46 / 75
【第5部】帝都帰還・数値(ステータス)至上主義粉砕編 ~泥棒猫のチート能力、物理でへし折って差し上げます~
第046話 【決着】ステータス画面ごと、その腐った幻想をへし折って差し上げます(物理システム破壊)
しおりを挟む
決勝戦。
帝都の大闘技場は、異様な静寂に包まれていた。
熱気ではない。これから始まる何かに怯えるような、張り詰めた空気だ。
石畳の中央。
わたしとケビンは対峙していた。
ケビンは全身を最高級のミスリル鎧(もちろん他人から奪ったものだ)で固め、両手にはジンのカタナよりも遥かに高価な魔剣と聖剣を構えている。
だが、その姿は滑稽なほどに「着せられている」感が強かった。
「……フフッ。ついにこの時が来たな、レヴィーネ」
ケビンが下卑た笑みを浮かべる。
「皇帝も見ているこの舞台。俺が真の支配者となる戴冠式に相応しい」
彼は貴賓席に座る皇帝と、その横で虚ろな目をしている第一皇子を一瞥し、大仰に両手を広げた。
「さあ、始めようか。だがその前に……少し『ルール』を決めようぜ?」
ケビンの体が淡い光に包まれる。
彼が発動したのは、これまで隠していた切り札――SSランクスキル『協定』だ。
「このスキルは、双方合意の下で定めた条件を、システムが強制的に執行する絶対の契約だ。神だろうが魔王だろうが、この縛りからは逃れられない」
空中に、半透明の契約ウィンドウが出現する。
『条件:ケビンが勝利した場合、レヴィーネ・ヴィータヴェンはケビンの所有物となり、一切の抵抗権を失う』
「どうだ? お前が勝てば、俺の持っている全スキルを解放してやってもいいぜ? まあ、勝てるわけがねえがな!」
観客席がざわめく。あまりに一方的で、卑劣な条件。
だが、わたしは鉄扇で口元を隠し、冷ややかな目でウィンドウを見つめた。
「……いいでしょう」
「は?」
「受けて立ちますわ。ただし、一つ条件を追加しなさい」
わたしは鉄扇を閉じ、ビシッとケビンを指差した。
「あなたが負けた場合、奪ったスキルをすべて持ち主に返し……二度と、その薄汚い口で『最強』を名乗らないこと。……いいわね?」
「ハッ! 余裕ぶっこきやがって! いいぜ、契約成立だ!」
ブォン!
契約ウィンドウが赤く発光し、鎖のようなエフェクトがわたしの心臓に巻き付く幻影が見えた。
システムによる拘束。これでお互いに逃げ場はない。
――だが目の前の害獣は理解しているのだろうか、チェーン・デスマッチは悪役の十八番だということを。
「始めッ!!」
ゴングが鳴ると同時、ケビンが動いた。
「まずは挨拶代わりだ! 食らえ、Sランクスキル『剣聖連斬』ッ!!」
ケビンの魔剣が閃く。
確かに速い。数値上の速度はSランクそのものだ。
だが。
カァン! カンッ!
わたしは鉄扇一本で、その斬撃をすべて弾き返した。
「な、なにィッ!?」
「軽い」
わたしは一歩も動かず、吐き捨てるように言った。
「速いだけ。重さがない。……ジンが見せたあの剣技には、彼の人生が乗っていたわ。アンタの剣にあるのは、ただの『データ』だけよ」
「黙れぇッ! ならば質より量だ! 俺のスキルコレクションを見せてやる!」
ケビンが半狂乱になって叫ぶ。
彼は魔剣を掲げ、まるでカタログを読み上げるようにスキル名を連呼し始めた。
「『豪雷』! 『ブリザード』! 『ソニックブーム』! 『アースクエイク』! 『ポイズンミスト』! 『重力プレス』ッ!!」
雷が落ち、氷礫が飛び、衝撃波が走り、地面が揺れ、毒の霧が舞う。
属性も系統もバラバラ。連携も何もない、ただ持っているだけの強力なスキルを、手当たり次第にぶっ放すだけの弾幕。
普通なら、これだけの飽和攻撃を受ければ跡形もなくなるだろう。
だが。
パァン! バシッ! ドォン!
