265 / 269
最終章
第十三話 魔法杯決着?
しおりを挟む
『さぁ、ここで更にシャカール走者が順位を上げ、13位になりました。ですが、先頭を進む魔王プリパラは、ここで最後のギミックであるモンスターゾーンに突入だ!』
『モンスターゾーンでは、魔王プリパラと魔族以外の種族をモンスターが攻撃してくる仕組みとなっております。このギミックは、魔王軍以外は大きな痛手となるギミックです。果たして他の種族たちは、このピンチをどうやって切り抜けて行くのか見守りましょう』
魔王プリパラが最後のギミックに到達したか。もう少し距離を縮めておきたかった。
ゴールに向けて走っていると、黒いショートヘアーの女の子と、頭にウサギ耳が着いた白髪のロングヘアーの女の子の姿が見えた。
「ナナミ! クリープ!」
「お兄ちゃん!」
「良かった。作戦通りにここまで順位を上げることができましたね」
「ああ、だけどプリパラの足が俺の予想よりも早い。俺たちも一気に駆け抜けるぞ」
「うん、分かった」
「ええ、行きましょう。彼女の好きにはさせません。悪い子は後で、ママがお仕置きです」
クリープがお仕置きをすると言った瞬間、背筋に寒気を感じる。
この勝負に勝たなければならないが、勝った後に魔王の身に起きる罰を想像すると、可哀想に思ってしまう。
「くれぐれもお手柔らかに頼むよ」
「シャカール君がそう言うのでしたら、誰でも良い子に戻れるハッピーコースはやめておきますね」
クリープの言葉に苦笑いを浮かべながら、俺たち3人は速度を上げ、加速して行く。
『ここでクリープ、ナナミ、シャカールが加速した! 魔王プリパラはモンスターゾーンを抜けたが、ここで追い上げてきた!』
『3人とも良い走りです。このまま行けば、僅かながら希望が見えてきます』
芝の上を駆け抜け、俺たちは最後のギミック、モンスターゾーンへと突入した。その瞬間、芝の上に召喚されたモンスターが次々と襲ってくる。
「悪いモンスターさんたちは、ママがお仕置きしますよ。えい!」
クリープが目の前に現れたオオカミ型のモンスター、ハクギンロウに蹴りを入れる。するとモンスターは吹き飛ばされ、前方を走っていた魔族に直撃した。
「シャカール君、ここはママたちに任せて、先に進んでください」
「ズルをする魔王軍には、ナナミたちがモンスターの弾丸をプレゼントするから」
「分かった。でも、ムリだけはするな。命の危険を感じたら棄権するんだ」
仲間に棄権することを視野に入れるように伝えると、俺は更に先頭を目指して突き進む。
『クリープ走者が蹴り飛ばしたモンスターが、ガロンとキリングに直撃した! 魔族の恩恵を得ることなく、モンスターに押し潰されて行く!』
『良い連携です。このまま行けば、シャカール走者が更に順位を上げて行くことができるでしょう』
クリープとナナミが道を作ってくれたお陰で、先に進むことが可能となった。今の内に順位を上げる。
「グハッ!」
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!」
「すみません。魔王様、どうやら俺たちはここまでのようです」
まだモンスターゾーンを抜け切っていない中、ひたすらゴールに向けて走る。すると敵の魔族が風の魔法に吹き飛ばされ、伸びているのが見えた。
「やっと来ましたか。自分よりも下の順位の魔族の足止めなんて、ウマ娘である私のすることではないのですが?」
「ヤッホー! シャカールちゃん! 言われた通りにこいつらは倒しておいたよ。早くタマモちゃんを追いかけて上げて。シャカールちゃんをサポートするのは、彼女であるマーヤの仕事だもん!」
「自称彼女、時と場合を弁えてください。聞いていてイラッとします」
モンスターゾーンを走っていると、先ほど魔法で魔族走者を吹き飛ばしたと思われる2人組の女性が視界に入る。
1人は自称俺の恋人を騙るマーヤだ。水色の髪をハーフアップにしており、髪の間から見える魚のエラのような耳は、彼女が亜人のセイレーンである証だ。クリッとしたあどけないまん丸な目で俺のことを見つめてくる。
そしてもう一人は、赤茶色の髪をサイドテールにしている女の子だ。とんがっている耳と左右に振られている美しい毛並みの尻尾は、ケモノ族最強走者の証であるウマ娘のルビーで間違いない。
どうやら、ルビーがマーヤに突っかかっているみたいだな
「ルビー、マーヤ! サンキュ! これでこのギミックを抜けられる!」
「早く行ってください。私たちは無限に湧き出るモンスターの討伐と、後続の魔族を相手にしますので」
「分かった。お前たちも無理のない範囲でやってくれ。危険だと思ったら、直ぐにこのギミックエリアから出るんだ」
せめてのお礼にと、俺は彼女たちの頭を撫でる。
