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74 田中 葵子3
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もしかして、ひょっとして、万が一と言うこともある。念の為、確認を取っておく必要がある。
「ところで、再婚相手とお母さんの名前聞いても良いかな? 台本に載っていなかったけど」
俺は出来る限りさり気なく確認を取った。
「母は田中 聡子です。再婚相手の名前は古川さんです。下の名は景隆だったかな」
彼女の言葉を聞き俺は環境が変わるかもしれない状況に急に頭がズシンと重くなった。環境が変わるのは大変なストレスになるのだろうと言うことが、自分の身になって今やっと理解出来た。
俺も知らないおばさんと女子高生と一緒に住むなんて断じて御免である。
父の再婚に反対するつもりはないのだけれども、いや、寧ろ賛成である、彼女には悪いのだが。父には今までありがとうと、そしておめでとうと言いたいくらいだ。
これからの事を色々考えを巡らしていると不意に彼女が髪をかき上げながら言った。
「もう敬語はよくない? もう私たち仲間なんだから。その代わり私のことはアオイって呼んでくれて良いよ」
彼女は俺の動揺に全く気づいていないようだ。
「ああ、うん…………俺のことはハルって呼んでくれ」
「ハル? 分かった。じゃ、苗字は? 」
彼女は明るく質問する。対する俺は暗い気分だ。
「アオイコでアオイかぁ。俺はハルイチでハルなんだよなあ」
言いながら嘘の苗字を考える、俺。
「うん、それで、苗字は? 」
「えっと、えとう、江藤かな」
「かな? かなって、ちょっとどうしたの? さっきから急に変だよ」
彼女は俺の曖昧な反応を遂に不審がった。
俺の考えでは、いや希望では、父は心理学的作戦を決行しているのであって欲しい。
何かで聞いたのだか、確か最初に大きな要求をして、その後小さな要求をする事で承諾を得やすくなると言う心理学の応用作戦を彼女に対して行っているのではないだろうか?
頼むそうであってくれ。いや絶対にそうである。それが証拠に俺には同居する話など一切、何も聞かされていないからだ。
大きな要求が息子とみんなで一緒に住む事。再婚後息子も一緒に住む予定でいるが、どうしても嫌なら息子とは一緒に住まずに再婚するという話をすると再婚話だけならスムーズに計画が進むだろうと。
「じゃあ大学入学まで待ってもらってそれから一人暮らしでもしたらどうだい? 」
「志望大学は地元で一人暮らしは許して貰えないと思う」
「じゃあ、四年間我慢して就職と同時に家を出るとかは? 」
「四年間その息子さんと住みたくないんだけど」
彼女は辟易とした顔をした。
「俺も住みたくもないわっ! 」と危うく言いかけた。
「もしそこの息子さんが一緒に住まなかったら、お母さんの再婚はオッケーなのか? 」
「まあ、それならまだ前向きに考えるくらいは…………」
彼女は少し迷ったような態度だ。
これはあの親父の心理作戦が早くも効果を表しているのではと俺は感嘆した。
「でもなあ、ソイツなんかキモい奴なんじゃないかなーって思って。まだ会ってないんだけど。そんなキモい奴と兄妹になりたくないなーなんて。なんか理由付けてはしょっちゅう遊びに来て私に会いに来そうじゃない? 」
まだ会ったこともない人間の事をよくここまでボロクソに言えるな、と感心した。同時にコイツの想像力は大したもんだと少し呆れた。
「まあ、キモいかどうかは知らないけどまあ、可愛いってのも大変だな」
ちょいちょいムカつく発言があったが、所詮ガキの戯言《ざれごと》だと受け流し、俺はアオイを再婚賛成派に誘導する事にした。
「ええっ! まあ、うん、でしょ」
アオイは髪をかき上げた。
俺の戯言にアオイは少し照れている。
俺にはこの問題は解決したも同然である。当日、当の本人の俺が同居はしないと宣言し、それでも納得しないなら父に頼んでアオイの受験が終わるまで再婚を伸ばして貰えば良いだけだ。一つ問題が有るとすれば、今更俺がその息子だと名乗りにくくなってしまった事だけだ。
「じゃあそのキモいのが一緒に住まないように俺からも頼んでみるよ。夢追い人として、ハハハ。あの台本は無しの方向で。うん、絶対大丈夫だから! これで悩みは解決だろ! 」
俺は台本を彼女に返し、まだ余り納得していない様子のアオイを半ば強引に捻じ伏せる形で、話を終え今週末の食事会に顔を出す約束をしてアオイを駅まで送って行こうと急かした。
彼女はブツブツ言いながらも台本を鞄にしまいベンチから立ち上がった。と同時に彼女の鞄からチラシのような紙がひらりと一枚落ちた。
「何か落としたぞ」
俺は拾い上げ、見ようとしたわけではないが、内容が目に入った。
「週末は鳳村の洞窟壁画へ行こう! 壁画を訪れた、みなさんに幸運が訪れることがあるそうです。
みなさんの素敵な願い事が叶いますように。」
俺は文言を見て愕然とした。チラシの文章はともかく、デザインはかなりカッコよく出来ている。壁画の正確な場所は書かれていないのだが。
何故これを彼女が?