わたしは鉄扇を開き、舞うようにステップを踏んだ。
雷を扇子で受け流し、氷を砕き、毒の霧を風圧で吹き飛ばす。
「雑よ! 芸がないわ! 組み合わせの美学も知らないの!?」
「な、なんでだ!? なんで当たらない!? 数値は全部Sランクなんだぞ!?」
息を切らすケビン。
わたしは傷一つないドレスのまま、涼しい顔で彼を見据えた。
「……もうおしまい? なら、これをお返しするわ」
わたしは鉄扇を懐にしまい、一歩前に出た。
その威圧感に、ケビンが後ずさる。
「ひッ……く、来るな! だったら、これを使わせてもらうぞ!」
ケビンの全身から、ドス黒い紫色のオーラが噴き出した。
それは、この会場にいる誰よりも高貴であるはずの、しかし今は最も汚らわしく見える覇気。
「跪け、愚民ども! ユニークスキル『王の威光』ッ!!」
ドォォォォン……!
空気が重くなる。
第一皇子から奪い取った、人を強制的に平伏させる王の力。
観客席の生徒たちが、次々と意識を失ったり、ガタガタと震えて膝をついたりしていく。
「ハハハハ! 見ろ! これが王の力だ! さあレヴィーネ、お前も俺の前に額を擦りつけ……」
ケビンの高笑いが、ピタリと止まった。
わたしが、眉一つ動かさず、悠然と立っていたからだ。
「……な、なぜだ? なぜ平気なんだ!? これは絶対の支配スキルだぞ!?」
「……返してもらうわよ、それ」
わたしの声が、絶対零度まで冷え込んだ。
怒り。純粋な怒りが、わたしの内側から溢れ出す。
「その力は、第一皇子殿下が生まれながらに背負い、苦悩し、それでも国のためにと磨き上げてきた『責任』の結晶よ。……アンタのような、覚悟のないコソ泥が使っていい代物じゃない!」
ゴォォォォォッ!!
わたしの体から、ケビンのそれを遥かに凌駕する、本物の「悪役」の覇気が噴出する。
それは借り物ではない。わたし自身の魂が放つ、圧倒的な「格」の差。
ケビンの紫色のオーラが、わたしの覇気に飲まれて霧散する。
「ひ、ひぃぃッ!? 消えた!? 俺の威光が……かき消された!?」
「――そもそも皇族でもないのに威光もクソもないでしょ?」
「黙れぇッ! 調子に乗るなよ、物理攻撃も精神攻撃も通じないなら、これで消し炭にしてやる! 食らいやがれ、SSランク禁呪『死の獄炎』ッ!!」
錯乱したケビンの掌から、闘技場全体を飲み込むほどの巨大な業火が放たれた。
熱波が観客席まで届き、悲鳴が上がる。
逃げ場のない広範囲殲滅魔法。
だが、わたしは足元の影に手を伸ばした。
「……熱いわね。少し、風を入れましょうか」
ズヌゥッ……。
影から引き抜かれたのは、わたしの魂の半身『漆黒の玉座』。
わたしはそれを盾のように構え、真正面から業火を受け止めた。
ゴオォォォォォォッ!!
炎が玉座に当たり、左右に分かれる。
玉座の後ろにあるわたしのドレスは、焦げ目ひとつついていない。
「な、なんだその椅子は!? 俺のSSランク魔法だぞ!?」
「あら。この子はドワーフの魔導炉にエンシェントドラゴンのブレス以上の炎を入れて焼き上げられたのよ? その程度の種火じゃ、温まりもしないわ」
わたしは玉座を片手で振り払い、炎を霧散させた。
「くそっ、くそっ! なぜだ! なぜ効かない! ……なら、これならどうだ! SSSランク『次元切断』ッ!!」
ケビンが聖剣を振りかぶる。
その刀身に、空間そのものを切り裂く、禍々しい亀裂が走る。
防御不能、回避不能の概念攻撃。当たれば椅子ごと両断される必殺の一撃。
「死ねぇぇぇッ!!」
振り下ろされる聖剣。
だが、その「概念」が発動するよりも速く――わたしは動いた。
「遅いのよ!!!」
ドゴォンッ!!