「えへへ、シャカールちゃんエネルギーチャージ完了!」
「女の子の頭を撫でる余裕があるのでしたら、早くここを抜け出してください。私たちはこの世界を救うために、魔王に勝たなければならないのですから」
口では素直ではないが、ルビーの尻尾は左右に動く。
喜んでいるじゃないか。本当に俺に似て素直じゃないな。
「ルビー、マーヤ、後は頼んだ!」
彼女たちの横を抜け、俺はようやくモンスターエリアを抜ける。
仲間たちの活躍のお陰で、かなり距離を縮めることができた。
視界の先に小さくだが、魔王プルパラの姿が見えた。
パープル色のロングヘアーの頭には少女には似つかわしくない禍々しい2本の角が生えており、背中には小さいが、悪魔の羽と尻尾が生えている。姿が少女なだけあって、アンバランスな感じがしてしまう。
だが、見た目に反してその脚力は異次元と言っても過言ではない。クラウン路線の3冠を取った3冠王の俺が、未だに追いつけてないのだから。
距離にして20メートルといったところか。
しばらく走っていると、俺の最後の仲間の背中が見えた。距離にして約1メートル先を走っているのは、俺のクラスの学級委員長であるタマモだ。
キツネ耳に茶髪の髪をツインテールに纏め、ミニスカ着物の勝負服で俺の前を走っている。
「タマモ、ようやく追い付いたな」
「遅いわよ! あたしを待たせないで。でもまぁ、予定通りに追い付いたから許しはするけれど」
彼女の横を並走し、現在2位の魔族の女の子を見る。
着ている勝負服は白いドレスのような作りをしており、スカートにはヒラヒラが付いている。異世界のアイドル衣装と呼ばれるものらしい。
ツーサイドアップにしている茶髪の髪が、足の振動で上下に動いている。
すると俺たちの気配に気付いたのか、彼女は振り返り、一瞬驚いた表情をする。
「うそ! タマモちゃんにシャカール君! もう追い付いてしまったの!」
現在の二番手の走者、ウイニングライブが振り返ると、彼女は背中の翼を動かす。
「こうなったら、私が最後のギミックになってやるんだから! 私の翼から発生する風で速度を落とすが良いわ」
『おっと! ここで二番手を走っていた走者界のアイドル、逃げ切りシスターズのウイニングライブが、翼から風を起こしてシャカールたちの走行を邪魔する!』
「あーもう! 走りづらい! ウイニングライブ! どうして魔王側に着いたのよ!」
タマモがウイニングライブに問う。
やっぱり、知人が敵側に回ってしまうのは、彼女なりに心に来るものがあるのだろう。
「うーん、それはわたしが魔族だからって答えだね。魔王様には逆らえないもの。確かに学園生活では、あなたたちと仲良くしていたけれど、こんなことになった以上、なるようになれとしか言えないよね。どんな世界になったとしても、わたしはアイドルを続けられればそれで良いから」
「そう。なら良いわよ! あんたはあたしがこの手でぶっ倒して上げる! ストロングウインド!」
タマモが魔法を発動すると、ウイニングライブに向けて強風が発生した。その風は、魔族の女の子の翼から生み出される風よりも強く、強風を受けたウイニングライブを吹き飛ばす。
しかし、芝に打ち付けられる直前に翼で風を生み出し、直撃を防いだ。
「シャカール! この女はあたしが抑えておくわ。だからあんたは魔王プリパラをお願い」
「分かった。このレースが終われば、お互いに仲直りができるといいな」
このレースが終われば彼女たちは元の関係に戻れることを信じて、俺は魔王を追いかける。
『やったぞ! 仲間たちとの連携を巧みにこなし、今、シャカールが2位に上がった! しかしその差は15メートル! ここで魔王プリパラは、第4のコーナーを曲がって最後の直線200メートルに差し掛かる! ここから先は魔法禁止エリア、己の足との勝負です!』
プリパラが魔法禁止エリアに入ったか。この距離の開きなら、まだ間に合う。
魔法禁止エリアに入る直前、俺は魔力を練り上げ、魔力回路全体に行き渡らせる。そして頭の中で強いイメージを作り上げる。
「スピードスター!」
俊足魔法であるスピードスターを発動し、素早く芝の上を駆け抜ける。遠くを走っていた魔王プリパラの姿が、近くまで捉えることができた。
『シャカール走者! 凄まじい末脚だ! あっと言う間に魔法禁止エリアに到達だ! さぁ、伝家の宝刀である彼のあの足が発動してくれるのか!』
『ここまで来たら、後は彼の勝利を祈るしかないでしょう』
魔法禁止エリア内に入った。ここから先は、いくら魔法が発動しても無力化される。それは今まで己に有利なギミックを用意した魔王でも、どうすることもできない。
ここで俺は、魔王を追い抜く。
ユニークスキル発動! メディカルピックル!