「これどうしたの? 」
「それ? 帰りに校門の前で配ってたの。嘘だろうけど、チョット面白そうだなと思って」
「これ、貰らっていいかな? 」
「うん、良いよ。今度一緒に行ってみる? 」
アオイは髪をかき上げて言った。彼女の癖なのかよくこの仕草をする。
「いや、行かない。俺は何度か行ったことあるんだ。景色の良いところだよ。夜は星が沢山見えるしね」
「ふーん。普通行かないにしても、もうちょっと上手に断らない? 私も社交辞令で言ったんだから」
アオイが言う。
「ハハハ、悪い、悪い。今度、いつか、そのうち行こう」
「今更、行かないわよ! 」
「そうか、ハハハ。行かないってか、ハハハ」
「行くわけないじゃん、ふふ、ははは」
何故か二人で笑った。
俺たちは携帯番号を交換して、今週末の約束をしてから駅で別れた。
俺はチラシを握りしめアパートへと帰った。
「ところで、再婚相手とお母さんの名前聞いても良いかな? 台本に載っていなかったけど」
俺は出来る限りさり気なく確認を取った。
「母は田中 聡子です。再婚相手の名前は古川さんです。下の名は景隆だったかな」
彼女の言葉を聞き俺は環境が変わるかもしれない状況に急に頭がズシンと重くなった。環境が変わるのは大変なストレスになるのだろうと言うことが、自分の身になって今やっと理解出来た。
俺も知らないおばさんと女子高生と一緒に住むなんて断じて御免である。
父の再婚に反対するつもりはないのだけれども、いや、寧ろ賛成である、彼女には悪いのだが。父には今までありがとうと、そしておめでとうと言いたいくらいだ。
これからの事を色々考えを巡らしていると不意に彼女が髪をかき上げながら言った。
「もう敬語はよくない? もう私たち仲間なんだから。その代わり私のことはアオイって呼んでくれて良いよ」
彼女は俺の動揺に全く気づいていないようだ。
「ああ、うん…………俺のことはハルって呼んでくれ」
「ハル? 分かった。じゃ、苗字は? 」
彼女は明るく質問する。対する俺は暗い気分だ。
「アオイコでアオイかぁ。俺はハルイチでハルなんだよなあ」
言いながら嘘の苗字を考える、俺。
「うん、それで、苗字は? 」
「えっと、えとう、江藤かな」
「かな? かなって、ちょっとどうしたの? さっきから急に変だよ」
彼女は俺の曖昧な反応を遂に不審がった。
俺の考えでは、いや希望では、父は心理学的作戦を決行しているのであって欲しい。
何かで聞いたのだか、確か最初に大きな要求をして、その後小さな要求をする事で承諾を得やすくなると言う心理学の応用作戦を彼女に対して行っているのではないだろうか?
頼むそうであってくれ。いや絶対にそうである。それが証拠に俺には同居する話など一切、何も聞かされていないからだ。
大きな要求が息子とみんなで一緒に住む事。再婚後息子も一緒に住む予定でいるが、どうしても嫌なら息子とは一緒に住まずに再婚するという話をすると再婚話だけならスムーズに計画が進むだろうと。
「じゃあ大学入学まで待ってもらってそれから一人暮らしでもしたらどうだい? 」
「志望大学は地元で一人暮らしは許して貰えないと思う」
「じゃあ、四年間我慢して就職と同時に家を出るとかは? 」
「四年間その息子さんと住みたくないんだけど」
彼女は辟易とした顔をした。
「俺も住みたくもないわっ! 」と危うく言いかけた。
「もしそこの息子さんが一緒に住まなかったら、お母さんの再婚はオッケーなのか? 」
「まあ、それならまだ前向きに考えるくらいは…………」
彼女は少し迷ったような態度だ。
これはあの親父の心理作戦が早くも効果を表しているのではと俺は感嘆した。
「でもなあ、ソイツなんかキモい奴なんじゃないかなーって思って。まだ会ってないんだけど。そんなキモい奴と兄妹になりたくないなーなんて。なんか理由付けてはしょっちゅう遊びに来て私に会いに来そうじゃない? 」
まだ会ったこともない人間の事をよくここまでボロクソに言えるな、と感心した。同時にコイツの想像力は大したもんだと少し呆れた。
「まあ、キモいかどうかは知らないけどまあ、可愛いってのも大変だな」
ちょいちょいムカつく発言があったが、所詮ガキの戯言《ざれごと》だと受け流し、俺はアオイを再婚賛成派に誘導する事にした。
「ええっ! まあ、うん、でしょ」
アオイは髪をかき上げた。
俺の戯言にアオイは少し照れている。
俺にはこの問題は解決したも同然である。当日、当の本人の俺が同居はしないと宣言し、それでも納得しないなら父に頼んでアオイの受験が終わるまで再婚を伸ばして貰えば良いだけだ。一つ問題が有るとすれば、今更俺がその息子だと名乗りにくくなってしまった事だけだ。
「じゃあそのキモいのが一緒に住まないように俺からも頼んでみるよ。夢追い人として、ハハハ。あの台本は無しの方向で。うん、絶対大丈夫だから! これで悩みは解決だろ! 」
俺は台本を彼女に返し、まだ余り納得していない様子のアオイを半ば強引に捻じ伏せる形で、話を終え今週末の食事会に顔を出す約束をしてアオイを駅まで送って行こうと急かした。
彼女はブツブツ言いながらも台本を鞄にしまいベンチから立ち上がった。と同時に彼女の鞄からチラシのような紙がひらりと一枚落ちた。
「何か落としたぞ」
俺は拾い上げ、見ようとしたわけではないが、内容が目に入った。
「週末は鳳村の洞窟壁画へ行こう! 壁画を訪れた、みなさんに幸運が訪れることがあるそうです。
みなさんの素敵な願い事が叶いますように。」
俺は文言を見て愕然とした。チラシの文章はともかく、デザインはかなりカッコよく出来ている。壁画の正確な場所は書かれていないのだが。
何故これを彼女が?
「これどうしたの? 」
「それ? 帰りに校門の前で配ってたの。嘘だろうけど、チョット面白そうだなと思って」
「これ、貰らっていいかな? 」
「うん、良いよ。今度一緒に行ってみる? 」
アオイは髪をかき上げて言った。彼女の癖なのかよくこの仕草をする。
「いや、行かない。俺は何度か行ったことあるんだ。景色の良いところだよ。夜は星が沢山見えるしね」
「ふーん。普通行かないにしても、もうちょっと上手に断らない? 私も社交辞令で言ったんだから」
アオイが言う。
「ハハハ、悪い、悪い。今度、いつか、そのうち行こう」
「今更、行かないわよ! 」
「そうか、ハハハ。行かないってか、ハハハ」
「行くわけないじゃん、ふふ、ははは」
何故か二人で笑った。
俺たちは携帯番号を交換して、今週末の約束をしてから駅で別れた。
俺はチラシを握りしめアパートへと帰った。
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