追放された大魔導士は魔王と一緒に国をつくる

ビーグル犬のポン太

文字の大きさ
6 / 21

組織案

しおりを挟む
 冬も厳しくなり、雪がちらつき始めた。暦では終年月に入っていて、ローデシアであっても寒い。それでも北国に比べればマシだろうとアラギウスは思う。

 彼は魔法で炎を宙につくり、暖をとりながら魔道書を読んでいた。その彼の背に、ミューレゲイトは背をくっつける格好で床に座り、背の低い卓に並べた各地からの手紙を広げている。

 北方騎士団領の雪原に住む雪男からの手紙や、中央大陸の魔王アルフレッド・マーキュリーからの届いた手紙の上に、その重要な手紙が広げられていた。

「アラギウス、エルフの三賢人のひとり、オーギュスタが来るらしい」
「オーギュスタが? あの冷血の女帝が?」
「ああ」
「ハイランド王国の森からだろ? 遠い。わざわざ何をしに来るんだ?」
「西側のダークエルフがわらわに協力してくれているのが気に入らないのかもしれない」
「三賢人はいずれも、ローデシアを見捨てて離れた者達だろ? ローデシアの森に残ったダークエルフは見捨てられたようなものだったじゃないか」
「だとしても、気に入らんのだろうな……出迎えはすべきだ。面倒でもな」
「エルフが喜ぶものでもてなすか?」
「生命の水、シングルモルトはここでは作れないからな……職人も施設もない」
「では、誠心誠意、お付き合いするしかないだろうな」

 ミューレゲイトはうんざりとした表情をつくった。



-Arahghys Ghauht-



 ハイエルフのなかでも長寿である三人のエルフを、三賢人と呼ぶ。

 そのなかでも、他種族に対して冷徹であることで有名なエルフが、ファウスの町に入った。

 ミューレゲイトが出迎える。

「エルフの足でも一〇日かかったわ。ひさしぶりね」
「ようこそ、オーギュスタ。ひさしいな」
「一〇〇年ぶり? 無様に人間ごときに負けた魔王がまたこりずに何を……あんた、そいつ人間じゃない?」

 オーギュスタの視線の先に、アラギウスが立っている。

 彼は一礼し名乗った。

「お初にお目にかかります。三賢人たる貴女にお会いできて光栄です。アラギウス・ファウスと申します」
「あら、そうなの? あんたを殺した勇者隊の大魔導士と同じ名前じゃない。あれね? 同じ名前をもつ人間をこき使って憂さ晴らししてんでしょ?」
「彼はわらわの仲間、協力者だ。頭を下げて依頼して協力してもらっている」
「……負けたら性格がすごく変わったのね?」
「負けたくないからな。だから、戦わないことにした。それに彼はアラギウス本人だぞ」
「あらそう? そういう冗談を言えるようになったのね? ……本当なの?」

 オーギュスタの問いに、アラギウスは頷く。

「ええ、本当です」
「なにしてんの? あなた大魔導士でしょ?」
「国づくりです」

 オーギュスタはミューレゲイトに近づき、耳元で囁くように尋ねた。

「あんた、不老不死の呪いをかけたらしいけど、これを狙ってたんじゃないわよね?」
「どういうことだ?」
「生まれ変わって素敵な出会いをして……いい仲になって……彼、大魔導士だし理知的な顔立ちは人間のくせに素敵じゃない? 狙ってたんでしょ?」
「そなたはあいかわらず脳内お花畑だな? 死ぬ間際にそんな考える余裕などない。とにかく、やって来た目的はなんだ? ダークエルフ達を集めておいたが?」
「いや、あんたに用があるのよ」

 オーギュスタはそこですいっと動き、魔王と大魔導士の正面に立つ。青い瞳をキラキラと輝かせた。

「おもしろいことしてると噂を聞いたから来たの! 手伝わせて!」
「……」
「……ミューレゲイト、噂になっているようだぞ」

 アラギウスの指摘に、魔王は思い当たるところがあると認める。彼女はあちこちに出向き、手紙を出し、人間との棲み分けを行う目的でローデシアに魔物の国をつくるから協力しないかと、声をかけていたのだ。