わたしは踏み込み、聖剣の「腹」を、玉座の座面で横からフルスイングした。
バギィィィンッ!!!
次元を斬るはずの聖剣が、物理的な衝撃に耐えきれず、根元からひん曲がって弾き飛ばされた。
「あ、あああ……!? 俺の、俺の最強武器が!?」
「発動しなければただのなまくらよ。……もう手札はおしまい?」
わたしがジリジリと歩み寄ると、ケビンは後ずさり、引きつった顔で右手を突き出した。
「く、来るな! 止まれ! 隠しスキル発動! 『システム権限:絶対命令』ッ!!」
王の威光などではない。世界の理そのものに干渉し、対象の動作を強制的に停止させる管理者権限。
ジンの動きを封じたあの力の、最大出力版だ。
ブォン……。
世界が灰色に染まり、わたしの手足に見えない鎖が絡みつく感覚が走る。
「ハハッ! かかったな! これで貴様は指一本動かせな……」
パリーン。
鎖が砕ける音がした。
わたしは、何事もなかったかのように一歩を踏み出した。
「……は?」
「……『止まれ』? それだけ?」
わたしは呆れ果ててため息をついた。
「わたしはね、もっと強烈な『強制終了』を、この身で味わってきたのよ。それに比べれば……アンタの権限なんて、そよ風みたいなものね」
ラノリアの地下で対峙した、あの世界そのものを塗り替えるような圧力。
それに比べれば、この男の権限など、子供のわがままレベルだ。
わたしの魂と筋肉は、こんな安い命令には従わない。
「う、嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ! 俺の数値はオールSSSだぞ! システム最強なんだぞ!?」
ケビンは錯乱し、空中に自身のステータスウィンドウを展開した。
そこには『筋力:99999』『敏捷:99999』といった、バグじみた数値が羅列されている。
「見ろ! この数値を! お前の攻撃力じゃ、俺の防御数値は抜けない! システム的に不可能なんだよォッ!!」
ケビンはウィンドウを盾にするように構え、その数値の壁に縋り付いた。
哀れな男だ。現実を見ようとせず、最後まで数字という幻想の中に逃げ込んでいる。
わたしは『玉座』を大上段に振りかぶった。
「数値? 計算? ……そんな板切れ一枚で、わたしの『人生』を測れると思って?」
全身の筋肉が唸りを上げる。
魔力が爆発し、大気が悲鳴を上げる。
これはただの物理攻撃ではない。
理不尽な運命、借り物の力、魂のないシステム――それら全てを否定し、粉砕する、断罪の一撃。
「消えなさい、三流ッ!!!」
ブォォォォォォンッ!!!!!
音速を超えた『玉座』が、ケビンの展開したステータスウィンドウに直撃する。
ガシャアアアアアアアンッ!!!!!
本来、物理干渉などしないはずの「システム画面」が、ガラスのように砕け散った。
数値が、文字が、破片となって宙に舞う。
「あ、が……あァァァァァッ!?」
ウィンドウごと、ケビン自身もまた、粉々に砕かれた。
鎧が弾け飛び、剣が折れ、その身ひとつで彼方へと吹き飛ばされる。
ドゴォォォォンッ!!!
