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第七章

第九話 乙女の維持

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 お師匠様の教えと言い、アイリンは俺の背中を流してくれた。しかし、浴室の扉が開かれ、期間限定の彼女であるマーヤが風呂場に突入してきた。

 バスタオル一枚を纏っている幼児体型の女の子が、俺と背後にいるアイリンを交互に見た。

 そして顔を少しだけ俯かせながらも俺を睨んで来る。そして怒りを露わにしたオーラのようなものを放ってきた。

 実際には起きていないが、怒りのあまりに水色の髪が逆立っているように錯覚してしまう。

「待て! これには事情がある」

「シャカールちゃんの浮気者! 彼女であり、将来のお嫁さんであるマーヤを差し置いて、新しく入った女の子にソーププレイをさせるなんて!」

「何でそんな如何わしいことを強要しているように見える!」

 とんでもない発言に、思わず声を上げてしまう。

 とにかく早く先手を打って彼女の怒りを鎮めないと、騒ぎを聞きつけてタマモとクリープが来てしまう。

 ワンチャン、クリープは母性本能が刺激されて対抗心で俺の体を洗おうとするかもしれないが、タマモは俺たちの状況を見て理性を吹き飛ばすかもしれない。

 運が良ければ罵倒されるだけで済むかもしれないが、運が悪ければ魔法で消し炭にしようとしてくるかもしれない。

 どんな展開になろうと、カオスであることには変わらない。

「マーヤ、頼むから俺の話を――」

「マーヤの方が、シャカールちゃんを楽しませるソーププレイをして上げられるのだから!」

 何でそっちの方に対抗心が向く!

 心の中で叫んでいると、マーヤは石鹸を握り締める。そして自身に巻いているバスタオルに擦り付け始めた。

「マーヤがシャカールちゃん専用のスポンジになってあげる!」

 そんなことをしないで良いから!

 修羅場の状況で頭の中が混乱しそうになる中、必死になって解決策を考える。

 一番はマーヤが満足するようにしてあげるのが一番だが、アイリンがいる。彼女の目の前でそんなことをされれば、俺の評価は更に下がってしまうだろう。

 ロリコンを師匠にしたくないと言い、弟子を止めると言い出したら、俺はルーナが握っている情報を提供してもらえなくなる。

 でも、だからと言ってアイリンにマーヤを引き離すように言えば、マーヤは傷付くだろう。

 傷心した彼女がどんな行動を起こすのか未知数である以上、危険な橋を渡る訳にもいかない。

「マーヤ先輩、シャカールさんの体を洗うのは、弟子であるわたしの役目です。出なければ、お師匠様の教えに背くことになります」

 思考を巡らせている中、アイリンが体を洗うのは自分の役目だと言い、マーヤを抱き締める。

「離してよ! シャカールちゃんには、マーヤの魅力をたっぷりと分かってもらわないと! マーヤの魅力で幼児体型が好みになり、マーヤ意外の女性には興味を持たないように、完全なるロリコンにしてみせるのだから」

 拘束するアイリンの腕から逃れようと、マーヤは必死になって体をくねらせる。

 マーヤ、自身の欲望がダダ漏れだぞ。

 マーヤから体を洗われる訳にはいかない。

 ロリコンなら完全に落ちてしまいそうなほどの幼児体型として完璧なボディーを、彼女は持っている。それに触れる程度なら、どうにか耐えられるだろう。だけど、彼女は魅了チャームを使うことができる。どさくさに紛れて使用されては、俺はもう一度自我を取り戻す自身はない。次は完全なるロリコンになってしまって、社会的に死ぬことになるだろう。

「ダメです! シャカールさんはわたしを教え導く立場になったのですから。ロリコンにはさせません! わたしのもう一人の師匠がロリコン変態野郎になっては、弟子であるわたしが恥ずかしくって表を歩けなくなります!」

 俺をロリコンにしたいマーヤと、それを阻止しようとするアイリン。今は互いに相手に夢中になって、俺の存在を気にしている余裕はなさそうだ。

 なら、今ならこの場を抜け出すことができるんじゃないのか?

 答えを出さないで逃げるのは男として卑怯でクズな行為かもしれないが、タマモたちが集まって更にカオスになるよりかは遥かにマシのはず。

 智に働けば角が立つ情にさおさせば流される、何かを手に入れるには何かを失わないといけないのが自然の摂理だ。

 俺の選んだ選択肢の結果がどうなろうと、俺が決めた道を突き進んでやる!

 すぐに洗面器を取り、浴槽の中にあるお湯を救う。そして体を洗い流すと扉を開けて勢い良く浴室から飛び出した。

 そして素早く体を拭き、パンツ1枚のまま浴室を飛び出す。

 このまま自分の部屋に逃げ込もう。自分の部屋には鍵をかけることができる。無事に逃げ込むことができれば、熱りが冷めるまでの間、安心して心が休まれるはずだ。

 そう思っていたが、人生はそんなに甘くはなかった。自分の部屋に向かおうと階段を駆け上がって2階にたどり着いた頃、部屋の扉が開いて茶髪の髪をツインテールにしているキツネのケモノ族であるタマモが廊下に出てきた。

「シ、シャカール! あなたなんて格好をしているのよ!」

 周辺に他の人がいないからか、タマモは呼び捨てで俺の名を呼び、近付いて来る。

「あ、居た! 逃げ出すなんて酷いですよ!」

「シャカールちゃん! どうして逃げるのよ! マーヤがせっかくスポンジになってソーププレイをしてあげるって言っているのに!」

 階段の下からアイリンとマーヤの声が聞こえ、チラリと見る。

 バスタオル1枚の姿のままであるエルフとセイレーンが階段を登ってきた。

 前門のタマモ、後門のアイリンとマーヤに道を塞がれ、俺は逃げ道を失う。

 これが俺の選んだ選択肢の結果と言うわけか。良いぜ、受け入れてやる。

 覚悟を決めた俺は、両の瞼を閉じる。






その後、俺の身に何が起きたのか覚えていない。

どうやら人間の本能である身を守ると言う行為が、記憶の一部を欠如させて記憶を失っているようだ。

思い出したくもあり、それが怖くてできない俺もいる。いったいあの後、俺の身に何が起きたのだろう? 想像したくても、それが怖くてできなかった。
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