心の中で叫び、スキルを発動する。この能力は、これまで俺が投与された薬物の効果を、薬なしで効果を引き出すことができる能力だ。
今、俺の足は筋肉収縮剤を撃たれた時と同じで、足の筋肉の収縮速度をより早くすることができる。
今の俺は、俊足魔法を使ったときと同様の速度で走ることができる。
『ここでシャカール走者が魔王プリパラに並んだ!』
「差せ! シャカール! 差すんだシャカール!」
「魔王様、逃げ切ってください!」
ゴールが近付いたことで、観客の声援が耳に入ってくる。
「まさか、我に追い付くことができるとはな。正直侮っておった。だが、遊びはおしまいだ! このまま一気に勝負をつける!」
俺が追い付いたことで、プリパラを追い詰めたようだ。彼女は速度を上げ、約1メートルほど引き離される。
さすが魔王だ。この世界を滅ぼして、理想の世界を作り上げようとしただけはある。だけど、負けてやる訳にはいかないんだ。
ここまで俺を助けてくれた仲間たちのためにも、ここでお前を差し切らせてもらう。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は声を荒げ、全身全霊の走りをする。
これ以上スキルを継続すれば、俺の肉体はどうなるのかわからない。だけど、このままで終わらせる訳にはいかない。
俺の肉体がどうなろうと、俺はこの魔王を倒す!
『シャカール走者が強烈な追い上げだ! 1メートル離された距離が、みるみる縮まって行く! 魔王プリパラ、苦しいけれど粘っている! な、並んだ! ついにシャカールが魔王プリパラと並んだ! このまま差し切ることができるか!』
実況担当のアルティメットが何かを言っているようだが、俺にはもう何も聞こえない。
限界を超えた走りをしているからか、視界が次第にぼやけ出す。
『シャカール走者! 僅かだが前に出た! 現在およそハナの差、頭、首! 現在シャカール走者が首の分だけリードしている……いや、完全に追い抜いた! そしてそのまま1メートルまで距離をリード! このままいけるか! このまま差し切れ! ダークヒーロー!』
ゴールが近づくにつれ、雑音が大きくなった。もう、俺は何も考えられない。本能のままに走る獣のようなものだ。
ひたすら走り、気が付くとゴールが目の前にあることに気付く。
『シャカール走者! ゴールイン! やったぞ! 魔王プリパラと1メートル差をつけて、魔王杯を勝ち取った! 魔王が敗走したことで、この世界は救われた! ダークヒーロー! シャカール、今全ての力を使い果たして芝の上に倒れた!』
気が付くと、俺は芝の上に倒れていた。耳に入った実況の声は、俺が勝ったことを告げている。
そうか。俺は勝ったのか。
ゆっくりと立ち上がる。すると、魔王プリパラが俺に手を差し伸べてきた。
「見事、不利なギミックに打ち勝つことができた。さすが勇者シャカールと言ったところか」
彼女の差し伸ばされた手を掴み、互いに握手を交わす。
「俺たちが勝ったんだ。もう、お前の理想とする世界への作り変えはやめてくれるよな」
「不本意だが、敗者は勝者に従うのみだ」
これで、魔王の世界征服の野望は潰えた。めでたし、めでたし。
「そんな訳がないだろうがあああああぁぁぁぁぁぁ! 何をハッピーエンドで終わらせているうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
男が大声を上げる声が耳に入り、そちらに顔を向ける。見知らぬ魔族が、怒りで顔を赤くしているのか、額の血管を浮き上がらせながらこちらを睨んでいた。
『モンスターゾーンでは、魔王プリパラと魔族以外の種族をモンスターが攻撃してくる仕組みとなっております。このギミックは、魔王軍以外は大きな痛手となるギミックです。果たして他の種族たちは、このピンチをどうやって切り抜けて行くのか見守りましょう』
魔王プリパラが最後のギミックに到達したか。もう少し距離を縮めておきたかった。
ゴールに向けて走っていると、黒いショートヘアーの女の子と、頭にウサギ耳が着いた白髪のロングヘアーの女の子の姿が見えた。
「ナナミ! クリープ!」
「お兄ちゃん!」
「良かった。作戦通りにここまで順位を上げることができましたね」
