薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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第十章

第五話 新学期

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 俺たちは、一度学園に帰った。新学期が始まり、クラスメートたちは夏合宿の間どんなことがあったのか、話し合っていた。

「よぉ、シャカール。夏合宿の間どんなイベントがあった? 俺、夏の間ずっと学園に残って補習授業をさせられていたから、合宿に参加できなかったんだよ」

 頭は豚、体をゴリラという容姿をしている魔族のピックブタゴリラが話しかけてくる。

 こいつ、結局補習を合格できないまま夏を終えてしまったのか。可愛そうなやつだ。

「なぁ、なぁ、いったいどんなエロいイベントがあったんだよ。俺にこっそりと話してくれないか? あのメンバーで合宿に行ったんだ。何か過ちのひとつやふたつはあっただろう?」

 ニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら話しかけてくるが、正直に言ってキショい。

 こいつ、まだ発情期が続いているのか? 最近バカキャラから変態キャラになりつつあるような気がするのだが。

「何を言っているんだよ。俺たちは走者だぞ。己を鍛えるための訓練が目的とされている夏合宿で、そんなことが起きる訳が……ない……だろう?」

 彼の言葉を否定しようとした瞬間、脳裏に夏合宿の出来事がフラッシュバックされる。

 サザンクロスの裸を見てしまい、一緒のベッドで寝ると言う名目で、彼女の脅迫と言う手段で抱きつかれてしまった。

 そしてコールドシーフには捕らえた際に亀甲縛りをしてしまい、レース中にも彼女の際どい水着姿のチェキを見せられ、受け取ったら胸を揉ませてやると言われた。

 シェアハウスのメンバーからは何も起きなかったが、別の学園の生徒とは、エロいイベントが起きてしまった。

「おい、なんだよその間は! 絶対に何かあっただろう! 頼むから話してくれよ」

「いや、何もなかった。あの間は念の為に思い返したから、一時的に言葉が出てこなかっただけだ」

 嘘を付いて、ピックブタゴリラを宥める。

 本当のことを言ってしまえば、これ以上に付き纏わられる。そんな気がしてならなかった。

「嘘だ! その間は絶対に何かあった! 俺の勘がそう訴えている」

 胸の前で腕を組み、ピックブタゴリラは睨んできた。

 全く、どうしてそんなしょうもないことに関しては鋭いんだよ。その直感を少しでも勉強に当ててくれれば、成績も良くなるだろうに。

「分かった。お前がテストで50点取れたら話してやろう」

「そんなの無理に決まっている! ひとつでも赤点を回避できたのがあればにしてくれ!」

「いや、そこは頑張ろうとしてくれよ。100点満点のテストなんだから」

「お前、絶伝に俺が無理だと分かって言っているな。ちくしょう! 覚えておれよ!」

 雑魚キャラの捨て台詞を吐くと、ピックブタゴリラは自分の席へと戻って行った。

 全く、新学期早々から下ネタを言わないでほしい。いや、年齢からしたら、年相応の発言になってしまうのか?

 ホームルーム開始の鐘の音が鳴ると同時に、担任の教師が教室に入って来る。

「それでは、今からホームルームを開始します」

 担任の教師が次々と連絡事項を話す。その内容は特に特別なものはなかった。

「あ、そうそう。シャカール君、ルーナ学園長が放課後の学園長室に来るようにとのことです。必ず忘れずに行ってくださいね。忘れた時には、あなたの嫌がることをするとのことです」

 担任の教師が俺宛に言伝を述べた。

 サラッと脅迫までしやがって。ルーナのやつ、俺に何の用だ?

 そんなことを思いつつも、新学期の1日はあっという間に終わり、放課後となる。

 俺は学園長室の前に来ると、扉を叩く。

「ルーナ、呼ばれたから来てやったぞ」

「入りたまえ」

 部屋の中から入室を許可する声が聞こえ、俺は扉を開けて中に入る。

 学園長の席には、白銀の長い髪を編み込みしている女性が座っており、俺に視線を向けている。

「ルーナ、俺に何の用だ?」

「ああ、昨日学園に戻ってから、早速例の件に付いて調べたんだ。そしたら君が以前いた研究所とコンタクトを取ることに成功してね。アポ取ったから、一緒に行こうとデートの誘いをするために誘ったんだ」

 言葉には冗談も混じっているが、まさかたった数時間でそこまでするとは驚きだった。

 できる女とは、ここまで凄いものなのだと改めて思い知らされる。

「分かった。それで、いつなんだ?」

「今週末さ。午後の3時にワタシたちの方から研究所に出向くことになる」

「了解した」

 まさか、こんなに早くあの所長と再会することになるとは思わなかった。上手く交渉をして、ナナミを救出できるようにしないと。

 拳を軽く握り、俺は決意する。






 それから週末までは長いようで短かった。

 俺とルーナは、学園を出ると所長の居る研究所へと向かう。

「なぁ、ルーナの持っているそれはなんだ?」

「菓子折りだ。手土産のひとつくらいは必要だろう?」

「あんなクソ野郎たちに食わせる菓子はない」

「その言葉には同感だが、何も持たないでいると、礼儀を弁えられない愚か者扱いをされてしまう。交渉には、前準備が必要だ。手土産がないことを理由に、ナナミを引き渡す訳にはいかないと言われたら、どうする?」

 ルーナの言葉に、思わず黙ってしまう。

 確かに、ある意味研究所側が有利な状況だ。少しはゴマを擦ることは必要か。

 そんなことを思っていると、懐かしく、できることなら二度と戻ってきたくなかった建物が見えてきた。

 さて、うまくナナミを引き取ることができるかどうか、それは俺たちの話術次第だな。

 建物の前にたどり着くと、ルーナがベルを鳴らした。
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