薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳

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最終章

第十三話 魔法杯決着?

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『さぁ、ここで更にシャカール走者が順位を上げ、13位になりました。ですが、先頭ハナを進む魔王プリパラは、ここで最後のギミックであるモンスターゾーンに突入だ!』

『モンスターゾーンでは、魔王プリパラと魔族以外の種族をモンスターが攻撃してくる仕組みとなっております。このギミックは、魔王軍以外は大きな痛手となるギミックです。果たして他の種族たちは、このピンチをどうやって切り抜けて行くのか見守りましょう』

 魔王プリパラが最後のギミックに到達したか。もう少し距離を縮めておきたかった。

 ゴールに向けて走っていると、黒いショートヘアーの女の子と、頭にウサギ耳が着いた白髪のロングヘアーの女の子の姿が見えた。

「ナナミ! クリープ!」

「お兄ちゃん!」

「良かった。作戦通りにここまで順位を上げることができましたね」

「ああ、だけどプリパラの足が俺の予想よりも早い。俺たちも一気に駆け抜けるぞ」

「うん、分かった」

「ええ、行きましょう。彼女の好きにはさせません。悪い子は後で、ママがお仕置きです」

 クリープがお仕置きをすると言った瞬間、背筋に寒気を感じる。

 この勝負に勝たなければならないが、勝った後に魔王の身に起きる罰を想像すると、可哀想に思ってしまう。

「くれぐれもお手柔らかに頼むよ」

「シャカール君がそう言うのでしたら、誰でも良い子に戻れるハッピーコースはやめておきますね」

 クリープの言葉に苦笑いを浮かべながら、俺たち3人は速度を上げ、加速して行く。

『ここでクリープ、ナナミ、シャカールが加速した! 魔王プリパラはモンスターゾーンを抜けたが、ここで追い上げてきた!』

『3人とも良い走りです。このまま行けば、僅かながら希望が見えてきます』

 芝の上を駆け抜け、俺たちは最後のギミック、モンスターゾーンへと突入した。その瞬間、芝の上に召喚されたモンスターが次々と襲ってくる。

「悪いモンスターさんたちは、ママがお仕置きしますよ。えい!」

 クリープが目の前に現れたオオカミ型のモンスター、ハクギンロウに蹴りを入れる。するとモンスターは吹き飛ばされ、前方を走っていた魔族に直撃した。

「シャカール君、ここはママたちに任せて、先に進んでください」

「ズルをする魔王軍には、ナナミたちがモンスターの弾丸をプレゼントするから」

「分かった。でも、ムリだけはするな。命の危険を感じたら棄権するんだ」

 仲間に棄権することを視野に入れるように伝えると、俺は更に先頭を目指して突き進む。

『クリープ走者が蹴り飛ばしたモンスターが、ガロンとキリングに直撃した! 魔族の恩恵を得ることなく、モンスターに押し潰されて行く!』

『良い連携です。このまま行けば、シャカール走者が更に順位を上げて行くことができるでしょう』

 クリープとナナミが道を作ってくれたお陰で、先に進むことが可能となった。今の内に順位を上げる。

「グハッ!」

「ぎゃああああああぁぁぁぁぁ!」

「すみません。魔王様、どうやら俺たちはここまでのようです」

 まだモンスターゾーンを抜け切っていない中、ひたすらゴールに向けて走る。すると敵の魔族が風の魔法に吹き飛ばされ、伸びているのが見えた。

「やっと来ましたか。自分よりも下の順位の魔族の足止めなんて、ウマ娘である私のすることではないのですが?」

「ヤッホー! シャカールちゃん! 言われた通りにこいつらは倒しておいたよ。早くタマモちゃんを追いかけて上げて。シャカールちゃんをサポートするのは、彼女であるマーヤの仕事だもん!」

「自称彼女、時と場合を弁えてください。聞いていてイラッとします」

 モンスターゾーンを走っていると、先ほど魔法で魔族走者を吹き飛ばしたと思われる2人組の女性が視界に入る。

 1人は自称俺の恋人を騙るマーヤだ。水色の髪をハーフアップにしており、髪の間から見える魚のエラのような耳は、彼女が亜人のセイレーンである証だ。クリッとしたあどけないまん丸な目で俺のことを見つめてくる。

 そしてもう一人は、赤茶色の髪をサイドテールにしている女の子だ。とんがっている耳と左右に振られている美しい毛並みの尻尾は、ケモノ族最強走者の証であるウマ娘のルビーで間違いない。

