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第九章

第二十七話 トラッポラ記念③

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~クリープ視点~





 ゲートが開き、ママは足に力を入れ、一気に飛び出します。

『ゲートが開き、一斉に飛び出します。少々バラツキのある走りとなりました。トラッポラ記念! 果たして先頭ハナを奪うのは誰か!』

 まずは内側を目指しましょう。外側を走れば追い抜き易いですが、その分、走る距離が長くなってしまいます。

 斜めに走る感じで内側を目指すと、視界に白い勝負服を着た女の子が視界に入りました。

「円弧の舞姫と、もう一度競うことができるこの日を待っていた。絶対に勝たせてもらう」

 ママに言葉を投げかけたオグニちゃんは、そのまま追い抜き、ママの前を走ります。

「何2人だけの空気を作っているとバイだよ! ウチがいることを忘れないで欲しいタイ! 後から迫る恐怖にアタあなたたちは耐え切れるか!」

 後方からサザンクロスちゃんが声を上げます。

「もちろん、サザンクロスちゃんも油断できないライバルですよ。もし、ママに勝つことができれば、ギュって抱きしめながら、頭を撫で撫でして上げますからね」

「それはウチに対しての処刑宣告バイだよ! どうして優勝したのに罰ゲームを受けないとイケンいかんと!」

 サザンクロスちゃんの言葉に、ママはショックを受けました。

 そんな! ママの抱擁は処刑道具ではありませんよ! ムゥ、そんなことを言う悪いサザンクロスちゃんは嫌いです。このレース、絶対に負ける訳にはいきません。

先頭ハナを奪ったのはアストレア、続いてアケボーノが走り、その内をロッキーが控えています。そしてその後をオグニが走り、ここでクリープが追い付いて並走する』

「ほう、序盤から私に追い付いてきたか。今回は脚質を変えたから、もう少し追い付かれるのは後かと思っていた」

「オグニちゃんが先行で走るなんて珍しいですね。だからか、少しだけテンポアップしました」

『ここまでが先頭集団です。クリープから3メートル離れてカルディアン、そしてナーゾが追い掛ける。そして、その後をサザンクロスが左右に移動しながら走っていますが、この展開をどう見ますか?』

『彼女の脚質は差しですが、走者同士の僅かの隙間を掻い潜るように走るのが得意です。今の内に先頭集団に辿り着くまでのラインを見極めているのでしょう』

 どうやら、サザンクロスちゃんはいつものように前走の走者の間を追い抜く形で走るようですね。彼女に追い抜かれないようにするには、小柄な彼女が追い抜けられるような隙間を作らないようにしませんと。

『ここまでが中段グループとなります。サザンクロスから5メートルほど離れてセイウンとスカイが並走してその後ろをカマンベーツが追い掛ける! ここで殿を走っていたシュバルツがサウザンドを追い抜いた。殿をサウザンドが走っています』

 走っていると、最初のギミックエリアに到達します。すると、前に走っていたアストレアがいきなり目の前から消えました。

 転移ギミック!

 もし、最初のギミックがランダムに転移させるものだとしたら厄介です。せっかく先頭グループにいても、気が付くと最後尾を走らされてしまうからです。

 ここはママの運が試される。そう思っていると、地中からアストレアと思われる悲鳴が聞こえて来ました。

「いってええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇ! 落とし穴かよ!」

 落とし穴! なんてシンプルなギミックなのでしょう。でも、一度穴に落ちてしまえば、上るのも大変でしょうし、その間に後続から追い抜かれてしまいます。

 落とし穴の場所を見極めて走らなければ、一気に順位を落とすことに繋がってしまいます。落とし穴ぽい場所は避けて、走らなければ。

「ぐあああああああぁぁぁぁぁぁ! なんだこれは! 粘着力がある! 外れねぇ!」

「なんだこいつは! おい、やめろ! 俺に絡み付いて来るな!」

 後方から落とし穴に落ちた走者の悲鳴が聞こえてきます。

 どうやら普通の落とし穴ではなさそうですね。落下位置によっては、底に仕掛けられた何かが発動して走者を襲う仕組みになっているようです。何が起きるかは、落下してからのお楽しみと言ったところなのでしょう。

「クリープ! 危ない!」

 後方から危険を知らせるサザンクロスちゃんの声が聞こえ、振り向きます。すると、順位を上げようとした後方の走者が魔法を放ち、氷の刃がママに迫って来ます。

 咄嗟に左に跳躍して躱しますが、足が地に付いた瞬間、地面が沈むのを感じました。まともに落下位置を確認する暇がなかったママは、落とし穴に足を踏み入れてしまったみたいです。

 重力に引っ張られる感覚がある中、必死に手を伸ばしたママは、どうにか落とし穴の縁を掴むことができました。

 危なかったです。後1秒でも判断が遅れていたのなら、落とし穴に落ちていたでしょうね。

 落とし穴の底には何があるのでしょうか? 気になったママは、落とし穴の底に視線を向けます。

 すると、そこにはおそらく動物のものだと思われる排泄物が敷き詰められていました。

 もし、あのまま落下したら、ママは糞まみれになって運が付くことになっていたでしょうね。

 縁起として糞を踏めば運が上がると言いますが、流石に異臭を放ったまま走りたくはありません。

 早く、この落とし穴から抜け出してこのギミックエリアから抜け出さないと。

 そのように判断したママは、腕に力を入れて上体を持ち上げようとしました。ですが、その瞬間に手に痛みが走ります。

 誰かが放った氷の刃がママの手に突き刺さり、血が流れていたのです。
痛い。でも、ここで手を離す訳にはいきません。

「クリープ! 大丈夫か!」

「円弧の舞姫、今助けるからな」

 痛みに耐えていると、レースを競っているはずのサザンクロスちゃんとオグニちゃんが駆け寄り、声をかけてきます。

「2人とも、どうして?」

「当たりまバイだよ。こんなところでアタあなたをリタイアさせる訳にはいかないケンから

「せっかく3人揃ってレース勝負ができるんだ。こんなつまらないギミックに、私たちの決着をつける勝負を邪魔されたくはないからな」

 サザンクロスちゃんとオグニちゃんが手を差し伸ばした直後、ママも手を伸ばそうとしました。ですがその瞬間、不運にも握っていた部分の縁が崩れ、ママの体は真っ逆さまに落ちてしまいます。

「きゃああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「クリープ!」

「円弧の舞姫!」
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