闘技場の壁に深々とめり込み、ケビンは崩れ落ちた。
白目を剥き、泡を吹いている。
その体から、無数の光の玉――奪い取っていたスキルたちが、解放されて空へと舞い上がっていくのが見えた。
――静寂。
わたしは『玉座』を石畳に突き立て、仁王立ちした。
砕け散ったステータスウィンドウの破片が、キラキラと光りながら消滅していく。
「勝者、レヴィーネ・ヴィータヴェン!!」
審判の声が響くと同時に、闘技場が爆発した。
「うおおおおおッ!!」
「すげええええッ!!」
「物理最高! 筋肉最高!!」
親衛隊だけではない。
数値に縛られ、鬱屈していたすべての観客たちが、総立ちで拳を突き上げている。
見えない檻が壊された瞬間だ。
わたしは観客席に向かって、優雅にカーテシーをしてみせた。
ただし、その顔には最高の「悪役スマイル」を浮かべて。
◆◆◆
ケビンは廃人となり、地下牢へと幽閉された。彼が持っていたチート能力はすべて消滅し、ただのひ弱な少年に戻ったという。
そして、解放されたスキルたちは、それぞれの持ち主の元へと帰っていった。
第一皇子は生気を取り戻し、ジンは再び剣の道に邁進している。
学園からは「鑑定プレート」が一掃され、再び矜持の声と汗と努力の音が響くようになった。
そして、わたしは。
「……さて。ここも少し、退屈になってきましたわね」
ヴィータヴェン領の屋敷で、わたしは窓の外を眺めていた。
帝国の英雄として祭り上げられるのは御免だ。
わたしは悪役。一つの場所に留まるのは性に合わない。
それに――最近、母上のお腹が目立ってきた。
新しい命の予感。
それは、ヴィータヴェン家に新しい風が吹く予兆でもあった。
「……次のリングは、どこかしら」
わたしは影の中の相棒を撫で、不敵に笑った。
最強の悪役令嬢の旅は、まだまだ終わらない。
* * *
第5部完となります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、
下にある【24hポイント】や【お気に入り】登録をポチッとしていただけると、更新の励みになります!
(完結まで執筆済みです! 毎日ガシガシ更新していきます!)
帝都の大闘技場は、異様な静寂に包まれていた。
熱気ではない。これから始まる何かに怯えるような、張り詰めた空気だ。
石畳の中央。
わたしとケビンは対峙していた。
ケビンは全身を最高級のミスリル鎧(もちろん他人から奪ったものだ)で固め、両手にはジンのカタナよりも遥かに高価な魔剣と聖剣を構えている。
だが、その姿は滑稽なほどに「着せられている」感が強かった。
「……フフッ。ついにこの時が来たな、レヴィーネ」
ケビンが下卑た笑みを浮かべる。
「皇帝も見ているこの舞台。俺が真の支配者となる戴冠式に相応しい」
彼は貴賓席に座る皇帝と、その横で虚ろな目をしている第一皇子を一瞥し、大仰に両手を広げた。
「さあ、始めようか。だがその前に……少し『ルール』を決めようぜ?」
ケビンの体が淡い光に包まれる。
彼が発動したのは、これまで隠していた切り札――SSランクスキル『協定』だ。
「このスキルは、双方合意の下で定めた条件を、システムが強制的に執行する絶対の契約だ。神だろうが魔王だろうが、この縛りからは逃れられない」
空中に、半透明の契約ウィンドウが出現する。
『条件:ケビンが勝利した場合、レヴィーネ・ヴィータヴェンはケビンの所有物となり、一切の抵抗権を失う』
「どうだ? お前が勝てば、俺の持っている全スキルを解放してやってもいいぜ? まあ、勝てるわけがねえがな!」
観客席がざわめく。あまりに一方的で、卑劣な条件。
だが、わたしは鉄扇で口元を隠し、冷ややかな目でウィンドウを見つめた。
「……いいでしょう」
「は?」
「受けて立ちますわ。ただし、一つ条件を追加しなさい」
わたしは鉄扇を閉じ、ビシッとケビンを指差した。
「あなたが負けた場合、奪ったスキルをすべて持ち主に返し……二度と、その薄汚い口で『最強』を名乗らないこと。……いいわね?」
「ハッ! 余裕ぶっこきやがって! いいぜ、契約成立だ!」
ブォン!
契約ウィンドウが赤く発光し、鎖のようなエフェクトがわたしの心臓に巻き付く幻影が見えた。
システムによる拘束。これでお互いに逃げ場はない。
――だが目の前の害獣は理解しているのだろうか、チェーン・デスマッチは悪役の十八番だということを。
「始めッ!!」
ゴングが鳴ると同時、ケビンが動いた。
「まずは挨拶代わりだ! 食らえ、Sランクスキル『剣聖連斬』ッ!!」
ケビンの魔剣が閃く。
確かに速い。数値上の速度はSランクそのものだ。
だが。
カァン! カンッ!