「ああ、だけどプリパラの足が俺の予想よりも早い。俺たちも一気に駆け抜けるぞ」
「うん、分かった」
「ええ、行きましょう。彼女の好きにはさせません。悪い子は後で、ママがお仕置きです」
クリープがお仕置きをすると言った瞬間、背筋に寒気を感じる。
この勝負に勝たなければならないが、勝った後に魔王の身に起きる罰を想像すると、可哀想に思ってしまう。
「くれぐれもお手柔らかに頼むよ」
「シャカール君がそう言うのでしたら、誰でも良い子に戻れるハッピーコースはやめておきますね」
クリープの言葉に苦笑いを浮かべながら、俺たち3人は速度を上げ、加速して行く。
『ここでクリープ、ナナミ、シャカールが加速した! 魔王プリパラはモンスターゾーンを抜けたが、ここで追い上げてきた!』
『3人とも良い走りです。このまま行けば、僅かながら希望が見えてきます』
芝の上を駆け抜け、俺たちは最後のギミック、モンスターゾーンへと突入した。その瞬間、芝の上に召喚されたモンスターが次々と襲ってくる。
「悪いモンスターさんたちは、ママがお仕置きしますよ。えい!」
クリープが目の前に現れたオオカミ型のモンスター、ハクギンロウに蹴りを入れる。するとモンスターは吹き飛ばされ、前方を走っていた魔族に直撃した。
「シャカール君、ここはママたちに任せて、先に進んでください」
「ズルをする魔王軍には、ナナミたちがモンスターの弾丸をプレゼントするから」
「分かった。でも、ムリだけはするな。命の危険を感じたら棄権するんだ」
仲間に棄権することを視野に入れるように伝えると、俺は更に先頭を目指して突き進む。
『クリープ走者が蹴り飛ばしたモンスターが、ガロンとキリングに直撃した! 魔族の恩恵を得ることなく、モンスターに押し潰されて行く!』
『良い連携です。このまま行けば、シャカール走者が更に順位を上げて行くことができるでしょう』
クリープとナナミが道を作ってくれたお陰で、先に進むことが可能となった。今の内に順位を上げる。
「グハッ!」
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!」
「すみません。魔王様、どうやら俺たちはここまでのようです」
まだモンスターゾーンを抜け切っていない中、ひたすらゴールに向けて走る。すると敵の魔族が風の魔法に吹き飛ばされ、伸びているのが見えた。
「やっと来ましたか。自分よりも下の順位の魔族の足止めなんて、ウマ娘である私のすることではないのですが?」
「ヤッホー! シャカールちゃん! 言われた通りにこいつらは倒しておいたよ。早くタマモちゃんを追いかけて上げて。シャカールちゃんをサポートするのは、彼女であるマーヤの仕事だもん!」
「自称彼女、時と場合を弁えてください。聞いていてイラッとします」
モンスターゾーンを走っていると、先ほど魔法で魔族走者を吹き飛ばしたと思われる2人組の女性が視界に入る。
1人は自称俺の恋人を騙るマーヤだ。水色の髪をハーフアップにしており、髪の間から見える魚のエラのような耳は、彼女が亜人のセイレーンである証だ。クリッとしたあどけないまん丸な目で俺のことを見つめてくる。
そしてもう一人は、赤茶色の髪をサイドテールにしている女の子だ。とんがっている耳と左右に振られている美しい毛並みの尻尾は、ケモノ族最強走者の証であるウマ娘のルビーで間違いない。
どうやら、ルビーがマーヤに突っかかっているみたいだな
「ルビー、マーヤ! サンキュ! これでこのギミックを抜けられる!」
「早く行ってください。私たちは無限に湧き出るモンスターの討伐と、後続の魔族を相手にしますので」
「分かった。お前たちも無理のない範囲でやってくれ。危険だと思ったら、直ぐにこのギミックエリアから出るんだ」
せめてのお礼にと、俺は彼女たちの頭を撫でる。
「えへへ、シャカールちゃんエネルギーチャージ完了!」
「女の子の頭を撫でる余裕があるのでしたら、早くここを抜け出してください。私たちはこの世界を救うために、魔王に勝たなければならないのですから」
口では素直ではないが、ルビーの尻尾は左右に動く。
喜んでいるじゃないか。本当に俺に似て素直じゃないな。
「ルビー、マーヤ、後は頼んだ!」
彼女たちの横を抜け、俺はようやくモンスターエリアを抜ける。