 どうやら、ルビーがマーヤに突っかかっているみたいだな

「ルビー、マーヤ! サンキュ! これでこのギミックを抜けられる!」

「早く行ってください。私たちは無限に湧き出るモンスターの討伐と、後続の魔族を相手にしますので」

「分かった。お前たちも無理のない範囲でやってくれ。危険だと思ったら、直ぐにこのギミックエリアから出るんだ」

 せめてのお礼にと、俺は彼女たちの頭を撫でる。

「えへへ、シャカールちゃんエネルギーチャージ完了!」

「女の子の頭を撫でる余裕があるのでしたら、早くここを抜け出してください。私たちはこの世界を救うために、魔王に勝たなければならないのですから」

 口では素直ではないが、ルビーの尻尾は左右に動く。

 喜んでいるじゃないか。本当に俺に似て素直じゃないな。

「ルビー、マーヤ、後は頼んだ!」

 彼女たちの横を抜け、俺はようやくモンスターエリアを抜ける。

 仲間たちの活躍のお陰で、かなり距離を縮めることができた。

 視界の先に小さくだが、魔王プルパラの姿が見えた。

 パープル色のロングヘアーの頭には少女には似つかわしくない禍々しい2本の角が生えており、背中には小さいが、悪魔の羽と尻尾が生えている。姿が少女なだけあって、アンバランスな感じがしてしまう。

 だが、見た目に反してその脚力は異次元と言っても過言ではない。クラウン路線の3冠を取った3冠王の俺が、未だに追いつけてないのだから。

 距離にして20メートルといったところか。

 しばらく走っていると、俺の最後の仲間の背中が見えた。距離にして約1メートル先を走っているのは、俺のクラスの学級委員長であるタマモだ。

 キツネ耳に茶髪の髪をツインテールに纏め、ミニスカ着物の勝負服で俺の前を走っている。

「タマモ、ようやく追い付いたな」

「遅いわよ! あたしを待たせないで。でもまぁ、予定通りに追い付いたから許しはするけれど」

 彼女の横を並走し、現在2位の魔族の女の子を見る。

 着ている勝負服は白いドレスのような作りをしており、スカートにはヒラヒラが付いている。異世界のアイドル衣装と呼ばれるものらしい。

 ツーサイドアップにしている茶髪の髪が、足の振動で上下に動いている。

 すると俺たちの気配に気付いたのか、彼女は振り返り、一瞬驚いた表情をする。

「うそ! タマモちゃんにシャカール君! もう追い付いてしまったの!」

 現在の二番手の走者、ウイニングライブが振り返ると、彼女は背中の翼を動かす。

「こうなったら、私が最後のギミックになってやるんだから! 私の翼から発生する風で速度を落とすが良いわ」

『おっと! ここで二番手を走っていた走者界のアイドル、逃げ切りシスターズのウイニングライブが、翼から風を起こしてシャカールたちの走行を邪魔する!』

「あーもう! 走りづらい! ウイニングライブ! どうして魔王側に着いたのよ!」

 タマモがウイニングライブに問う。

 やっぱり、知人が敵側に回ってしまうのは、彼女なりに心に来るものがあるのだろう。

「うーん、それはわたしが魔族だからって答えだね。魔王様には逆らえないもの。確かに学園生活では、あなたたちと仲良くしていたけれど、こんなことになった以上、なるようになれとしか言えないよね。どんな世界になったとしても、わたしはアイドルを続けられればそれで良いから」

「そう。なら良いわよ! あんたはあたしがこの手でぶっ倒して上げる! ストロングウインド!」

 タマモが魔法を発動すると、ウイニングライブに向けて強風が発生した。その風は、魔族の女の子の翼から生み出される風よりも強く、強風を受けたウイニングライブを吹き飛ばす。

 しかし、芝に打ち付けられる直前に翼で風を生み出し、直撃を防いだ。

「シャカール! この女はあたしが抑えておくわ。だからあんたは魔王プリパラをお願い」

「分かった。このレースが終われば、お互いに仲直りができるといいな」

 このレースが終われば彼女たちは元の関係に戻れることを信じて、俺は魔王を追いかける。

『やったぞ! 仲間たちとの連携を巧みにこなし、今、シャカールが2位に上がった! しかしその差は15メートル! ここで魔王プリパラは、第4のコーナーを曲がって最後の直線200メートルに差し掛かる! ここから先は魔法禁止エリア、己の足との勝負です!』