わたしは鉄扇一本で、その斬撃をすべて弾き返した。
「な、なにィッ!?」
「軽い」
わたしは一歩も動かず、吐き捨てるように言った。
「速いだけ。重さがない。……ジンが見せたあの剣技には、彼の人生が乗っていたわ。アンタの剣にあるのは、ただの『データ』だけよ」
「黙れぇッ! ならば質より量だ! 俺のスキルコレクションを見せてやる!」
ケビンが半狂乱になって叫ぶ。
彼は魔剣を掲げ、まるでカタログを読み上げるようにスキル名を連呼し始めた。
「『豪雷』! 『ブリザード』! 『ソニックブーム』! 『アースクエイク』! 『ポイズンミスト』! 『重力プレス』ッ!!」
雷が落ち、氷礫が飛び、衝撃波が走り、地面が揺れ、毒の霧が舞う。
属性も系統もバラバラ。連携も何もない、ただ持っているだけの強力なスキルを、手当たり次第にぶっ放すだけの弾幕。
普通なら、これだけの飽和攻撃を受ければ跡形もなくなるだろう。
だが。
パァン! バシッ! ドォン!
わたしは鉄扇を開き、舞うようにステップを踏んだ。
雷を扇子で受け流し、氷を砕き、毒の霧を風圧で吹き飛ばす。
「雑よ! 芸がないわ! 組み合わせの美学も知らないの!?」
「な、なんでだ!? なんで当たらない!? 数値は全部Sランクなんだぞ!?」
息を切らすケビン。
わたしは傷一つないドレスのまま、涼しい顔で彼を見据えた。
「……もうおしまい? なら、これをお返しするわ」
わたしは鉄扇を懐にしまい、一歩前に出た。
その威圧感に、ケビンが後ずさる。
「ひッ……く、来るな! だったら、これを使わせてもらうぞ!」
ケビンの全身から、ドス黒い紫色のオーラが噴き出した。
それは、この会場にいる誰よりも高貴であるはずの、しかし今は最も汚らわしく見える覇気。
「跪け、愚民ども! ユニークスキル『王の威光』ッ!!」
ドォォォォン……!
空気が重くなる。
第一皇子から奪い取った、人を強制的に平伏させる王の力。
観客席の生徒たちが、次々と意識を失ったり、ガタガタと震えて膝をついたりしていく。
「ハハハハ! 見ろ! これが王の力だ! さあレヴィーネ、お前も俺の前に額を擦りつけ……」
ケビンの高笑いが、ピタリと止まった。
わたしが、眉一つ動かさず、悠然と立っていたからだ。
「……な、なぜだ? なぜ平気なんだ!? これは絶対の支配スキルだぞ!?」
「……返してもらうわよ、それ」
わたしの声が、絶対零度まで冷え込んだ。
怒り。純粋な怒りが、わたしの内側から溢れ出す。
「その力は、第一皇子殿下が生まれながらに背負い、苦悩し、それでも国のためにと磨き上げてきた『責任』の結晶よ。……アンタのような、覚悟のないコソ泥が使っていい代物じゃない!」
ゴォォォォォッ!!
わたしの体から、ケビンのそれを遥かに凌駕する、本物の「悪役」の覇気が噴出する。
それは借り物ではない。わたし自身の魂が放つ、圧倒的な「格」の差。
ケビンの紫色のオーラが、わたしの覇気に飲まれて霧散する。
「ひ、ひぃぃッ!? 消えた!? 俺の威光が……かき消された!?」
「――そもそも皇族でもないのに威光もクソもないでしょ?」
「黙れぇッ! 調子に乗るなよ、物理攻撃も精神攻撃も通じないなら、これで消し炭にしてやる! 食らいやがれ、SSランク禁呪『死の獄炎』ッ!!」
錯乱したケビンの掌から、闘技場全体を飲み込むほどの巨大な業火が放たれた。
熱波が観客席まで届き、悲鳴が上がる。
逃げ場のない広範囲殲滅魔法。
だが、わたしは足元の影に手を伸ばした。
「……熱いわね。少し、風を入れましょうか」
ズヌゥッ……。
影から引き抜かれたのは、わたしの魂の半身『漆黒の玉座』。
わたしはそれを盾のように構え、真正面から業火を受け止めた。
ゴオォォォォォォッ!!