仲間たちの活躍のお陰で、かなり距離を縮めることができた。
視界の先に小さくだが、魔王プルパラの姿が見えた。
パープル色のロングヘアーの頭には少女には似つかわしくない禍々しい2本の角が生えており、背中には小さいが、悪魔の羽と尻尾が生えている。姿が少女なだけあって、アンバランスな感じがしてしまう。
だが、見た目に反してその脚力は異次元と言っても過言ではない。クラウン路線の3冠を取った3冠王の俺が、未だに追いつけてないのだから。
距離にして20メートルといったところか。
しばらく走っていると、俺の最後の仲間の背中が見えた。距離にして約1メートル先を走っているのは、俺のクラスの学級委員長であるタマモだ。
キツネ耳に茶髪の髪をツインテールに纏め、ミニスカ着物の勝負服で俺の前を走っている。
「タマモ、ようやく追い付いたな」
「遅いわよ! あたしを待たせないで。でもまぁ、予定通りに追い付いたから許しはするけれど」
彼女の横を並走し、現在2位の魔族の女の子を見る。
着ている勝負服は白いドレスのような作りをしており、スカートにはヒラヒラが付いている。異世界のアイドル衣装と呼ばれるものらしい。
ツーサイドアップにしている茶髪の髪が、足の振動で上下に動いている。
すると俺たちの気配に気付いたのか、彼女は振り返り、一瞬驚いた表情をする。
「うそ! タマモちゃんにシャカール君! もう追い付いてしまったの!」
現在の二番手の走者、ウイニングライブが振り返ると、彼女は背中の翼を動かす。
「こうなったら、私が最後のギミックになってやるんだから! 私の翼から発生する風で速度を落とすが良いわ」
『おっと! ここで二番手を走っていた走者界のアイドル、逃げ切りシスターズのウイニングライブが、翼から風を起こしてシャカールたちの走行を邪魔する!』
「あーもう! 走りづらい! ウイニングライブ! どうして魔王側に着いたのよ!」
タマモがウイニングライブに問う。
やっぱり、知人が敵側に回ってしまうのは、彼女なりに心に来るものがあるのだろう。
「うーん、それはわたしが魔族だからって答えだね。魔王様には逆らえないもの。確かに学園生活では、あなたたちと仲良くしていたけれど、こんなことになった以上、なるようになれとしか言えないよね。どんな世界になったとしても、わたしはアイドルを続けられればそれで良いから」
「そう。なら良いわよ! あんたはあたしがこの手でぶっ倒して上げる! ストロングウインド!」
タマモが魔法を発動すると、ウイニングライブに向けて強風が発生した。その風は、魔族の女の子の翼から生み出される風よりも強く、強風を受けたウイニングライブを吹き飛ばす。
しかし、芝に打ち付けられる直前に翼で風を生み出し、直撃を防いだ。
「シャカール! この女はあたしが抑えておくわ。だからあんたは魔王プリパラをお願い」
「分かった。このレースが終われば、お互いに仲直りができるといいな」
このレースが終われば彼女たちは元の関係に戻れることを信じて、俺は魔王を追いかける。
『やったぞ! 仲間たちとの連携を巧みにこなし、今、シャカールが2位に上がった! しかしその差は15メートル! ここで魔王プリパラは、第4のコーナーを曲がって最後の直線200メートルに差し掛かる! ここから先は魔法禁止エリア、己の足との勝負です!』
プリパラが魔法禁止エリアに入ったか。この距離の開きなら、まだ間に合う。
魔法禁止エリアに入る直前、俺は魔力を練り上げ、魔力回路全体に行き渡らせる。そして頭の中で強いイメージを作り上げる。
「スピードスター!」
俊足魔法であるスピードスターを発動し、素早く芝の上を駆け抜ける。遠くを走っていた魔王プリパラの姿が、近くまで捉えることができた。
『シャカール走者! 凄まじい末脚だ! あっと言う間に魔法禁止エリアに到達だ! さぁ、伝家の宝刀である彼のあの足が発動してくれるのか!』
『ここまで来たら、後は彼の勝利を祈るしかないでしょう』
魔法禁止エリア内に入った。ここから先は、いくら魔法が発動しても無力化される。それは今まで己に有利なギミックを用意した魔王でも、どうすることもできない。
ここで俺は、魔王を追い抜く。
ユニークスキル発動! メディカルピックル!