 プリパラが魔法禁止エリアに入ったか。この距離の開きなら、まだ間に合う。

 魔法禁止エリアに入る直前、俺は魔力を練り上げ、魔力回路全体に行き渡らせる。そして頭の中で強いイメージを作り上げる。

「スピードスター!」

 俊足魔法であるスピードスターを発動し、素早く芝の上を駆け抜ける。遠くを走っていた魔王プリパラの姿が、近くまで捉えることができた。

『シャカール走者! 凄まじい末脚だ! あっと言う間に魔法禁止エリアに到達だ! さぁ、伝家の宝刀である彼のあの足が発動してくれるのか!』

『ここまで来たら、後は彼の勝利を祈るしかないでしょう』

 魔法禁止エリア内に入った。ここから先は、いくら魔法が発動しても無力化される。それは今まで己に有利なギミックを用意した魔王でも、どうすることもできない。

 ここで俺は、魔王を追い抜く。

 ユニークスキル発動! メディカルピックル!

 心の中で叫び、スキルを発動する。この能力は、これまで俺が投与された薬物の効果を、薬なしで効果を引き出すことができる能力だ。

 今、俺の足は筋肉収縮剤を撃たれた時と同じで、足の筋肉の収縮速度をより早くすることができる。

 今の俺は、俊足魔法を使ったときと同様の速度で走ることができる。

『ここでシャカール走者が魔王プリパラに並んだ!』

「差せ! シャカール! 差すんだシャカール!」

「魔王様、逃げ切ってください!」

 ゴールが近付いたことで、観客の声援が耳に入ってくる。

「まさか、我に追い付くことができるとはな。正直侮っておった。だが、遊びはおしまいだ! このまま一気に勝負をつける!」

 俺が追い付いたことで、プリパラを追い詰めたようだ。彼女は速度を上げ、約1メートルほど引き離される。

 さすが魔王だ。この世界を滅ぼして、理想の世界を作り上げようとしただけはある。だけど、負けてやる訳にはいかないんだ。

 ここまで俺を助けてくれた仲間たちのためにも、ここでお前を差し切らせてもらう。

「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 俺は声を荒げ、全身全霊の走りをする。

 これ以上スキルを継続すれば、俺の肉体はどうなるのかわからない。だけど、このままで終わらせる訳にはいかない。

 俺の肉体がどうなろうと、俺はこの魔王を倒す!

『シャカール走者が強烈な追い上げだ! 1メートル離された距離が、みるみる縮まって行く! 魔王プリパラ、苦しいけれど粘っている! な、並んだ! ついにシャカールが魔王プリパラと並んだ! このまま差し切ることができるか!』

 実況担当のアルティメットが何かを言っているようだが、俺にはもう何も聞こえない。

 限界を超えた走りをしているからか、視界が次第にぼやけ出す。

『シャカール走者! 僅かだが前に出た! 現在およそハナの差、頭、首! 現在シャカール走者が首の分だけリードしている……いや、完全に追い抜いた! そしてそのまま1メートルまで距離をリード! このままいけるか! このまま差し切れ! ダークヒーロー!』

 ゴールが近づくにつれ、雑音が大きくなった。もう、俺は何も考えられない。本能のままに走る獣のようなものだ。

 ひたすら走り、気が付くとゴールが目の前にあることに気付く。

『シャカール走者! ゴールイン! やったぞ! 魔王プリパラと1メートル差をつけて、魔王杯を勝ち取った! 魔王が敗走したことで、この世界は救われた! ダークヒーロー! シャカール、今全ての力を使い果たして芝の上に倒れた!』

 気が付くと、俺は芝の上に倒れていた。耳に入った実況の声は、俺が勝ったことを告げている。

 そうか。俺は勝ったのか。

 ゆっくりと立ち上がる。すると、魔王プリパラが俺に手を差し伸べてきた。

「見事、不利なギミックに打ち勝つことができた。さすが勇者シャカールと言ったところか」

 彼女の差し伸ばされた手を掴み、互いに握手を交わす。

「俺たちが勝ったんだ。もう、お前の理想とする世界への作り変えはやめてくれるよな」

「不本意だが、敗者は勝者に従うのみだ」

 これで、魔王の世界征服の野望は潰えた。めでたし、めでたし。

「そんな訳がないだろうがあああああぁぁぁぁぁぁ! 何をハッピーエンドで終わらせているうううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 男が大声を上げる声が耳に入り、そちらに顔を向ける。見知らぬ魔族が、怒りで顔を赤くしているのか、額の血管を浮き上がらせながらこちらを睨んでいた。
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