 大魔導士は懸念を述べる。

「たしかに人手……魔手はいるが、こう激しく動くと人に知られるぞ。魔物の動きが活発になるから……」
「すまぬ。考えていなかった」
「いや、俺も悪かった。失念していた……オーギュスタ様、貴女のおかげで気づけました。ありがとうございます」
「お礼なんていいのよ。で、いいでしょ? いいわよね? わたしはここに住むから」
「……ここに? 町にか?」
「ダークエルフ達は森でしょ? わたしもそこでいいわ。屋敷を用意して」

 ミューレゲイトがアラギウスを見る。

(俺に設計しろと……)

「ミューレゲイト、ゴブリンやコボルトを集めてくれるか? 取り掛かる」
「頼む……オーギュスタ」

 魔王がハイエルフに威厳のある声を発した。

「なぁに?」
「お前だけか? 他のエルフは?」
「わたしだけ。わたしくらいよ、暇を嫌うエルフは」
「……では、ハイエルフ、エルフはやはりわらわのような魔族とは敵対か?」
「貴女のおかげでローデシアから出るしかなかった者達は、まだ恨みを忘れてないわよ……でも、わたしはそんなことはどうでもいいの。この長い生、退屈したくないから、ワクワクさせてくれる側の味方」

 アラギウスは、エルフにもこんな変わった者がいるんだと呆気に取られていた。その彼をオーギュスタが見据え、冷徹に言い放った


「屋敷、浴室はふたつ! これ、絶対」



-Arahghys Ghauht-



 アラギウスは組織案をミューレゲイトに見せる。

「……いいな、これにしよう」
「よかった」
「いろいろと確認していいか?」
「ああ」

 夜。

 大樹の家。

 二人は林檎酒を飲みながら向かい合っている。

「オーギュスタの監査役というのは、わらわがすることを監査するという理解でよいな?」
「正確には、ミューレゲイトを魔王とする行政府たる魔王府を監査する。法の番人としての役割ももってもらうから、けっこう重要だが、魔王にもズケズケと物言いができる存在は他にはいないし、彼女は魔族ではなく妖精だから、そういう意味でも監査役に彼女……三賢人の一人がついたのは対人間界という意味でもいいと思う」
「そういうことか……将来的に、人間と棲み分けを成立させるにあたり、彼らにも堂々と我々を認めさせる考えなのだな?」
「そうだ。他にもあるか?」

 ミューレゲイトは組織表を眺めながら口を開く。

「評議会で決まり事をつくっていくとあるが、評議会のところにはお前しか名前がない。どういうことだ?」
「すぐにはまだ無理だが、評議員を選挙で選ぶようにしたい。ずっと未来のことだろうが……今は魔王府からの任命という形で、俺が担当する」
「では、アラギウスの役職は評議員ということだな?」
「そうだ。評議会は監査役を監査する役目ももつ。つまり、魔王府は監査役に監査され、監査役は評議会に監査され、評議会は魔王府に監査される」
「うん……魔王府のところ、各担当者のところは空白だがまだ決めておらず、役職だけがあるということだな?」
「これから見極めて、ミューレゲイトが任命していくのがいいと思う」
「では、この農業長官にはグンナルについてもらう」
「ホビットだな?」
「そうだ。あと、この軍務卿はオーガの長、ベラウについてもらう」
「面倒だと言わないかな?」
「そこはわらわが説得する」
「無理強いは駄目だぞ?」
「わかっておる」

 こうして、魔王軍の組織を借りていたミューレゲイト達は、新たな組織をつくった。

 魔王は竜とサキュバスのハーフで東方大陸最強の魔族であるミューレゲイト。
 監査には、三賢人の一人として知られるハイエルフのオーギュスタ。
 評議員は大魔導士アラギウス・ファウス。
 農業長官はホビット達を率いたグンナル。
 職人組合長はゴブリンながら金属加工の技術をもつゲルーズ。
 軍務卿にはオーガ族の長であるベラウ。

 他に、外務卿という外部との交渉を行う責任者や、経済産業を管轄する商人組合長、財務関連を扱う財務長官など空白になっているが、最初は魔王が兼任するかたちで発足することになった。

 魔王府、評議会館、監査院の建物をアラギウスが設計し、工事が始まる。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

「俺が勇者一行に?嫌です」

東稔 雨紗霧
ファンタジー
異世界に転生したけれども特にチートも無く前世の知識を生かせる訳でも無く凡庸な人間として過ごしていたある日、魔王が現れたらしい。 物見遊山がてら勇者のお披露目式に行ってみると勇者と目が合った。 は?無理

処理中です...