心の中で叫び、スキルを発動する。この能力は、これまで俺が投与された薬物の効果を、薬なしで効果を引き出すことができる能力だ。
今、俺の足は筋肉収縮剤を撃たれた時と同じで、足の筋肉の収縮速度をより早くすることができる。
今の俺は、俊足魔法を使ったときと同様の速度で走ることができる。
『ここでシャカール走者が魔王プリパラに並んだ!』
「差せ! シャカール! 差すんだシャカール!」
「魔王様、逃げ切ってください!」
ゴールが近付いたことで、観客の声援が耳に入ってくる。
「まさか、我に追い付くことができるとはな。正直侮っておった。だが、遊びはおしまいだ! このまま一気に勝負をつける!」
俺が追い付いたことで、プリパラを追い詰めたようだ。彼女は速度を上げ、約1メートルほど引き離される。
さすが魔王だ。この世界を滅ぼして、理想の世界を作り上げようとしただけはある。だけど、負けてやる訳にはいかないんだ。
ここまで俺を助けてくれた仲間たちのためにも、ここでお前を差し切らせてもらう。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は声を荒げ、全身全霊の走りをする。
これ以上スキルを継続すれば、俺の肉体はどうなるのかわからない。だけど、このままで終わらせる訳にはいかない。
俺の肉体がどうなろうと、俺はこの魔王を倒す!
『シャカール走者が強烈な追い上げだ! 1メートル離された距離が、みるみる縮まって行く! 魔王プリパラ、苦しいけれど粘っている! な、並んだ! ついにシャカールが魔王プリパラと並んだ! このまま差し切ることができるか!』
実況担当のアルティメットが何かを言っているようだが、俺にはもう何も聞こえない。
限界を超えた走りをしているからか、視界が次第にぼやけ出す。
『シャカール走者! 僅かだが前に出た! 現在およそハナの差、頭、首! 現在シャカール走者が首の分だけリードしている……いや、完全に追い抜いた! そしてそのまま1メートルまで距離をリード! このままいけるか! このまま差し切れ! ダークヒーロー!』
ゴールが近づくにつれ、雑音が大きくなった。もう、俺は何も考えられない。本能のままに走る獣のようなものだ。
ひたすら走り、気が付くとゴールが目の前にあることに気付く。
『シャカール走者! ゴールイン! やったぞ! 魔王プリパラと1メートル差をつけて、魔王杯を勝ち取った! 魔王が敗走したことで、この世界は救われた! ダークヒーロー! シャカール、今全ての力を使い果たして芝の上に倒れた!』
気が付くと、俺は芝の上に倒れていた。耳に入った実況の声は、俺が勝ったことを告げている。
そうか。俺は勝ったのか。
ゆっくりと立ち上がる。すると、魔王プリパラが俺に手を差し伸べてきた。
「見事、不利なギミックに打ち勝つことができた。さすが勇者シャカールと言ったところか」
彼女の差し伸ばされた手を掴み、互いに握手を交わす。
「俺たちが勝ったんだ。もう、お前の理想とする世界への作り変えはやめてくれるよな」
「不本意だが、敗者は勝者に従うのみだ」
これで、魔王の世界征服の野望は潰えた。めでたし、めでたし。
「そんな訳がないだろうがあああああぁぁぁぁぁぁ! 何をハッピーエンドで終わらせているうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
男が大声を上げる声が耳に入り、そちらに顔を向ける。見知らぬ魔族が、怒りで顔を赤くしているのか、額の血管を浮き上がらせながらこちらを睨んでいた。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活
仙道
ファンタジー
ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。
彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。
貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…
美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。
※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。
※イラストはAI生成です
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる