っていなかった。

「いや、実はな」

 俺はこの前のことを話した。

「なるほど、それで彼女が何度断っても食い下がってくる訳か。本来ならカリキュラムにおいてバランスが悪くなってしまうが、そのような理由があるのなら、特別に認めてやるとするか」

 事情を説明すると、なぜかルーナは頭を掻きむしりながら、掌返しをしてマーヤのカリキュラム参加を認めた。

 俺はただ、マーヤから結婚を迫られ、妥協案として1ヶ月間の限定彼氏を務めることになったと話しただけだ。それなのに、ルーナは全てが分かったかのように納得する。

 彼女はこの学園の学園長だ。生徒の家庭の事情と言うのもある程度知っている。もしかしたら、マーヤがここまでしつこい理由に心当たりがあののだろう。

「本当! さすが美人学園長! 分かっている! そうと決まれば、マキョウダービーが終わった後に、お引越しの準備をしなくちゃ」

 カリキュラムの参加を認めた瞬間、マーヤは嬉しそうに顔を綻ばせる。

 馬車を見ると、マキョウダービーのある街に行く馬車は2台用意されてあった。

「今回は馬車が2代あるんだな」

「ああ、この学園からの出場する生徒が3人もいるし、応援に駆け付けた生徒もそこそこいるからね。1台では手狭になる。だから2台用意した」

「遅くなりました」

「すみません。打倒シャカール君の対策とレースの傾向を調べていたら、寝坊してしまいました」

 ルーナが説明をしていると、2人の女の子の声が聞こえてきた。振り返ると、背後には茶髪の髪をツーサイドアップにしており、背中から悪魔の翼が生えている女の子と、長いロングの黒髪に頭部には小さい2本の角が生え、背中からは黒い翼が生えている女の子がこちらに駆け寄って来た。

 ウイニングライブと、シャワーライトだ。

「あ、シャカール君。そう言えば、同じ学園に居るのだから、待ち合わせ場所に居るのは当然か」

「できることなら、芝のコースまでは顔を見たくなかったのですが」

 遅れて到着すると、シャワーライトは俺に悪態の言葉を吐く、

 相当彼女からは嫌われているようだな。まぁ、彼女はウイニングライブのことが好きだし、そんな憧れの存在を侮辱してしまったんだ。そんな反応を取られて当然か。

「どうやら間に合ったようだね。アルティメットとサラブレットは先に馬車に乗っているから、これで全員が揃った。では、時間は少し早いが、出発するとしよう。馬車は2代用意してある。どちらか好きな方に座ると良い」

「分かりました。では、ウイニングライブさん。あっちの馬車に乗りましょう」

 シャワーライトがウイニングライブの背中を押しながら、チラリと俺の方を見る。

 彼女の瞳からは、拒絶のオーラ的なものが纏っている気がした。『わたしたちはこっちの馬車に乗るから、君はもう一つの馬車に乗って』と訴えているのが肌感覚で分かる。

 意地悪で同じ馬車に乗っても良いが、レース前で彼女たちもピリピリしているだろう。馬車に乗った瞬間に蹴り飛ばされるなんてことにもなりかねない。

 ここは正直に、彼女たちとは別の馬車に乗るとするか。

 ウイニングライブたちが乗った馬車とは違う方の馬車に乗り込み、その後にタマモたちが馬車に乗る。そして全員が馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと動き、マキョウダービーの開催される街へと向かって行った。

 馬車で揺られること1時間、俺たちを乗せた馬車は目的地へと辿り着いた。

 馬車から降りて周囲を見ると、もう1台の馬車が辿り着いていないことに気付く。

「あれ? もう一つの馬車がまだ来ていないな?」

「本当ね。どうしたのかしら?」

 俺が馬車から降りた後、続けてタマモたちが馬車から降りて来る。全員が馬車から降りた後も、ウイニングライブたちが乗った馬車が辿り着くことはなかった。

 その後もしばらく待ち、レース関係者の馬車は辿り着くも、ウイニングライブたちが乗った馬車は中々来ない。

「これはおかしいね。まさかもう一台の馬車に、何かがあったのかもしれない。シャカールは受付を済ませてくれ。ワタシが引き返して……って、シャカール! どこに行く! そっちは会場とは真逆だぞ!」

 ルーナが先に受付を済ませるように言うも、その指示を無視して俺は駆け出した。

 あいつらがいないレースに出場しても面白くない。あいつらが参加した上で勝ってこそ、真の勝者としての価値が見出される。

 ウイニングライブたちの身に何かが起きたのなら、助けなければ。俺が最高の形で2冠を手にするには、あいつらの存在が必要不可欠だ。

 俺は街を出ると、来た道を引き返す。
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