炎が玉座に当たり、左右に分かれる。
玉座の後ろにあるわたしのドレスは、焦げ目ひとつついていない。
「な、なんだその椅子は!? 俺のSSランク魔法だぞ!?」
「あら。この子はドワーフの魔導炉にエンシェントドラゴンのブレス以上の炎を入れて焼き上げられたのよ? その程度の種火じゃ、温まりもしないわ」
わたしは玉座を片手で振り払い、炎を霧散させた。
「くそっ、くそっ! なぜだ! なぜ効かない! ……なら、これならどうだ! SSSランク『次元切断』ッ!!」
ケビンが聖剣を振りかぶる。
その刀身に、空間そのものを切り裂く、禍々しい亀裂が走る。
防御不能、回避不能の概念攻撃。当たれば椅子ごと両断される必殺の一撃。
「死ねぇぇぇッ!!」
振り下ろされる聖剣。
だが、その「概念」が発動するよりも速く――わたしは動いた。
「遅いのよ!!!」
ドゴォンッ!!
わたしは踏み込み、聖剣の「腹」を、玉座の座面で横からフルスイングした。
バギィィィンッ!!!
次元を斬るはずの聖剣が、物理的な衝撃に耐えきれず、根元からひん曲がって弾き飛ばされた。
「あ、あああ……!? 俺の、俺の最強武器が!?」
「発動しなければただのなまくらよ。……もう手札はおしまい?」
わたしがジリジリと歩み寄ると、ケビンは後ずさり、引きつった顔で右手を突き出した。
「く、来るな! 止まれ! 隠しスキル発動! 『システム権限:絶対命令』ッ!!」
王の威光などではない。世界の理そのものに干渉し、対象の動作を強制的に停止させる管理者権限。
ジンの動きを封じたあの力の、最大出力版だ。
ブォン……。
世界が灰色に染まり、わたしの手足に見えない鎖が絡みつく感覚が走る。
「ハハッ! かかったな! これで貴様は指一本動かせな……」
パリーン。
鎖が砕ける音がした。
わたしは、何事もなかったかのように一歩を踏み出した。
「……は?」
「……『止まれ』? それだけ?」
わたしは呆れ果ててため息をついた。
「わたしはね、もっと強烈な『強制終了』を、この身で味わってきたのよ。それに比べれば……アンタの権限なんて、そよ風みたいなものね」
ラノリアの地下で対峙した、あの世界そのものを塗り替えるような圧力。
それに比べれば、この男の権限など、子供のわがままレベルだ。
わたしの魂と筋肉は、こんな安い命令には従わない。
「う、嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ! 俺の数値はオールSSSだぞ! システム最強なんだぞ!?」
ケビンは錯乱し、空中に自身のステータスウィンドウを展開した。
そこには『筋力:99999』『敏捷:99999』といった、バグじみた数値が羅列されている。
「見ろ! この数値を! お前の攻撃力じゃ、俺の防御数値は抜けない! システム的に不可能なんだよォッ!!」
ケビンはウィンドウを盾にするように構え、その数値の壁に縋り付いた。
哀れな男だ。現実を見ようとせず、最後まで数字という幻想の中に逃げ込んでいる。
わたしは『玉座』を大上段に振りかぶった。
「数値? 計算? ……そんな板切れ一枚で、わたしの『人生』を測れると思って?」
全身の筋肉が唸りを上げる。
魔力が爆発し、大気が悲鳴を上げる。
これはただの物理攻撃ではない。
理不尽な運命、借り物の力、魂のないシステム――それら全てを否定し、粉砕する、断罪の一撃。
「消えなさい、三流ッ!!!」
ブォォォォォォンッ!!!!!
音速を超えた『玉座』が、ケビンの展開したステータスウィンドウに直撃する。
ガシャアアアアアアアンッ!!!!!
