薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第九章

第十話 走者界の怪盗現る

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「きゃあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 午前中のトレーニングを終え、休憩に入るために、一度別荘へと戻った。しかし、建物の前に辿り着いた瞬間、ローレルの悲鳴が聞こえてきた。

「この声はローレル! 彼女に何かあったのかしら?」

「声が聞こえた場所からして、恐らくキッチンだね」

「キッチンってことは、ゴキが出たのでしょうか? わたしあれ苦手なんですよね。テカテカしていますし、凄く素早いですし、1匹いたら100匹は居る……想像しただけで気持ち悪くなりました」

 アイリンの言う通り、ゴキが出た程度なら良い。だけど、彼女の身に何かが起きたのであれば、早急に救助に向かうべきだ。

 ルーナの言った場所はキッチンだ。早くそっちに向った方が良い。

「ゴキが出た程度なら良いが、彼女の身に何かが起きた可能性だってある。急いで向かおう」

「そうね、彼女が居なければ、この別荘の管理が大変なことになってしまうわ」

 俺たちは急いで玄関へと走り、ドアを開けて中に入ると、一目散にキッチンへと向かう。

 キッチンにはリスのケモノ族の女性が居た。

 ローレルさんは無事だ。なら、あの悲鳴はゴキの出現によるものなのか?

「ローレル無事か! 今の悲鳴は何だ!」

「ご主人様、あ、あれを」

 ローレルが人差し指を震えさせながら指を差す。

 彼女に駆け寄り、指し示した方へと顔を向けると、俺は驚愕して口を開けてしまった。

 そこには、金髪の長い髪に赤い水着を着た女性らしき人物が、アイテムボックスを開けて中に入っていた食料を勢い良く食べていたのだ。

 仮面を被っており、表情が分からない。だが、大きな果実のような豊満な胸部に、思わず視線が吸い寄せられてしまった。

 デカイ……じゃない。いったいこいつは誰だ? ローレルが悲鳴を上げると言うことは、知り合いではないよな?

 いきなり現れた不法侵入者に困惑をしていると、俺たちに気付いたようで、顔をこちらに向けてきた。

「何だよ、お前ら。これはアタシが見つけたんだ。お前らにはやらないぞ」

 不法侵入者は、食料の入っているアイテムボックスに覆いかぶさり、こちらに顔を向け続ける。

 仮面で分からないが、睨んでいるのだろうか?

「何を言っているのよ! それはアタシたちの食料よ! 勝手に食べないでよ!」

「そうですよ。食材のまま食べるよりも、料理して食べた方が美味しいです。良かったら、ママが作ってあげましょうか?」

「クリープちゃん、その反応は違うと思うよ」

 それぞれが口にする中、不法侵入者の女性はゆっくりと立ち上がる。

「お前たちの物はアタシの物、アタシの物はアタシの物だ! それが走者界の怪盗! コールドシーフ様だ!」

 右手を前に出し、堂々と決めポーズを作って声高らかに名乗りを上げる。

 こいつ、怪盗って言っていなかったか? 怪盗が二つ名を使わずに堂々と自分の名を告げるなんて、こんな怪盗は見たことがない。

「コールドシーフか。確かトレード学園に通う走者に、そんなやつが居た。これまでの成績は凄まじく。様々なGIIレースの優勝を掻っ攫う走りをすると言うことから、走者界の怪盗と呼ばれるようになったとか」

 どうやらルーナは彼女のことを知っているらしく、軽く説明をしてきた。

 なるほど、そう言う意味での怪盗か。本当に盗みをする怪盗ではなかったのか。いや、今俺たちの食料を無断で食べている状態だから、怪盗だとも言える。

「どうして他の学園の走者がこんなところに居るんだ? トレード学園の走者が夏の強化合宿をしている場所はこの島から離れた場所だろう?」

 ある程度の事情を知っていると思われるルーナが彼女に近付く。そして刺激をしないように柔らかい口調で訊ねた。

「それがさぁ、聞いてくれよ。夏の強化合宿のトレーニングが面倒臭くって、1人で海の中で遊んで居たのだけどよ。浮き輪に浮いたまま居眠りをしていたら、流されてしまって。目が覚めた時には陸の見えない海の中心に居たんだよ。それで3日3晩何も口にして居なくって、ようやくこの島に辿り着いたんだ。そしたらこの建物を見つけて、何か食料があるかもって思って侵入した」

 コールドシーフと名乗った女性が事情を話したことで、なんで接触するはずのない他の学園の生徒が居るのか、その理由を知ることができた。

「なるほどな。理由は分かった。でも、勝手に人様の家に土足で上がり込んで、勝手に食料を食べるのは良くない。どんな理由があってもだな。悪いが、君は迎えが来るまでは、身柄を拘束させてもらう」

「アタシを捕まえるってか。そうはさせるか! 怪盗と呼ばれた逃げ足を見せてやる」

 拘束するとルーナが発言をしたその刹那、コールドシーフは素早く彼女を横切り、俺たちのところに向かって来た。

「そいつを逃すな!」

 捉えるように告げられ、俺たちは戸惑いながらも彼女を捕まえようとした。しかし、彼女は俺たちの手を軽くすり抜け、この場から逃げ出してしまう。

 なんて身のこなしだ。一斉に捕まえようとしたのに、全て躱されてしまうなんて。

 だが、どんな事情があったとしても、盗みを働いたのだ。それなりの制裁はいるとも言える。

 足を踏ん張って床を蹴り、前に飛び出す。するとワンテンポ遅れたタマモたちは、互いにぶつかってしまったようで転倒し、その場で倒れてしまった。

「いたたたた」

「皆さん大丈夫ですか?」

「マーヤはアイリンと頭を打った!」

「頭が痛いです。どうしてあたしがこんな目に遭わないといけないのですか」

 どうやらタマモたちは直ぐには動けそうにない。彼女を捕まえられるのは俺だけのようだ。

「俺は先に行く。追いかけられるやつだけ、俺に付いて来てくれ」

 彼女たちに言葉を投げ、一目散にコールドシーフを追いかける。

 走者界の怪盗は扉を開けて外に出て行くのが見えた。俺も外に出ると彼女を追いかける。

 だが、午前中のトレーニングでくたくたになっていた俺の足では、どんなに頑張っても彼女には追いつけないでいる。

「アハハハハ! アタシの走りに付いてこられないようだな。魔走学園の走者はこの程度か。これなら、スキップをしていても逃げられそうだぜ」

 前方を走って逃走するコールドシーフの言葉が耳に入って来る。

 くそう。疲労が溜まっていなければ、捕まえることはできるのに。

 このままでは逃げられてしまう。何か、何か手はないのか?

 思考を巡らせていると、とある魔法が頭の中に思い浮かぶ。

 レースでは禁止されている魔法だが、これはレースではない。使っても誰も文句は言わないだろう。

「リストレイント!」

 拘束魔法を発動する。相手の身動きを直接妨害する魔法は、レースでは禁止とされているが、レースではないので使用しても問題はない。

 魔法が発動後、縄が出現する。その縄は自動的に動き、瞬く間にコールドシーフを拘束して身動きを封じた。

 肢体の自由が制限された彼女は、その場で転倒する。

 やった。これであいつをルーナの下に連れて行くことができる。

 安堵して近付く俺だったが、直ぐに頬を引き攣らせてしまった。

 おい、おい、ふざけているのか? 何なんだよこの拘束の仕方は?

「な、縄が股に擦れて変になりそう。このアタシを辱めて陵辱する気か。この変態!」

 コールドシーフの縄は普通だった。しかし、その拘束方法が異常だった。普通に両手と両足を縛れば良いものの、特殊な性癖のある大人の本に出て来るような亀甲縛りと呼ばれる結び方になっていた。

 あの魔法、ランダムで拘束方法が変わると聞いたことがあるが、よりにも寄って、こんな方法で縛るのかよ。ふざけるな!

 こいつをこのままルーナのところに届ける訳にもいかず、どうすれば良いのかと悩んだ。

 その後、逃げないと約束してくれるのなら、罪が重くならないようにルーナに説得すると言う条件で、縄を外し、彼女をルーナの下に届けることができた。

 ふぅ、彼女が亀甲縛りをされている状態でタマモたちが来なくってよかった。
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