本来、物理干渉などしないはずの「システム画面」が、ガラスのように砕け散った。
数値が、文字が、破片となって宙に舞う。
「あ、が……あァァァァァッ!?」
ウィンドウごと、ケビン自身もまた、粉々に砕かれた。
鎧が弾け飛び、剣が折れ、その身ひとつで彼方へと吹き飛ばされる。
ドゴォォォォンッ!!!
闘技場の壁に深々とめり込み、ケビンは崩れ落ちた。
白目を剥き、泡を吹いている。
その体から、無数の光の玉――奪い取っていたスキルたちが、解放されて空へと舞い上がっていくのが見えた。
――静寂。
わたしは『玉座』を石畳に突き立て、仁王立ちした。
砕け散ったステータスウィンドウの破片が、キラキラと光りながら消滅していく。
「勝者、レヴィーネ・ヴィータヴェン!!」
審判の声が響くと同時に、闘技場が爆発した。
「うおおおおおッ!!」
「すげええええッ!!」
「物理最高! 筋肉最高!!」
親衛隊だけではない。
数値に縛られ、鬱屈していたすべての観客たちが、総立ちで拳を突き上げている。
見えない檻が壊された瞬間だ。
わたしは観客席に向かって、優雅にカーテシーをしてみせた。
ただし、その顔には最高の「悪役スマイル」を浮かべて。
◆◆◆
ケビンは廃人となり、地下牢へと幽閉された。彼が持っていたチート能力はすべて消滅し、ただのひ弱な少年に戻ったという。
そして、解放されたスキルたちは、それぞれの持ち主の元へと帰っていった。
第一皇子は生気を取り戻し、ジンは再び剣の道に邁進している。
学園からは「鑑定プレート」が一掃され、再び矜持の声と汗と努力の音が響くようになった。
そして、わたしは。
「……さて。ここも少し、退屈になってきましたわね」
ヴィータヴェン領の屋敷で、わたしは窓の外を眺めていた。
帝国の英雄として祭り上げられるのは御免だ。
わたしは悪役。一つの場所に留まるのは性に合わない。
それに――最近、母上のお腹が目立ってきた。
新しい命の予感。
それは、ヴィータヴェン家に新しい風が吹く予兆でもあった。
「……次のリングは、どこかしら」
わたしは影の中の相棒を撫で、不敵に笑った。
最強の悪役令嬢の旅は、まだまだ終わらない。
* * *
第5部完となります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、
下にある【24hポイント】や【お気に入り】登録をポチッとしていただけると、更新の励みになります!
(完結まで執筆済みです! 毎日ガシガシ更新していきます!)
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜
陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。
第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。
生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。
その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。
「加護縫い」
(縫った布に強力な祝福を込められる)
「嘘のほころびを見抜く力」
(相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする)
を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。
さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王太子が近付いて来て……?
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
慈愛と復讐の間
レクフル
ファンタジー
とある国に二人の赤子が生まれた。
一人は慈愛の女神の生まれ変わりとされ、一人は復讐の女神の生まれ変わりとされた。
慈愛の女神の生まれ変わりがこの世に生を得た時、必ず復讐の女神の生まれ変わりは生を得る。この二人は対となっているが、決して相容れるものではない。
これは古より語り継がれている伝承であり、慈愛の女神の加護を得た者は絶大なる力を手にするのだと言う。
だが慈愛の女神の生まれ変わりとして生を亨けた娘が、別の赤子と取り換えられてしまった。
大切に育てられる筈の慈愛の女神の生まれ変わりの娘は、母親から虐げられながらも懸命に生きようとしていた。
そんな中、森で出会った迷い人の王子と娘は、互いにそれと知らずに想い合い、数奇な運命を歩んで行くこととなる。
そして、変わりに育てられた赤子は大切に育てられていたが、その暴虐ぶりは日をまして酷くなっていく。
慈愛に満ちた娘と復讐に駆られた娘に翻弄されながら、王子はあの日出会った想い人を探し続ける。
想い合う二人の運命は絡み合うことができるのか。その存在に気づくことができるのか……
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる